ミシガン湖を目指すクルマ旅で思い知らされた、ハザードランプの緊急性 | クルマの旅・ドライブ 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2022.07.14

    ミシガン湖を目指すクルマ旅で思い知らされた、ハザードランプの緊急性

    クルマでの移動時、合流や車線変更でハザードランプを短く点灯するドライバーを見かけることが多くなりました。日本では挨拶として浸透しつつありますが、では海外では?

    さまざまな国を走り、人や自然、文化に触れてきた自動車ライター・金子浩久が、アメリカでフォード・エクスプローラーを運転したときの経験を通して、ドライバー同士のコミュニケーションのあり方について論じます。

    “お礼”や“お詫び”のためにハザードランプが使われている日本

    日本全国どこでも、ハザードランプを多用するクルマをがたくさん走っている。

    ハザードランプは緊急警告灯だから、本来は走行中のクルマが突然に故障して止まってしまったり、ドライバーが運転できなくなって路肩に停めざるを得なくなってしまった場合に使うものだ。

    走行できないという緊急事態を周囲に注意喚起するものだから、クルマの四隅の赤いライトを点滅させる。路肩で停車中を示す場合に使う車幅灯を点灯させるのとは緊急度が違うのである。

    しかし、もうずいぶん前から、“サンキューハザード”という言葉もできてしまっているように、“お礼”や“お詫び”の意味で使われることがとても多くなってしまった。自分の側にちょっとした非があることを認めた上での行動に対して許しを乞う場合に使われている。例えば、十分な車間距離が確保されていない場合の合流だ。

    優先されるクルマと優先しなければならないクルマは法規で決まっているのである。それに従うだけのことだ。かたくなに「ファスナー合流」(1台ずつの合流方法)しなくたっていい。臨機応変にいこう。

    また、路肩に駐停車するために左へ方向指示器を出すことを省いてしまった上に、走行中から、いきなりハザードランプを点滅させながら左に寄るクルマも、業務用バンやトラック、タクシーなどに多い。

    ドライバー同士のコミュニケーションが重要なのは、アクションの「前」

    僕は、このサンキューハザードはナンセンスだと考えている。そもそも、運転中のドライバー同士が“お礼”や“お詫び”を伝える必要はないからだ。どうしても何か伝えたいならば、窓ガラス越しに相手の眼を見ながらサッと片手を挙げるぐらいでいい。心から“お礼”や“お詫び”をしたいのならば、ランプなどで味気なく代用させてしまうのではなくアイコンタクトやジェスチャーなどのリアルなコミュニケーションを図りたいではないか。

    そもそも、クルマの運転に伴う他者とのコミュニケーションには、済んでしまったことに“詫びる”とか“謝る”というウエットな情緒が入り込む余地はない。法規や原則に従って走れることが最優先で、それが多少その通りに励行できなかったとしても、運転はその先も連続しているわけだから、そこに囚われ過ぎることは交通安全にも反する。ドライバー同士のコミュニケーションが重要なのは、アクションの「前」なのである。決して、「事後」ではない。早めに方向指示器を出す、早めに加減速を終えておく…。事後じゃなくて、事前なのだ。

    なぜ、そこまで強く断言できるのかと言えば、アメリカのミシガン州で登場したばかりのフォード・エクスプローラーを運転していた時に経験したことが大きく影響しているからだ。

    フリーウェイを走る旧々型エクスプローラー。

    ボートをけん引する旧型エクスプローラー。

    2010年に登場したエクスプローラーは設計を一新。都市型のSUVに生まれ変わった。

    新型エクスプローラーは、旧型のラダーフレームシャシーからモノコックシャシーへの変更や、縦置きエンジンの4輪駆動から横置きエンジンの前輪駆動へなどと完全に一新された。ヘビーデューティなニーズには、エクスプローラーよりもひと回り大きなエクスペディションに対応させ、エクスプローラーは都市型の“アーバンSUV”に造り分けられた。乗ってみると、乗り心地や静粛性が格段に向上し、ドライバーインターフェイスも新時代のものへ進化し、快適なSUVに仕上がっていた。

    日本からカメラマンと2人でデトロイトに出掛け、フォード本社でエクスプローラーを受け取ると、ミシガン湖の北端近くのシルバーレイクを目指した。湖畔の広い砂漠には、有料のSUVパークがあるという情報を昨日、ホテルの近くのアウトドア用品店の店員から得ていたのだ。

    「エクスプローラーをカッコ良く撮影するならば、ここがいいんじゃないかな!?」と地図を広げながら教えてくれた。

    撮影プランとしては、シルバーレイクの砂漠で撮影するだけでなく、往復の道中でアメリカらしい風景の中にあるエクスプローラーを撮ることにした。高速道路に相当するフリーウェイではなく、一般道、それもできたら小さな町や村をつなげるローカル道路を進みながら、良いシーンを見付けていこうということになった。

    道中で旧型や旧々型エクスプローラーなどと遭遇したら、それらもスナップさせてもらおう。こういう撮影取材に、カメラマンのセンスと勘の鋭さがいちばん問われる。

    ハザードランプを点灯させて注意を受ける

    デトロイトのダウンタウンにあるホテルから、シルバーレイクまでは4時間以上かかった。シルバーレイクのSUVパークも期待以上の壮大な施設で、良い撮影ができた。

    ただ、往復の一般道でエクスプローラーを路肩に停めて撮影中に1回ずつ注意を受けた。1度目は、通り掛かりのシボレー・マリブを運転していた女性ドライバー。

    「ハザードランプを点灯させているけれども、あなたたち大丈夫?」

    「問題ないよ。ありがとう」

    「それなら良かった。点滅していたから、慌てて止まったわ。気を付けてね」

    片側2車線の直線道路で、道路の脇は林が広がっている。対向車線側の向こうは空き地のようで、草の生えた地面が広がっている。人の気配はなく、交通量も少ない。特徴的な建築物や地形が控えているわけでもなく、何もないところを貫くローカル道路だった。

    でも、この空の広さと空き地の何もない感じが実にアメリカの田舎っぽかった。日本だったら、空き地にはすぐに何か建てられてしまうだろうし、視界のどこかに必ず看板や標識などが入ってきてしまう。

    カメラマンはアメリカの田舎の空気感をうまく取り込んだ画像を撮影できた。

    赤く表記されたボタンが意味するもの

    2回目は、1回目と同じような道路沿いだったが、対向車線の向こうに川が流れていて、それを背景に入れて撮ろうという狙いだった。そこに、警官が運転するパトカーが走ってきて止まったので、ちょっと緊張した。

    「どうした? 何が起きたんだ!?

    「何も起きていません。僕らは日本からフォードの新型エクスプローラーを撮影とテストドライブしに来たんです。ここの風景がきれいで、クルマもあまり通らないから、安全を確認しながら撮影していました」

    「オーケイ。でも、アメリカではハザードランプは誰かに助けを求めるためのシグナルなんだ。だから、それを見た他のドライバーや通行人などは、ドライバーつまりあなたの安否を確認する義務がある」

    たしかに、1回目に心配して止まってくれたマリブの女性は、僕らに何もトラブルがないことを知った途端に安心したと同時に、呆気に取られていたっけ。

    「日本の事情は知らないけれども、アメリカでは本当に緊急な事態に陥らない限り、ハザードランプのボタンは押してはいけない。それぐらい特別なものだから、他のスイッチやボタンなどと区別して、赤く表記されているだろう?」

    たしかに、1997年にフルモデルチェンジしたキャデラックのセヴィルという大型セダンは、本格的に日本マーケットで拡販するために、キャデラック史上初の右ハンドルを用意したり、さまざまなモディファイを行って日本仕様を仕立てていた。

    ハザードランプのスイッチもそのひとつで、それまでは停止させないと操作できないようなステアリングコラムの上にレバーを設置していたのを、今日のもののようにダッシュボードに移し代えたことを輸入元は力説していた。つまり、“アメリカと日本では法規や使い方が異なるけれども、売るためには日本に合わせてきた”ということだったのだろう。そう納得させられたのを良く憶えている。

    「本来ならば、あなたを違反に問うところだが、それは止めておく。気を付けて日本に戻るように」

    警官の温情で違反切符を切られずに済んだし、日米でのハザードランプの使われ方の違いの大きさも強く再認識させられた。

    杓子定規な考えの果てに生まれたナンセンス

    もちろん、日本とアメリカでは何から何まで同じくすることはできないけれども、少なくとも現在の日本で多用されている“サンキューハザード”がナンセンスであると考えることは間違いないと、意を強くすることができたのだ。

    ただ、安全で走りやすい道路環境を実現していくためには改善も必要だろう。道路などの交通インフラには余裕を持たせて走りやすくし、ドライバーが守りやすい法規やルールなどが柔軟に運用されるべきだ。杓子定規にワクにハメようとするから窮屈になり、“守った、守らない”“破った、破らない”とギスギスした挙句がサンキューハザードだ。

    もっとも、すでにトヨタやマツダのクルマをはじめとして、運転中のドライバーの心身の異常を感知し、運転支援機能を応用してクルマを安全に停車させる機能が実装されているものもある。

    今後、そのシステムを進化させてリアルタイムでオペレーションセンターがモニターし、ドライバーから応答がない場合には現場にレスキューが出向くことも一般的になるかもしれない。

    同じように、クルマに異常がきたし、ドライバーだけではどうしようもできなくなっても、オペレーションセンターとインターネットを介して常時接続していれば、何らかの解決が図られるようになるかもしれない。

    そう考えると、遠くない将来の日本でもアメリカでも、ハザードランプをドライバー自らが点滅させて緊急事態の解決を図ろうとする一連の操作自体が消滅してしまうのかもしれない。そうなった時には、きっとサンキューハザードは昔話の一つとして苦笑いされているのだろう。

    ※撮影/髙橋信宏

    金子浩久
    私が書きました!
    自動車ライター
    金子浩久
    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)。1961年東京都生まれ。趣味は、シーカヤックとバックカントリースキー。1台のクルマを長く乗り続けている人を訪ねるインタビュールポ「10年10万kmストーリー」がライフワーク。webと雑誌連載のほか、「レクサスのジレンマ」「ユーラシア横断1万5000キロ」ほか著書多数。https://www.kaneko-hirohisa.com/

     

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