それでも、忍耐強くノロノロと毛虫のように進んでいくと、やがて高速道路は都心部を抜け出し、海や山が見える郊外へ入っていきます。市中心部から西方向へ約50㎞、サンタモニカ山地近くのAgoura Hillsという町に差し掛かったあたりに、高速道路101号線をまたぐ、「Wallis Annenberg Wildlife Crossing」と名づけられた橋が建設中です。
この橋は自動車道でも歩道でもありません。野生動物を行き来させることを目的としています。幅約50メートル、長さ約60メートル。完成すれば世界最大級の野生動物専用の横断橋になります。
2022年に着工し、2025年完成の予定でしたが、後述するいくつかの理由で工事が遅れていて、現在では2026年後半に「開通」する見込みだということです。
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2026年3月現在の様子
3月29日にこの橋を見に行ってきました。とは言っても、遠くから眺めてきただけです。高速道路の途中で車を停めるわけにはいきませんし、周辺道路も工事車両以外は通行止めになっているからです。
そもそも野生動物のための橋なのですから、人間が簡単に近づけるようでは意味がありません。仕方がありませんね。

高速道路から見る橋はこんな感じです。通り過ぎるドライバーにとっては、変哲もないただの交差橋です。念の為、私が運転中に撮影したものではありません。

さすがに大手メディアはドローンか何かを使って、真上からの写真を見せてくれます。おかげで全体像をイメージできます。こちらは地元テレビ局『KTLA』のインスタグラムです(https://www.instagram.com/p/DTgdBmFDg6M/)。
見ての通り、橋の両側は山地です。本来なら野生動物は自然に行き来をしていたはずです。しかし、その山地を貫く高速道路101号線が全米屈指の交通量にまで混雑するようになってしまいました。昼夜を問わず車が流れ続けるこの高速道路は、動物にとって越えがたい障壁となり、生息域を分断してきました。
「マウンテンライオンを救え」への賛否両論
高速道路によって生息が脅かされている野生動物のなかで、とりわけ象徴的な存在とされるのがマウンテンライオンです。この大型肉食獣はテリトリー意識が強く、広大な縄張りを必要とします。しかしサンタモニカ山地周辺では、高速道路によって行動圏が分断され、個体数の減少が問題となっています。
もっと直接的な実害もあります。マウンテンライオンや他の野生動物が道路を横断しようとして車にはねられる事故が後を絶たないのです。
このプロジェクトはこうした状況を変えるために構想されました。橋の上には土壌や植生が整えられ、まるで“地続きの山”のような景観が再現されます。動物たちが人間の気配を感じることなく、安全に高速道路を越えて行き来できるようにするためです。
マウンテンライオンだけでなく、シカやコヨーテ、小型哺乳類、さらには昆虫や植物の種子までもが、この橋を通じて移動することが期待されています。
自然破壊によって打撃を受けた生態系の回復。これだけを聞けば良いことばかりのようですが、このプロジェクトは必ずしも全面的な支持を受けているわけではありません。
このプロジェクト計画は2016年に公表され、総事業費は当初約9000万ドルとされていました。2022年に着工し、2025年完成を目指していましたが、近年の記録的豪雨により地盤の安定性が損なわれ、工事の中断や設計変更が必要となりました。さらに、資材価格や労務費の高騰も重なり、総事業費は約1億ドル規模へと膨らみました。完成時期も2026年前後へと後ろ倒しされています。
橋の名称になった故ウォリス・アネンバーグ氏の財団からの寄付(約2500万ドル、全体費用の25%にあたる)がなければ、プロジェクト自体が頓挫していたかもしれません。
それでも巨額の税金が使われることには変わりはなく、それに対する反対意見はむろんあります。野生動物の保護より優先されるべき公共サービスが他に存在するだろう、という主張です。
また、建設工事に伴う交通規制や騒音への不満も指摘されています。高速道路101号線は通勤や物流の大動脈であり、夜間工事や車線規制が地域生活に影響を与えているのは事実です。
さらに、「橋によって野生動物が住宅地側へ移動しやすくなるのではないか」という安全面での懸念も一部で語られています。橋の周辺は豊かな自然に囲まれているとはいえ、人里離れた僻地と言うわけではありません。近くには町があり、住宅地もあります。自分の家の庭先にマウンテンライオンが通るかもしれない、と言われて、もろ手を挙げて賛成する人は少ないでしょう。

本当に橋は野生動物を救えるのか
ここまで書いてきて今さらなのですが、私にはこのプロジェクトを知ったときから、人には尋ねにくいほど子どもっぽい疑問がありました。「動物はそこに安全な橋があることをどうやってわかるの?」です。だって案内板を立てても、動物はそこに書かれた文字を読めないじゃないですか。
巨額の費用と長期にわたる工事が終わっても、せっかくできた橋には動物はやってきませんでした。無用の長物を作ってしまいました。なんてことになったら、どうしよう。プロジェクト関係者にはそんな不安はないのでしょうか。
ただ、類似した先行事例はあるそうです。プロジェクトの公式ウェブサイトにあるFAQページでは、カナダのバンフ国立公園やユタ州、コロラド州、ワシントン州などに建てられた野生動物用の通路での成功例を紹介しています。建設中の橋についても「完成後すぐに野生動物が利用するでしょう」と強気の予想です。
ぐっと規模は小さくなりますが、日本の環境省ウェブサイトでも「アニマルパスウェイ」と呼ばれる動物用の歩道橋が紹介されています。
どうやら、野生動物専用の通路を人間が作るというアイデア自体は、私が想像したほど荒唐無稽ではないようです。
完成後に問われるもの
「Wallis Annenberg Wildlife Crossing」が完成すれば、マウンテンライオンをはじめとする野生動物の移動が改善され、生態系の回復に寄与することが期待されています。一方で、その効果や地域社会への影響は、完成後に初めて明確になるかもしれません。
巨大都市のすぐ近くに野生動物のための通路を築くという試みは、理想と現実の間で揺れ動きながら進んでいます。この橋がもたらす結果は、環境保全の成功例となるのか、それとも新たな課題を生むのか。いずれにせよ、その行方は世界中の都市にとって重要な指標となるはずです。
プロジェクト公式ウェブサイト:
https://101wildlifecrossing.org/






