探検家・関野吉晴が語る「人類にとって物を接合する最初の技術」とは? | アウトドア・外遊び 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

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2026.04.30

探検家・関野吉晴が語る「人類にとって物を接合する最初の技術」とは?

探検家・関野吉晴が語る「人類にとって物を接合する最初の技術」とは?
関野吉晴さんの新たな探検のテーマは、「ナイフも持たずに徒手空拳で日本の森で生きていけるか?」。本誌人気連載の第3回!
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グレートジャーニー 最新章〈旧石器時代へ、時を辿る旅〉

03 縛る。そのための紐を綯う

地球上のあらゆる土地を歩いてきた探検家・関野吉晴。次の旅の舞台に選んだのは旧石器時代。その時代さながらの野生世界に身を置くことで、地球における人類史、そして生命史までをも繙いていくタイムスリップの旅、グレートジャーニー最新章が始まった。

関野吉晴 (せきの・よしはる)

1949年東京都生まれ。探検家、医師、武蔵野美術大学名誉教授(文化人類学)。一橋大学在学中に探検部を創設し、アマゾン川源流などでの長期滞在、南米最南端からアフリカまで人類の足跡を遡行する「グレートジャーニー」、日本列島にやってきた人々のルートを辿る「新グレートジャーニー」などの探検を行なう。

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ペルー・アマゾンのマチゲンガ族との付き合いは、私のその後の探検歴だけでなく、生き方にまで影響し続けている。
 
彼らの存在を知ったのは1971年。大学を休学して1年間アマゾンを旅したときだ。ペルー・アマゾンに残された地図の空白地帯の中、パンチャゴーヤと呼ばれる外部の人間を寄せ付けない地域に、よそ者とはコンタクトのない先住民マチゲンガが暮らしていると聞いた。未だ地図のない地域があり、そこに文明と隔絶された先住民がいると聞いて、熱くなった。彼らを訪ね、一緒に生活してみたい。1973年、私は二度目のアマゾンに向かった。
 
最初に訪れたマチゲンガの村では、私が訪れると、全員が真っ青な顔をして家から飛び出して、森の中に走り去っていってしまった。言葉のわかる案内人がいたので、彼らを探してもらい、私たちが害のない人間であることを説明して家に戻って来てもらった。その中の、私が「トウチャン」、「カアチャン」と名付けた夫婦を中心とする一家とは、5世代50年以上の付き合いになる。彼らは、私が自然と人間との関係を考えるとき、多くの示唆を与えてくれる。つまり、私の師匠のような存在だ。
 
マチゲンガの円形の家に初めて入ったときの印象が強烈だった。入り口は狭く、屈んで入らなければならない。動物や賊が入ってこないようにするためだ。窓はないので、中は薄暗い。ブヨや蚊が入ってこないようにしている。家族ごとにベッドがあり、その脇に丸太を放射線状に並べた炉がある。周りを見渡すと、気付くことがあった。ベッド、敷物、籠、柱、屋根、弓矢、ひょうたん、土鍋……。素材がわからないものはひとつもなかったのだ。考えてみれば当然だ。彼らの持ち物は、すべて自分で森から素材を取ってきて、自分で作ったものばかりなのだ。それに対して、私の40㎏ほどのザックには、素材のわかるものはなかったし、自分で自然から取ってきて作ったものもなかった。米、寝袋、マット、着替え、医薬品、フィールドノート、カメラ……。すべて買ったものだ。日本の自分の部屋の中も同じで、自然から取ってきて自分で作ったものはない。
 
マチゲンガの家で、私たち都会あるいはその周辺に住む者がいかに自然から離れてしまったかということを、私は実感した。
 
私たちはどんな家でも電線、電話線、ガス管、水道管、下水管で繫がれ、便利で快適だ。スイッチひとつで明かりが灯り、通信手段が使える。蛇口をひねれば飲み水が出てくる。しかし、1本でも切れようものならパニックに陥る。さまざまなチューブに繫がれて生きている重症患者のようだ。病院で何本もの線と管で生命維持装置に繫がっている状態をスパゲティー症候群などというが、私たちの家もまさにスパゲティー状態なのだ。自立などといっても、マチゲンガの自立とは格が違う。私たちは自分ではコントロールできないシステムに依存しなければ生きていけない、ひどく脆弱な状態になっているのだ。マチゲンガが自然の一部となっているのに対して、私たちは便利で快適な暮らしをすればするほど、自然から離れ、自立からは遠のいていく。
 
現在取り組んでいる旧石器時代にタイムスリップする旅は、まさにマチゲンガとの付き合いから生まれたといっていい。彼らはナイフ一本あれば、アマゾンのどこかに放り出されても、衣食住すべてを自然の中から調達して生きていくだろう。私も彼らと長い間行動を共にしてきたので、彼らと同じようにナイフ一本あれば生き延びられる。さらに時代を遡って、「ナイフも持たずに徒手空拳で日本の森で生きていけるか?」に私はいまチャレンジしている。
 
まず石器を作った。その石器で木や竹を切った。では、木や竹でどうやって家を建てるか? 釘や鎹などがない時代は、「縛る」しかなかった。そのためには紐を作らなければならない。じつは、自然素材で紐を作った経験が私にはある。15年以上前になるが、インドネシアで縄文号とパクール号という2艘のカヌーを自然素材だけで作り、日本まで航海した。このとき、マストに帆を上げるため、また舵を固定するため、強い縄が必要だった。さまざまな素材を検討した。カラムシ、麻、カジノキなど。最終的に使ったのはどこにでもあるシュロだった。強度が十分あり、濡れにも強く申し分なかった。今回もシュロを集めて、インドネシアの木製器具を使って綯い、紐作りを始めた。ただ、強度は申し分ないのだが、家造りにはもう少し繊細な紐があるといいなと思った。
 
そんなとき、家の近くに和紙の原料のコウゾがたくさん茂っているのを見つけた。コウゾはクワの仲間だ。クワ科の植物は葉の形がとても特徴的で似ている。このコウゾの皮を剝いで、綯っていくことにした。綯うことによって強度も数倍になり、かつじつに美しい。最初は慣れないので、1m綯うのに2~3時間かかった。しかし、1人用の狭い家でも、一軒の家を作るためには200~300mの紐が必要だ。旧石器時代には釘も鎹も、縄文建築にはあるホゾとホゾ穴もなかったので、粘り強く綯っていくしかなかったが、途方もなく時間がかかる。概算してみると、紐作りだけで500時間。1日10時間紐作りに専念したとして、2か月掛かるのだ。さらに、1人用の一軒の家を作るためにススキ、茅萱、葦、杉皮などの屋根材を集めるにも、同じくらいの時間がかかる。
 
そんなことを考えながら紐を綯っていると、途方もないことをしている感じがしてくる。旧石器時代の人たちは何を考えながら紐を綯っていたのだろうか?

「どうしたらもっと美しく紐を作れるだろうか?」とか、「もっと早く綯う方法はないだろうか?」などと考えていただろう。自然の時間に合わせて生きていた人たちなので、「機械の力によってもっと効率よくできないかな」とは考えなかっただろう。あくまで自然のリズムに合わせて、自然素材しか使わないという選択肢の中で、すべての物事を考えたのだろう。
 
私は旧石器時代人に思いを馳せ、彼らのように考え、彼らのように生きたいと思っている。しかし、道具作りだけでなく、思考方法もまだまだ修行が足りないようだ。基本は自然から素材を取ってきて、機械力など使わずに自分で作るということだ。そして最も大切なことは、強引に人間の都合で自然のリズムを変えるのではなく、自然の時間に合わせて生きることだ。

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マチゲンガは自然から素材を取ってきて、生活に必要なあらゆるものを自分で作る。家も、森の中にある木を取ってきて組み、蔦で縛って作りあげる。

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石器で伐り出した竹を家の骨格にするために、紐で縛った。人類にとって物を接合する最初の技術は、「縛る」なのだ。

※構成/鍋田吉郎 写真/筆者提供

(BE-PAL 2026年4月号より)

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