イスタンブールが年に一度1分間だけ時を止めるその日、市場の荒物屋で小さな幸運に出会った | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2023.12.06

    イスタンブールが年に一度1分間だけ時を止めるその日、市場の荒物屋で小さな幸運に出会った

    トルコの街中のアタチュルク肖像

    イスタンブールの街でいちばん多く見かける有名人といえば、トルコ建国の父アタテュルクです。第1次世界大戦に敗戦したオスマン帝国内で革命を主導し、1923年にトルコ共和国の初代大統領に就任。イスラム教を国教と定める条文を憲法から削除し政教分離を進め、主権を回復した英雄です。

    その功績を賞して議会が「アタテュルク」(父なるトルコ人の意味)という名を贈りました。イスタンブールの街でたまたまアタテュルクの命日に遭遇した金子浩久(日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員・BE-PAL選出)が体験した、ちょっとした幸せなエピソードをご紹介します。

    初代大統領ムスタファ・ケマル・アタテュルクの命日に立ち会う

    アタテュルク命日の黙祷

     トルコのイスタンブールで、とても貴重な瞬間に立ち会うことができました。

     20231110日の午前95分から1分間にわたってサイレンが鳴り響き、人々は胸に手を当てて黙祷するというのです。この日は今年2023年に建国100周年を迎えるトルコ共和国の初代大統領ムスタファ・ケマル・アタテュルクの命日で、その没後85周年に祈りを捧げるためです。

     たしかに、数日前に日本からトルコにやって来て、街中にアタテュルクの垂れ幕やポスター、大小の旗などが多く掲げられているなとは感じていましたが、命日が近かったとは知りませんでした。7年前にイスタンブールに来た時もアタテュルクの肖像をさまざまなところで眼にして印象に残っていましたが、ここまで多くはありませんでした。

     宿泊しているホテルのロビーにはアタテュルクの遺影が掲げられ、従業員も集まり始めてきていました。それを確かめてからホテルを出て、公園を横切り、バルバロスブールバードに出ました。片側3車線の大通りで、左に進むとすぐにベシクタシュスクエア公園の脇を通り、ボスポラス海峡沿いのチュラーン通りに突き当たります。

     手前の車線には路線バスとバイクぐらいしか走っておらず空いていますが、向かい側の車線は3車線それぞれにクルマが流れています。

    アタテュルク命日の黙祷

     チュラーン通りの方へ歩道を下りて行ってみました。チュラーン通りは、どちらの車線もクルマがびっしりと詰まっていて、ほとんど動いていません。規制されているわけでもなさそうです。警官や軍隊などがコントロールしているわけでもなく、自然発生的な渋滞のようです。

     止まっているクルマからドライバーや乗員がクルマを降りて、脇に立って黙祷にそなえている人もいました。

     交差点を少し南側に行ったところにドルマバフチェ宮殿があり、そこはアタテュルクが最後に過ごした場所だったと昨日教わったばかりでした。だから、多くのクルマがそこの前で黙祷をしようと集まってきたわけです。

     その渋滞が伸びていって、ホテルの前のバルバロスブールバードのクルマの流れも止まり、ドライバーや乗員がクルマから降り始めています。

    アタテュルク命日の黙祷

     95分、複数の場所から聞こえてくるサイレンの音ともに、彼ら彼女らは胸に手を当て、眼を閉じて祷りを捧げ始めました。歩道を歩いている人たちや商店の従業員や顧客たちも表に出てきて黙祷しています。

    イスタンブール

     彼らを邪魔しないよう、その場に直立して1分間が過ぎるのを待ちました。その間も、路線バスは動いているし、バイクや自転車などは走っています。なかには黙祷せずに、歩道を歩いている人もいました。全員が強制されて無理矢理に黙祷させられているのではなく、自然なかたちで行なわれていることが良くわかりました。

     1分間が過ぎると、クルマは流れ始め、人々も動き始め、何もなかったかのような日常が戻ってきました。

    マクドナルドやザ・ノース・フェイス店頭にまで!
    ポップアイコンとして愛されるトルコの英雄

     意識しながら歩いてみると、アタテュルクの肖像は、さまざまなかたちでイスタンブールの街中に掲げられていました。

    トルコの街中に吊るされたアタチュルク肖像

     幹線道路が交差するようなところには道路の両側からワイヤを渡し、そこに大きな布の肖像画が旗が翻るように下げられています。ビルの壁面にも大きな布の肖像画が下げられていました。驚かされたのは、なんとハンバーガーチェーンのマクドナルドが“m”のマーク入りで巨大な肖像をビルの壁面に垂らしていたことです。

    イスタンブールのマクドナルドの垂れ幕に描かれたアタテュルク

     新市街で栄えているイスティクラール通り沿いの携帯電話キャリアのショールームのような、CIが厳格に適用されていそうなところのモニター画面にもアタテュルクは何十秒に一回ぐらいの割合で映し出されていました。

    VISA広告掲示のアタテュルク

     広告モニターといえば、イスタンブール空港の横幅20メートル以上はありそうな画面にもVISAカードの広告としてアタテュルクの画像が大々的に用いられていました。政府のプロパガンダではなく、外国のクレジットカード会社の広告、それも国の玄関口である空港で建国の父の肖像がデカデカと表示されることが受け入れているところに、アタテュルクがいかにトルコ国民の心から敬愛されているかがわかります。外国資本に商業利用され、タブー視されていないところが何よりもの証拠ではないでしょうか。

    トルコの宅配便カウンター

     アタテュルクの命日を偲び、建国100周年を祝うという気持ちを持ちながらも、独裁下のような画一的な表現に陥らず、それぞれがそれぞれの立場とセンスと方法で敬意を表現しているところが面白く、見ていて飽きることがありませんでした。

    トルコの街中のアタチュルク肖像 カジュアルなケバブ屋の軒先では額装もされずにただヒラヒラとぶる下げられているだけでしたし、アウトドア用品のTHE NORTH FACEのショーウインドウには明らかにブランドロゴの白を囲う朱色っぽい赤に合わせた背景を持つ肖像画とトルコ国旗がデザインとして呼応し合うかのように掲げられていました。

    トルコのノースフェイス店頭のアタチュルク肖像

     軍人時代の有名な写真をバンクシーのように加工したイラストが描かれているバスも見ました。

    バンクシー風アタテュルク

     何の会社なのか、店なのかわからない建物の壁であっても、そこなりに描いたり、既製品を加工したりして飾っているようです。

    トルコの街中のアタチュルク肖像

     中には凝ったものもあって、額縁を製造販売している店では、アタテュルクの顔を直線だけで描いた肖像をディスプレイしていました。刺繍されたものはいくつかの店頭で見ましたが、どれも見応えがありました。

    グランドバザールでアタテュルクの磁石を買おうとしたら…

    トルコの街中のアタチュルク肖像

     イスタンブールの旧市街にはグランドバザールという巨大な市場があります。4000店以上あるという商店はグランドバザールの大きな建物の中にあるものもあれば、周辺で営業しているところもあります。

     その西側でイスタンブール大学と接している通りには古本屋が軒を連ねている一角がありました。大学のある街らしいですね。その先を歩いていくと、今度は生活雑貨を扱う店が続いていきます。観光客向けではなく、完全に地元の人々向けの飾らない店ばかり。でも、グランドバザールの横だから、僕のように旅行者も前を通るわけです。

     一軒の荒物屋の店頭で足を止めました。金属製の鍋や食器などを売る店です。そこで作ったのか、店頭には冷蔵庫にメモ用紙などを貼り付ける磁石がたくさん売られていました。ひとつ60リラ(約300円)。正式名称を知りませんが、世界中の土産物屋で売っているアレです。その店で売っているものも、ISTANBULの文字と観光名所であるアヤソフィアやブルーモスク、ガラタ塔などがデザインされています。

     僕が足を止めたのは、面白い磁石を見付けたからです。赤字に白い月と星の国旗をバックに、アタテュルクがそれを振り返っている構図の磁石です。そのデザインのポスターや旗などは、この日、街中のいたるところで眼にしました。面白かったのは、それが超ミニチュアの絵画の額の中に収まっているところです。

    額縁に入ったアタテュルク

     店から出て来た店員に訊ねると、この店では本物の額もいろいろと製造販売していて、なんとこの磁石は最小サイズの本物の額を使っていて、背面に薄い磁石を貼ったものだというのです。

     その留め金を緩め、背面を外してアタテュルクの肖像を入れて“メモ用紙固定用冷蔵庫磁石”として販売されているのでした。アイデアの面白さに感心していると、彼は店の奥から、磁石が貼られていない、つまり最小サイズの本物の額がたくさん入った袋を持って来て見せてくれました。

     もちろん、磁石は購入しました。今日が命日であること、朝の黙祷にも立ち会ったこと、あちこちに肖像が掲げられているのを眺めてきたとスマートフォンの画像を見せながら、その店員と話しました。

    「アタテュルクに興味と関心を抱いてくれて感謝する。これは、その礼だ。代金は要らない」

     そう言いながら、彼が戸棚から取り出して渡してくれたのが直径5センチほどの円形の銅板の中央部分を皿のように凹ませ、そこにアタテュルクの上半身をプリントした磁石でした。ふたつのアタテュルクの磁石が、他の街で手に入れた磁石とともに我が家の冷蔵庫に貼られています。

    バスの運転席に貼られたアタテュルク肖像

    金子浩久
    私が書きました!
    自動車ライター
    金子浩久
    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)。1961年東京都生まれ。趣味は、シーカヤックとバックカントリースキー。1台のクルマを長く乗り続けている人を訪ねるインタビュールポ「10年10万kmストーリー」がライフワーク。webと雑誌連載のほか、『レクサスのジレンマ』『ユーラシア横断1万5000キロ』ほか著書多数。構成を担当した涌井清春『クラシックカー屋一代記』(集英社新書)が好評発売中。https://www.kaneko-hirohisa.com/

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