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    2023.08.19

    0-100km/h加速3.8秒の世界最速クラスSUV「レンジローバースポーツSV」体験イベントに参加してきた

    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の金子浩久が、4.4LのV8ターボエンジンを搭載する「レンジローバースポーツSV」 の体験イベントに行ってきました。このクルマ、世界最速クラスのSUVでして、2000万円を超えるお値段もすごいんですけど、クルマのイベントとしてもほかとまったく違う斬新さでした。その模様をご紹介します。

    レンジローバースポーツSV

    レンジローバースポーツSVのイベント「Unlocked」とは

     特別なクルマの、特別なイベントに参加してきました。

     クルマは「レンジローバースポーツSV」。イベントとは、そのレンジローバースポーツSVをすでに注文した人を招待して、改めてボディカラーやアクセサリーなどの仕様を決めていく会、題して「Unlocked」(アンロックト)。

    アンロックトの会場

     会場は、東京・代々木上原の駅を降りてすぐのハウススタジオ。広告などで良く見られるような架空の部屋や家を思わせます。

    油圧連動式エアサスを最新ガジェットのように解説

    エアサスを解説する模型 

     広いリビングルームのようなところで最初に説明を受けたのが、油圧連動式6Dダイナミクスエアサスペンション。

     これまで自動車メーカーがニューモデルを発表する場合には、新しいシステムやメカニズムなどの透視図や模型などが置かれ、それらの機械工学的な優秀性がたっぷりの数式やグラフなどで説明される自動車専門学校の授業のようでした。しかし、ここにはそれらの類のものは一切ありません。インテリア雑誌に出てくるようなテーブルの上には分厚い洋書のハードカバーと数十個の栗の実大の金属製オブジェなどが代わりにあります。

     これらによって、「このサスペンションは急な加減速やコーナリングなどが行なわれても、前後左右にローリングとピッチングを起こさず、ほぼ水平な姿勢を維持する」という効能を表現しています。

    カーボンホイールの魅力は球体で紹介

    カーボンと鉄の球体

     同じように、カーボンファイバー素材が金属と比較していかに軽くて強いかを訴求するためにも、別のテーブルの上で展示が行われていました。ペレット状のカーボンファイバーが木とガラスでできたケースに納められ、金属は手に持って比較しやすいように球体に加工されています。

     それらを秤に掛けたり、手に持ったりして重さを体験してもらおうという展示です。ここにも、数式やグラフ、透視図などはありません。何も説明されなければ、モダンなオブジェだとしか思われないでしょう。もう、自動車専門学校ではなくてアートスクールです。

     レンジローバースポーツSVには、カーボンファイバー製23インチホイールやカーボンセラミックブレーキなどがオプションとして設定されていて、それらを装着すると76kgもの重量を軽減できることを表現しています。

    レンジローバースポーツSVのシート音響設定モニター

     次に体験させてもらったのは、シート。最新の触覚オーディオテクノロジーが量産車として初めて導入されたSUBPAC社製のもので、オーディオ体験とウェルネス効果が見込まれているというものでした。

    抑制的で目を引き付けるデザイン、そして薄いタイヤ

    レンジローバースポーツSV

     最後に、ガレージで実車に対面しました。エクステリアとインテリアのデザインは吟味に吟味が重ねられ、冗長や過剰であるところなどが一切ありません。

    レンジローバースポーツSVのリア側

     非常に抑制的であり、造形と素材そのものに訴求させています。一見すると素っ気ないようですが、見れば見るほど引き込まれてしまいます。いつも通り、チーフ・クリエイティブオフィサーのジェリー・マクガバンの仕事ぶりには感心させられてしまいます。

    レンジローバースポーツSV後席

     インテリアからは高級車の仕上げと素材遣いが感じられます。

    レンジローバースポーツSV荷室

     そして、285/40R23という薄いタイヤが醸し出す迫力と言ったら、スポーツカーやスーパーカーと変わりません。

    レンジローバースポーツSVタイヤホイール

     履いているのはカーボンファイバー製ホイールですから、このままでは過酷なオフロードを走るのは躊躇してしまいます。その点については、次のようにスペック資料に記されていました。

    「特定のホイールやタイヤの組み合わせ、もしくはオプションのホイールやタイヤを選択する場合は、お車の使用目的をご考慮ください。大径ホイールや扁平タイヤはスタイリングやドライビングにおいて特定の利点をもたらしますが、お車と仕様をご検討の際は、お近くのランドローバー正規ディーラーにご相談ください」

    ポルシェ/911カレラより速いレンジローバースポーツ

    レンジローバースポーツSVエンジンルーム

     レンジローバースポーツSVは最高出力635馬力を発生する排気量4.4リッターのガソリンV8ターボエンジンを搭載する、シリーズ最速の1台です。0~100km/h加速3.8秒で、最高速度は290km/hにも達するのです。

     最高出力385馬力を発生する3.0リッター自然吸気水平対向6気筒エンジンを搭載しているポルシェ/911カレラと比較すると、それらの数値が4.2秒と293km/hであることから、いかにレンジローバースポーツSVが並外れた速さを有していることがわかります。他にもオンロード性能を高めるための機能や装備などがたくさん備わっています。

    SUVの進化の頂点に立つクルマ

    レンジローバースポーツSVコクピット

     軍用車や農耕、林業のための作業車として、道なき道を走るオフロード4輪駆動車であるランドローバーが高級パーソナル版のレンジローバーを生み出し、さらにその中から特別にオンロード性能に特化して高めたのがレンジローバースポーツSVです。

     ランドローバーやジープなどに代表される、今日では「SUV」と総称されるオフロード4輪駆動車は、これまでさまざまなバリエーションを生み出し、さまざまなタイプのクルマに変容してきました。

     日本の軽自動車にも、ロールスロイスやベントレーなどの超高級車やフェラーリやランボルギーニなどのスーパーカーメーカーなどにもSUVがラインナップに揃えられている時代になりました。

     SUVとして求められるものが、乗用車として日常的に街中で便利に使える利便性から始まり、高級セダンと変わらない快適性や装備の充実などまでをも含まれるようになりました。スポーツカー顔負けのオンロード性能が求められるようになったのも、半ば当然の流れでしょう。その流れの中で考えてみれば、レンジローバースポーツSVはひとつの頂点を体現していることが理解できます。

    2000万円を超える価格にもかかわらず日本向けは即完売!

     展示されていた「レンジローバースポーツSV エディションワン」は車両価格が2474万円で、前述のカーボンファイバー製23インチホイールやカーボンセラミックブレーキなどのオプション代金3108000円が加えられ、合計27848000円(消費税込み)です。

     レンジローバースポーツSVがどんな走りっぷりを見せてくれるのか、ぜひとも運転してみたいものですが、今年度の日本向け限定台数の75台はすでに全車売約済みでした。

     つまり、実車を見ず、試乗もせずに高価なクルマを注文した人が75人もいたわけです。このイベントがメディアで紹介されてから初めてディーラーに問い合わせるようでは買えないのです。この点でも、超高級車やスーパーカーメーカーの限定生産車と同じ考え方でビジネスが展開されています。

     インテリア雑誌に出てくるようなカッコいい部屋で高級家具に腰掛けながら、ブレーキキャリパーやカーボンファイバー製ホイールの実物を眺めたり、美味しいドリンクや寿司などをいただきながらスタッフたちとゆったりと会話しながら仕様を決めていく時間は贅沢そのものの体験です。

    寿司職人と寿司

     ランドローバーに限らず、これからこうしたイベントは確実に増えていくことでしょう。なぜならば、新車を注文するという行為は体験として掛けがえのないものだからです。今までのように、ショールームで忙しなく注文書に書き込んでいったり、無味乾燥にWebの注文シートを埋めていったりするのではなく、一台に一度しかない新車注文の瞬間をより魅力的に演出してもらえるのか?

     顧客は、それを期待して注文するようになるからです。機械としてのクルマの優秀性がいかに優れていても、それを商品として売り出す体験に魅力を込めることができなければ元も子もありません。

     そのクルマを買ったら、どんな生活を送れるようになるのか?

     自動車メーカーは製品を開発すると同時に、世界観も提示しなければなりません。その世界観を顧客にわかりやすく伝えるための手段として、特別な体験の意味と意義が高まってきているからです。デジタル社会では、リアル体験が尊ばれます。

     unlockedには、変化に次ぐ変化を続ける現代のSUVのひとつの頂点とも呼べるレンジローバースポーツSVの世界観が端的に示されていました。

    金子浩久
    私が書きました!
    自動車ライター
    金子浩久
    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)。1961年東京都生まれ。趣味は、シーカヤックとバックカントリースキー。1台のクルマを長く乗り続けている人を訪ねるインタビュールポ「10年10万kmストーリー」がライフワーク。webと雑誌連載のほか、『レクサスのジレンマ』『ユーラシア横断1万5000キロ』ほか著書多数。構成を担当した涌井清春『クラシックカー屋一代記』(集英社新書)が好評発売中。https://www.kaneko-hirohisa.com/

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