カザフスタンの大草原をメルセデス・ベンツ「E320 CDI」で走っていたら突然謎の石碑群れが - 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.06.07

    カザフスタンの大草原をメルセデス・ベンツ「E320 CDI」で走っていたら突然謎の石碑群れが

    カザフスタンの大草原をメルセデス・ベンツ「E320 CDI」で走っていたら突然謎の石碑群れが
    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)の金子浩久が、ロシアの隣国カザフスタンでの忘れられないドライブ体験を紹介します。

    雄大な大自然と、醜悪な人工物という両極端なものが、地続きで隣り合って存在しているカザフスタン。そんな風景の中を車で旅する中で、第二次世界大戦時の歴史が突然「現実」として目の前に立ち現れ、旅と歴史のダイナミズムに遭遇することになりました。

    360度草原が広がるカザフステップを走る

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     予想もしていなかったことと遭遇できるのもクルマの旅の醍醐味のひとつでしょう。カザフスタンでの出来ごとは一生忘れることができません。

     メルセデス-ベンツのメディアイベント「パリ北京2006」に参加して、E320CDIを運転してロシアのエカテリンブルクから国境を越えてカザフスタンに入りました。

     カザフスタンを訪れるのは初めてのことでしたが、ロシアと地続きなので当然のように地形や景観などはしばらくは大きく変わりません。

     ロシアでは道路の両脇に続いていた白樺林が次第に減っていき、それもなくなると何もない草原が広がっていきます。カザフステップと呼ばれる草原はゆるやかな起伏を伴いながら、見渡す限り360度広がっていて、ところどころに羊や山羊、牛などが放牧されています。実にのどかな風景です。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     ときどき、道端にバス停が現れますが、質素な造りで、日本や欧米諸国のような広告などが貼られたものとはだいぶ違います。ロードサイドのドライブインやガソリンスタンドのような商業施設などもほとんど見当たりません。それらを利用するには、一度、街や村に入る必要があるのでしょう。

     コスタナイ、アスタナと南東方向に向かって草原の中を走っていくにつれて、標高が少しずつ上がっていきます。走っていた道はアジアハイウェイ7号に相当する幹線道路です。国境からずっと同じ道を走っています。地面と同じ高さにある、アスファルト舗装が施された片側2車線です。

     交通量が多い交差点では、左折で対向車を待つための車線が増やされているところもあり、そのあたりは計画的かつ実践的です。周囲に何もなく、質素ではありますが、管理と実践は行き届いているのです。

    建築家・黒川紀章が計画した首都アスタナはSF感満点!

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     カザフステップを走り続けて到着した首都のアスタナは、それまでとはまったく異なった人工的な大都市でした。1997年に、カザフスタンの南に位置するキルギス共和国にとても近い、それまでの首都アルマトイから遷都しました。

     アスタナは国際コンペで優勝した黒川紀章の計画案に基づいて近代的な街が造られていました。つい30分前までは放牧された羊や山羊、牛などしかいない草原を走っていたのに、いきなり昔のSF映画に出てくる未来都市のような人工的な街並みの中を走っています。

     碁盤の目に区切られた街路の交差点をいくつか曲がって、真新しい近代的なホテルに投宿。じっくりと街を探索したかったところでしたが、予定が決められているのでそれはかないませんでした。

    メルセデスベンツE320CDIの極太トルクを満喫

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     翌朝、アスタナを出発してからは南南西に進み、バルハシ湖という大きな湖の畔を目指しました。すぐに、道路の両脇から人工物が何もなくなっていきます。昨日までの片側2車線ありましたが、ここではずっと対面通行の1車線が続いていきます。

     交通量は、日本の感覚からすればものすごく空いています。対向車や後続車が、何十分間も全く来ないこともありました。たまに遭遇するクルマは、トラックや地元の乗用車。E320CDIよりも高性能で速いクルマは、出てきそうもないし、実際、遭遇することもありませんでした。

    だから、この後もカザフスタンを走っている間中は、E320CDIは他のE320CDI以外のクルマに追い越されることがありませんでした。遅いクルマを追い越すことの連続です。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     アスタナを離れていくに従って、道は段々と急峻になっていきました。そういうところでは、特にE320CDIの持ち味であるディーゼルエンジンの極太トルクと7速AT「7Gトロニック」のパフォーマンスを満喫することができました。

     道路が下りか平坦ならば、急激にスロットルペダルを開けない限り、7速ないし6速のままで前のクルマを追い越すことができます。少し勢いを付けながら深めに踏み込めば、すかさずキックダウンが効くから、加速は一層と鋭くなります。

     彼方に先行車の姿を見付けたり、道路の勾配がキツかったりした時には、キックダウンを待たないで、7Gトロニックのシフトレバーを水平方向に軽く自分の方にスナップすればよいのです。

     キックダウンを用いず、ダウンシフトで1段落とせば間違いなく追い越しは完了します。まれに、勾配が急だったり、長いトレーラートラックを2台まとめて追い越したりする時に、2段落としたこともありました。いずれにしても、E320CDIの極太トルクがあっての安心感は絶大なものでした。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

    ショッキングな光景だったカラガンダの街

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     急峻な山々ではなく、広大な丘陵地帯を駆け上がっていくようにして標高を上げた末に、突然、見下ろすようにして目の前に現れたのがカラガンダの街の遠景でした。カラガンダは、アスタナとバルハシの間で唯一の大きな街です。大きな丘の斜面を駆け上がり、その頂を越えた瞬間に、目の前が開けました。

     カラガンダの街が、まるごと姿を現しました。それが、ショッキングな光景だったのです。大きな工場から突き出た何本もの高い煙突から、真っ黒な煙がモクモクと吐き出されているのです。

     街の周囲には何の建物も存在しないから、街と街の中にある工場群は、海の底で毒を吐きながらジッとしている深海魚のようでした。煙は途切れなく延々と、見えなくなるまで地平線の向こうへたなびいています。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     自然から都市(人工物)へは、混じり合いながら、なだらかに変化していくところがほとんどなはずなのに、ここでは何の前触れもなく、カザフステップの頂の向こうに、唐突に街が出現します。あの“砂漠の幻影都市”であるアメリカのラスベガスだって、道路脇の広告看板やロードサインなどが徐々に増えていきながら、視覚的な街っぽさを強めていって実際の街が出現するのです。

     それが、ここではカザフステップという雄大な大自然と醜悪な人工物という両極端なものが、何の緩衝地帯もなく文字通り地続きで隣り合って存在している様子があまりにも異様に映りました。こんな光景は見たことがありません。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

    大草原の真ん中にモニュメントが立つ理由とは

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     その先には、さらなる驚きが待っていました。ゆるやかな起伏とカーブの続く草原の中の道を快調に走っていくと、道の左側に駐車スペースが広がっていました。でも、観光用の施設やドライブインなどではなさそうです。他の国から参加してきたE320CDIも何台か停まっていました。

     入り口付近に、大きな抽象彫刻のようなモニュメントが建てられてあります。用いられている石や金属の様子からして、そんなに古そうではありません。それと向き合うようにして、少し小ぶりの石碑がずらりと並んでいます。刻まれている言葉はロシア語やカザフ語以外にも、ドイツ語やイタリア語のものもありました。

    「これらは、いったい何なのだろう?」

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     さまざまな形をした石碑に、各々のデザインが施され、間隔を置きながら整然と並んでいます。花束が供えられているものも多かったから、参られているようです。

    金子浩久 カザフスタン車の旅
    金子浩久 カザフスタン車の旅
    金子浩久 カザフスタン車の旅
    金子浩久 カザフスタン車の旅

     刻まれている言葉の内容は判然としませんが、年号から想像するに第二次大戦の時のもののようです。

     最後のひとつを眼にした途端、僕は一瞬、息が止まり、その場に立ち尽くしてしまいました。

    「平和鎮魂 日本人埋葬碑 全抑協会長 齋藤六郎」

     おそらく他の言葉のように日本語を刻むことができなかったのでしょう、印刷された金属製プレートが石碑に埋め込まれていました。ここには日本人が埋葬されているのでした。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     第2次大戦終結時に、満州や中国にいた日本人の約60万人が捕虜としてソ連当局によって連行され、ソ連各地の1200カ所の強制収容所に送り込まれました。

     日本の旧厚生省が作成した資料によると、それらは現在のロシアだけでなく、カザフスタンやキルギスタン、ウズベキスタンなど旧ソ連を構成していた国々にも、広く分布していました。

    資料によれば、カラガンダとバルハシにも、1万人以上の日本人を収容する収容所が存在していました。通過してきたロシアのエカテリンブルクにも、途中のアクモリンスクというところにもあったようです。

     酷寒と飢えと重労働によって亡くなった人は、7万人以上に上ったといいます。強制収容所についてはさまざまな文献に記録が残されていますが、僕は辺見じゅんの大宅賞受賞作品『収容所から来た遺書』を数ヶ月前に偶然に読み終えたばかりだったので、強いショックを受けました。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     ハイペースで走り続けても風景がほとんど変わらず、何もないような大草原の真ん中なのです。こんなところにまで連れて来られたのか、と。

     シベリア鉄道で何日間も日本とは反対方向に連れた来られた時の不安感や焦燥感は、いったいどれだけのものだったのでしょうか。おそろしくて、僕には想像することすらできませんでした。 

     それに較べれば、ハードスケジュールとはいえ、僕らは毎晩柔らかいベッドで眠れ、美味しい食事に事欠かず、運転中はCDで音楽まで楽しみながら、極めて快適にE320CDIでここまで移動して来れました。

     この石碑群の前で停まらなかったら、悲惨な眼にあった日本人の方々のことなど何も気に留めることなどなかったに違いありません。歴史のうねりのようなものに打ちのめされ、しばらく石碑の前から動くことができませんでした。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

    弁護士一家の家にホームステイ

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     大きなバルハシ湖の畔のバルハシ市には、暗くなってから到着しました。街の中心部では、僕らの到着を待つ地元の人々から大歓迎を受けました。市庁舎や公会堂などが集まる、ソ連時代だったらレーニン広場と呼ばれていたところにE320CDIを停め、公会堂で歓迎セレモニーが開かれました。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     ここで、僕らはホストファミリーと引き合わされました。バルハシ市には「パリ北京2006」参加者全員が宿泊できるだけのホテルが存在していないために、あらかじめ(当時の)ダイムラー・クライスラーと市当局が協議し、友好と親善のために参加者を地元の家族のもとで宿泊させることになっていたのです。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     僕のホストファミリーはメディエール君一家。25歳のメディエール君は弁護士で、会場には鉄道会社に勤めるガールフレンドと来ていました。彼の旧型BMW525iに10分ぐらい乗せられて、家に着きました。

     ご両親はパン工場を経営していて、自宅は大きく立派でした。お父さんは、トヨタ・シエナに乗っていました。彼も彼の家族も、ガールフレンドも、見た目は僕ら日本人とほとんど一緒です。

     お母さんお手製の夕食をご馳走になり、お互いに写真を見せ合ったりして、民間親善に務めました。「カプースタ」という、キャベツ、ナス、ニンジンなどをハーブやニンニクなどと一緒にマリネしたサラダや、「ジャルコエ」という牛肉とジャガイモの煮物が美味しかった。どちらも、ハーブやスパイスが効いていて西洋料理とも中華料理とも違った味です。

     彼らの関心が強かったのは、日本でのクルマの価格でした。日本車はカザフスタンでも人気でしたが、ほとんどが中古車として輸入されたものばかりで、それも安くはありませんでした。シエナは日本で売られていませんでしたが、少し小型のエスティマや新型5シリーズの価格を例に挙げて説明すると、その安さが信じられないといいますう。中古とはいえ、カザフスタンでは輸入車はまだ高級品だったのです。

    日本人抑留者が建設したバルハシの公会堂

    金子浩久 カザフスタン車の旅

     撮影してきた画像を見せながら、僕は昼に見た日本人埋葬碑に心を打たれた話をしました。メディエール君はカザフ語とドイツ語を喋り、両親は外国語を解さないので、僕が喋った英語をガールフレンドがカザフ語に訳し、返ってきたカザフ語の答えを彼女が英語で伝え直してくれます。

     アスタナの未来的な街並みや、カラガンダの工場群などについては4人とも良く知っているらしい反応でした。しかし、日本人埋葬碑についてはメディエール君もガールフレンドも初めて知ったといいます。若いからでしょう。しかし、お父さんは知っていました。

    「新しく、立派に造り直されたようですね。以前のものは、もっと小さくて簡単なものが狭いところに建てられていました」

     やはり、整備し直されたものだったようでした。それぞれの石碑には、さまざまな言葉で彫られていたのは、捕虜の国籍の違いなのかと質問を重ねました。

    「ええ。あそこには、日本人や、ドイツ人、イタリア人などだけでなく、その他の国の人の慰霊碑も建てられていますね」

     捕虜として抑留され、亡くなっていったのは日本人だけではなかったのです。

    「さっき、あなたたちと最初に会った公会堂は日本人捕虜たちによって建てられたものなのですよ。オペラハウスとしてソ連のために建てられ、今は街の公会堂になっています」

     お父さんもリアルタイムでは体験していなかったが親や年長者から聞かされて知っていたと言っていました。

     イベントとしての「パリ北京2006」は綿密に準備されていましたが、慰霊碑群については何も知らされていませんでし、主催者たちも把握していなかったでしょう。

     計画された旅の中にも、クルマで走ると、このような出会いがあるのです。本を読んで知識として知っていたことが、思ってもみなかった局面で現実として眼の前に現れてくる。そのダイナミズムこそが、クルマを運転していく旅の特長であると、また一つ確かめることができたのでした。

    金子浩久 カザフスタン車の旅

    金子 浩久さん

    自動車ライター

    日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)。1961年東京都生まれ。趣味は、シーカヤックとバックカントリースキー。1台のクルマを長く乗り続けている人を訪ねるインタビュールポ「10年10万kmストーリー」がライフワーク。webと雑誌連載のほか、『レクサスのジレンマ』『ユーラシア横断1万5000キロ』ほか著書多数。構成を担当した涌井清春『クラシックカー屋一代記』(集英社新書)が好評発売中。

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