2025年秋、斉藤さんはアメリカ東北部のウィスコンシン州にある「アイスエイジ・トレイル」に挑みました。その1,200マイル(1,900km)のアイスエイジ・トレイルに挑戦した様子を、斉藤さん自身によるレポートで紹介します。
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【プロハイカー・斉藤正史の「アイスエイジ・トレイル」レポート」vol.15】
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Ice Age Trail DAY17−18
心からくつろげた3連泊への感謝
アイスエイジ・トレイル17日目。朝7時に、3泊させていただいたパット&ジュリー夫妻宅を出発します。前夜、ジュリーは「早起きは苦手だから、今夜でサヨナラね」といっていたのですが、しっかり起きて見送ってくれました。
この街ではのんびり過ごしたし、トレイルを歩く際もパット&ジュリー宅にメインの荷物を置いて軽装で済みました(そうしたスタイルを「スラックパッキング」といいます)。おかげでスタートからの約2週間でたまった疲れもとれたし、ずっと続いていた足の痛みも改善したようです。
それにしても20年以上ロングトレイルを歩いてきましたが、同じ家に3連泊するなんてあまり記憶にありません。以前にも書きましたが、そもそも僕はトレイルエンジェル(ハイカーをサポートしてくれるボランティア)から歓待を受けると、妙に気後れしてしまうのです。
トレイルカルチャーにおいては、トレイルエンジェルがハイカーをもてなすのは当然のことです。だから、自宅に泊めていただいたり、食事をごちそうになったりしても、たいていのハイカーは平然としています。でも、僕は何だか申し訳ない気持ちになってしまい、歓待されるほどに気疲れしてしまうのです。
それが、パット&ジュリー宅では心からリラックスできました。おふたりは何度もハイカーを泊めているので接し慣れているし、何よりパットとジュリーの懐が深く優しい性格が大きいのかもしれません。僕のような人間でも余計な気遣いをせず、心ゆくまでくつろげ、3連泊もしてしまいましたから。
おふたりに心から感謝します!

別れる前にパッドから、アイスエイジ・トレイルのアライアンス(事務局)の20近くある支部の連絡先一覧、そしてウィスコンシン州の地図をもらいました。雨に濡れても大丈夫なようにとラミネート加工までしてくれて(細やかな心遣い!)。
僕はいつも、ネット上のロングトレイルのコミュニティで情報や助けを求めます。でも、パッドによると、アライアンス(事務局)と関係のあるトレイルエンジェルの方が安全で確実だとのこと。とてもありがたいアドバイスです。
ただし、フェイスブックのアイスエイジ・トレイルのコミュニティで、良くも悪くも僕は注目され続けていたのです。
フェイスブックでの反響への戸惑い
成田空港を出発する直前、アイスエイジ・トレイルのコミュニティに「これからスルーハイクで挑戦します」と投稿していました(VOL.5参照)。ロングトレイルを断続的に歩くことをセクションハイクというのに対し、中断期間を挟まず一気に踏破することをスルーハイクと呼びます。アイスエイジ・トレイルでも他のロングトレイルでも、セクションハイクの方が多いのが実情です。
アイスエイジ・トレイルをスルーハイクで踏破、しかも日本人ハイカーが挑戦——ということで、僕の投稿は2日ほどで700以上の「いいね」がつきました。しかも、僕が実際に歩き始めて以降も、この「スルーハイクで挑戦」投稿はシェアされ続けていました。そして、毎日のようにコメントやメッセージがあったのです。
でも、スルーハイク挑戦中は歩いている以外の時間もやることがあるし、バッテリー残量も気になります。ついコメントへの対応もおざなりになっていました。前日までいたコーネルという街では、アイスエイジ・トレイルのアライアンス(事務局)のスタッフであるビッキーにお世話になっていました。そのビッキーから、「MASAのコメントへのレスポンスって、いつもサンキューだけじゃない」と苦笑されました。
アイスエイジ・トレイルのフェイスブックのコミュニティがとびぬけて活発というわけではありません。他のロングトレイルのコミュニティも交流が盛んです。
でも、これまで僕の投稿に2ケタものコメントはありませんでした。今までだって「スルーハイクに挑戦する日本人ハイカー」だったのに。それだけに、アイスエイジ・トレイルのコミュニティで自分の投稿への反響が大きいことに、ひたすら戸惑っていたのです。

トレイルのスタッフからのアドバイス
アライアンス(事務局)のスタッフであるビッキーからは、アイスエイジ・トレイルのあるウィスコンシン州はハンティングが盛んだし、特に秋は狩猟シーズンだから十分気をつけるようにと忠告を受けました。基本的にトレイル近辺ではハンティングは行わないというルールがあるようですが、警戒は怠らないほうがいいという話です。
それって、気をつけなきゃいけないのはハイカーじゃなくてハンターじゃないのか…と思いつつ、むやみに森の中の歩き回ったりしないように注意しようと思いました。
ビッキーからは、困ったらコミュニティセンターか協会に行けば助けを得られると思う、というアドバイスも受けました。僕は毎年のようにアメリカのロングトレイルを歩いていますが、不信心なこともあって、教会に足を向けることはほぼありませんでした。
これまでは深刻に水に困りませんでしたが、この先は長々と道路を歩く区間もあります。そうなると、森の中と違って水の入手が難しくなるかもしれません。今までは考えませんでしたが、今後は教会に助けを求めることも選択肢に加えようと心に留め置きました。
それにしても、森の中を歩くとハンティングに遭遇する危険がある。かといって、森から出ると水が手に入りづらくなる。毎年ロングトレイルを歩くたびに同じことに悩まされ続けている気がしますが、ただのんびり歩ける道はないのでしょうか(それがロングトレイル…のはずなのですが)。

ハイカー同士の距離感
先述したように、アメリカのロングトレイルでスルーハイクに挑むハイカーはそれほど多くありません。余裕のあるときに断続的に歩くセクションハイクか、1日だけ楽しむデイハイクが一般的です。スルーハイカーと比べ、セクションハイカーやデイハイカーは背負っている荷物が少ないので、言葉を交わさなくても分かります。
僕が歩いているのは、(ハンティングという注意事項があるとはいえ)紅葉が見ごろを迎えつつある時季です。しかも、この日は週末でした。多くのデイハイカーとすれ違っても良さそうなのに、数組にしか出会いませんでした。
別に、アメリカでアウトドアの人気が下火になっているわけではなさそうで、実際、途中で通り過ぎたキャンプ場は多くの人で賑わっていました。トレイルが不人気なのか、よっぽどハンティングが危ないのか…。
この日はキャンプ場でテント泊でした。僕がテントを張った後で、大きな荷物のスルーハイカーらしき女性2人組がやってきました。僕の周囲にはまだ何張りもできるスペースがありましたが、彼女たちは少し離れた傾斜地にテントを張りました。僕が怪しいから警戒されている…わけではありません。
もちろん、ハイカー同士が顔を合わせたら、あいさつはします。でも、初対面でいきなりあれこれ話しかけたりするハイカーはそれほど多くいません(たまにいますが)。僕自身は人見知りな方ですが、それはともかく、多くのハイカーは自分ひとり(もしくは仲間同士)の時間を大切にしています。
なので、もし先にテントを張っているハイカーがいたら、やはり僕も距離を置きます。まして女性ハイカーが周囲を警戒するのは、当然のことです。だからといって、傾斜地にテントを張ったら寝にくいと思いますが…。

楽しい気分が一転…
アイスエイジ・トレイル18日目。この日は、このまま問題なく歩いていけばモンドーダムという街に到着できる見通しでした。そこからさらに約10〜15マイル(約15〜20km)進むと、リブレイクという街に着きます。
リブレイクへの到着予定は事前の計画より1日早いので、翌日はゼロデイ(トレイルを歩かない日)にしようか。あるいは、この順調なペースのままもっと先まで進み、後々のんびりしようか。いずれにしろ、余裕があるっていいよね…などと思いながら、ぼんやり歩いていました。
すると、遠くの方から犬の鳴き声が聞こえてきました。民家が近いのかと思ったのですが、犬の鳴き声がどんどん近づいてきます。はっきり何とはいえないけれど、嫌な予感がしたので遠ざかろうと思った途端、3、4発の銃声がとどろきました。一転して静かになったものの、数分後に再びライフルの発射音らしきものが響きました。トドメの一発、でしょうか…。

先述したように、トレイル近辺ではハンティングは行われないと聞いていました。しかも、10月はボウ・ハンティング(弓矢の狩猟)で、本当に注意すべきは11月からのガン・ハンティングという話でした。まだ10月なのに、トレイルの近くで、銃声が聞こえましたよ?
どこの世界にもルールを守らない人はいます。だからって、いきなりハイカーに銃口を向けるハンターがいるとは思えません。とはいえ、木々が生い茂る森の中で事故が全く起こらないとは断言できないし、ハイカーは気をつけようがありません。
いうまでもなく僕は日本からきたよそ者で、この森にお邪魔している立場です。アメリカは銃社会だし、ハンティングも広く親しまれています。そんなに神経質になることはないといわれたら、返す言葉はありません。でも…。
そんなことを思いながら歩いていたら、ハンティング用の見張り小屋がありました。トレイルのルートのわりと近くに、いくつも。
ついさっきまで、予定より1日早く歩けていることから足取りも軽くなっていました。それが、銃声という重い現実に直面して、楽しい気分が吹き飛んでしまいました。はぁ…。






