クルマは標高何メートルまで走ることができるのか? | クルマの旅・ドライブ 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2024.03.05

    クルマは標高何メートルまで走ることができるのか?

    クルマの性能や能力は、さまざまな指標で表されます。最高速や加速などは速さを示し、燃費は経済性という、これもまたひとつの“性能”を明らかにしています。では、高度はどうでしょうか? 現実感がなさ過ぎて、ちょっとピンと来ませんね。ところが、標高5000メートルの峠をクルマで越えてみたことがあるのです。いろいろな意味で大変でした。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の金子浩久が、過去の旅写真をひもときながら、クルマでしか行けないとっておきの旅へご案内するシリーズ。今回は雲の上の峠を越えた体験をお伝えいたします。

    標高5000mの高地でエンジンはパワーを出せるのか

    アブラアカイ峠

     アルゼンチン北東部の「Paso Abra del Acay」(アブラアカイ峠)は、カファジャテとサルタという都市をつなげている国道40号(ルタ40)の最高地点にあります。(※「ルタ」はスペイン語でルートを意味する)

     ルタ40は、アルゼンチン最南端のリオ・ガジェゴスからボリビア国境まで、アルゼンチンを南北に貫いています。“南北アメリカ大陸の中で、クルマで越えることができる最も標高の高いところにある峠”という触れ込みです。

     富士山の頂上は3774メートルですが、クルマでは途中までしか行けません。ヨーロッパの高い山々を思い返してみても、傾斜が急だったり、クルマが通れるような道がなかったりして、5000メートルの峠をクルマで越えるということにまったくイメージが湧いてきません。

     クルマが通れる峠があるとはいっても、そんな高いところで果たしてエンジンがちゃんとパワーを出せて、登り切ることができるのでしょうか?

     ちょっと前までのクルマは、ガソリンを霧状にしてエンジンのシリンダー内に吸い込むために「キャブレター」という機器を組み付けて使っていました。大気圧を利用しているので、大気圧が弱まる高地では使いものになりません。

     しかし、現代のクルマはキャブレターに代わる「インジェクター」という精密な噴射ポンプを用いて、液体のガソリンを霧状にして吹き込むので、キャブレターのような心配は要らないのかもしれません。ましてや、僕がここで乗るのはディーゼルエンジンを搭載したランドローバー・ディスカバリーだったので、大丈夫でしょう。ディーゼルエンジン用のインジェクターはガソリン用よりも高圧で吹き込むからです。

    ランドローバーの「Road to the clouds」

    アブラアカイ峠

     ランドローバーが2007年9月にアルゼンチンで開催したイベント「Road to the clouds」に日本から参加しました。標高5000メートルの峠をディスカバリーで越えることがイベントのハイライトですが、そこにいたるまでのさまざまなオフロード・ドライビングもプログラムに含まれていました。

     羽田空港からルフトハンザでドイツ・フランクフルトでブエノスアイレス行きに乗り換え、アルゼンチンに着きました。日本からアルゼンチンへはアメリカ経由が一般的と思ってしまいがちですが、各航空会社の乗り継ぎ所用時間が長短まちまちなので、いちがいには決められません。

    「肉の都」ブエノスアイレスの絶品レストラン

     ブエノスアイレスは素敵なところでした。片側11車線の「7月9日通り」が中心部を貫き、その周囲には歩いて移動できる旧市街が広がっています。区画が整理され、公園や広場などもあちこちにあり、芽吹き始めた樹々や草花なども鮮やかで人々が集っています。

    ブエノスアイレスの牛肉料理

     旅行者が利用する交通や商業、宿泊、観光施設などは、ほぼヨーロッパ水準のものが用意されています。アルゼンチンならではのものとしては、やはり、肉料理ですね。アルゼンチンは、世界中に牛肉を出荷しています。僕らも、レストランやカフェ、屋台やキャンプなど、あらゆるところで堪能することができました。

     観光客向けでなく、地元の人が集まる店を、とホテルで教えてもらったレストランが素晴らしかった。調理される前のさまざまな部位の生の牛肉の塊がワゴンに乗せられてテーブルの横まで運ばれ、おすすめの調理方法や食べ方などの説明を聞きながら選ぶのです。

     前菜やメインなどは何皿お代わりしても構わないし、もちろん量も調節してくれます。大胆かつ繊細。味も言うことがありません。肉の部位と調理方法の違いで、ここまで味が違うのかと驚かされました。肉そのものの良さだけでなく、調理も優れていたのだと思います。あんなレストラン体験は他に知らず、以後もありません。

    ディスカバリーでアブラアカイ峠に挑戦

    アブラアカイ峠

     国内線でブエノスアイレスからカファジャテまで飛び、そこからディスカバリーを運転し始めました。ディスカバリーは、現行モデルのひとつ前のものの初期型。

     アジア圏からは日本から参加の僕らだけでしたが、ヨーロッパからはノルウェーとイタリアのメディアが参加してきていました。他に、ランドローバー側のスタッフたちです。

     カファジャテの町を出て、ルタ40を北上すると、すぐに広大な自然が広がっていきました。ルタ40はアンデス山脈のいくつかの峠を越えて、ボリビアとの国境まで伸びています。アブラアカイ峠は、そのうちのひとつです。

     アンデスの山々は遠くに聳えていて、手前側は背の低い植物がところどころに生えている丘陵地帯が続いていました。

     途中でルタ40を外れて、アンデス山脈の麓の山の中に入って行きました。夜は、山の中でテントを設営し、泊まる予定です。

    未舗装路「グラベル」を走るときの注意点とは

    アブラアカイ峠

     グラベルと呼ばれる、踏み固められた未舗装路を走っていく時には要注意です。事前にランドローバーのスタッフから厳命されていたのが、十分な車間距離を取ることでした。

     グラベルを走ると土ケムリが上がって、後続車の視界を妨げてしまいます。ふだん、グラベルを走り慣れていないドライバーは、前が良く見えないと不安になって、視界を確保しようとついついアクセルペダルを多めに踏んでしまうのです。

     グラベルはアスファルトと違うので、ブレーキを踏んでも効きが甘くなります。グッと踏ん張る摩擦係数が低いので、ブレーキは踏んでもタイヤは滑ってしまいます。良く見えない前方のクルマに近付き過ぎていることに気付かないままブレーキを踏んだら衝突は免れません。

     順序立てて説明してもらっている時には理解できるのですが、つねに意識しながらハンドルを握っていないと、ついつい車間を詰めてしまいそうです。

     慣れてくると、それまでの感覚を設定し直すことができました。カーブを曲がりながら、つねに土ケムリの先に先行車を認めるぐらいの間隔を保ちながら走ることです。かなり先に、前のクルマが小さく見えるくらいでちょうど良いのです。ここには、車間距離を詰める理由は何もありません。

     ふだん、クルマがたくさん走っている都市部のアスファルト路面ばかりで運転している感覚を改めなければなりません。日本の地方でも、クルマが極端に少なくなるところがありますが、スケールが違います。そういうところを走っている時に、運転のスタイルや姿勢などが相対化されるのは貴重な経験となります。

    高山病にならないために必須なこと

    アブラアカイ峠

     もうひとつ厳命されたことがありました。高山病に罹らないために、水をたくさん飲むことです。循環障害を起こさないために、ひとり1日に最低でも4リッターは飲め、と。そのために、ディスカバリーのトランクには何十本ものペットボトル入りミネラルウォーターが積まれていました。

    焚き火と野趣あふれる肉料理

    たき火

     アンデス山中でのキャンプの夕食も、また牛肉三昧のバーベキューでした。大きな牛肉の塊を火に掛けて焼いたものを次から次へと切り分けてくれます。数日前のブエノスアイレスのレストランの都会的洗練とは正反対の野趣そのものです。

    たき火で肉料理

     標高は3000メートルを越えていなかったので、まだ高山病の兆しもありません。シュラフに潜り込んで心地良く熟睡できたのも、地元産の赤ワインの酔いのせいだったのでしょう。

    アブラアカイ峠

     翌朝、早くにアブラアカイ峠に向かって出発しました。ルタ40はずっと急な上り坂が続いています。途中でディスカバリーを停めて休憩してくると、頭痛が始まってきました。頭痛だけでなく、フラフラと足元もおぼつきません。身体が高地に対応できなくなってきているのでしょう。言われた通りに水をたくさん飲んではいるのですが、まったく解消されません。

    アブラアカイ峠

     それでも、用心しながらゆっくりとディスカバリーで上がっていく。標高4000メートルを越えた辺りから、周囲の景色も大きく変わっていきました。低木ながらところどころに生えていた木々も一切見当たらなくなり、土と岩と石しか存在していません。

    高地で知ったターボチャージャーの威力

    アブラアカイ峠

     標高が上がっていくに従って、ディスカバリーにも変調が現れてきました。加速力が明らかに弱まって、上る勢いがなくなっています。計算上、標高5000メートルでは海抜0メートル地点の半分の大気圧しかないので、いくら前述したコモンレールタイプの燃料噴射システムを使って軽油を2.7リッターV6ディーゼルエンジンに吹き込んだとしても、パワー低下は免れないでしょう。

    アブラアカイ峠

     ただ、ターボチャージャーの過給能力をフルに引き出すようにすれば、パワー低下は最小限で済むことが走っているうちにわかってきました。そのためには、コーナー手前で減速する時に、なるべくエンジン回転数を落とさないようにするのでした。フットブレーキを踏んで減速するのではなく、6速オートマチックトランスミッションのマニュアルモードを使って、レバーを引いてシフトダウンしてエンジンブレーキで減速を行えば、エンジン回転数も下げずに済み、同時にターボチャージャーの回転も維持できます。

     ディーゼルエンジンの回転数を高めに保つとノイズと振動が酷くなるのは古い世代のディーゼルエンジンまでの話です。この時のディスカバリーに積まれていた2.7リッターV6ディーゼルは最新のものだったので、ノイズと振動は高まりますが、それらは低く抑えられていたのでした。

    生命の痕跡が皆無の天上の世界

    アブラアカイ峠

     たどり着いたアブラアカイ峠の標識には、標高4895メートルと記されていました。事前に許可を得ていたので、道路を外れ、山の斜面に入ってディスカバリーでゆっくりと登り始めます。

     周囲には、360度見渡す限り、生命を宿しているものが何も見当たりません。草木はおろか苔の類も生えていません。溶け掛けた雪が残っているくらいです。もちろん、人間も住んではいないので建物や小屋などの人工物なども一切ありません。標高5000メートルとは、生命と文明の痕跡がまったく認められないということを意味していました。こんなところを走るのは初めての経験です。

     黒みがかった土の上には、同じ色調で大小さまざまな大きさの石や岩などが転がっています。鋭利で、先が尖ったものが多い。タイヤをパンクさせてしまわないように、慎重にそれらを避けて、轍を探しながら上がっていきました。

     運転している分にはまだ耐えられますが、ディスカバリーから降りてしまうと、立っていられないほどフラフラします。パンクしてタイヤ交換など絶対に不可能です。

     ディスカバリーの運転席に取り付けられたガーミン製のGPSが、標高を1メートル刻みで表示していきます。5000メートルを越え、最後は5020メートルまで上がったことを確かめることができました。

    ガーミンのGPS表示で標高5000m

     こんなに高い標高まで歩いて登ったことはありませんでしたし、鉄道やロープウェイでも経験していません。クルマで走って登れたことに驚きながら、頭痛と身体のフラ付きを治めるために一刻も早く下界に降りたくなりました。

    雲の上で暮らす人々もなかなか大変なのだ

    アブラアカイ峠

     ルタ40に戻って峠を越え、北上してサンアントニオ・ロス・コブレスという小さな村に着きました。標高は、まだ3780メートル。

     ここには「Tren a las Nubes」(雲の列車)という高山列車の駅があり、鉄道ファンには良く知られているそうです。質素だけれども清潔なホステリアに泊まり、頭痛とフラ付きも治り始めてきたので、地元産の赤ワインを一杯だけ飲みました。

     翌日は、ルタ40からルタ51に進み、サルタという大きな町でディスカバリーを降りる予定です。そこから飛行機を乗り継いで、日本に帰るからです。

     ルタ40は途中でアスファルト路面に戻り、ディスカバリーが下っていくペースも早まります。

     先行するディスカバリーが頻繁に路肩に止まって、誰かが勢いよく後席から飛び降りて路肩で吐いています。

     後から聞いたら、サンアントニオ・ロス・コブレスのホステリアで働いていた地元の女性だそうです。僕らが空気が薄くなる高山病で苦しむのと同じ理屈と正反対の症状で、急速に空気が濃くなっていくことによって息苦しさから吐き出したのでした。

     人間は、その土地と風土に根差して生きているのだということが、とても良くわかりました。

     ディスカバリーも高度によってエンジンパワーが低下しましたが、ターボチャージャーによる過給量を維持することで峠を越えることができました。人間の頭痛とフラ付き、嘔吐などはどうすることもできないのでした。

    アルゼンチン高地の子どもたち

    金子浩久
    私が書きました!
    自動車ライター
    金子浩久
    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)。1961年東京都生まれ。趣味は、シーカヤックとバックカントリースキー。1台のクルマを長く乗り続けている人を訪ねるインタビュールポ「10年10万kmストーリー」がライフワーク。webと雑誌連載のほか、『レクサスのジレンマ』『ユーラシア横断1万5000キロ』ほか著書多数。構成を担当した涌井清春『クラシックカー屋一代記』(集英社新書)が好評発売中。https://www.kaneko-hirohisa.com/

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