牛糞ガス10頭分で1日走るのだ!インドのスズキ「ワゴンR」CBG車の魅力と実力
  • OUTDOOR
  • NEWS
  • SUSTAINABLE
  • CAR
  • CAMP
  • GEAR
  • COOKING
  • OUTDOOR
  • NEWS
  • SUSTAINABLE
  • CAR
  • CAMP
  • GEAR
  • COOKING
  • 試乗記

    2024.12.13

    牛糞ガス10頭分で1日走るのだ!インドのスズキ「ワゴンR」CBG車の魅力と実力

    牛糞ガス10頭分で1日走るのだ!インドのスズキ「ワゴンR」CBG車の魅力と実力
    インドでは牛糞ガスを燃料にしたクルマがすでに実用化されていました。しかも、日本でも誰もが知っている車、スズキの「ワゴンR」です。

    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)の金子浩久が、インドで活躍する牛糞ガス車の魅力とカーボンニュートラル的な意義についてリポートします。

     

    牛糞や食品廃棄物から発生するバイオガス燃料で走るクルマ

     カーボンニュートラル社会を実現するために、世界中でさまざまな施策が採られています。

     自動車の世界では、まずパワートレインの電動化が挙げられるでしょう。各社それぞれのリソースを用いて、これまでの内燃機関(エンジン)からEV(電気自動車)やハイブリッド、プラグインハイブリッドなどへの転換を図っています。

     水素やバイオエタノールなどを燃料に用いるクルマもあります。化石燃料以外のものなら何でも使ってみようとさまざまな取り組みが行われています。

     そうした大まかな状況は把握していましたが、10月のモビリティショーのスズキのブースに展示されていた「ワゴンR」には驚いてしまいました。

     そのワゴンRはスズキのインド工場製で、パワートレインはCNG(圧縮天然ガス)を燃料とするエンジンです。CNGを使うクルマは珍しくはなく、多くの国と地域で製造、使用されています。

     しかし、そのワゴンRの展示パネルの説明を見ると、「CBG車」と書かれているではありませんか。CBGとはCompressed Biomethane Gas(圧縮メタンガス)の略で、牛糞や食品廃棄物などのバイオマスから発生するバイオガスを精製して作られるCNGと同等のガスのことです。

     なんと、このワゴンRは牛糞から発生するガスで走るのです。10頭の牛が1日に排泄する糞から作られるガスで、ワゴンR1台が1日走れるくらいのエネルギー量になります。

    天然ガス車ユーザーの「裏技」が生み出したイノベーション

     インドでは、広く一般にCNGもCBGも普及していて、ユーザーがワゴンRにCNGの代わりにCBGを入れてみたところ、まったく問題なく走りました。

     CBGは日本ではあまり馴染みがありませんが、インド社会では普及していて、生活のさまざまな用途に用いられています。また、牛はインドでは聖なる存在なので、たくさん生息しています。

     CBGで走るワゴンRに機械的な故障も発生していないことなどを受けて、スズキはインドの全国酪農開発機構やグジャラート州アナンドおよびメーサナの二つの乳業組合などと協力しながら、グジャラート州に5つのCBGプラントを建設しはじめることになりました。スズキはインドでクルマだけでなく、燃料となるガスも造ってしまおうというわけです。

    カーボンニュートラル社会への道はAIと電動化だけではない

     10月22日に行われた全国酪農開発機構の創立60周年記念式典において、スズキの豊福健一朗常務は次のようにスピーチしました。

    「新たなパートナーとバイオガス事業の普及に向け取り組めることを大変にうれしく思います。スズキは、今後ともグジャラート州をはじめ、インド各地にバイオガス事業を拡大し、適所適材なカーボンニュートラル社会の実現に向けて取り組んで参ります」

     トヨタ「ミライ」やホンダ「CR-V」などのように燃料電池を水素と反応させることによって発生する電気によって走る超デジタルなクルマがある一方で、ワゴンRの燃料は牛の糞や残飯などのガスです!

     なんとアナログでフィジカルなのでしょう。

     とても高度な最先端技術から、動物の排泄物や残飯などのガスまであるのです。カーボンニュートラル社会の実現という共通の目標を達成するための手段は、ここまで幅広いものなのかとただただ驚嘆させられてしまいます。正解はひとつだけではないということですね。

     また、ワゴンRのCBG車はメーカーが研究開発して推進してきたプロジェクトではなく、ユーザーの応用使用例を後追いしたかたちとなっているのも見逃せません。研究開発センターに閉じ籠ってしまうのではなく、社会や地域に対して広く眼を見開くことの大切さを教えてくれています。

    牛糞や残飯を原料にしたガスプラントに車メーカーが参画する意味

     CBGの推進はカーボンニュートラル社会の実現だけでなく、広く農村経済の活性化、エネルギー自給率向上、有機肥料の促進などスズキだけでなく広くインドの社会全体にとってメリットのある取り組みとなるはずです。

     地域の特性や事情を上手くビジネスに結び付けているスズキらしい取り組みです。真にグローバルとはこのことで、素晴らしいですね。

     電動化だ自動化だとメーカーもメディアも眼を三角にして前しか見ていないところで、スズキは独自の動きをしています。スズキのこういうところが面白いですね。

     10数年前にアメリカ市場から撤退しただけでなく、スズキは今では中国市場からも撤退しています。でも、インドには大昔から進出していて、減ったとはいえシェア40%も確保しています。隣の大国パキスタンでは60%近くだそうです。ワゴンRのCBG車をインドで運転してみたくなりました。

     

    金子 浩久さん

    自動車ライター

    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)。1961年東京都生まれ。趣味は、シーカヤックとバックカントリースキー。1台のクルマを長く乗り続けている人を訪ねるインタビュールポ「10年10万kmストーリー」がライフワーク。webと雑誌連載のほか、『レクサスのジレンマ』『ユーラシア横断1万5000キロ』ほか著書多数。構成を担当した涌井清春『クラシックカー屋一代記』(集英社新書)が好評発売中。

    あわせて読みたい

    マツダの7人乗りSUV「CX-80」に試乗!価格や内装、燃費は?辛口評価も

    マツダの7人乗りSUV「CX-80」に試乗!価格や内装、燃費は?辛口評価も

    「カングージャンボリー」はなぜ人気? ルノー・カングー新型ディーゼルにも乗ってきたぞ

    「カングージャンボリー」はなぜ人気? ルノー・カングー新型ディーゼルにも乗ってきたぞ

    「サハラ砂漠に雹が降る」VW・トゥアレグで体験した超現実的世界

    「サハラ砂漠に雹が降る」VW・トゥアレグで体験した超現実的世界

    「ホテル・カリフォルニア」でバレーパーキングを15年ぶりに頼んでみたら

    「ホテル・カリフォルニア」でバレーパーキングを15年ぶりに頼んでみたら

    「古代メキシコ展」で思い出すメキシコ製VWビートルと古き良きクルマの愉しみ

    「古代メキシコ展」で思い出すメキシコ製VWビートルと古き良きクルマの愉しみ

    0-100km/h加速3.8秒の世界最速クラスSUV「レンジローバースポーツSV」体験イベントに参加してきた

    0-100km/h加速3.8秒の世界最速クラスSUV「レンジローバースポーツSV」体験イベントに参加してきた

    BMW 「iX1」「X1」の運転支援システムがすごかった。これぞ自動運転レベル2の最前衛!

    BMW 「iX1」「X1」の運転支援システムがすごかった。これぞ自動運転レベル2の最前衛!

    アウディ・オールロードクワトロで豪州縦断、蟻塚の恐怖

    アウディ・オールロードクワトロで豪州縦断、蟻塚の恐怖

    アウトドアを万人に開放したVWゴルフが50周年!ゴルフGTIとID.4を乗り比べてわかった「ゴルフならではの魅力」

    アウトドアを万人に開放したVWゴルフが50周年!ゴルフGTIとID.4を乗り比べてわかった「ゴルフならではの魅力」

    アメリカによくある交差点「4-way stop」。その精神だけでも日本に導入できないだろうか?

    アメリカによくある交差点「4-way stop」。その精神だけでも日本に導入できないだろうか?

    イスタンブールが年に一度1分間だけ時を止めるその日、市場の荒物屋で小さな幸運に出会った

    イスタンブールが年に一度1分間だけ時を止めるその日、市場の荒物屋で小さな幸運に出会った

    キャンプ場と公道で「デリカミニ」に試乗。よかった点と気になった5点

    キャンプ場と公道で「デリカミニ」に試乗。よかった点と気になった5点

    クラシックカーの魅力とは? ロールス・ロイス&ベントレーのイベントで「世界に1台のクルマ」を堪能

    クラシックカーの魅力とは? ロールス・ロイス&ベントレーのイベントで「世界に1台のクルマ」を堪能

    クルマで山へ!BMW「225xe」と「M3CS」でグロースグロックナー山を越える

    クルマで山へ!BMW「225xe」と「M3CS」でグロースグロックナー山を越える

    クルマで鉄道旅行!? VWで「マッターホルン・ゴッタード鉄道」に乗ってきた

    クルマで鉄道旅行!? VWで「マッターホルン・ゴッタード鉄道」に乗ってきた

    クルマは標高何メートルまで走ることができるのか?

    クルマは標高何メートルまで走ることができるのか?

    サハラ砂漠最強のSUVは…? レンジローバーとヒョンデのミニバンでモロッコへ

    サハラ砂漠最強のSUVは…? レンジローバーとヒョンデのミニバンでモロッコへ

    スバルの新型クロストレックはトヨタ式の最強ハイブリッド!泥まみれで4WD性能をチェックしてきた

    スバルの新型クロストレックはトヨタ式の最強ハイブリッド!泥まみれで4WD性能をチェックしてきた

    スマホ店にEV、トラックもHV、駐車場はQR決済…。北京のクルマ10大ニュース

    スマホ店にEV、トラックもHV、駐車場はQR決済…。北京のクルマ10大ニュース

    ソローが暮らしたウォールデンへ!最初はカローラで、2度目はベントレーで

    ソローが暮らしたウォールデンへ!最初はカローラで、2度目はベントレーで

    ディフェンダーの特装車で、南アフリカ動物保護区のアニマルウォッチングへ

    ディフェンダーの特装車で、南アフリカ動物保護区のアニマルウォッチングへ

    トヨタとスバルの新4WD EV「bZ4X」「ソルテラ」を250km試乗

    トヨタとスバルの新4WD EV「bZ4X」「ソルテラ」を250km試乗

    トルコの世界遺産「ギョベクリテペ遺跡」の魅力とは? アウトドア古代人の神殿が人類史の定説を覆した

    トルコの世界遺産「ギョベクリテペ遺跡」の魅力とは? アウトドア古代人の神殿が人類史の定説を覆した

    トルコの世界遺産「ネムルト山」に登ってみた! ユーフラテス川源流域に聳える絶景の山へ

    トルコの世界遺産「ネムルト山」に登ってみた! ユーフラテス川源流域に聳える絶景の山へ

    なぜ、クルマはモデルチェンジごとに大きくなってしまうのか?

    なぜ、クルマはモデルチェンジごとに大きくなってしまうのか?

    ナチスは「良いこと」もしたのか? 話題の本を読んでアウトバーンとフォルクスワーゲンで検証してみた

    ナチスは「良いこと」もしたのか? 話題の本を読んでアウトバーンとフォルクスワーゲンで検証してみた

    フォルクスワーゲンの新型「T-Cross」を徹底リポート!ロングツーリングに最適なコンパクトSUVだ

    フォルクスワーゲンの新型「T-Cross」を徹底リポート!ロングツーリングに最適なコンパクトSUVだ

    ボルボ「EX30」で、京都から東京まで500kmのロングドライブをしてみた!

    ボルボ「EX30」で、京都から東京まで500kmのロングドライブをしてみた!

    ホンダ「ZR-V」のサイズは、名車CR-Vとほぼ同じ。実燃費は?

    ホンダ「ZR-V」のサイズは、名車CR-Vとほぼ同じ。実燃費は?

    ホンダの新型「フリード」にはキャンプにも便利な車椅子仕様あり! 手堅い走りで使いやすいが、気になる点も…

    ホンダの新型「フリード」にはキャンプにも便利な車椅子仕様あり! 手堅い走りで使いやすいが、気になる点も…

    マクラーレン650Sでシルクロードへ!西安から敦煌までスーパーカーで旅した

    マクラーレン650Sでシルクロードへ!西安から敦煌までスーパーカーで旅した

    レクサスの新型ミニバン「LM」に乗ってみた!

    レクサスの新型ミニバン「LM」に乗ってみた!

    三菱「トライトン」を激坂凸凹道で試乗!パジェロの遺伝子を受け継ぐ本格4WDの実力をチェックしてみたぞ

    三菱「トライトン」を激坂凸凹道で試乗!パジェロの遺伝子を受け継ぐ本格4WDの実力をチェックしてみたぞ

    乗ると自意識ゼロになれるEV「アバルト500eカブリオレ」。フィアット500eとの違いもチェック

    乗ると自意識ゼロになれるEV「アバルト500eカブリオレ」。フィアット500eとの違いもチェック

    全米住みたい街ランキング2位!レクサスESとレンタカーでナッシュビルへ

    全米住みたい街ランキング2位!レクサスESとレンタカーでナッシュビルへ

    BYDのSUVがヤバすぎ! 仰望(ヤンワン)の「U8」は1200馬力でドローンまで搭載

    BYDのSUVがヤバすぎ! 仰望(ヤンワン)の「U8」は1200馬力でドローンまで搭載

    小型車に革命をもたらした名車「ミニ」の2024年最新型・クーパーが登場!BMW版「MINI」の魅力とは?

    小型車に革命をもたらした名車「ミニ」の2024年最新型・クーパーが登場!BMW版「MINI」の魅力とは?

    新型「レンジローバースポーツ」を公道で試乗してみたら…その走行性能は驚異的だった!

    新型「レンジローバースポーツ」を公道で試乗してみたら…その走行性能は驚異的だった!

    誰でも体験できる運転力向上施設「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」で走ってきた

    誰でも体験できる運転力向上施設「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」で走ってきた

    金子浩久が2022‐2023 日本カー・オブ・ザ・イヤーで日産「サクラ/三菱ekクロスEV」に10点を投じた理由

    金子浩久が2022‐2023 日本カー・オブ・ザ・イヤーで日産「サクラ/三菱ekクロスEV」に10点を投じた理由

    「2023-24 日本カー・オブ・ザ・イヤー」10ベストカーが決定。栄冠に輝くのはどのクルマか?

    「2023-24 日本カー・オブ・ザ・イヤー」10ベストカーが決定。栄冠に輝くのはどのクルマか?

    日本カーオブザイヤー決定!BE-PALの選考委員・金子浩久はどのクルマに投票したのか?

    日本カーオブザイヤー決定!BE-PALの選考委員・金子浩久はどのクルマに投票したのか?

    ランドローバー「ディフェンダー」を買うならV8かディーゼルか?試乗してシミュレーション

    ランドローバー「ディフェンダー」を買うならV8かディーゼルか?試乗してシミュレーション

    メルセデス・ベンツ 「EQS450 4MATIC SUV」に試乗。EV四駆のSUVはココがすごかった!

    メルセデス・ベンツ 「EQS450 4MATIC SUV」に試乗。EV四駆のSUVはココがすごかった!

    ベンツ、BMW、レンジローバーのSUVやIONIQ 5に乗れるJAIAイベントに行ってきた

    ベンツ、BMW、レンジローバーのSUVやIONIQ 5に乗れるJAIAイベントに行ってきた

    今なぜV12エンジン?アストンマーティン「ヴァンキッシュ」逆張りの勝ち筋とお値段

    今なぜV12エンジン?アストンマーティン「ヴァンキッシュ」逆張りの勝ち筋とお値段

    ランボルギーニ・ウラカンEVOでロフォーテン諸島の絶景を走る

    ランボルギーニ・ウラカンEVOでロフォーテン諸島の絶景を走る

    ミシガン湖を目指すクルマ旅で思い知らされた、ハザードランプの緊急性

    ミシガン湖を目指すクルマ旅で思い知らされた、ハザードランプの緊急性

    NEW ARTICLES

    『 試乗記 』新着編集部記事

    N-BOXはアウトドアでも活躍!ソロキャンにもぴったりなモデルをレビュー

    2025.01.16

    フォルクスワーゲンの新型パサートに試乗!セダンは消失、サイズや燃費は?

    2025.01.13

    メルセデスベンツ「Gクラス」EVの価格は?4モーターの走りや内装もチェックした!

    2024.12.31

    ピストン西沢が推す「ソト遊び向けの登録済み未使用車」6選! 即納も夢じゃない!?

    2024.12.18

    250万円台から買える!スズキの新型SUV「フロンクス」に試乗してきましたよ~

    2024.12.06

    今なぜV12エンジン?アストンマーティン「ヴァンキッシュ」逆張りの勝ち筋とお値段

    2024.11.30

    ベンツ、BMW、レンジローバーのSUVやIONIQ 5に乗れるJAIAイベントに行ってきた

    2024.11.27

    ディフェンダーの新型を試乗体験!「DESTINATION DEFENDER TOKYO 2024」リポート

    2024.11.23