僕はプレスデイだけでなく、ガイドツアーを行なうために一般公開日にも通ったので、来場者のリアルな反応をつかむことができました。印象的だった展示について振り返ってみたいと思います。
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SCSK

東ホールに入ってすぐ左にSCSKという聞き慣れない会社がブースを設け、いつも多くの来場者でにぎわっていました。しかし、失礼ながら初めて聞く会社名です。
でも、ショーに入場する手前の通路やゆりかもめからの導入路などに刺激的なコピーが記されたポースターがたくさん貼られていたので気になっていました。
プレスデイ2日目に公開された水色のコンセプトカーが目立っています。展示を見たり、スタッフの説明を聞くとSDVやAIのさまざまな活用方法を開発している企業だということはわかりました。コンセプトカーは直接的にSCSKが製作したものではなく、仕様に従って海外のメーカーに委託したものだそうです。これまでの日本の自動車産業が垂直分業でクルマを製造してきたのに対して、正反対の水平分業で進める際に中心的な役割を果たすことになる会社ですね。
非常に興味深い存在ですが、モビリティショーの展示だけではすべて理解することはできませんでした。でも、これをキッカケに別の機会で詳しく知りたいと思いました。
完成車メーカーのように派手なコンセプトカーや目立つ演出など、パッと見て伝わるような刺激的な展示もあれば、その一方で自動車のあり方を広く再定義するようなこちらの活動もあります。見る方も展示の説明文を読み込みながら理解に努めなければなりません。
モビリティショーの展示も、ひと口ではくくれません。姿勢の違い、取り組み方の違いが現われているのが良くわかりました。
日産 エルグランド

12年ぶりにニューモデルが発表された日産の大型ミニバン「エルグランド」です。
日本の大型ミニバンマーケットはトヨタ アルファード優勢がずっと続いているので、来場者でごった返すエルグランドの展示の前で、次のような同じつぶやきを何度も耳にしました。
「アルファードに勝てるんだろうか?」
アルファードが強力で優勢であることを誰もが認めているからでしょう。この新しく登場したエルグランドを見て良し悪しを判断するよりも先に、対アルファードが最初に気になってしまうようでした。
三菱 エレヴァンスコンセプトとトライトンのアジアクロスカントリーラリー2025優勝車

三菱自動車の「エレヴァンスコンセプト」は、モーターを4基搭載したPHEV(プラグインハイブリッド)です。スゴそうですが、近い将来の市販車に技術が反映されるかどうかはわかりませんでした。
三菱自動車のブースには、タイで行なわれたアジアクロスカントリーラリーに優勝したトライトンのラリーカーそのものも展示されていました。
近未来的なコンセプトカーの隣に、タイのジャングルで死闘を繰り広げてきたラリーカー。その対比がスゴい。

ラリーカーの脇には、優勝カップとチームの集合写真が飾ってありました。カップは、タイの伝統的な意匠が活かされている素敵なものでした。ドライバーもナビゲーターもタイの人たちです。写真を見ると、タイの人々がたくさん写っています。昔から三菱自動車はタイに工場を設立するほど、マーケットで主要な地位を占めています。
この展示からは、三菱自動車がタイに根付いている様子が伝わってきました。今回のモビリティショーでも“ニッポンのものづくり”的なことを強調するメーカーもありましたが、さまざまな国の人々と世界中で仕事を進めていく姿勢も大切だと思います。もはや日本人だけでは、クルマを造ることも売ることもできなくなりつつある時代ですから。
BMW スピードトップ

BMWの「スピードトップ」は、シューティングブレイク(2ドアながら広い荷室と動力性能クルマ。ヨーロッパでもごく限られた種類と台数が造られてきた)の限定車です。
コンセプトカーみたいに大胆でカッコいいのですが、なんと70台限定で製造して販売するとパネルに表示されていました。
外から見えない部分に既存のBMWの何かをベースとしているのかも知れませんが、これだけオリジナリティが強い造形だと、このクルマだけに設計製造されるものが少なくないはずです。
内装は、すでに完璧に造られているように見えました。リアシートがある部分は窪みになっていて、スピードトップとエンボスされたバッグが左右に一つづつ収まって、革のストラップで固定するようになっています。贅沢の極みです。パワートレインはEVでなく、V8エンジン搭載とありました。
センスはオールドマネー志向ですが、完成度は高そうに見えました。これが試作車だったとしても見事な出来栄えですが、限定で造って売ってしまうところがスゴい。超高級車の新しい姿なのかもしれません。

BMW iX3

来年に日本でも発売されるSUVタイプのEVの新型。
フロントフェイスが、今までのようなフロントグリルではないところが特徴的です。グリルに見えるような輪郭をLEDで表現しています。この逆反りフォルムなどと合わせて、BMWは“ノイエ・クラッセ”と呼んでいます。1960年代のBMW1500の意匠を表わしています。BMW1500は当時、倒産の危機にあったBMWを救うほどのヒット作となり、性能も飛び抜けていました。
iX3のシートに座るために並んでいる列が長かった。いつ来ても長い。インテリアを一新して、インターフェイスが新世代になりましたから、並んででも見たい人が多かったようです。
ガイドツアーの参加者さんたちと並んで見てみました。これは良いですね。メーターがドライバーの眼の前からなくなって、フロントガラス下の縁との間の黒い背景にいろいろな情報が表示されています。
左半分は速度や方向支持、距離などメーターで表わしていた情報を表示し、右半分はナビやインフォテインメントなどの情報を示していました。人の顔のようなものは、AIの何かのためなのかもしれません。
センターモニターパネルも大型化し、ハンドルも多角形になっています。早く乗ってみたいです。
MINI ポール・スミスエディション

来年一年間限定受注されるMINIのポール・スミスエディション。展示されていたのはEVですが、エンジン車にも設定されます。
ファッションデザイナーのポール・スミスとMINIとのコラボレーションは、台の上に飾ってあるクラシックミニから続いています。1998年からです。
EVになると、モーターとバッテリーで走りますから走行性能で他との違いを出すことが難しくなってきます。ユーザーもそこには期待しなくなるし、実際にそうなりつつある。そうなった時に、商品としての違いをどう造り出して魅力としていくか?
走りを追求するような硬派のカーマニアにはウケないでしょうけれども、もはやそうした人々は絶滅危惧種的です。クルマの価値がどこに設定され、人々が何を期待しているのかを探るのに、これは良い見本になっています。

ルーフとボディカラーがポール・スミス専用で、アイコンのストライプやインテリアなどにも個性を上手く表現しています。ロゴやキャッチフレーズなどもあちこちに付けられているのに、不思議とウザく見えません。
クルマに限らず、いろいろな商品でコラボ企画って当たり前に行なわれていますが、どこか付け焼き刃的なものやセンスが合致していないものとかもあります。それだとありがたみどころか拒否反応しか出てこない。でも、これは違う。
今回のMINIブースはポール・スミスエディションの3台しか展示されていませんが、いつ来ても大盛況でした。女性が積極的にシートに座っているし、みんな笑顔です。
この配色やアクセントなどが魅力的だということもありますが、長年続けてきたことによる信頼感というか安定感のようなものも作用しているのでしょう。
レクサス スポーツコンセプト

レクサスの「スポーツコンセプト」も多くの来場者を引き寄せていました。一見するとロングノーズショートデッキスタイルの古典的なスポーツカーのプロポーションに見えますが、フロントフェンダーが直線と曲線の両方で構成される新しい造形が採られていたり、二つの排気口らしきものがテールエンドに開いていたり、新しい試みも行なわれています。カッコいいですね。
パワートレインについての説明はありませんでしたが、二つの排気口らしきものからエンジンの存在を想起させますが、ボンネットの低さから、フロントにモーター、リアにはエンジンを搭載したPHEVかもしれません。コンセプトカーは、そうやって想像している時が楽しいですね。
レクサス LS コンセプト

レクサスの「LSコンセプト」は、リアタイヤが2つづつある6輪ミニバンのコンセプトカー。“発想”を提示するコンセプトカーですね。LSの“S”は、Spaceの“S”だそうです。歴代LSはレクサスを代表する大型セダンだったのを、これからはミニバンに交代するというメッセージなのでしょう。テレビのニュースで見る国会議員のクルマにはミニバンが増えましたから、ミニバンが大型セダンに取って代わるのかもしれません。
センチュリー

一般公開日では、センチュリーのコンセプトカーを観るために「60分待ち」や「50分待ち」のプラカードが掲げられるほどでした。しかし、ブースの開口部も大きく、壁の代わりに細い紐のようなものを上下に張っているために外から中の展示が伺いやすくなっているので、並ばずに済ませた人も多かったのではないでしょうか。
クーペタイプのコンセプトカー自体はプレスデイに近くで眺めました。詳細が明らかにされていなかったので、これも“発想としてのコンセプトカー”でしょう。これまでのセンチュリーとは違って、ショーファーカー以外も手がけるかもしれないというアドバルーンですね。

2ドアでスライドドアというのは新しいものではなく、すでにロールス・ロイスが1938年にファンタムⅢで実現し、2台製作しています。
また、1+2の変速3座席配置も今年7月にベントレーが発表した「EXP15」というコンセプトカーで採用し、発表しています。
アストンマーティン ヴァンキッシュ ヴォランテ

アストンマーティンは自らブースを出展するのではなく、南ホール3階の「日本スーパーカー協会」のブース内に間借りする形で、この「ヴァンキッシュ ヴォランテ」を1台展示していました。
ヴォランテは屋根の開くオープンモデルのことですが、屋根のある方のクーペ版に昨年、イタリアのサルディニア島で乗ってきました。素晴らし過ぎるほど素晴らしいGTでした。
835馬力を発生させるV型12気筒ツインターボエンジンで、最高速は345km/hという途方もない性能を有しています。ハイブリッドではなく、純粋の内燃機関によって達成されています。
よく、“電動化されていないエンジン車に乗れなくなるだろうから、無くなってしまう前に何か1台買っておきたい”という人がいますが、そういう人に真っ先に勧めたくなるクルマです。
車両本体価格が5600万円とありますが、オプション価格を合わせると、スゴい値段になるはずです。カーボン製のシートもスタンダードではありません。

サルディニア島で見せてもらったオプションの見本の中には、リアのスペースにぴたりと収まるバッグのセットがありました。そのバッグも、どの生地や革で造るかを選べると謳っていました。
ありとあらゆるものが選べて、注文可能なのだそうです。“自分だけの1台”を誂えたい、価格は関係ないというお金持ちに向けてあらゆる準備を怠らず、知恵を絞る。付加価値を最大化することを考え続けています。
1台を安く造って、1台でも多くの台数を売るというビジネスモデルとは正反対の発想です。それも最近始めたことではなくて、リアのバッグのオーダーは昔から続いています。ボンドカーで有名な1960年代のDB5のオーナーさんから見せてもらったことがありますが、そのDB5ではタンのシートと同じ革で造られたバッグがふたつ、ピタリと収まっていました。
ホンダ 0(ゼロ)シリーズ3台

ホンダのブースのステージ上に並べられていたのはコンセプトカーではなく、0(ゼロ)シリーズというEV3台でした。これに近いかたちで2027年にインドで製造したものを日本でも販売するEVです。
0シリーズは、“薄い、軽い、賢い”を目標として開発が行なわれています。EVは床下にバッテリーを搭載するので、重く、高くなりがちですが、それを克服しようとしています。バッテリーそのものか、積み方に革新がなければ、それは実現しませんから、それ相応の自信作なのでしょう。
ホンダに限った話ではありませんが、エンジン車を製造して実績を積み上げてきたメーカーがEVを造る場合に、それまでの経験がプラスに作用することもあれば、必ずしもそうではないこともあります。
エンジン車造りの発想と方法に捉われすぎてしまうことがあるからです。でも、ホンダがこの3台に“ゼロ”と名付けた意義は大きく、決意は重いと思います。ゼロからのスタートですから。
マツダ コンセプトカー2台

マツダのステージの上には、古典的なGTスタイルのカッコいいコンセプトカーとコンパクトなコンセプトカーが展示されていました。
小さい方は、以前の「マツダ2」の復活と捉えられなくもないですけど、大きな方はそれに相当するクルマを造らなくなって久しいから現実味が薄い。

デザインフィロソフィーを伝え、美意識の共有を図ってブランド価値を上げたいのでしょう。でも、毎回それが続くと、“ああ、やっているね。マツダらしいね”で注目されない。だから、展示の前で脚を止める人は多いけど、滞在時間が短いように見えました。
マツダの展示を見て、自動車ブランドの構築の難しさを感じました。ポール・スミスMINIが好例となっていたように、継続が力となる場合もあればマンネリ化することもあるわけです。
BYD ラッコ

シールにシーライオンにラッコなど、BYDは海の生き物から名前を付けています。海洋シリーズと呼ばれています。中国には、乗用車にもう一つ“王朝シリーズ”があります。 唐や秦などが車名となっていて、漢字のエンブレムが付いています。

キア PV5

PV5は、韓国のキアのEVのミニバンです。EVのミニバンなら、今年に日本に導入されたフォルクスワーゲンのID.BUZZに乗りました。
ID.BUZZは日本では乗用版しか売られていません。ヨーロッパでは売られている貨物版のCARGOを日本では選べないのが残念だと記事にも書きました。
しかし、このPV5には貨物版が用意されています。1列シートで、荷室は鉄板剥き出し。これなら、ユーザーが使いたいように使うことができます。

乗用版もID.BUZZと違って、オプションの荷台をトランクに置けば、畳んだ2列目シートと隙間なくフラットに繋げられるので、大人二人が車中泊できます。
バッテリーを床下に敷きながらも、前輪駆動だから床を低くできて、荷物を上げ下げしやすい。トヨタのハイエースより低いそうだから、便利に使えます。
搭載するバッテリーの容量の大小を選べるのも現実的で、価格もID.BUZZより、だいぶ安くなります。消費税込み車両本体価格が、貨物版が589~679万円、乗用版が679~769万円。
PV5にはクルマ椅子専用仕様やキャンピング仕様のコンセプトカーなども展示されていて、キアのやる気を感じました」
SHARP LDK+、AIM EVM

関連企業のコーナーに出展していた、懐かしいSHARPとEVスタートアップ企業AIMのコンセプトカーです。どちらも新しい移動手段としてのクルマです。
どちらも自動車メーカー以外の企業が企画してスマートフォンのように水平分業で造られることを前提としています。









