日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)の金子浩久が、芦ノ湖周辺で「PV5 パッセンジャー スタンダード」に試乗した感想をレポートします。
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気になるグレードと気になる価格は?

昨年のジャパンモビリティショーで発表された韓国「キア」(Kia)製のEVミニバン「PV5」に箱根の芦ノ湖周辺で試乗してきました。
フロントに搭載した1基のモーターで前輪を駆動します。ボディと内外装の違いによって、2列5人乗りの乗用版「パッセンジャー」と1列2人乗りの商用版「カーゴ」がありますが、駆動系は共通です。
「パッセンジャー」は3モデルあり。「プラス」グレードで71.2kWhのロングレンジ(税込769万円)と51.5kWhのスタンダード(同709万円)。「ベーシック」グレードのスタンダード(679万円)が設定されています。
それに対して、「カーゴ」は2モデル。ロングレンジ(679万円)とスタンダード(619万円)があります。
日常の中に置くと存在感を放つ個性的なデザイン
PV5には、モビリティショーと8月末のメディア説明会で展示されたものに触れていました。説明会はキアPBVジャパンが入居している内幸町の立派なビルの敷地内。どちらも非日常的な空間で、ナンバーの付いた他のクルマもいません。
しかし、今回のメディア試乗会が行なわれた箱根のホテル駐車場には宿泊客やホテル関係者などのクルマも並んでいました。日常そのものの光景の中で見るPV5の個性的な様子といったらありませんでした。キャビン部分を全周にわたって黒くして、その中でウインドが大きく取られています。

Aピラーの延長から内側に屈曲したデイタイムランニングライトは細くても目立っています。その下のヘッドライトは小さく、あまり目立ちません。他の、どのミニバンにも似ておらず、日常の中にあるととても際立っていました。
運転席に座ってみると、ミニマルな意匠のインテリアが新鮮です。樹脂製パーツも飾り立てることなく、シンプルで見やすく使いやすいという樹脂製であることの長所を活かして用いられています。
機能は十分以上に備わっており、なおかつ物理スイッチもたくさん残されています。変にこだわったり、“デザイン”されていないので、操作しやすく清々しい。

「パッセンジャー」と「カーゴ」の乗り味の違い
このモデルでは前後もリクラインもシートが手動式でしたが、「コンフォートパッケージ」を選べばベンチレーションやランバーサポートなどとともに前席の電動シートが装備されます。
走り出すと、EVなので静かで滑らかに力強く加速していきます。最高出力89kW/3600-8000rpm、最大トルク250Nm/3400rpmのモーター1基のパフォーマンスに不足はありません。速度を上げていった場合のロードノイズや風切音などが目立つこともありませんでした。
カーゴはタイヤとサスペンションセッティングが異なるので、1名+空荷で走らせるとややゴツゴツとした反応がハンドルとシートから伝わってきました。
回生ブレーキは4段階に強弱をパドルで切り替えられる上に、オートモードもあります。ほとんどの場合でオートモードで走った方が快適かつ便利でした。

ミニバンだけど低床で1歩で乗り降りできる長所
最大の長所が、2列目以降の床が低いことです。2列目のスライドドアを開けた乗降口の床面地上高が399ミリしかありません。地面から1歩だけ踏み上がれば乗車できます。新しい日産エルグランドはステップからさらにもう1歩高い床に踏み上がらなければならず、車内に入るのに合計2歩を要していました。

PV5はミニバンの構造的欠点である「高く奥まった位置にあるシート」を解決しています。ステップがないことでそのぶんシートも奥まっておらず、乗り降りもしやすい。モーターやインバーターなどの主要パーツを前部に集中して配置し、バッテリーを薄く広く車体中央部分に敷き詰めて前輪駆動としていることで構造的欠点を克服し、乗り降りしやすい後席シートを実現しています。
ただし、モーターなどの他にシート下のストレージスペースも設けてあるので、運転席と助手席は後席よりも高い位置に座らなければなりません。ステップの滑り止めも、より念入りにした方が良いでしょう。

アウトドア派にとって使い勝手がいい荷室
ほぼフラットで広い荷室も魅力的です。

PV5はキア独自の「PBV」コンセプトで造られており、同じグループであるヒョンデのミニバンとは別物です。しかし、PV5のウインカーを倒すと、そちら側の後方視界をメーターパネルに映し出す機能はアイオニック5やインスターなどから転用されているのは好ましいです。

カーゴは荷物を積み込むことに特化して、1列2シートしかありません。後席は前席シート後ろから壁によって隔離され、窓すらありません。左右ドアミラーの他に走行中の後方視界を確保するためにセンターモニターディスプレイにカメラ映像を映し出しています。前後方や側方などの映像は範囲や角度などの違いによってパネルやボタンなどによってさまざまに切り替えられます。

PV5からは、ブランドやマーケティングなどを頼りすぎず、機能と使いやすさ、乗りやすさなどの追求に徹しようという商品づくりの姿勢が伺えてきました。ミニバンを“ステイタスシンボル”などではなく“道具”として開発しています。
PV5はキャンピングカーのベース車としても素質は高いようで、3社のキャンピングカーコンストラクターによるものも展示されていました。機能的なユーザーインターフェイスとインテリアデザイン、エンジン車のような騒音も排ガスも排出しないEVであること、広い荷室などはアウトドアアクティビティーにぴったりです。

日産エルグランドやトヨタ アルファード/ヴェルファイアに代表される従来型のミニバンなどとはパワートレインの違い以上に対照的でした。
キアジャパンはPV5の約6割を「カーゴ」でB to Bによって販売する予定だそうです。双日という大手商社が母体であることで、輸送業や配送業企業にPV5を売り込む計画を有しています。EVミニバンは商用ユースにも親和性が高いので、今後の展開に注目していきたいですね。




