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巨大なモーターショー会場は上から見ると四つ葉のクローバー型で2階もある

上海の国際モーターショー「オート上海2025」は、虹橋空港や新幹線駅に隣接した巨大なコンベンションセンター「国家会展中心」で開かれました。
偶然にも、着陸間近の機内から会場を見下ろすことができて、空の上から改めてその巨大さを実感しました。四つ葉のクローバーのような形をしています。

4枚の葉っぱは2層構造になっており、展示ブースは1,2階の両方にあります。日米欧と中国の自動車メーカー80社が出展していました。中国全土には200社を超える自動車メーカーが存在しているといいますから、マーケットの巨大さがわかります。

プレスデイは2日間ありましたが、とてもすべてをゆっくりと回れたとは言えません。四つ葉のクローバーの葉の4枚の葉の付け根に相当するところが会場の中心広場になっており、ここからすべての葉っぱに向かえるので効率的にできていて、その構造と位置関係は理解していても、自分の二本足でしか移動できないので会場は広大過ぎました。試しに計測してみたところ、2日間で5万歩!

助かるのは、4枚の葉っぱの間の廊下部分の1階と2階には常設の飲食店が入っていて、食事や休憩の場所探しに困らないことです。中央の部分には無料の椅子やテーブルが無数に置かれていて自由に使えるのは、中国の優しくて懐深いところです。
「4シルバーリングス」を捨てたアウディE5 Sportback

オート上海2025のアウディブースでは、「E5 Sportback」が発表されていました。

E5 Sportbackのフロントグリルにはアウディのトレードマークである4つの輪「○○○○」(4シルバーリングス)がなく、「AUDI」というロゴに置き換えられているのです。こんなアウディは見たことがありません。
これまで「e-tron」と呼ばれるEVがアウディにありましたが、E5 Sportbackはそれらとは一線を画す存在です。
全長4881x全幅1959x全高1478mmの5ドアハッチバック。後輪駆動版と4輪駆動版があり、モーター出力は220kW(299ps)から579kW(787ps)までの4種類。航続距離は770km。0-100km/h加速3.4秒。
中国の自動車メーカー上海汽車(SAIC)と共同開発した中国専用モデルですが、内外装のクオリティも高く、このまま日本で販売してもまったく違和感がありません。運転席と助手席の前には端から端まで一体型の大型ディスプレイが設けられ、インターフェイスにも新しい趣向がいくつも組み込まれています。

アウディに限らず、これまでヨーロッパの自動車メーカーは長い歴史を背景として開発を進めてきました。その積み重ねがメーカー毎の独自性を生み出し、やがては“ブランド”に昇華していきました。ブランドは一朝一夕にできるものではないので、競争相手を峻別し、信奉する顧客を惹き付け引き止めます。
アウディの4つの輪やメルセデス-ベンツの3ポインテッドスター、あるいはルイ-ヴィトンのLVマークなどはみんなその象徴となるものでした。水戸黄門の印籠のようなものです。しかし、アウディは自ら印籠を手放してしまったのです。これは一体、何を意味しているのでしょうか?

もう、4つの輪の後ろ側にある神通力を頼りにしない。あるいは、頼りにならないと判断したのでしょうか?
もっと言ってしまえば、台頭著しい中国の新興メーカーと較べると、歴史があるぶん古臭く見えてしまう。技術や製品などにも、もはや決定的な違いや差などはないと思われているならば、思い切って変えてしまった方が良いのではないか。そう考えても、まったくおかしくない状況に今の中国は来ています。
中国のNEV(新エネルギー車のこと。中国ではEVとPHEVとFCVの3種類が含まれる)の性能は上がり続け、反対に価格は下がり続けています。そのコストパフォーマンスの良さに、欧米日の既存の自動車メーカーは太刀打ちできていません。
こちらに住む中国人の友人知人たちとの会話やショールームやショッピングモールなどから受けた印象も総合すると、アウディがE5 Sportbackから4シルバーリングスを取り払った意味は決して小さくはないのでしょう。同様の動きが、これから他メーカーで起きるかもしれません。
アバター06

アバターの「06」のリアウインドにはガラスが嵌め込まれておらず、大型のカメラが組み込まれていました。後方視界を、このカメラからの映像だけで賄おうとしています。これだけ“寝た”リアウインドのこの位置にこれだけ大きなカメラを設置してしまったら、仮にガラスが嵌め込まれていたとしても邪魔になって目視しにくくなるだけでしょう。

それならば、高性能で死角も生じないカメラに任せた方が良いと判断したのだと思われます。なんとも思い切った設計です。ルームミラーも大型化し、ガラス越しと交互に見分けていた際に生じるピントのズレや死角なども発生しなくなります。

運転支援機能との連動でも大型カメラのメリットは大きいでしょう。これまでの慣習を破れるかどうかで新しいものを受け入れられるかどうかが決まります。これは運転してみたいですね
NIOのONVOとfirefly

カセット式バッテリー交換システムで有名なNIOが、「ONVO」と「firefly」というサブブランドを展開し始めていました。


NIO各車が高級&高性能とモダンデザイン路線を進めていく中にあって、ONVOはそれらをマイルドにしたファミリー指向の「L60」で価格と性能も抑えたもの。

fireflyは完全に若者狙いです。それも、「中高年が想定した若者」ではなく、若者と若者に近いセンスでまとめられているのでフレッシュで、とても魅力的でした。



コンパクトボディに荷物をたくさん載せることができて、3000か所に増えたNIOのカセット式バッテリー交換システムを2026年から利用できるのですから、中国に住んでいたら買いたいくらいでした。


存在感が薄まるヨーロッパメーカー

ベントレーは「コンチネンタルGT」のニューモデルを発表していましたが、「上海のモーターショーに出展するのは今年が最後と発表した」と上海在住の友人に教えられました。

すでに、フェラーリは2017年を最後に参加しておらず、ランボルギーニやアストンマーティンなども不参加。マクラーレンやマセラティ、ロールス・ロイスなどの出展も見ませんでした。ラグジュアリーカーメーカーの不参加はモーターショーという形態がそぐわないと判断されたのか?
それとも受け入れるマーケットつまりは顧客に何らかの変化が生じているのか?
フェラーリやランボルギーニ、アストンマーティン、マクラーレンなどの販売台数が下落を続けていて、月によっては日本のそれよりも少ないメーカーもあるくらいです。

スーパーカーや、ロールス・ロイスやベントレーなどのような超高級車専業メーカーではなく、メルセデス-ベンツやBMWなどの中国での販売台数なども下がり続けています。それについての顧客の心理を上海の友人が次のように教えてくれました。
「中国のNEVの価格が下がり続け、性能は上がり続けている。ヨーロッパの高級車はコストパフォーマンスで勝てず、これまで錦の御旗にしてきた“ブランド”だけでは打開できなくなっている。このまま行ったら、たとえメルセデス-ベンツやBMWであっても、そう遠くないうちに中国からの撤退を余儀なくされてもおかしくはない」

存在感を示そうとしている日本メーカー

トヨタは「bZ7」、日産は「N7」、ホンダは「P7」「S7」、マツダは「MZ-60」などの最新型EVをそれぞれ出展していました。トレンドに則り、メーカーの個性も伺えます。しかし、どれも大人しく、控え目な感じでした。




新たな展示ではありませんでしたが、トヨタの「bZ3X」は内外デザインがミニマルかつクリーンで、これまでのトヨタでは見られなかった新しい感覚でした。このまま日本に輸出したら売れるのではないでしょうか?


政府の規制など関係なさそうに、シャオミのSU7は大人気

モーターショー直前に中国政府が「クルマのOTA機能を見直す必要あり」と発表したのは、「シャオミのSU7の自動運転機能が機能せずに起こした事故が理由なのでは?」と取り沙汰されたりしていました。女子大生3人が乗るSU7の運転支援機能が働かずに、不幸にも3人は亡くなってしまいました。

しかし、規制と事故との因果関係は単なる噂だったのか、シャオミはどこ吹く風でブースに色違いのSU7を10台並べ、ステージに高性能版の「SU7 Ultra」を展示していました。10台もあるのに、どのクルマも人気で、つねに誰かが乗っていました。SU7は小ぶりに見え、ボディ表面の抑揚も他の中国EYよりもやや強めで、ヘッドライトも薄くないので愛らしく、街で見てもすぐに見分けがつきます。僕は好きですね。

BYDの超高速充電システム「スーパーeプラットフォーム」を体験

BYDが3月に発表した超高速充電システム「スーパーeプラットフォーム」を上海郊外の常州市にあるBYDディーラーで、体験することができました。

「スーパーeプラットフォーム」は、BYDが開発した「ガソリン車の給油速度と同等にする“油電同速”の実現」に向けて開発されたものです。
BYDでは、「1秒あたり2kmの航続距離に相当する超高速充電を行う「フラッシュ充電」を実現し、5分間で最大400km分の充電を可能とすることでEV充電に関するこれまでの課題を大幅に改善する」と謳っています。
日本のCHAdeMO規格での高速充電の多くが150kWであるのに対して、「スーパーeプラットフォーム」はなんと1000kWもの超高速を実現したという触れ込みですから、もはや次元が違う速さなのでしょう。
そのためには充電器だけ開発しても実現せず、同時にその充電を受け入れられる能力がクルマに備わっていなければなりません。そのために、まず同社の「漢L」(ハンエル)というSUVと「唐L」(タンエル)という大型セダンに最大1000V級の高電圧に対応する世界初の量産車向け「全域キロボルト高電圧アーキテクチュア」が採用されました。
そして、それら2台に搭載されるモーターは単体で最大580kWもの高出力を発揮し、最高回転数30000rpmを実現。これにより、どちらも最高速度300km/h超と発表している。超高速充電もさることながら、あまりの超高性能ぶりに何度もプレスリリースを見直してしまいました。
充電器はスーパーeプラットフォーム用に開発された特別なもの。今後、BYDは各地のディーラーを皮切りに中国全土4000か所以上への設置を予定しています。
常州市のBYDディーラーを訪れると、すでにその「漢L」と「唐L」が準備されていました。どちらも特別に用意されたものではなく、このディーラーで商品として販売される予定の2台です。
漢Lと唐Lのどちらも、BYDが中国で展開している「王朝シリーズ」のトップグレードモデル。日本で販売されている「シール」と「シーライオン7」より一回り大きく、内装なども高級感を漂わせています。
事前に、クルマに充電されている電気の量を0%に減らしておいてありました。そこから充電して、実際に何分で満充電に達することができるのか?

ひとつの充電器からは2本の充電ホースが伸びていて、1本から最大500kWが供給される。これだけでも超強力です。漢Lにも唐Lにも充電ソケットが左右にひとつずつ設けられ、2本同時に差し込めば合計1000kWで充電できるというわけです。
充電器には操作パネルのようなものはありません。操作はあらかじめスマートフォンにインストールした専用アプリから行います。

15時50分にディーラーの担当者がアプリをタップして充電が開始されました。すぐに448kWまで出力が高まっていき、551kW、677kWと急速に出力を増やしていきます。


50%を超えた辺りから絞り始められ、100%まで充電されるのに9分あまり。566km走行可能だと表示されていました。「5分間で最大400km分」からは遠い値でしたが、9分で566kmというのは日本の現状とは雲泥の差があります。
たった9分間で566kmも走れる分の充電が行われたのには驚かされてしまいました。最初は信じられませんでしたが、アプリだけでなくクルマ側のメーターパネルに表示された値も確認したので間違いありません。
昨年に、京都から東京までの500kmをボルボEX30で走ってきた時に、途中の新東名高速浜松SAで1回充電しました。その時は、30分間で270km分の充電ができました。それと較べると、BYDのスーパーeプラットフォームは約7倍もの速さで充電できました。
恐ろしいほどの速さです。今までは、テスラの「スーパーチャージャー」規格が日本のCHAdeMO規格よりも格段に速かったですが、そのテスラすら較べものにならない劇的な速さをBYDは実現してしまいました。感覚的に「ガソリン給油と変わらない」と断言しても構わないと思いました。EVの宿命的な弱点とされていた充電時間の長さを、ほぼ解決してしまったようなものです。
中国の自動車社会は欧米や日本が成し遂げていない新しい段階に、すでに入っていると言えるでしょう。
クルマも並べているファーウェイのグローバル旗艦店

中国のファーウェイ(HUAWEI、華為)のスマートフォンやタブレット端末などは日本でも売られていましたから、知っている人も多いでしょう。

上海一の目抜き通りとも呼べる南京東路と河南中路の交差点に、ファーウェイのグローバル旗艦店が建っています。東京で例えてみるならば銀座三越あたりでしょうか?
ちょうど斜め前はアップルストアです。ファーウェイの旗艦店の建物は歴史を感じさせる外観をしていますが、中は最新です。入ってすぐ右手から奥に6台のクルマが並べられていました。AITOやStellatoなどの大型高級セダンとSUVなどで、EVやPHEVなどの「NEV」(新エネルギー車)です。

スマートフォンメーカーのファーウェイのショールームになぜクルマが陳列されているのかといえば、ファーウェイは「ハーモニー」というOSを開発し、クルマと携帯端末の連携を図ってきました。近年ではそれにとどまらず、EVやPHEVのモーターやインバーター、制御コンピューターなどの基幹部分も製造し、自動車メーカーに供給し始めているのです。ファーウェイブランドでのクルマはまだありませんが、基幹部分とOSを造ってメーカーに供給し、NEVを造っています。
ショールームは3階まで続いていて、1階左手にはクルマとの仕切りを設けずに、スマートフォンやタブレット端末、スマートウオッチ、ヘッドフォンやスピーカー、イヤフォンなどの音響機器の他に、WiFiルーター、電動歯ブラシ、保温可能なマイボトルなどにいたるまでのファーウェイブランドの家電がディスプレイされ、誰でも手に取って試すことができます。
同じものが2階にも続いていました。2階に上がっていく階段も広いので、休日には多くの来場者があるのでしょう。お洒落イメージ一辺倒ではなく、あちこちに腰掛けられるさまざまなタイプの椅子やソファなどが置かれているのにも好感が持てます。
2階にはクルマは置かれていませんが、スマートフォンなどの製品は1階同様に並べられています。他にカフェやキッズコーナー、VIP用スペース、ギャラリー、相談カウンターなど。

3階は修理などを受け付けるサービスコーナーが充実しています。待合スペースが広くて快適そうなことが印象的でした。
さすが世界旗艦店だけあって、ショールームの見本のような建物であり、スペースであり、サービスでした。店員もフレンドリーで、こちらが中国語を解しない日本人だとわかるとすぐにスマートフォン内の翻訳アプリを立ち上げて応対してくれます。
接客マニュアルはあるのでしょうけれども、それに縛られず、こちらの眼を見て、人と人の会話がなされていくのが心地良かった。日本にような杓子定規な応対はありません。それは、ファーウェイに限ったことではなく、今回の上海訪問のあちこちで感じました。チェーン店のレストランの店員やホテルのベルボーイ、フロントマンなどにも共通している良いところでした。優しさと温かみがあって、急がず慌てない。

ファーウェイの世界旗艦店には、ファーウェイが通信端末だけでなく、クルマや生活家電なども含めた広い分野でビジネスを展開していこうという明確な意思が現れていました。
そこまでNEVを普及させるためには、あるいは普及したから、こうした新しいスタイルのショールームが建てられたのでしょう。NEVが増えるということは単にクルマの台数だけが増えていくのではなく、NEVに関連した新しいもの、今までなかったものが現れてくるのだと思い知らされました。

斜め向かいのアップルストアが霞んで見えてしまったほどで、上海観光の際に訪れてみることをお勧めいたします。
街を走っているクルマの半分もわからない

昨年の北京でも同じでしたが、上海の街を走っているクルマの半分ぐらいしかわかりませんでした。横断歩道を渡ろうとして赤信号を待ちながら眼の前を走るクルマを見ても、メーカー名も、モデル名も知らないクルマが半分以上です。
2019年に来た時は、その割合はもっと少なかったように憶えています。日米欧のクルマなら全部わかるし、中国メーカーのクルマも少なかったから、判別できていました。

わからないというのは、僕が認識して憶えるよりも、新しいクルマが登場してくるスピードの方が早く、数も増えてきたということです。そして、それが半分以上にも上っているというのは初めてのことです。今まで訪れたことがある国々のことを思い出してみても、初めてのことでした。それだけ勢いがあるということです。