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    2023.10.27

    乗ると自意識ゼロになれるEV「アバルト500eカブリオレ」。フィアット500eとの違いもチェック

    アバルト500e

    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)の金子浩久が、公道で「アバルト 500e カブリオレ」を試乗してきました。ルパン三世が乗っていたフィアットの名車「500」(チンクエチェント)のEV版をベースに、イタリアが誇る名門「アバルト」がよりパワフルな走りにチューンアップしたEVです。オープンカーなので、風や、鳥たちのさえずりや、木々の香りなど、自然を感じられるアウトドアなクルマ。はたして乗り味は?

    「アバルト500eカブリオレ」の特徴と価格

    ABARTH 500e

    「アバルト 500e」は、イタリアの「アバルト」から新発売されたEV(電気自動車)です。価格は630万円。カブリオレの価格は660万円です。「カブリオレ」とは、電動でキャンバストップを開閉できるオープンカーのこと。フロントに積んだモーターで前輪を駆動します。

    ABARTH 500e

     そもそも「アバルト」というのは、1940年代からレーシングカーの開発や製造、乗用車のチューニングなどを行ないながら、一時はオリジナルボディを持ったスポーツカー製造まで取り組んでいた、今でもカリスマ的な人気を持つレーシングブランドです。現在はステランティスグループに所属しています。創業者の名前がカルロ・アバルトです。

    フィアット 500e」との違い

    ABARTH 500e

     このアバルト500eは、すでに日本にも導入されているフィアットのEV「フィアット 500e」と多くを共用しながら、モーターの出力を37馬力引き上げて、独自装備やデザインを施しています。

    ABARTH 500eのエンジンルーム

     まさにアバルトの“伝統”に則って仕立て上げられた、EV時代のアバルトなのです。

    ABARTH 500e

     見た目にも、コロンッと丸味を帯びたフォルムとボディ両端に組み込まれたように見える楕円形のヘッドライトなどによってフィアット500e譲りの愛嬌を振り撒いていますが、あちこちにアバルトのシンボルマークであるサソリが散りばめられています。

    ABARTH 500e

     例えば、ボンネット上とボディサイドのエンブレム、ホイールセンターキャップ、シートのヘッドレスト、アクセルとブレーキ両ペダル、ステアリングホイールのセンターパーツと、梶芽衣子(映画「女囚さそり」)もビックリしてしまうくらい大繁殖しています。

    ABARTH 500eのアクセルペダルとブレーキペダル

     こんなに付いていたら、オーナーはかえって毒に対する免疫ができてしまいますね。

    ABARTH 500e

    速いのは発信時だけではない

    ABARTH 500e

     走り出すと、これが速い。停止状態からの加速が静かで滑らかなのはEVならではですが、そこに力強さが加わっています。驚かされるのは、発進から速いだけでなく、速さがずっと続くのです。

     例えば首都高速で、周囲のクルマの流れと調和させながら60~70km/hぐらいで走らせていて、前が空いて巡航状態から加速を重ねたとします。そこから80km/hあるいは90km/hぐらいに達するまでがアッという間で、速く感じます。フィアット500eよりも出力が37馬力高められた155馬力の最高出力は伊達ではありません。

     床下に搭載しているバッテリーの重量によって、走行中の姿勢が安定しているのも良い。これはフィアット500eと共通する美点で、EV化によるものです。エンジン車時代は、つねにいろいろな方向にヒョコヒョコと揺れ動いて落ち着きがありませんでしたから、EV化による効能のひとつですね。

    ABARTH 500e

    EV航続距離と回生ブレーキは?

    ABARTH 500e

     回生は強め。アクセルペダルを戻すと強めに減速して、フットブレーキを踏むのは停止する最後の瞬間だけで済む場合が多い。ほぼワンペダルドライブが可能で、慣れると使いやすいです。

     ワンペダルドライブも、クルマとのダイレクト感を楽しめるという点で、アバルトのキャラクターを強調する演出が成功しています。自分のアクセルワークで運転をコントロールしている気にさせてくれます。

     航続距離は294km(充電走行距離 WLTCモード)と、コンパクトなクルマのせいかやや短めです。

    ABARTH 500e

    このクルマの魅力と要改善点

    ABARTH 500e

     改善が求められるのが足元の狭さです。中央部分には何かの突起があって、さらに狭くしています。EV専用としてゼロから開発されたクルマの足元の広さとは較べものになりません。

    ABARTH 500e

     反対に、EV専用車ではなかったとしても、このクルマの最大のチャームポイントは電動キャンバストップで屋根が大きく開くことです。フルオープンではリアウインドまですべて開き、ハーフオープンでもリアウインドは立たせて、後席の上も開きます。前席の上だけ少し開くことも可能です。

    ABARTH 500e

     開けて走ると、静かに滑らかに走るというEVの長所をよりはっきりと実感することができます。大きく聞こえてきてしまうエンジン音に支配されてしまうエンジン車とは、運転中の気分が根本的に違ってくるのです。エンジン音がなく、ほぼ無音で運転できることによって、自意識が薄れていって、景色に溶け込むような錯覚を覚えました。これは非常に新鮮な感覚です。

    ABARTH 500e

     開けた屋根からエンジン音が直接に耳に入ってくると、刺激されて“自分が運転しているんだ”という気持ちが強く現れてしまいますが、その音がない分、穏やかでニュートラルで開かれた気持ちに変わりました。

    エンジンサウンドの効果は?

     その点はアバルトっぽくないと危惧されたのか、スピーカーからアバルトのエンジン音を模した効果音を流すことができます。アクセルペダルの踏み具合に応じて、音の大きさや調子も変わります。ブブブ~ッと目立つ音です。

    ABARTH 500e

     交差点を左折した時に、それが聞こえたらしい歩行者から怪訝な顔をされたほどです。これも、アバルトであることを際立たせる演出のひとつです。

     効果音は設定でオフにできます。意味があるとすれば、歩道のない狭い道で歩行者に、こちらが近付いていることを知らせることができます。その場合はブブブ~ッではなく、誰にでも気付かれやすいパルス音などの方が実際的でしょう。

    クルーズコントロール機能がいまいち

    ABARTH 500e

     しかし、最大の要改善点はACC(アダプティブ・クルーズコントロール)ではなく、単なるクルーズコントロールしか装備されていない点です。ACCは高速道路や自動車専用道で、任意の最高速度と車間距離を設定して、一定の車間距離を維持して前のクルマに追走することができる運転支援システムです。

     日本の軽自動車ですら選択可能になったACCは安全を確保し、ドライバーの負担を軽減し、省エネにも直結しています。単なるクルーズコントロールでは、速度差から前のクルマに衝突してしまうこともあり、働きには雲泥の差があります。

     フィアット500eではグレードによってACCが装着されているので、ACCのメカニズム自体は実装されていて、それをあえてアクティベイトしていないのだと考えられます。これもアバルトらしさの演出のつもりなのでしょうが、それとこれとは別です。早急なACCの装着が求められます。

    「アバルト」という物語に乗る

    ABARTH 500e

     クルマの場合の演出とは難しいものです。アバルト500eを運転して、それを強く感じました。

     アバルト500eの正体は“最高出力を上げて速くしたフィアット500e”です。でも、そう言ってしまっては身も蓋もありません。フィアット500eという元があって造られるバリエーションのひとつです。オーナーに夢を見させられることのできる演出ならば、商品力を補完できるからです。

    ABARTH 500e

     そうした観点から、アバルト500eは「アバルト」という物語をセルフサンプリングした「走るキャラクター商品」のようなものです。EVの走るキャラクター商品化は、程度の違いこそあれ、今後の一つの方向性を示していることを教わりました。

    ABARTH 500e

    アバルト 500e https://www.abarth.jp/cp/500e/

    金子浩久
    私が書きました!
    自動車ライター
    金子浩久
    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)。1961年東京都生まれ。趣味は、シーカヤックとバックカントリースキー。1台のクルマを長く乗り続けている人を訪ねるインタビュールポ「10年10万kmストーリー」がライフワーク。webと雑誌連載のほか、『レクサスのジレンマ』『ユーラシア横断1万5000キロ』ほか著書多数。構成を担当した涌井清春『クラシックカー屋一代記』(集英社新書)が好評発売中。https://www.kaneko-hirohisa.com/

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