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    2025.12.14

    カリフォルニアのビーチが消滅!? 衝撃の研究報告の現実性を実例から考察してみた

    カリフォルニアのビーチが消滅!? 衝撃の研究報告の現実性を実例から考察してみた
    カリフォルニアと聞いて真っ先に思い浮かぶのは、やはり太陽の光を受けて輝く砂浜のビーチではないでしょうか。サーファーが波を追いかけ、子どもたちが歓声を上げ、ランナーが海風を浴びながら走っていく。そんな光景はカリフォルニアらしさの象徴と言えるかもしれません。”Life is a Beach”(「人生はビーチだ」)と書かれたTシャツは昔も今も人気があります。

    ところが、そのビーチの多くが今世紀末までに姿を消すかもしれない、というショッキングな調査報告(*1)が発表されました。研究母体のサーフライダー・ファウンデーション(Surfrider Foundation)という環境保護団体が発表した2025年版の報告書では、自然環境の変化が現在のペースで進むと、2100年までにカリフォルニア州の砂浜のおよそ70%が失われる可能性があると警鐘を鳴らしています。

    もちろん、これは最悪のシナリオに近い予測とはいえ、もはや「荒唐無稽なあり得ない話」とも思えなくなっています。私の身近でもそんな兆候をいくつか挙げることができるからです。
    Text

    オリンピックのサーフィン競技開催地のビーチも消滅?

    サンクレメンテ市トレッスルズ。

    報告書が示す「とくに危機的状況にある場所」には、以前本サイトでも紹介したカリフォルニア屈指のサーフポイント、トレッスルズ(Trestles)も含まれています。2028年L.Aオリンピックのサーフィン競技がここで開催されることになっています。

    2028年ロサンゼルスオリンピックのサーフィン開催地【サンクレメンテ市トレッスルズ】ってどんなとこ?

    ただでさえトレッスルズの砂浜はさほど広くはありません。その背後には鉄道の線路が走り、地名の基になった巨大な高架橋が建てられています。それらの構造物が砂の移動を妨げていることが以前より指摘されています。

    本来、砂浜は季節や天候によって形を変えながら、長期的には「後退と再生」を繰り返す自然の存在です。ところが、構造物によって砂浜が後退するスペースを失うと、結果として押しつぶされるように消えていきます。「コースタル・スクイーズ(海岸の締めつけ)」と呼ばれる現象です。

    砂浜が減少すれば、地形も変わります。波の形状にも影響が出てくるでしょう。そもそも「安定した波」が、オリンピック開催地にトレッスルズが選出された大きな理由でした。2028年までは大丈夫かもしれませんが、その後の長期的な持続可能性については大きな危機が迫っています。

    海岸線を走る鉄道が長期運休に追い込まれたわけ

    パシフィック・サーフライナー(トレッスルズ付近)。

    砂浜の後退は自然景観だけの問題ではありません。社会インフラに深刻な影響が生じるケースもあります。

    南カリフォルニアの海岸線に沿って、サン・ルイズ・オビスポからサンディエゴまでを繋ぐ、人気の長距離鉄道『パシフィック・サーフライナー』がここ数年、線路周辺の地盤不安定化によって 長期運休を何度も余儀なくされてきました。

    気分は最高!南カリフォルニアの海岸線を走る、自転車と鉄道の“少しだけしんどい”旅

    直近の事例では、2025年4月28日から6月7日までの約6週間、パシフィック・サーフライナーはトレッスルズ付近の区間で運行を停止し、バスによる振替輸送を行いました。

    原因は、線路を支える崖や砂浜の浸食による地盤の不安定化です。鉄道はビーチのすぐ背後を走っています。だからこそ観光価値が高いのですが、その反面、海面上昇や高潮の影響を受けやすい位置にあります。崖が崩れて線路が「海に落ちそうだ」とまで報じられた区間もあり、修復工事が行われました。

    旅行者や私のようなレジャー客にとっては単に不便な話で済みますが、地域住民にとっては生活の足を奪われることに直結し、物流か観光産業にも大きな影響を及ぼす、まことに由々しき問題です。

    危機にさらされる「アウトドア」文化

    「サーフシティUSA」の別名を持つハンティントンビーチ。

    もしビーチから砂浜が消えてしまったらどうなるでしょうか。サーファーが姿を消し、ビーチバレーボールは行われなくなり、小さな子どもを連れた海水浴客もいなくなります。観光産業は大きな打撃を受けるでしょう。それ以上に、ある種のライフスタイルそのものが失われてしまいます。

    砂浜があることで、海辺はだれにとってもアクセスしやすいオープンな場所になります。そこで何をするかは人それぞれです。しかし、砂浜が後退すると、そこに高い護岸壁が築かれ、人と海との距離が遠くなってしまいます。いわば「自由に海辺で遊ぶ権利」が失われるのです。それだけではなく、ビーチに根付いた文化や社会的価値観に到るまで、人々に与える影響の大きさは計り知れません。

    砂浜を守るための取り組み

    とはいえ、悲観するばかりでは何事も前に進みません。サーフライダー・ファウンデーションの報告書は危機的な現状を示す一方で、砂浜を守るための対策にも言及しています。自治体や地域コミュニティが積極的に以下のような保全策を取れば、砂浜を守れる可能性があるとも述べています。

    • 海岸線に新たな構造物をむやみに建設しない
    • 湿地帯の再生や自然の堆積システムを活かす
    • “リビング・ショアライン(自然を使った護岸)”の導入
    • 海岸侵食のデータを継続的に監視する

    言うは易し、行うは難し、かもしれません。それでも、こうした取り組みを実際に行い、ある程度の効果を挙げている例も報告されています。

    たとえば、ロサンゼルスの北側にあるベンチュラ市は海岸沿いの自転車道や駐車場を内陸側に移設し、その跡地に砂丘や在来植物を復元しました。これにより、海岸が自然の緩衝帯を取り戻し、波の力に対して強くなっているとのことです。

    四方を海に囲まれ、そして人工の護岸が多い日本でも参考になる事例ではないでしょうか。

    自然環境は私たちが思っている以上のスピードで変化します。今ある景色も何年後かには消えてしまうかもしれません。 「砂浜があるのが当たり前」ではなく、「守らなければ消えてしまう」と意識を変える必要がありそうです。子どもたちの世代にせめて今あるだけの自然を残すためにも。

    サンディエゴ湾に浮かぶリゾート地コロナドで行われたジュニア・ライフガードの州大会。

    参考文献:
    *1. Surfrider Foundation “2025 State of the Beach Report”
    https://surfrider.org/hubfs/SOTB-Report-2025.pdf

    角谷剛さん

    米国在住ライター(海外書き人クラブ)

    日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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