2025年秋、斉藤さんはアメリカ東北部のウィスコンシン州にある「アイスエイジ・トレイル」に挑みました。その1,200マイル(1,900km)のアイスエイジ・トレイルに挑戦した様子を、斉藤さん自身によるレポートで紹介します。
- Text
【プロハイカー・斉藤正史の「アイスエイジ・トレイル」レポート」vol.12】
■前回はこちら■
Ice Age Trail DAY10
宿探しとレート感覚
アイスエイジ・トレイルのスタートから9日目。宿営地にしようと地図上で目星をつけていた場所に駐車場がなく、そこから6.3マイル(約10km)ほど先の小さな街にもテント泊できそうなところはありませんでした。
もし人目につかない場所にテントを張って見つかったら、自分が謝るだけでは済みません。他のハイカー、そしてトレイルの維持管理に尽力してくださっている地域のボランティアの皆さんにも迷惑が及びます。この日はモーテルに泊まるしかない、という結論に至りました。
アイスエイジ・トレイルを歩くにあたって、事前に周辺のモーテルの宿泊料をチェックしていました。1泊100ドル超えの宿が多く、中には3〜4万ドルのホテルもありました。
3ドルのドライライスが高すぎると購入を躊躇している僕にとって、ホテルはもちろん、モーテルでも高嶺の花です。でも、テント泊できる場所がない以上、背に腹は変えられません。自分がいる場所から近いモーテルをネットで探し、1.5マイル(約2.4km)ほど歩いて向かいました。
サイトにモーテルの宿泊料が載っていなかったので、不安なまま歩を進めます。到着してみると、いかにもアメリカのモーテルといった感じの良さそうな雰囲気でした。
こんな整備の行き届いた宿は高いんだろうなと思いつつ館内に歩を進め、祈るような思いで料金表に目を向けます。すると、1泊50ドルほどでした。良かった!
ただ、僕は1ドル80円台だった15年近く前にも、パシフィック・クレスト・トレイルなどを歩いています。そして、そのときのレートの感覚が何年たっても抜けないのです。
このときも1泊50ドルってことは約4,000…違う約8,000円だ、高い!と思ってしまったのでした。いつまでも昔の楽しい思い出にすがるおじさんみたいでかっこ悪いし、レート換算のたびにがっかりするのも疲れるので、早くアップデートしなければ。

ハイカーフレンドリーな宿
宿泊料が高くないことにホッとし、料金表の横に目を転じると、bear hunting(クマ猟)の写真がたくさん貼ってありました。北米のクマというとヒグマが知られていますが、この周辺はアメリカクロクマが生息しているようです
スタートから約10日で森林の中をたくさん歩いてきましたが、クマの痕跡を見かけることはありませんでした。でも、これから日に日に寒さが増す時期なので、クマも冬眠に備えて活動的になります。bear huntingの写真を目にしながら、気をつけなくてはと気を引き締めたのでした。

宿泊料のことばかりに気を取られて書き忘れていましたが、このモーテルは「COUNTRY VIEW MOTEL」といいます。たまたまですが、ここはとてもハイカーフレンドリー(ハイカーに優しい)な宿でした。
ご夫妻で経営されているモーテルのようですが、特に奥さまが日本から来たという僕を手厚く歓迎してくださいました。先述したようにキャップをプレゼントしてくださったり、モーテルのマスコットらしきイヌと写真を撮らされたり。(疲れているので早く休みたかったのですが)チェックインからしばらくは熱烈ウェルカムな奥さまのなすがままになっていたのでした。


ようやく部屋に入ると、清潔で居心地も申し分ありません。まだ日が沈むかどうかという時間帯でしたが、ついベッドに横になってしまいました。ウトウトしかけましたが、ドアがノックされます。何かと思ってドアを開けると、70歳前後を思しきご夫婦が立っていました。
聞けば、奥さまのティマさんはアイスエイジ・トレイルのアライアンス(事務局)に携わっているとのこと。自宅近くのCOUNTRY VIEW MOTELに日本人ハイカーが宿泊していることをフェイスブックで知り、わざわざ訪ねてきてくださったのです。ティマさんとご主人は「できる限り手伝うから遠慮なくいってね」と申し出てくださいました。ハイカーフレンドリー!

サポートはありがたいけれど…
この連載のvol.5でも書きましたが、アメリカのロングトレイルはフェイスブックやSNSなどにコミュニティがあります。宿泊場所や給水ポイントなどの情報を得られたり、「トレイルエンジェル」と呼ばれるボランティアの方と知り合ったりできる、貴重な交流場所です。
ただし、アイスエイジ・トレイルは少し事情が違っていました。事前準備の段階でアライアンス(事務局)とメールでやり取りをしたところ、事務局には19の支部があってハイカーのサポートをしっかり行っているといわれ、各支部の連絡先も教わっていたのです。
とはいえ、僕はアイスエイジ・トレイルのあるウィスコンシン州の地理に詳しくありません。自分が現在いる場所がどの支部に該当するエリアなのかすぐには分からないし、いちいち調べるのも面倒です。
そこで結局、今までと同じようにフェイスブックのコミュニティに情報を求めたりしていたのでした。そうした投稿を見てアライアンスのティマさんが僕の動向を知ったので、必ずアライアンスの支部に連絡を入れる必要はないのかもしれませんが…。
ただし、フェイスブックやSNSへの投稿は慎重になった方が良さそうです。快くサポートしてくださるのはありがたい反面、トレイルのアライアンスに僕の行動が筒抜けなのはあまり気分の良いものではありません。常に誰かに見られているようで落ち行かない気分になります。別に何か良からぬことを企んでいるわけではありませんが。

事前に調べていた場所でテント泊できず、結局モーテルに泊まりました。この先も同様の事態は起こりそうです。そうであれば、今以上にアライアンスやコミュニティに頼ればいいと思うかもしれませんが、なかなかそうもいきません。
例えば、フェイスブックに「宿泊場所に困っている」と投稿すれば、自宅に受け入れてくださる方は現れると思います。でも、そうやってトレイルエンジェルの方の世話になることに、何より僕が気後れしてしまうのです。何だか申し訳ないと思ってしまうのです。まだスマホがない時代からロングトレイルを歩いてきて、散々いろいろな方の世話になってきたにもかかわらず。
でも、考えてみるとアメリカのロングトレイルでは、地域の方々と言葉をかわしたり、水や食料を施されたり、ときには自宅に泊めてもらったりといったことが、当たり前のこととして連綿と行われてきました。僕自身、こうした脈々と続いているトレイル・カルチャーを素敵だと感じているし、だからこそ歩き続けてきたわけです。
いい加減、気後れや照れを払拭し、どっぷりとトレイル・カルチャーにひたって歩こう。地域の皆さんと、がっつり交流しよう。かつてないほどウェルカムなアイスエイジ・トレイルを歩きながら、気持ちを新たにしたのでした。

※アイスエイジ・トレイル1〜5日目の様子は動画でもご覧いただけます。





