フローレス・ピーク〜カリフォルニアの歴史に名を残すアウトローの足跡をたどるトレイル〜 | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

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2025.07.14

フローレス・ピーク〜カリフォルニアの歴史に名を残すアウトローの足跡をたどるトレイル〜

フローレス・ピーク〜カリフォルニアの歴史に名を残すアウトローの足跡をたどるトレイル〜
南カリフォルニアにある「フローレス・ピーク(Flores Peak)」と呼ばれるトレイルを歩いてきました。

このトレイルは、クリーブランド国有林の一部であり、カリフォルニア州歴史保存局(The California Office of Historic Preservation、略称”OHP”)に州の歴史的遺産として登録されているスポット(#225)のひとつです。
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ホアン・フローレスとは——

フローレスとは人名が由来です。19世紀に生きたメキシコ系アメリカ人、ホアン・フローレス(Juan Flores)を記念したものです。

その名を刻んだ土地が歴史的に保存されるくらいですので、どれだけ立派な偉人なのかと思うかもしれません。しかし、この人の履歴をウィキペディア的史実から見ると、戸惑う人は少なくないでしょう。フローレスとは何者か、私なりにまとめると以下のようになります。

「1857年1月、ホアン・フローレスとそのアウトロー集団はジェームズ・バートン保安官と部下3人を殺害し、アンドレス・ピコ将軍率いる警護団に追われて、山中に逃げ込んだ。彼らは11日間に渡る逃避行のあと、現在フローレス・ピークと名付けられた付近で捕らえられた。

フローレスは単騎で急峻な山を駆け下りて、追っ手を自分に引き付けることによって、仲間たちを逃そうとしたという伝説が残っている。同年2月、フローレスは絞首刑に処された。享年22歳だった」

フローレスとその時代

フローレス・ピーク案内板。

ホアン・フローレスは法的には紛れもない犯罪者ですが、当時も現在も、とくにメキシコ系の人々からは民衆の英雄として語り継がれています。その辺りの事情を理解するためには、カリフォルニアという土地の成り立ちと彼が生きた時代背景を知る必要があります。

カリフォルニアは最初からアメリカ合衆国の一部であったわけではありません。16世紀からスペインがこの地を支配し、1821年にメキシコがスペインから独立すると、 カリフォルニアは「メキシコ領アルタ・カリフォルニア」となりました。

1846年から1848年にかけて起きた米墨戦争の結果、メキシコはカリフォルニアを含む広大な土地をアメリカ合衆国に割譲しました。間もなくゴールドラッシュが始まり、人口が急激に増加すると、カリフォルニアは1850年にアメリカ合衆国31番目の州として正式に加盟しました。

アメリカ合衆国は来年に建国250周年を迎えますが、カリフォルニア州はそのうちの176年しか歴史を共有していないのです。

歴史の評価は見る側によって異なります。アメリカにとっては新たな州の誕生であっても、メキシコにとっては自分の土地を簒奪された記憶が残ります。それよりはるか以前からこの大陸に住んでいた先住民からすると、アメリカもメキシコも等しく侵入者かもしれません。

いずれにせよ、米墨戦争に敗れたことによって、カリフォルニアに住む多くのメキシコ系住民は、突然アメリカという新たな支配者のもとで暮らすことを余儀なくされたのです。

不逞者であり英雄の「正義の死」

フローレスが処刑されたのは1857年。カリフォルニア州成立からわずか7年後のことです。新たに出来上がりつつあった秩序を破壊しようとした「不逞者」でしたが、あるいはそれだからこそ、抑圧に抵抗した英雄として称えられたのでしょう。

その死に臨んで、絞首台から群衆に向かって「我に悪意はなく、今ここに正義の死を迎える。願わくば、我が行為によって傷ついた人々の許しを得られんことを」(筆者訳)と叫んだと伝えられています。

話はやや飛ぶようで実は飛んでいないのですが、大谷翔平選手らが所属するロサンゼルス・ドジャースはその土地柄からメキシコ系ファンが多いことでも知られています。そのなかには、合法・違法を問わず、多くの移民が含まれます。

最近、この球団が移民・税関捜査局(ICE)の移民の取り締まりによって困窮している家庭を支援するために100万ドル(約1億4600万円)を寄付することを発表しました。日本でも報じられましたので、ご存知の人も多いでしょう。

ドジャースの決断はトランプ政権の政策に明確なノーを突きつける行為とも言えますが、カリフォルニア州を巡るメキシコとアメリカ合衆国の歴史的経緯を考えると、さほど奇異なことではないのかもしれません。

フローレス・ピークを歩く

Enc Tucker Wildlife Sanctuaryの案内所兼ギフトショップ。

さて、現在のフローレス・ピークはEnc Tucker Wildlife Sanctuaryと言う名の自然公園内にトレイルヘッド(登山口)があります。トレイル脇に建てられた小さな看板を見逃すと、この伝説的アウトローについて何も知らないままに歩き出してしまうかもしれません。

ここに限らず、南カリフォルニアのトレイルの多くは日本のような豊かな緑に囲まれてはいません。登山道は岩肌が露出し、所々に低木が生えている程度。砂漠とも草原とも言えなくはありません。その中間でしょうか。照りつける日差しは強く、日陰もほとんどありません。

その代わり、視界は広く、はるか遠くまで見渡せる眺望が開けています。道に迷う心配はあまりありませんが、逃亡者にとっては身を隠す場所のない不都合な地形だったことでしょう。

食べ物や飲み水を得ることも困難だったはずです。山の傾斜は険しく、この急坂を駆け下りたというフローレスの勇姿が目に浮かびます。

急斜面を延々と登り、角を曲がると、さらに長い坂道がはるか先まで続いている。そんなハイキングです。天気の良い日はここから太平洋まで見渡せることもあるらしいのですが、残念ながらこの日は薄曇りでした。

フローレス・ピーク付近のトレイル遠景。

この日私は2時間ほどかけてトレイルを登り、持参した飲料水ボトルが半分になったところで引き返してきました。往復した距離は約20㎞。その間にすれ違ったハイカーは2人だけでした。単調と言えば単調、孤独と言えば孤独かもしれない、しかし想像力をかき立てられたハイキングでした。

カリフォルニアにはフローレス以外にも庶民の喝采を浴びたメキシコ系アウトローが何人かいます。そのひとり、ジョアキン・ムリエタ(Joaquín Murrieta)は、ゴールドラッシュ時代に白人入植者から迫害を受けたメキシコ人の伝説的アウトローです。

ジョアキン・ムリエタは「カリフォルニアのロビンフッド」とも呼ばれ、映画にもなった「怪傑ゾロ」のモデルとも言われています。彼の名を冠した地名やトレイルが、カリフォルニア中央部にいくつか残っていますので、興味のある人は検索してみてはいかがでしょうか。

カリフォルニア州歴史保存局公式ウェブサイト内フローレス・ピーク案内ページ:
https://ohp.parks.ca.gov/ListedResources/Detail/225 

角谷剛さん

米国在住ライター(海外書き人クラブ)

日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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