日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の金子浩久が、新型レンジローバースポーツを公道でチェックしてきました。1000万円を優に超えるお値段もすごいんですけど(0ひとつ多いですよ!)、その走行性能と乗り心地は、驚異的でした。
ジャガー・ランドローバーの進化とEVシフト
ジャガー・ランドローバーの事業計画が意欲的だ。その内容は、電動化を中心に今後5年間で150億ポンド(約2兆6000万円)もの投資を行うことから始まり、多岐にわたっている。
これまで、ジャガー・ランドローバーには、社名にもなっている通り「ジャガー」と「ランドローバー」という二つのブランドで構成されていた。
「ランドローバー」ブランドの中には、縦置きにエンジンを搭載する大型SUVの「レンジローバー」「ディスカバリー」「ディフェンダー」などと、横置きにエンジンを搭載するミッドサイズの「ディスカバリースポーツ」「イヴォーク」などが展開されていた。
なんと、新しい計画では、次世代の横置き系はエンジンをやめて工場を造り直し、すべてEVに置き換えてしまうという。縦置き系ではEVやPHEV(プラグインハイブリッド)、MHEV(マイルドハイブリッド)など各種の電動化モデルが送り出される予定だ。
ブランドが集う会社「House of Brands」へ
興味深かったのが「House of Brands」アプローチだ。
ランドローバーというひとつのブランドに属していた各モデルが、「レンジローバー」「ディスカバリー」「ディフェンダー」というブランドに“昇格”し、 そこにジャガーを加えてメーカー名の「ジャガー・ランドローバー」こそ変わらないまでも「JLR」という表記も用いられることになった。
各ブランドの独自性を高め、強化することが目的だ。
新型レンジローバースポーツの強化ポイントとは
計画発表と前後して発表された新型レンジローバースポーツに試乗してみて、すでにその通りに“独自性を高め、強化”されようとしていることが良くわかった。
レンジローバースポーツは、レンジローバーのスポーティ版として、その3代目にフルモデルチェンジを果たした。
レンジローバーがあらゆる路面を走破する能力を持ちながらも極上の快適性を併せ持つ超高級SUVであるのに対して、それに“スポーツ”が付け加えられるわけだから、スポーティな走りっぷりが追求されている。
ちなみに、以前はランドローバーは「SUV」と自称することを頑なに拒んでいた。SUVという呼称がアメリカで生まれるはるか昔から本格的なオフロード4輪駆動車だけを造り続けてきた専業メーカーとしての矜恃からなのだろう。
大きさを感じさせない俊敏な走り
最新のレンジローバースポーツは、オンロードつまり舗装路でのスポーティな走行性能に磨きが掛けられていた。今回の新型でも、大きなボディサイズを感じさせないぐらい俊敏な走りっぷりに驚かされてしまったのだ。
タイトコーナーを曲がる際に4輪の駆動トルクを常に最適なバランスに調整して、素早いレスポンスでハンドリング性能を高める「トルク ベクタリング バイ ブレーキ」や、ギアシフト操作を最適化し、駆動トルクを最大化し、直線加速性能を向上させるレンジローバースポーツだけに備わった「ダイナミック ローンチ」といったデバイスなどが、ワインディングロードを駆け巡った時に、そのダイレクトなハンドリングと動力性能などに強く寄与していることを実感できた。
従来のレンジローバーは、ここまでダイレクトではない。その代わりに柔らかさや優しさがある。ピタリとフィットしたシャツだけでなく、その上にもう一枚、極上のカシミアのセーターを羽織っている感じだ。
レンジローバースポーツは、企画と開発の力点がオンロードに置かれている。ライバルはポルシェ「カイエン」やBMW「X6」、アウディ「Q8」などのドイツ勢の大型高性能スポーティSUVになる。フィールドや悪路を走破することよりも、高速道路やワインディングロード、街中などのアスファルトの上を速く走る性能にフォーカスしたSUVだ。それをどう捉えるかで評価も分かれてくるだろう。
オフロード性能はどうか
もちろん、オフロードへの備えも抜かりない。3代目はレンジローバーと同じ「MLA-Flex」プラットフォームを用いて、レンジローバーと車体の基本部分は共通にしながらも、設定を変えることによって違いを出している。
パフォーマンス、オート、エコ、轍、砂地、泥と雪と6つの走行モードを切り替える「テレインレスポンス2」システムと、最低地上高を上げることのできるエアサスペンションによって悪路走破性能が確保されている。
さらに、試乗車にはオプションの副変速機も装着されていた。過酷なオフロードでは副変速機でローレンジモードを選択することによって、極低速での踏破力を発生させることができる。副変速機まで備えているSUVは世界的にも少なくなってきている。
試乗してみて気づいた点
「オートバイオグラフィD300」(税込み車両価格1457万円)というグレードの試乗車には170万6490円分のオプションが装着されていたので、価格は1627万6490円になる。そのクルマで、山口県下の一般道と自動車専用道を併せて4時間試乗した。
静粛性
ユニット名をD300と呼ぶディーゼルエンジンは、最高出力300馬力と最大トルク650Nmを発生する。印象的なのは、停車中のアイドリング状態でも、カラカラ、コロコロといったディーゼル特有のノイズがほとんど聞こえてこないことだ。
新開発された6気筒エンジンそのものが発する音量が低いことと併せて、搭載されるシャシーやボディなどの対策が効いているのだろう。ノイズに伴った振動もほぼ感じられなかった。
また、このD300ユニットはマイルドハイブリッド化されているので、オーソドックスなハイブリッドやPHEVのようにモーターだけで走行することこそできないが、エンジンでの走行をモーターでアシストしている効果をすぐに感じ取れた。
エアサスがもたらす乗り心地のよさ
標準装着されたエアサスペンションも乗り心地と姿勢の制御に貢献している。
まず、細かなショックや振動などを遮断し、大きな入力によっても乱れることなく姿勢変化を起こさず吸収していく。
良好な舗装路では、レンジローバーよりも引き締まった乗り心地に終始していた。
外観とインテリア
エクステリアデザインは薄いヘッドライトやテールライト、段差や隙間などを極限まで小さくして、ミニマルな外見を実現している。
現行のレンジローバーと見分けが付きにくいかもしれないが、レンジローバースポーツの方がよりボクシーな印象が強い。
インテリアもエクステリアに対応した抑制的なものだ。レンジローバー・ヴェラールで展開された“リダクショナリズム”ほど禁欲的ではないが、他社のクルマよりははるかにストイックで、チーフクリエイティブオフィサーのジェリー・マクガバンならではのインテリアに仕上がっている。音声操作も積極的に使い、慣れてくれば従来型よりも使いやすいはずだ。
レンジローバーか、レンジローバースポーツか
レンジローバースポーツは、初代から文字通りの“レンジローバーのスポーティ版”として仕立て上げられてきたが、3代目もそれは揺るがない。
どちらも、共有している基本性能自体のレベルが高いので、特別な要求でも設定しない限り不満を感じることはほとんどないだろう。そして、そのレベル自体がフルモデルチェンジを経るたびごとに上がってきているので、物足りなく感じること自体が少なくなってきているのと同時に、レンジローバーとレンジローバースポーツの差異そのものも以前ほどには感じにくくなってきていることも、また体感できた。
繰り返しになるけれども、レンジローバースポーツは、高速道路や街中のアスファルトの上を速く走ることを目標に開発され、それに十二分に応えてくれるSUVに仕上がっていた。1000万円を超える高級SUVだけれども、最新SUVの能力と可能性の大きさというものを如実に表している。
そこまでのオンロード性能が不要ならば本筋のレンジローバーが昨年にモデルチェンジしたばかりだし、贅沢さよりも実質を求めるならば「ディフェンダー110」や、追加されたばかりの「130」も控えている。「House of Brands」は半ばすでに現実のものとなっているのだった。