ソローが暮らしたウォールデンへ!最初はカローラで、2度目はベントレーで | クルマの旅・ドライブ 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    クルマの旅・ドライブ

    2022.06.02

    ソローが暮らしたウォールデンへ!最初はカローラで、2度目はベントレーで

    自動車ライター・金子浩久が過去の旅写真をひもときながら、クルマでしか行けないとっておきの旅へご案内します。クルマの旅は自由度が大きいので、あちこち訪れながら、さまざまな人や自然、モノなどに触れることができるのが魅力。今回の旅先は、ヘンリー・デイヴィッド・ソローが自給自足の小屋暮らしをして、のちに『森の生活』を書いたウォールデン池。アメリカ文学の聖地にして、世界中のアウトドアズマン・自然好きにとっての記念碑的な地です。

    ヘンリー・デイヴィッド・ソローの小屋を訪ねたかった

    はじめてアメリカを旅した時は、訪れてみたいところがたくさんあった。

    なかでもボストン郊外コンコードにあるウォールデン池は特別な場所だった。 

    BE-PAL読者にはご存知の通り、ウォールデン池とは、詩人であり、自然主義者であり、哲学者でもあったヘンリー・デイヴィッド・ソローが池のほとりに建てた小屋で過ごした2年あまりの生活ぶりを著した『森の生活』の舞台となったところだ。

    岩波文庫版の『森の生活』を購入したのは1980年5月2日。差し込んであるメモには、購入先が「神田・信山社」と青いインクで書いてあるのが懐かしい。

    『森の生活』はソローの自給自足を淡々と記した日記だから、ドラマチックなできごとが起こるわけではない。自然の描写や生活の細かな記録、政治や世相に対する批評などが綴られているが、退屈することもなく最後まで読み通せたのは、まだアメリカどころか外国に行ったこともなかった高校生の、ただただ好奇心によるものだった。

    キッカケは、当時の雑誌「宝島」に『森の生活』が新訳で連載されていたのを読んでいたからだ。その新訳も、のちにイラストがたくさん入った箱入りハードカバーとして単行本化された。それ以降も、さまざまな訳者による『森の生活』が出版され、最新の翻訳が小学館文庫にも収められている。

    アメリカのレンタカーがなんとカローラだった

    ウォールデン池に行ったのは、1987年のことだった。まだインターネットなどもなく、ウォールデン池に行きたくても、どこにあるのかわからない。一般的な観光地でもないから、ガイドブックにも載っていなかった。岩波文庫版に記してあった、ボストン郊外のコンコードという地名だけは誦じていた。

    その辺りまでレンタカーで行って、地図を見るなり、誰かに訊ねればわかるだろうと滞在していたニューヨークのホテルからレンタカーの予約を入れて、まずはボストンまで出掛けた。

    当時、ボストンやワシントンDC、フィラデルフィアなど、ニューヨーク近郊の空港まで予約なしで搭乗できる「シャトル便」という国内線が30分に1本ぐらいの割り合いでたくさん飛んでいた。ラガーディア空港からそれに乗って、ボストンに行き、空港のエイヴィスレンタカーで予約しておいたクルマとして出てきたのが、シヴォレー・ノヴァだった。

    その時は、ノヴァには悪いけれども、ちょっとガッカリした。この時代のノヴァは、トヨタ・カローラのOEM車だったからだ。

    1980年代前半にアメリカで発生した日米貿易摩擦の打開策として1984年にカリフォルニア州フリーモントに設立されたトヨタとGM(シヴォレー)の合弁企業である「NUMMI」の工場で生産されたシヴォレー版カローラがノヴァだったのである。

    それまで、アメリカで借りたクルマは全部アメリカ車だった。シヴォレー・コルシカやベレッタ、ポンティアック・グランダムなど日本では運転したことのないアメリカ車を運転できることが嬉しかったし、日本で乗るとブカブカで大味なアメリカ車も、アメリカの道で走らせてみるとそれらには理由があることを体感できて、とても心地良かったのだ。

    現在ではグローバル化が進んで、あらゆる商品のブランドの国籍と製造地が一致するとは限らなくなったし、こちらも経験を積んで図々しくなったので、今だったら日本車のOEM車が出てきても何も思わない。逆に、OEMの出来映えを探れるかもしれないと面白がることだろう。

    アメリカの町の名前ってやつは!

    ノヴァに乗ってボストン空港を出る時は緊張した。なぜならば、外国での初めての一人での運転だったからだ。もちろん、インターネットやスマートフォンどころか、カーナビすらなかったので、紙の地図と標識だけが頼りだった。

    「とりあえずはウォールデン池のあるコンコードはニューハンプシャー州にあるのだから、とりあえずはボストンから北上してニューハンプシャー州を目指せば良い。日本のように高速道路(フリーウェイ)に料金所はないから、間違ったら次の出口で降りて乗り直せば良い」そう思い直すと、気がラクになった。

    しかし、フリーウェイを1時間も走り続けても、コンコードの標識は出てこない。ちょうどパーキングエリアがあったので、停めて確認してみることにした。インフォメーションセンターがあって、スタッフに訊ねてみた。

    「ウォールデンポンドのあるコンコードに行きたいんだけど、まだ先ですか?」

    「コンコードはこの先だけれども、何ポンドだって?」

    「ウォールデンポンド」

    彼は大きな地図を取り出して、調べてくれた。

    「それは、この先のコンコードではなく、マサチューセッツのコンコードだよ」

    隣り合った州なのに、どちらにも同じコンコードという名前の街があって、紛らわしかった。僕が、マサチューセッツとニューハンプシャーを取り違えていたのだ。

    「えっ、マサチューセッツ!? 通り過ごしてしまったのか!?」

    「マサチューセッツのコンコードは小さなところだから標識には書かれていなかったんじゃないか。でも、あなたはその池に釣りにでもしに行くのかい!?」

    アメリカの自然主義文学の最高傑作であり、ニュージャーナリズムの源となるノンフィクション作品とも称賛されている『森の生活』のことも、ソローのことも、どうやら彼は知らないようだった。

    ようやくウォールデンに着くと…!?

    フリーウェイを戻り、マサチューセッツ州の方のコンコードに向かった。目指すコンコードはフリーウェイからすぐで、降りると標識が出ていた。ウォールデン池だけではなく、その辺りは独立戦争時代の頃からの古戦場など史跡がたくさんあり、それらを示すさまざまな標識があった。

    ノヴァを駐車スペースに停め、森の中に歩いていくと池が見えた。さらに進むと、池のほとりにまで出ることができた。そんなに大きな池ではない。池沿いを歩けるように整備された道が続いている。奥の方に向かって歩いてみると、池の中央を何か大きなものが横切っている。

    人間だった!

    男性が泳いでいた。

    他には、誰もおらず、静かなところだった。

    池の反対側には、ソローが暮らしていた小屋の跡地に礎石が残されていた。小屋を再現したレプリカもあった。

    小屋に暖炉を据え付けた場所の礎石などが残されている。

    実際にソローが暮らしていたのは1845年7月4日から1847年9月6日なので電気やガスなどは使われていない。シャワーや水洗トイレなどもない。火を起こし、薪を燃やして湯を沸かし、調理をしていた様子は『森の生活』に描かれている。

    キャッシュとクレジットカードさえ持っていれば、僕のような旅人でも簡単に何でも手に入れることのできる、便利な現代のアメリカのマジョリティのライフスタイルとは正反対の意識の痕跡をウォールデン池のほとりに見ることができたのは収穫だった。

    『ウォールデン 森の生活』の第2章に記された言葉が掲げられている。《私が森で暮らしてみようと心に決めたのは、人の生活を作るもとの事実と真正面から向き合いたいと心から望んだからでした。生きるのに大切な事実だけに目を向け、死ぬ時に、じつは本当には生きてはいなかったと知ることのないように、生活が私にもたらすものからしっかり学び取りたかったのです。》(『ウォールデン 森の生活 上』 P.226 ヘンリー・D・ソロー著 今泉吉晴訳 小学館文庫)

    翌日からは、ニューハンプシャー、メインとフリーウェイを北上し、カナダに入り、一度西へ向かってから南下し、ナイアガラからアメリカへ再入国して、ボストンへ戻ってくる、1週間のクルマひとり旅だった。

    シヴォレー・ノヴァはまさしくカローラそのもので、調子を崩すこともなく、燃費に優れ、速くもなく遅くもなく走った。1週間のドライブにはもっと大きなアメリカ車の方が楽だっただろうけれども、若かったし、アメリカで見るもの聞くもの感じるものすべてに刺激されまくっていたから、クルマは何でも構わなかっただろう。

    ベントレーでウォールデンを再訪する

    その21年後にウォールデン池を再訪することができたのは幸運だった。ベントレーのコンチネンタル・フライングスパー・スピードという超高級サルーンのメディア試乗会に参加した時に、ウォールデン池の前を通ったのである。スケジュールに余裕があったので、池に行ってみた。

    池とその周囲の様子は何も変わっていなかった。6月末だったので、森の新緑が眼に眩しいくらいだった。21年前に来た時は9月中旬で、すでに秋の気配が漂っていたから、男性が泳いでいたのに驚かされたのだった。

    コンチネンタル・フライングスパー・スピードという長い名前のベントレーは、極上の乗り心地と速さを示した。フォルクスワーゲン傘下に収まった新生ベントレーが送り出したW型12気筒エンジンを搭載するクルマは最初はコンチネンタルGTという2ドアクーペに搭載されて登場し、4ドアサルーンのコンチネンタル・フライングスパーが続いた。

    “スピード”は、その高性能版だった。排気量6.0リッターのW型12気筒エンジンは最高出力610馬力を発生し、4輪を駆動する。最高速度は310km/h。ヨーロッパよりも高速道路での最高速度がだいぶ低く規制されているアメリカにはもったいないくらいの高性能だ。だが、こうした超高性能車に机上の正論をブツケるのも野暮なものだ。

    大きなボディを猛然とダッシュさせながら、車内は平穏そのものだった。静かだから、オプションのnaimというイギリスのスタジオ音響機器メーカーが造ったカーオーディオが音楽を素晴らしく響かせる。

    ボストンという街も建物や街のつくりなどはイギリスそっくりだ。アメリカ合衆国がイギリスから独立する前から存在していたのだから当然だろう。ノヴァで走った時にはそこまで見通す余裕はなかったし、理解も及ばなかった。

    しかし、21年後に飲み込むことができたのはコンチネンタル・フライングスパー・スピードが並外れて豪奢なクルマだからというだけのことでもなかっただろう。ボストンだけではなく、ニューイングランド地方にはアメリカ建国以前からの歴史が今に息付いている。よく、“ニューヨークはアメリカとは言えない。ニューヨークはニューヨークだ”と喩えられるけれども、ニューイングランド地方もまた独特の様相を見せている。

    作家、ナチュラリスト、哲学者、個人主義の提唱者としてのソローの業績をたたえて積まれたケルン。

    『若草物語』を書いたルイーザ・メイ・オルコットの父、ブロンソン・オルコットが、最初の石をソローの小屋があった場所に置いたという。

    変わりゆくクルマ、変わらないウォールデン

    次にボストンでレンタカーを借りたら、何のクルマが出てくるのだろうか? 残念なことにノヴァは、このカローラOEM型を最後に1988年の生産終了とともに、モデル名も消滅してしまった。それどころか、メーカーのGMも2009年には経営破綻してしまったのだ。ビジネスを拡大し続けているベントレーとは対照的だ。クルマの栄枯盛衰は激しいけれども、ウォールデン池はソローの小屋の礎石とともに今後も変わらず歴史を刻み続けるだろう。

    【関連記事】シンプルライフのバイブル。ヘンリー・ソロー『森の生活』を読みなおそう!

    【関連記事】ヘンリー・ソローは「山登り」が大好きだった

    私が書きました!
    自動車ライター
    金子浩久
    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)。1961年東京都生まれ。趣味は、シーカヤックとバックカントリースキー。1台のクルマを長く乗り続けている人を訪ねるインタビュールポ「10年10万kmストーリー」がライフワーク。webと雑誌連載のほか、「レクサスのジレンマ」「ユーラシア横断1万5000キロ」ほか著書多数。https://www.kaneko-hirohisa.com/

     

    ヘンリー・D・ソロー著 今泉吉晴訳
    『ウォールデン 森の生活』

    「人は一週間に一日働けば生きていけます」という名言で知られるシンプルライフの名著。ヘンリー・D・ソローは、一八〇〇年代の半ば、ウォールデンの森の家で自然と共に二年二か月間過ごし、自然や人間への洞察に満ちた日記を記し、本書を編みました。邦訳のうち、小学館発行の動物学者・今泉吉晴氏の訳書は、山小屋歴三十年という氏の自然の側からの視点で、読みやすく瑞々しい文章に結実。文庫ではさらに注釈を加え、豊富な写真と地図とでソローの足跡を辿れます。産業化が進み始めた時代、どのようにソローが自然の中を歩き、思索を深めたのか。今も私たちに、「どう生きるか」を示唆してくれます。


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