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標高が上がるにつれて、世界は少しずつ静かになっていきます。
中国・雲南省の玉龍雪山(ぎょくりゅうせつざん)。標高3356mのゴンドラリフト乗り場から一気に高度が上がり、呼吸はだんだん浅く、足取りも重くなってきます。体は徐々にしんどくなっていくのに、目の前に広がる雪山のスケールがあまりにも圧倒的で、目と心はくぎ付けに。
玉龍雪山。観光地でありながら、ここには確かに「山と向き合う時間」があります。その先に待っているのは、頂ではなく、自分自身と静かに対話するひとときです。
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近くて遠い玉龍雪山
中国・雲南省麗江(れいこう)市。市内にある「麗江古城」は少数民族ナシ族のかつての王都で、街全体が世界遺産に登録されています。麗江市の北に位置する玉龍雪山は、13の峰が連なる山群。その13の雪峰が連なり絶えることなく、「巨龍」が舞い躍るかのようであることから、「玉龍」と称されています。
主峰である「扇子陡(シャンズドウ)」の標高は5596m。1987年にアメリカ隊が初登頂したという説がありますが、彼らが登頂したことを証明できる資料がないため、現在でも未踏峰のままです。ナシ族にとっては、神が宿る聖なる山でもあります。
そんな神秘的かつ象徴的な存在なのに、麗江市街地からの距離はわずか15㎞。街中からでも普通に視界に入ってくるほど、市街地の近くにあります。

その山に、観光客でも到達できる「限界点」があります。標高4680m。今回の旅の目的地です。
旅の拠点に選んだのは、麗江古城よりもさらに玉龍雪山に近い「束河(シューハー)古鎮」。麗江古城の賑わいから少し離れた、落ち着きのある古い街並みです。
澄んだ水が流れる水路に沿って石畳が美しく敷きつめられ、歴史が垣間見える木造建築が立ち並ぶ。麗江一帯がナシ族の王都として繁栄していた時代の名残を感じます。


街中を歩いていると目に入る独特な文字は、ナシ族に伝わる「トンパ文字」。人や動物をかたどった素朴な文字が看板や壁に描かれており、観光客向けのお土産のモチーフにも使われています。「現在も使われている最古の象形文字」という事実。歴史のロマンを感じて思わず足を止めてしまいます。

束河古鎮から玉龍雪山を臨み、歴史の舞台に身を置くような感覚に包まれながら、「明日はあの雪山へ行くのか…」と、心の中で静かに気合を入れます。旅の前夜としてはなかなか贅沢な時間。

準備万端、いざ雪山へ
現地出発・現地解散のツアーに申し込み、朝6時に出発。北京よりもかなり西に位置する雲南省では、朝6時はまだまだ真っ暗。
今回は小学生の息子との親子旅。眠そうにしながらも、「富士山頂よりも高い場所に行く」という非日常にワクワクしている様子。まずは車でゴンドラリフトの出発点まで向かい、そのあとはゴンドラリフトに乗り換えます。


乗り場の地点ですでに標高3356m。つまり、出発地点が既に富士山の八合目ぐらい。それでもゴンドラは容赦なく高度を上げていきます。眼下の景色がどんどん遠ざかり、気がつけば標高4000m超えの世界へ。
「すごいね」と景色に見入っているうちに、少しずつ体に違和感が出てきます。呼吸が浅い。頭が重い。「あ、これは…きたな、高山病」と身構え、深呼吸をして心の準備をします。
ゴンドラから降りた瞬間、その感覚はよりはっきりしてきました。玉龍雪山の旅は今回で3回目ですが、高山病がやってくるタイミングは毎回異なっています。今回は歩き出してすぐ「手強いかも」という感覚が。数歩進むだけで息が上がる。何もしていないのにめまいがする。酸素ボンベがプレゼントされるツアーを選んで本当に良かった…!

数分に1回酸素ボンベのお世話になったのですが、多くの観光客が同じように酸素ボンベを手にしていました。見知らぬ同志に心の中でエールを送ります。観光地だけど、しっかり高山。前方には、「4506m」という看板があちこちに設置されています。


本来であればこの4506m地点から、徒歩で4680mまで上がることができます。ですが前日にまとまった雪が降ったようで、4506mより上の歩道が封鎖されていました。
「ここしばらく雪が降っていなくて、峰にはほとんど雪がなかったから、玉龍雪山らしくなかった。あなたたちは降雪の直後に来られて本当にラッキー!」とガイドさんから祝福されましたが、標高4680mを目指していた人々(我々を含む)にとっては…どうなんだ…?
ですが、ここは富士山よりも高い雪山。安全第一です。最終目的地までは行けませんでしたが、それでもいま踏みしめているのは標高4506mの地。「私たちはいま、日本のどこよりも高い場所にいる…!」という事実に思わず感動してしまいます。
息を整えながら周囲を見渡すと、霧の向こうに、そびえ立つ山が見えます。視界が開けていればまた違った景色だったのでしょうが、この「見えきらない風景」もどこか神秘的でした。

私たちが訪れた3月中旬、麗江市街地の気温は7~18℃ほど。東京とほぼ同じぐらいですが、標高4500mを超える環境では、気温は一気に下がります。防寒着や手袋は必須、照り返しが強いのでサングラスも必須。足元も滑りにくい靴にした方が安心です。
「観光地だから軽装でも大丈夫」と思っていると、あとで後悔することに。我が家は、麗江市内で急遽購入したふわふわの帽子がものすごく重宝しました。

下山する途中、息子がぽつりと「ゴンドラリフトで来れちゃうところなのに、すごかった」とつぶやいていました。
街中から見える山なのでなんとなく親近感があり、一般的な「雪山登山」のイメージとはちょっと違って気軽に来れちゃう。でも、荘厳で雄大で、なんかすごい。その感覚こそが、玉龍雪山がナシ族の人々に親しまれながらも、聖地として崇められるゆえんなのかもしれません。
本来、標高4500mを超える世界は特別な準備と覚悟が必要です。しかしここ玉龍雪山では、その入口に立つことができます。ゴンドラリフトによって、「ほんの少し背伸びをすれば手の届く非日常」が用意されています。そして、さらなる挑戦をしたい人には、4680mへと続く道も解き放たれています(天候にもよりますが)。
街中からでも見えるのに、未踏峰。前人未到なのに、小学生の子供とゴンドラリフトで行けちゃう――玉龍雪山の魅力は、この「近くて遠く、遠くて近い」という絶妙な距離感にもあるのでしょう。

<麗江市へのアクセス>
日本からの直行便はないため、中国国内・韓国・香港などで麗江行きに乗り継ぐ必要あり。上海から麗江へは飛行機で3時間30分ほど。上海→麗江路線は1日10本以上のフライトがある。
麗江三義空港から麗江古城まではタクシーで35分ほど。束河古鎮まではタクシーで50分ほど。
<玉龍雪山へのアクセス>
オンライン旅行会社のKlook、KKday、Trip.comなどで、玉龍雪山のゴンドラリフトチケットや、周辺観光地を含む日帰りツアー(麗江古城または束河古鎮発着)などが販売されている。
おすすめの季節は、夏の雨季(6月~8月)を除くすべて。冬は晴天率が高く雪山の荘厳な姿が臨め、春は残雪と花の競演が楽しめる。そして秋は周囲の草木が赤や黄色に色づく幻想的な風景を堪能できる。




