2025年秋、斉藤さんはアメリカ東北部のウィスコンシン州にある「アイスエイジ・トレイル」に挑みました。その1,200マイル(1,900km)のアイスエイジ・トレイルに挑戦した様子を、斉藤さん自身によるレポートで紹介します。
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【プロハイカー・斉藤正史の「アイスエイジ・トレイル」レポート」vol.16】
■前回はこちら■
Ice Age Trail DAY18−19
アイスエイジ・トレイルのベストシーズンは?
アイスエイジ・トレイルのあるウィスコンシン州は、北海道とほぼ同じ緯度にあり(北緯42度〜47度)、川や湖などの水辺がたくさんあります。その一方で、州内には山がありません。
ウィスコンシン州周辺は、氷河に削られて形成された台地です。そのため、大小の丘はあるのですが、山はなく、アップダウンも激しくありません。
上り下りがハードなトレイルの方が挑みがいがある、歩きがいがあるという考え方もありますが、僕はそうではありません。なだらかな道のりの方が好みなので、アイスエイジ・トレイルに心地良さを感じています。
では、そんなアイスエイジ・トレイルを歩くには、いつの季節がベストなのか。
アイスエイジ・トレイルのアライアンス(事務局)のあるスタッフは、そこまで気温が高くならないから夏がいいと話していました。蚊が多いからネットを被らないと歩けない、ともいっていましたが。
別の人は、ウィスコンシン州はそれほど積雪がないので冬がいいといいます。−20度以下になるので防寒対策が必須だけど、と。
結局、僕が歩いている秋がベストなのかもしれません。前回ふれたように、トレイルのまあまあ近くでハンティングが行われていますが。
やっぱり春なのでしょうか。春は春で知られざる問題がありそうですが…。

クローズする水道とご近所騒音問題
この日の夕方、ウィスコンシン州のモンドーダムという街にある目的のキャンプ場に到着しました。モンドーダム周辺はトレイル以外のアウトドアも盛んらしく、有料・無料含めて複数のキャンプ場があります。
僕が到着したのは日が沈む少し前という時間帯でしたが、すでにキャンプ場がある公園内の施設はクローズしていて、充電のためにコンセントを使用することができませんでした。しかも、水道も止まっていたので、近くの湖で水を汲んで浄水することに。
以前に通った公園もそうでしたが、ここもひょっとしたら公園そのものがクローズしているのかもしれません。まだ温かいし、雪が降る気配すらありません。でも、ウィスコンシン州は10月になるとかなり冷え込むそうなので、凍結対策で水道を止めている可能性が考えられます(この日からちょうど10月でした)。
このときは近くの湖で水を汲めましたが、先々はどうなるか分かりません。いつもロングトレイルを歩く際は公園が大事な給水ポイントなのですが、ここから先は何か対策を考えた方がいいのかもしれません。

それにしても…。公園内にあるバーベキューグリルを20人ぐらいのグループが囲んでワイワイ楽しんでいるのですが、日が沈んでも騒ぎが収まりません。薄暗いので、大学生か、もっと年齢が上のグループか不明ですが、ずっとキャッキャッはしゃいでいます。
僕はロングトレイルを歩く際は、アルコールを口にすることはほぼありません。でも、この日はたまたま途中で出会ったハイカーからもらったビールが手元にありました。
バーベキューの騒ぎが収束する気配がまったくないので、缶ビールを一気飲みして、ふて寝しました。が、2時間ほどで目が覚めます。いつの間にかバーベキュー集団はいなくなっていましたが、ひさびさのビールと短時間睡眠でボーッとしつつ、なかなか二度寝できませんでした。

翌日にはリブレイクという街に着きます。これは計画より1日早いペースです。まだまだアイスエイジ・トレイルの序盤ですが、こうしたアドバンテージができるに越したことはありません。
本音をいえば、先を急ぐようにロングトレイルを歩くのは、僕の好みではありません。こっちで道草、あっちへ回り道しつつ、のんびりゆったり歩き、気づいたらアイスエイジ・トレイル計1,200マイル(約1,900km)を踏破していました、となるのが理想です。
でも、限られたギリギリの予算でロングトレイルに挑んでいる以上、「気まま」とか「余裕」などは二の次にせざるを得ません。せかせかしたくないのは山々ですが、どうしても計画や予定や予算といったことを自分で自分に何度も言い聞かせながら歩くしかないのです…。
そんなことを考えつつ、寝袋の中で何度も寝返りを打ちながら朝を迎えました。
ヒッチハイクは無理だというけれど…
アイスエイジ・トレイルのアライアンス(事務局)のスタッフからは「ウィスコンシン州ではヒッチハイクしようとしても絶対に車が止まらない」といわれていました。車移動が必要になった場合は、事前にアライアンスに関係しているトレイルエンジェル(ハイカーをサポートしてくれるボランティア)に連絡して迎えてきてもらった方がいい、とアドバイスを受けていたのです。
そういわれても、トレイルはスケジュール通りに歩けるわけではありません。現に、この日の僕は予定より1日前倒しになっていました。しかも、街から離れたエリアも通っているトレイルでは、電波が入らないことも少なくありません。「事前に連絡」なんて、簡単なことではないのです。もちろん、お願いできる状況であればトレイルエンジェルを頼りますが。
ということで、モンドーダムからリブレイクへの移動に際し、ヒッチハイクをしました。「絶対に車が止まらない」といわれているので期待はしていませんが、ものは試しです。
そこそこ交通量はあるものの、やはり次々通り過ぎていきます。と思ったら、10分後に「拾う神」が登場。あっさりピックアップトラックに乗車でき、難なくリブレイクの中心地から少し離れたキャンプ場まで移動できました。こういう妙な成功体験は勘違いのもとになるので、後々増長しないように気をつけないといけません。


地元の家庭で折紙教室
目的地であるキャンプ場にテントを張るなどして腰を落ち着け一息ついていると、親子連れが通りかかり、あいさつされました。小さなお子さんがいたので、折り紙で鶴をつくってプレゼントしました。
その後、早めに夕食を済ませてぼんやりしていると、外から呼ぶ声が聞こえます。テントから顔を出すと、先ほどの親子連れでした。キャンプ場のすぐそばに住んでいるそうで、夕食に招待してくださったのです。食べたばかりだけど…と思いつつ、ありがたく招待を受けることにしました。
お宅にお邪魔すると、僕を迎えにきてくれた子だけでなく、高校生の長男を筆頭に5人のお子さんがいました。僕のことを折り紙マスターか何かだと勘違いしているらしく、お子さんたちが折り方を教えてほしいとせがまれます。長男は折り紙の経験があるらしくスムーズに折れていますが、下のお子さんたちは悪戦苦闘しています。
そんな即席の折り紙教室の合間にお父さんと言葉をかわしたところ、目の前に湖がある立地が気に入ってここに住んでいるということでした。
数日前、僕はコーネルという街の近郊でアライアンス(事務局)が整備を進めている新しいトレイルを見学していました(vol.14参照)。実は、高校生の長男はその新しいトレイルの整備にボランティアで参加したことがあるという話でした。不思議な縁を感じつつ、こうした地域の皆さんのサポートによって僕らが歩くトレイルが維持管理されていることを再認識しました。
楽しくも有意義な時間を過ごし、そろそろ辞去しようとしたところ、お父さんから「明日、目的地まで車に乗せていこうか」と申し出を受けました。ありがたい!
でも、翌日の移動についてはすでにトレイルエンジェルに「事前に連絡」済みだったので、お父さんには丁重にお断りすることに。それにしても、心から幸せな時間を過ごすことができました。

トレイルエンジェル一押しの道
ということで、翌朝は事前に連絡を取っていたトレイルエンジェルのブッチャーさんが迎えにきてくれました。30分遅刻してきたけど、持参してくれたコーヒーがおいしかったし、まったく問題ありません。

ブッチャーさんから「地図には道路を歩く古いルートが載っているけど、ぜひ新しく整備したトレイルを歩いてほしい」といわれました。
先述したように、数日前に訪れたコーネルではアライアンス(事務局)が新しいトレイルの整備を進めていました。現行のルートが交通量の多い幹線道などと重なっているため、森の中に新たなトレイルをつくっているのです。
そんなコーネルに先行し、ブッチャーさんに連れられて向かっているリブレイク近郊では新しいトレイルがすでにできているとことでした。ということで、ブッチャーさんとの楽しくも短いドライブを終え、新しく切り開かれたトレイルへと歩を進めます。
ちょうど木の葉が色づき始めた時季ということもあり、とても気持ちのいい道のりです。道路を歩くより、断然いい。そうそう、自然の中のトレイルって最高なんですよと心躍らせながら、森の中を進んでいくのでした。



