クラシックカーの魅力とは? ロールス・ロイス&ベントレーのイベントで「世界に1台のクルマ」を堪能 | 試乗記 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    試乗記

    2023.10.29

    クラシックカーの魅力とは? ロールス・ロイス&ベントレーのイベントで「世界に1台のクルマ」を堪能

    横浜赤レンガ倉庫で開かれたクラシックカーのイベント

    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)の金子浩久が、横浜赤レンガ倉庫前で開催されたクラシックカーのイベントに行ってきました。クラシックカーの魅力は、なんといっても大量生産ではないこと。1台1台オーダーメイドのクルマもあるんです。「クルマを誂える」という楽しみとともに生まれた世界に一台しかないクルマの輝きは、資本主義社会の閉塞感に風穴を開けるヒントなのかもしれません。

    現代の超高級車がクラシックカーにかなわない理由とは

     現代のフェラーリやランボルギーニのスペチアーレ(特別限定車)や、ブガッティなどが凄まじい性能を誇り、台数限定で生産され、発表前にすべて完売してしまうとしても、贅沢さや凝りっぷりからしたらクラシックカーにはとてもかないません。

     ちなみに、ちょうど先月、フェラーリの新型「SF90 XX Stradale」が東京で発表されました。799台が限定生産され、価格は9800万円。発表時には完売済み。

    フェラーリSF90 XX Stradale

     4リッターV8エンジンと3基の電気モーターが組み合わされたPHEV(プラグインハイブリッド)システムが搭載され、最高出力はなんと1030馬力! 最高速度は320km/hで、停止から100km/hに達するまでたった2.3秒しか掛かりません。200km/hまででも、わずか6.5秒という超高性能です。

     SF90 XX Stradaleは公道走行が可能でありながら、サーキットでいかに速いラップタイムを刻むかを主要テーマとして開発された特別なクルマです。

    フェラーリSF90 XX Stradale

     そんな現代最先端のクルマを拝ませてもらった翌月は、一転してクラシックカーにたくさん接することができました。

    クルマってもともとは「誂えるもの」だった

    クラシックカー

     クラシックカーの大きな特徴のひとつとなっていたのが、ボディを“ビスポーク”することができたことです。ビスポークとは英語のbe spoken(誂えの、注文作りのという意味)が元となる形容詞で、服や宝飾品などの世界で用いられている用語です。日本語としては、“誂える”という言葉がそれに相当するでしょう。

     それが可能だったのは、戦前と戦後すぐのクルマはクルマの土台となるフレームとその上に載せられるボディは別々に造られ、最後に合体される別体構造だったからです。

     それに対して、現代のクルマはモノコック構造という一体構造が採用されているために、ボディだけ別に造って1台を誂えることができません。モノコック構造は大量生産のためであり、軽量化のためであり、衝突安全性確保のためなど、さまざまな技術進化によって実現され、採用されています。

    ビスポークで造る「コーチビルドボディ」

     昔の高級車は、顧客がメーカー担当者と話し合いを重ねながら世界に一台だけのボディを造り上げることが可能でした。もちろん、標準型となるスタンダードボディも存在し、カタログに掲載されていました。出荷台数としてはそちらのほうが多かったのですが、それでは満足できない顧客は「自分だけの1台」を追い求めてビスポークでボディを造らせていました。ビスポークして造られたボディは「コーチビルドボディ」とも呼ばれます。

     顧客と対応するのは自動車メーカーやディーラーの担当者だけでなく、実際的にはコーチビルダーの担当者が行なっていました。コーチ(coach)は馬車の客車の種類のひとつで、文字通り、馬車時代には客車を造っていて、自動車時代になるとクルマ用の客車つまりボディを製造するメーカーに転じました。

    ロールス・ロイスとベントレーの名車に会いに横浜へ

     日本にも、さまざまなクラシックカーがミュージアムや個人オーナーの元に存在しています。中にはコーチビルドボディを持つクルマもあります。1022日に横浜赤レンガ倉庫で、そうしたクルマが多く集まるイベントが開催されたので、出かけてきました。

     日本ロールス・ロイス&ベントレーオーナーズクラブの年に一度の集まりです。会場には朝からロールス・ロイスとベントレーが続々と集まってきました。

     秋晴れの日曜日なので、辺りはすでに行楽客で賑わっています。通りに面した広場ではサツマイモのイベントが行なわれ、さまざまなサツマイモ料理や菓子などが販売されていました。

     少し離れた2か所では、同じ団体なのか別々の団体なのか、ヨサコイ踊りのイベントが行なわれています。

     そんな中に、戦前型と戦後型のロールス・ロイスとベントレーが48台も集まっていました。コーチビルドボディを持ったクルマもたくさんありました。

     端から見ていきましょう。

    ロールス・ロイス ファンタムⅡコンチネンタル ドロップヘッドクーペ(1930年

    ロールス・ロイス ファンタムⅡコンチネンタル ドロップヘッドクーペ

     イギリスのカールトンというコーチビルダーが製作した2座席オープンボディを持ちます。ドロップヘッドとはオープンボディのイギリス流の呼び方です。それに対するクーペ型はフィクストヘッドと呼ばれます。このボディは運転席と助手席しか無いように見えますが、実はあるのです。

     畳んだ幌と後ろに積んだスペアタイヤの間に、ランブルシートという補助席がピタッと収められています。2シーターなので普段はパーソナルな使い方をしていても、オーナー以外の人をあまり長距離ではない間で乗せなければならない何かの機会に乗せるためのシートです。パレードとかでしょうか?

    ロールス・ロイス ファンタムⅡコンチネンタル ドロップヘッドクーペ

     長大なボディを持ちながらも2人乗りの小さなキャビンが不釣り合いに見えず、絶妙なバランスでカッコ良く見えるのはコーチビルドボディならではです。この個体は、2005年の「ラフェスタ・ミッレミリア」の1600kmを完走し、2007年に開催された「第1回 東京コンクール・デレガンス」で総合優勝。2019年にはカリフォルニアで行なわれる世界有数のクラシックカーイベント「ペブルビーチ・コンクールデレガンス」に参加した有名な1台。コンクール・デレガンスとはクラシックカーの品評会のことで、レストアに際しての時代考証の正確さやセンスなどが審査されます。

    ロールス・ロイス ファンタムⅢ(1938年)

    ロールス・ロイス ファンタムⅢ

     コーチビルダーはイギリスのパークウォード。会場で独特の個性を放っていました。ボディは濃淡のブルーの2トーンに塗られ、コーナーがすべて丸められた窓枠やサイドスッテップの滑り止め、リアタイヤのスパッツの飾りなどがクロームメッキされて配されています。

    ロールス・ロイス ファンタムⅢ

     上辺が湾曲したリアウインドや、エッジを立てずになだらかな曲面で覆ったスペアタイヤハウスなど、曲線と曲面が多用されているところが、どこかアールヌーボー様式を彷彿とさせます。

    ロールス・ロイス ファンタムⅢ

     また、リアタイヤがスパッツによって覆われていて、明確なリアフェンダーの膨らみを持たないのも、戦後のフラッシュサイドボディ化を先取りしているようで興味深いですよね。

    ロールス・ロイス ファンタムⅢ

    「世界に1台のクルマ」であることこそクラシックカーの魅力

    「ええ。コーチビルドボディはクラシックカーの魅力の一つです。最初のオーナーがどんな想いや美意識からそのボディを誂えたのかをあれこれと想像するのは大きな醍醐味ですね」

     コーチビルドボディはクラシックカーの魅力だと語るのは、クラブ会長の涌井清春氏です。かつて涌井氏が恋焦がれるような気持ちでイギリスから輸入して販売したロールス・ロイス シルバーレイス ドロップヘッドクーペ(1950年)も参加していました。

    ロールス・ロイス シルバーレイス ドロップヘッドクーペ(1950年)

    ロールス・ロイス シルバーレイス ドロップヘッドクーペ

     コーチビルダーは、イギリスのフリーストン&ウェブ。シルバーレイスは当時のロールス・ロイスの最上級モデルでしたが、前開き2ドア4人乗りのドロップヘッドクーペのボディはこの1台しか製造されていません。まさしく世界に1台のクルマです。

    ロールス・ロイス シルバーレイス ドロップヘッドクーペ

    「このクルマのことはいろいろな洋書で読んで知っていました。写真からだけでも素晴らしさが伝わってきていて、いつか実物を拝めればと願うだけでした。その後、偶然にイギリスの提携先の工場にレストアに入っていたのを見た時には半日ぐらい眺めていましたよ。帰り際に、“売りに出される時は、絶対に教えてくれ”と頼んでおいたら数年後に連絡が来て、自分のものとすることができました」

    クラシックカーのほろを開ける人々

     強いオーラを放っていて、3人がかりで幌を開けた時には周囲の見物客から大きなどよめきが起こっていたほどです。

    ロールス・ロイス シルバーレイス ドロップヘッドクーペ

     宣伝となってしまって恐縮ですが、このクルマの詳細と涌井氏の想いの深さについては、今年3月に上梓した拙著『クラシックカー屋一代記』に詳しく書きましたので、ぜひ、読んでみて下さい。

    ベントレー S1コンチネンタル(1956年)

    ベントレー S1コンチネンタル

     コーチビルダーはイギリスのH.J.マリナー。現在はベントレー社の傘下に入り、王室のクルマやベントレー各車のインテリアの特別オプションや仕上げなどを手掛けているマリナーですが、以前はコーチビルダーとしてボディを製造し架装していました。馬具製造業としての創業は16世紀にまで遡る老舗のコーチビルダーです。生産台数は、わずか218台。

    ベントレー S1コンチネンタル

     会場で眺めていて驚かされたのが、リアフェンダーの造形です。タイヤが収まっているとは思えないほど薄く、鋭く造られています。おそらく職人の手作業によるものでしょうが、非常に手間と時間が掛けられていることが伺えます。

    ベントレー S1コンチネンタル

    「アメリカ車のテールフィンのマリナー流解釈なのでしょうか?」

     会場で会ったベントレーに詳しい知人がそう口にしていましたが、たしかにアメリカ車のテールフィンは同じ時代に流行していました。アメリカ車のテールフィンは造形が単純で大雑把であるのに対して、S1コンチネンタルは繊細かつ優美です。戦前型のクルマの張り出した前後フェンダーが完全にボディに吸収される直前の断末魔のような造形がアメリカでは膨大な数のクルマのテールフィンとなったのに対して、ベントレーとイギリスのコーチビルダーでは、このような造形に昇華されたのではないかという解釈は面白いですね。

    ベントレー Rタイプ ドロップヘッドクーペ(1953年)

    ベントレー Rタイプ ドロップヘッドクーペ

     コーチビルダーはイギリスばかりと限らず、このRタイプ ドロップヘッドクーペは、スイスのグラバーというコーチビルダーによるボディが架装されています。

    ベントレー Rタイプ ドロップヘッドクーペ

     造られたのは4台のみ。1953年という時代の割には、前後フェンダーはほとんどボディと一体化されているという先進性を有しています。一気に現代車っぽく見えてきますね。

    ベントレー Rタイプ(1953年)

    ベントレー Rタイプ

     こちらはコーチビルドボディではなく、スタンダードボディ。標準ボディとしてカタログに掲載されていました。

    「コーチビルドボディは職人が叩いて造るからアルミ製であるのに対して、スタンダードボディは同じ形のボディを量産するのでスチール製です」(前出の涌井氏)

    ベントレー Rタイプ

    ベントレー マークⅥ(1950年)

    ベントレー マークⅥ

     コーチビルダーはH.J.マリナー。ロンドンの中心部バークレイスクエアにあるディーラー、ジャック・バークレイ社が販売したものである記録が残っています。

    ベントレー Rタイプ 2ドアサルーン(1953年)

    ベントレー Rタイプ 2ドアサルーン

     コーチビルダーは、イギリスのジェイムズ・ヤング。1台だけ架装された稀少車。

    ベントレー S2 コンチネンタル・フライングスパー(1962年)

    ベントレー S2 コンチネンタル・フライングスパー

     こちらも戦後製作。現代の「フライングスパー」の先祖的存在。コーチビルダーは、H.J.マリナー。

    ベントレー S1サルーン(1958年)

    ベントレー S1サルーン

     コーチビルダーはイギリスのフーパー。

    消費するだけの時代から、クルマ作りに参画する未来へ

     いかがでしたでしょうか?

     会場の都合でアングルが限られた画像しか撮れなかったのが恐縮ですが、コーチビルドボディの素晴らしさの一端ぐらいはお伝えできたのではないでしょうか。

     現代では新車でコーチビルドボディを持ったクルマを誂えることはできませんが、最初のオーナーの気持ちに想いを馳せることはできます。

     クルマをはじめとする現代の工業製品は高度化しているが故に、顧客はただ“買うだけ”、“使うだけ”で関われなくなってしまいがちです。なんでも昔が良かったとは思いたくありませんが、かつてのコーチビルドボディのように、メーカーと顧客の間が縮まって、話し合ってやり取りした結果が反映されたモノが買えるようになるといいですね。一方通行ではなく、私たも製品造りや企画などに参画できたらいい。

     それが何なのか、どうすれば実現できるのか、すぐに指摘はできませんが、クルマ自体がこれから大きく変わっていく中で、クルマと人との関係性に於いても新しいものが生み出されていくことを期待したい。昔のロールス・ロイスとベントレーを赤レンガ倉庫前で眺めながら近未来のことを思っていました。

    金子浩久
    私が書きました!
    自動車ライター
    金子浩久
    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)。1961年東京都生まれ。趣味は、シーカヤックとバックカントリースキー。1台のクルマを長く乗り続けている人を訪ねるインタビュールポ「10年10万kmストーリー」がライフワーク。webと雑誌連載のほか、『レクサスのジレンマ』『ユーラシア横断1万5000キロ』ほか著書多数。構成を担当した涌井清春『クラシックカー屋一代記』(集英社新書)が好評発売中。https://www.kaneko-hirohisa.com/

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