いち早く5月にドイツ・ミュンヘン近郊でも試乗した日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)の金子浩久が、あらためて日本の一般道と高速を運転して気づいたことをレポートします。
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航続距離は国内のEVで最長の906km!

BMWの新世代EV「iX3」の日本仕様が導入されたので、さっそく都内の一般道と首都高速道路で試乗してきました。EU仕様には今年5月にドイツのミュンヘン近郊で試乗しています。
iX3は、前後に1基ずつのモーターを搭載し、4輪を駆動します。BMWとしては第6世代のEVシステムで、800Vのアーキテクチュアや新型の高電圧バッテリーを採用。電池容量は109.1kWhで、日本仕様の航続距離は、835km(「iX3 50 xDrive」は906km)。現在日本で入手できるEVでは最長となります。
充電能力にも優れており、最大で320kWの超急速充電に対応し、バッテリー残量10%から80%までの充電を26分で完了します。最近の急速充電器の能力向上も著しいですが、それを受け入れるクルマの側の充電能力も進化を続けていて、iX3は第一級の性能を有しています。
BMWにとって重みのある「ノイエクラッセ」というフレーズ

BMWでは、iX3のことを「ノイエクラッセ第1弾」と謳っています。ノイエクラッセはドイツ語で、英語なら“ニュークラス”となります。1950年代から60年代にかけて経営危機に陥っていた当時のBMWを救った「1500」(1961年)がノイエクラッセと呼ばれていたことにあやかって、iX3もそう呼ばれています。
革新的な設計が施された1500は大ヒットして1600や1800、2000に発展。日本でも人気だった2002にも派生されていきました。さらには、3シリーズや5シリーズなどに進展し、プレミアムカーメーカーとしての基盤を作っていきます。文字通り、ノイエクラッセとして送り出された1500はBMWを生き返らせ、新しい姿に生まれ変わらせたのでした。
だから、ノイエクラッセというキャッチフレーズはBMWにとって特別な意味を持っています。電動化や自動化などの促進によって変革を迫られている(BMWに限らない)現代の自動車メーカーにとって、かつて1500がBMWを生まれ代わらせたように21世紀のノイエクラッセが生み出されることが切望されているのです。
モビリティショーでひと目見たさに人だかりができた車内
iX3は、昨年11月のジャパンモビリティショーに出展され、ひと目でも車内を覗こうという来場者たちが運転席側と助手席側の両方に長い列を作っていました。筆者はほぼ毎日ショーに通っていましたが、列は一般公開日の方が長かった。
みんなが並んでまでも見たかったのは、新しいインフォテインメントシステムでした。

センターモニターパネルが大型化され、これまでステアリングホイールの後ろにあったメーター群が廃されて、フロントガラスの下側に左右に広げて設置されました。これを「パノラミックビジョン」と呼んでいます。
実際にハンドルを握って運転してみると、見え方はクリアで今までにないものでした。 速度やバッテリー残量、シフトポジションなど運転中に必要な情報は眼の前に表示され、助手席の前に表示される情報はセンターパネル内にあるものの中から選んで置き換えることができます。

そうした見えやすさよりも利点として強く感じることができたのが、運転中の上下の視点の移動量が少なくて済んでいることでした。
これはある程度の距離を走り続けていると明確に感じ取れてくる長所でした。こんなクルマは今まで存在していなかったので、まったく新しい運転体験です。まさに、ノイエクラッセがもたらすノイエな体験です。

ミュンヘンでは、iX3を受け取ってすぐ近くの乗り口からアウトバーンに乗り、郊外でも渋滞に遭うこともなかったので、滞りなく往復できました。
しかし、今回は都内で走った一般道と首都高速はどこも渋滞でした。そうした状況下で顕著に感じられたのが、回生ブレーキの「アダプティブ」モードの優秀性でした。
前車との車間距離とその増減速度に応じて、回生ブレーキの強弱が自動的かつ無段階に行なわれていきます。前にクルマが走っていなければ、回生量は最小なのでスーッと抵抗感なく進んでいき、車間距離がゆっくりと縮まっていけばそれに合わせてゆっくりと回生も強くなっていきます。
反対に、前車が強めのブレーキを踏んだり、横から入り込まれたりして車間距離が急激に縮まったりすると、それを感知してこちらの回生も一気にギュッと強まります。

停止寸前の緻密に制御された丁寧なブレーキング
BMWのこれまでのEVからの進化具合を感じられたのが、回生ブレーキの制御の洗練ぶりでした。特に停止寸前の制御の緻密さは自分のブレーキングよりも丁寧で繊細なくらいでした。人間のブレーキングだと停止する寸前のどのタイミングで踏む力を弱める微細な操作が毎度要求されます。
カックンと前後に揺すられないようにするには丁寧にペダルから力を抜いていかなければならなりません。渋滞中などでは、それを連続して繰り返すことになるので負担は大きく、雑になりがちです。
しかし、iX3のアダプティブ回生ブレーキはさまざまな状況に応じて、変わらずに姿勢変化を最小にして停止させます。今まで、エンジン車の時代からも「丁寧な運転」の見本の一つとして停止寸前のブレーキコントロールが挙げられていましたが、これからはiX3がもっと上手に代行してくれるようになりました。
ミュンヘンで驚かされた革新的なサイドミラー目視による車線変更は、首都高速では試せませんでした。首都高速は慢性的な渋滞だったので、ADAS(先進運転支援システム)をアクティベイトさせていてもiX3が車線変更アシストを提案してくる状況にならなかったためです。

それでも、目的地設定済みのナビに従って首都高速の分岐や降り口などへの誘導を促すハンドルの瞬間的な回転による注意喚起は複数回確認することができました。
キャンセルするので違う方向へのウインカーで意思表示をすると、すぐにそれを承諾した旨の表示がディスプレイに現われました。
その他の状況下の加速の滑らかさや静粛性の高さなどはミュンヘンでの第一印象と変わりませんでした。
東京で新たに感心させられたのは、前述のアダプティブモードの回生による減速シーンでの上質なブレーキングでした。
これまで(熟練した)ドライバーが行なっていた上手な操縦を、自動化と電動化によってクルマ側が担えるようになりました。そして、その領域は少しずつ広がっていっています。iX3はその最前衛に立っています。クルマに任せられるものがどんどん増えていく時代になったのです。
完成度の高いiX3で強いて弱点を挙げるなら
充電能力と走行性能に優れ、自動化に於いても他車から完全に抜きん出ています。アダプティブ回生を用いた安定性と快適性の向上も大きな長所の一つです。ちょっと弱点が見当たらないほどの完成度の高さですが、強いて挙げるとすればエクステリアデザインの退屈さでしょうか。

フロントマスクを見なければ、全体のフォルムは良くあるアーバンタイプSUVでしかありません。内容が非常に先進的で充実しているのに、それが造形で表現されていません。かつてのi3の鮮やかさの記憶も新たなうちなのに、実にもったいない。まあ、でも運転中は見えませんからね。





