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ディフェンダーOCTAとは

ランドローバーのディフェンダーに「OCTA」というニューモデルが加わりました。
OCTAと文字で表すエンブレムはボディに貼られてないので他のディフェンダーと判別しにくいですが、車高は28ミリ高く、全幅は68ミリ広くなっているので一目瞭然です。
ディフェンダーは全長の違いによって90、110、130と3種類のボディがありますが、OCTAは110のみに設定されています。
OCTAの真骨頂は、オンロードとオフロード両方でのハイパフォーマンスにあります。最高出力635馬力の4.4リッターV8ツインターボエンジンに最高出力14kWのモーターを組み合わせた超高性能のMHEV(マイルドハイブリッド)です。0-100km/h加速が4.0秒という俊足。

サスペンションやブレーキも強化され、ステアリングレシオもクイックなものに変更されています。
また、特にオフロードでの速さを実現するために新たに開発された油圧連動式の「6Dダイナミクス」サスペンションが装備されているところも大きな特徴です。

ちなみに、「OCTA」とは8面体「octahedron」形状のダイヤモンドを表し、「強靭さや弾力性、人目を引く魅力、希少性や価値などを象徴しています」という意味だそうです(プレスリリースより)。
「オフロード車なのに速い」を謳う新機軸SUV

OCTAの説明を聞いていると、今までのランドローバーとの決定的な違いを感じました。ランドローバーは、SUVというカテゴリーがアメリカで生まれる遥か前からオフロード4輪駆動車専門メーカーとして生産を続けてきました。一般ユーザーよりもむしろ、農業や林業、あるいは警察や軍隊などのプロフェッショナルユースにも幅広く応える、専門性の高いクルマを造り続けてきました。
時代が移り変わるに従って、少しづつ幅広いユーザー層に向けにクルマのバリエーションも増やしてきました。そうした中でも、ランドローバーから「オフロードも速い」と謳うクルマが登場するのは初めてのことではないでしょうか?

今までランドローバーは「tread lightly」という標語とともに、オフロードへは、なるべく軽く、ゆっくりと乗り入れることを標榜してきました。
舗装路を走ってきて、未舗装の道やフィールドなどに踏み入れる時にも、「オフロードを走る時には必ず一時停止して、その後にゆっくりと慎重に走ること」と伝えられていました。ランドローバーの内外のイベントで走る時にも徹底されていました。
それは「オフロードを速く走る」こととは対照的な姿勢です。その点に於いて、OCTAにはランドローバーの新趣向が組み込まれています。

ただし、実はそこには背景があって、ランドローバーはディフェンダーOCTAで2026年のダカール・ラリー(旧パリダカ)に参戦するのです。ダカール・ラリーのような過酷なラリーレイド競技で勝利を収めるためには、“オフロードでの速さ”が必要になります。OCTAは、その使命を帯びてオフロードでの速さを備えているのです。
浅間火山のオフロードコースで走破性能をチェックした

北軽井沢の一般道と、伝説的な浅間火山レースコース(オフロード)で、OCTAに乗りました。
一般道での速さは走り出してすぐにわかりました。大きなボディを感じさせない加速。曲がりくねった登りカーブが続くアスファルト道でも、左右への揺さぶられがとても小さい。ただ速いだけではありません。
乗り心地も上質です。路面の凹凸をきれいに吸収しながら、姿勢も良く制御されていて、快適性が高い。もともとのディフェンダーの素質の高さに加えて、OCTA専用の「6Dダイナミクス」サスペンションによる効能も大きく、速いだけでない快適性や扱いやすい操縦性などを備えていることが確かめられました。

浅間火山レースコースのオフロードでも走り、インストラクターのラリードライバー氏の助手席にも乗りましたが、凹凸の大きな路面での姿勢変化が小さいのに驚かされました。

OCTAモードを選択すると、凸凹路面で1輪ないし2輪が路面から浮きそうになる状況でも、油圧式アクティブダンパーと連結されたエアスプリングの働きによって4輪が常に接地し、パワーが伝達されていきます。

ダカール・ラリーのラリーレイド競技は何日間も掛けて競われるので、一瞬の速さも重要ですが、長時間にわたるスタミナもクルマとドライバーとナビゲーターに求められます。

凸凹の激しいオフロードが続く中で、このOCTA用に開発された「6Dダイナミクス」サスペンションは大パワーを無駄なく路面に伝え、ボディの過大な揺れは抑制されて大きな働きを示すことでしょう。

レンジローバースポーツとディフェンダーD350試乗でも驚かされた圧巻の電子ミラー

OCTAとともに、最新のレンジローバースポーツとディフェンダーD350にも試乗しました。3台に共通して装備されていたカメラ式のリアビューミラーにも驚かされました。

ランドローバーでは「Clear Sight インテリアリアビューミラー」と呼んでいますが、形状と位置こそはこれまで通りの“ルームミラー”です。鏡と二重構造になっていて、レバーで切り替えてモニター画面として使います。ルーフの後端に取り付けられたカメラが撮影している映像を、リアルタイムでこの横長のモニターに映し出しているのです。
その間には映像をデジタル変換し、補正などを行うプロセッシングユニットが介在している、いわば「システム」と呼べるものです。「リアビューシステム」、「リアビジョンシステム」と呼んでも良いでしょう。
リアビューシステム自体は以前から存在して、装着されているクルマは何台も運転したことがあります。でも、どれも見え方が不自然でした。映像が鮮明な場合もあれば、不鮮明な場合もあって落差が大きかった。また、映し出されている手前のものと奥のものとのピントの合い具合などが状況によってコロコロ変わっていました。視覚的に安定していなかった。
鏡が現実をそのままに映しているのに対して、どうしてもカメラで捉えた映像が加工されて映されるので、人工的な癖のようなものが拭えませんでした。

ちょうど、今から20年ぐらい前に35ミリのフィルムカメラがデジタルカメラと入れ替わろうとしていた時の状況を思い出します。あの時も、「デジタルだから不自然」という評価が多く、僕も「デジカメは人工的な見え方をする」という感想を抱いていました。
クルマのルームミラーにリアビューカメラが用いられるようになっても、35ミリカメラの時と同じような癖があったので、僕はいつも切り替えて鏡を使っていました。

ところが、このディフェンダーOCTAと他の2台のものからはそうした不自然さは一切感じられず、それどころか鏡よりも明らかに良く見えるのです。鏡だと暗く見えてしまう日影に入ってもデジタルで補正しているのか、後続車や対向車などの輪郭がはっきりと浮かび上がっています。
ここも現代の進化したカメラやスマートフォンで撮った画像や動画などを容易に補正したり修正したりできることと似ています。

手前に映っているものと奥に映っているものも、同じ明瞭さです。日常用のカメラのf値を増やして絞り込み、被写界深度を伸ばしていった時の感覚を連想しました。上手くデジタルで補正して、確実に鏡よりも良く見えていました。まさに、デジタルの力です。
視野の広さもカメラならではです。鏡のルームミラーでは、手でユニットを動かしたりしないと見えなかった端の部分が最初から十分に見えています。また、後席に大きな人が座り、トランクに大きな荷物を積んでもルーフ後端から映しているので視界を遮ることがないのも、良く知られたカメラ方式のメリットです。

3台に装備されていたカメラ方式のリアビューシステムはアメリカのジェンテックス(GENTEX)製です。自動防眩ミラーで世界シェア9割を持つメーカーで、リアビューシステムも年間300万個以上出荷しています。
ちなみに、今年のルマン24時間レースを制したフェラーリとポルシェとキャデラックなどトップ5台にはすべてジェンテックス製のリアビューシステム(ジェンテックスではFDM、Full Display Mirrorと呼んでいます)が装備されていました。レースは実験の場なので、ルマンのトップ5台に使われたという事実は市販車への採用の説得力を増しますね。
金子浩久の結論:ランドローバーの新境地。ダカール・ラリーに要注目!

今回試乗したOCTAには2099万円という税込価格が付けられていますが、納得させられるだけの性能と内容が備わっていました。オフロードでも速く走るというランドローバーの新境地を開いています。
2026年1月3日~17日に、サウジアラビアで開催されるダカール・ラリーに注目です。
