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テスラを抜いて世界トップのEVメーカー「BYD」

中国の自動車メーカー、BYDが存在感を増やし続けています。
2025年5月現在の日本で販売しているのは、4種類のEV(電気自動車)だけですが、後半にはPHEV(プラグインハイブリッド車)の導入が発表済みです。
さらに、4月に突如発表されて驚かされたのが2026年の軽自動車EVの導入でした。軽自動車は日本独自の規格なので、それに合わせたクルマを造らなければなりません。
BYDは現在「シーガル」というコンパクトEVを製造販売していますが、「シーガルをモディファイして日本向け軽自動車を造るわけではない。来年に導入する軽自動車は、現在、新たに設計開発を進めているものを投入する」と、BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長は4月の上海モーターショーの際に教えてくれました。
BYDオートジャパンは日本国内での事業拡大に合わせて各部門の人材募集を始め、専用サイトをオープンしたほどです。勢いがありますね。
ちなみに、BYDの2024年の自動車部門の売上高は7771億元(約15.2兆円、約1060億ドル)で、テスラの977億ドルを抜きました。テスラが製造しているのはEVだけですが、BYDはEVに加えてPHEVも製造しているので、両方を併せた2024年の世界販売台数は427万台にも上りました。
GMやフォードを抜いて世界5位に相当します。上位4メーカーはエンジン車も製造しているので、EVとPHEVしか造っていないBYDは、「エンジン車を製造していないメーカー」としては世界トップなのです。
製造台数の割合はEVが41.5%に対してPHEVは58.5%と、PHEVの方が多いです。
「シーライオン7」の走行可能距離はAWDで575km

日本で販売する最新のクロスオーバータイプのEV「シーライオン7」に試乗しました。
シーライオン7は、すでに販売されている4ドアセダンの「シール」とプラットフォームなどを共用しますが、モーターの最大トルクを20Nm増大している他にもいくつか改良が施されています。
リアにモーターを搭載した「RWD」モデル(価格495万円)と前後に1基ずつモーターを搭載した「AWD」(価格572万円)の2モデル展開しています。走行可能距離は、「RWD」が640km、「AWD」が575km。
ボディサイズは全長4830x全幅1925x全高1620(mm)。余裕がありますが、扱いに困るほど大き過ぎることもありません。
キャンプも楽々の広い荷室!

独立したトランクを持つ、セダンの「シール」と違って、シーライオン7はテールゲイトを備えているので、積載量400リットルのトランクと車室はつながっています。フロントのボンネット内にも50リットルのトランクがあるので便利に使えるでしょう。

リアシートを倒せばトランクをより広く使うことができるので、アウトドアアクティビティでは頼りになりそうです。
試乗してみたら中高速域での遮音対策が凄かった!

両方を、一般道と自動車専用道の西湘バイパスで走らせてみました。
駐車場内や一般道などの40km/h以下ぐらいまでは、とても滑らかに走ります。力強く加速していくところもEVの特徴で、他車と変わるところがありません。

西湘バイパスに入り、速度を上げていってもその印象は変わりませんでした。60km/h以上に上げていっても、車内の静かさは一緒です。
60km/hぐらいを境にして走行中のタイヤと路面との擦過音や風切り音が目立ってしまうEVもありますが、シーライオン7は見事にシャットダウンしてみせていました。

EVはエンジンがないので低中速域では間違いなく静かなのですが、速度を上げるとタイヤノイズと風切音がエンジン音がない分よけいに目立ってきてしまう矛盾が生じてしまいます。そこを上手く対処できているEVと、あまり上手くないEVがあるのです。シーライオン7は静粛性確保に成功しています。
高級オーディオで音楽鑑賞ができる最良の静謐環境

こういうことがありました。西湘バイパスの走行車線を60km/hで走っていたら、追越車線を走ってきた大型2輪に追い越されました。その時にシーライオン7の運転席側の窓ガラスを下げて始めて大きな排気音が聞こえたのです。そして、すぐに窓ガラスを締めた途端にブォ~というエンジン排気音はピタリと聞こえなくなり、チェーンとスプロケットの歯車が当たる“カチャカチャカチャ”という金属音しか聞こえなくなりました。
見事な遮音ぶりでした。特定の周波数帯の音を車内で聞こえなくしているのに成功しています。BYDのスタッフに確かめると、「遮音対策は、シールよりも入念に施されている」とのこと。シーライオン7はシールより2年後に発売されたので、その分の進化具合が小さくないようです。
ただ、その遮音対策も万能というわけではなく、サイドミラーが発する風切音や舗装の荒れた路面でのタイヤからのノイズなどは完全に消し去れているわけではありませんでした。

しかし、運転している時間内で静かに感じる時間は短くないので、DYNAUDIO製カーオディオで音楽を良い音で楽しむことができました。今やEVの運転中こそが、最良の音楽鑑賞環境なのですね。
インターフェイスも使いやすい

シーライオン7にもSIMカードが備えられ、あらかじめSpotifyやAmazon Musicのアプリなどもインストールされているので、もはや自分のスマートフォンを繋げてAppleCarPlayやAndroidAutoなどを経由させる必要がありません。操作の手間とギガ数が省けます。

また、センター位置のモニターパネルを回転させて縦位置でも横位置でも使えるようになっているのはギミックではなく、用途別に便利に使い分けることができます。

操作系統のインターフェイスはシールとほぼ変わりませんが、造形や素材遣い、カラーリングなどのセンスがシールよりもアップデイトされているのにも好感を抱けました。
気になった点

ただ、メーターパネルもシールから変わっていないので、面積が狭く、映し出される情報の表示が小さいのは改良が望まれます。
4月の上海モーターショーに出展されていた最新の中国EVのように一見すると端から端までの大きな黒いパネル全面が表示のために使われているようなのですが、良く見るとつなぎ目があって、メーターとして機能する面積は狭いのです。
日本車でも用いられる手法ですが気付くとちょっとガッカリさせられました。センターモニターパネルはクリアなのですが、正面のメーターパネルの画質は高いとは言えません。
金子浩久の結論:静粛性が高く荷物もたっぷり積めるクロスオーバーEV

そうした、早急なアップデイトが望ましいところもありますが、基本的な走行性能、特に静粛性の高さと荷物の積載量の多さ、使いやすさなどがシーライオン7の長所です。SUVのように背が高くなく、人と荷物をたくさん乗せて長距離を移動する人にはぴったりのEVとして候補に挙がる1台です。
