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山・ハイキング・クライミング

2025.06.05

“低地の民 ”オランダ在住者が子連れで楽しんだ「山頂まで行かない富士登山」のおすすめルート



“低地の民 ”オランダ在住者が子連れで楽しんだ「山頂まで行かない富士登山」のおすすめルート
私はオランダ在住で、普段は海抜-4mのところに住んでいます。そんな低地の民ですが、昨夏、日本に一時帰国した際、小学5年生の息子から言われたのです。「富士山に登ってみたい」と。

いやいや、日本在住でも小学生の富士登山なんて、気軽な気持ちでやってはいけないやつです。そもそも高地に慣れてない私たちが富士登山なんて絶対無理!そう思いながらも、せっかくなので日本一の富士山を実際に歩いたという経験もさせてあげたい…。

ということで、「低地の民が子連れでも無理なく楽しめる富士登山体験」を考え、実行してみました!

「頂上に行かない」富士登山計画の全貌

低地の民は無理をしない

オランダは英語で「Netherlands」といい、「低地の国」という意味。埋め立てや干拓で国土を広げてきたため、高い山がありません。最高峰はオランダ南部、ドイツ、ベルギーとの国境付近にあるファールス山で、標高はたったの322.7メートル。

つまり普段から山登りの機会はほとんどなく、富士山にゆっくりのぼっても高山病の危険性が高すぎます。せっかくなら楽しい思い出を残したいので、「富士山の山頂まで行く」というのはスッパリあきらめることにしました。

じゃあどこを目標にしよう?ということで、決めたのが「宝永山火口」です。六合目からは頂上を目指す登山道とは別に、宝永山火口へ向かうルートがあり、こちらで火山の力を目の当たりにしようということにしました。また六合目には山小屋があるのでそこで昼食を食べる計画に。

六合目から宝永山火口へ向かう。

宝永山火口を目指して、富士山を楽しむ

というわけで、「富士山の登山道を歩いてみる」、「富士山の山小屋でご飯を食べる」、「本物の火口を見る」というのが今回の3本柱。以下のルートです。

 富士宮口五合目:出発
  ↓
 六合目:山小屋で昼食休憩
  ↓
 宝永山火口を見る
  ↓
 六合目に戻り、トイレ休憩
  ↓
 五合目に下山

BE-PAL読者の方からみたら、ふふんと鼻歌レベルのハイキングですよね。わかっています。でも!これが結果的に誰も無理せず、かつ満足度の高い充実した富士山体験になりました。

いざ、富士登山開始!

まず五合目で心配される

富士山は2025年から静岡側、山梨側ともに、登山のための通行予約と入山料の支払いが義務化されました。2024年時点は静岡側は試験運用中でしたが、私たちは自宅で登録や支払いを済ませてから出発。富士山スカイラインの水ヶ塚駐車場で通行許可証となるリストバンドを受け取りました。ここからシャトルバスで富士宮ルート五合目に向かいます。

リストバンド型の入山証。いい色だ。

五合目に到着しさっそく登るぞ!と登山口に来たところで「こんにちはー」と一人のスタッフに声をかけられました。その笑顔の裏に、ちょーっとだけ心配そうな雰囲気が…。

いやぁ、無理もない。私たちの格好は完全にお気軽ハイキングの服装。とても富士山頂上まで行く装備には見えません。明らかにやばい登山客です。

怪しまれないように「今日は頂上まで行かないで、宝永山火口まで行って帰ってきます!」と自ら説明。スタッフもほっとしたように「そうですか、気を付けていってらっしゃい!」と笑顔で見送ってくれました。

五合目からいざ富士登山開始!

いきなりの斜面とごろごろ道にビビる

登り始めてすぐ、溶岩らしいごろごろした砂利の斜面が。これだけで「すごい!火山だ!富士山を登ってる!」とテンションが上がります。

でも小3の次男は少し緊張気味です。無理もありません。なんたって普段、坂道すらほとんどないので「斜面を歩く」ということ自体が新鮮なんです。ここでまず1つ目の柱、「富士山の登山道を歩いてみる」をクリア。

ごろごろした小石が散らばる道が続きます。

六合目に到着、山小屋を体験

山小屋メシを食べてみる

五合目から六合目は子連れのゆっくり歩きでも20分ほどで到着しました。富士宮ルートの六合目には宝永山荘と雲海荘の2軒の山小屋が並んでいます。ここでお昼を食べますよ。

手前に雲海荘の看板が見えます。その奥が宝永山荘。
雲海荘の店内。お昼には少し早い時間だったので、そこまで混んでいませんでした。

子どもたちとは山小屋の物価の話に。富士山の山小屋に関するドキュメンタリーを見て、ブルドーザーで物資を運ぶ大変さを知っていました。ここまで運んでくる輸送費などを考えると、海外で入手する日本食材の値段にも通ずるものがあるねぇとしみじみ。

途中に見たブルドーザーの通った後。

どのお食事もおいしくいただきました!2つめの柱「富士山の山小屋でご飯を食べる」も達成。

食事の暖かさと体が欲していた塩分がしみわたる。

トイレの値段におどろく

さて富士山で話題になるのがトイレの値段。海外でもトイレは有料なことが多いので、それ自体には慣れてるんですが、200円~300円という値段にはやや驚き。オランダのトイレは通常50セント、高くても1ユーロといったところ。(1ユーロは約160円。)

でも多くの登山客を受入れることが可能なのも、このトイレの整備があるからこそですよね。管理してくださる方々に感謝です。

七合目に向かう登山道入口横にある共同トイレ。

宝永山火口で、火山の力を目の当たりにする

雲海と高山植物

六合目からは、山頂行きと宝永山行きの登山道に分かれます。ここまで順調にきたので、つい欲張って「七合目まで行ってみる?」という気持ちになったところをグッと押さえて…宝永山火口へ向かいます。ここまでとは雰囲気が変わり、高山植物が生い茂る中を進みます。

左へ行けば七合目へ向かう分岐点。宝永山火口へは直進します。
斜面を縫っていく登山道。
低地の民には、これも大冒険なのです。

しばらく歩くと眼下に雲海が広がりました。壮大な眺めに思わず息を飲みます。

眼下に広がる雲、雲!オランダは曇ってばかりの天気だけど、上から雲を見るのは新鮮。

20分ほどで宝永山火口に到着。大きくえぐれた地形は声を失うほど、自然の巨大な力を感じる凄まじい迫力でした。とにかく大きい!富士山頂の火口よりも、こちらの宝永山第一火口の方が大きいのです。

宝永大噴火が起きたのは江戸時代の1707年。大量の火山灰によって、江戸の町も昼間でも暗く感じるほどだったとか。今から318年前にここからそれだけのマグマが噴出していたかと思うと少しドキドキします。

火口の底まで降りることもでき、多くの人が歩いている姿が見えました。

周辺は六合目までの登山道とは違い、赤茶色の岩石が多くありました。これは古富士山と呼ばれる今から1万年前に活動していた火山に由来するもので、とても古い岩石です。このことから宝永山は、古い地層が隆起してできたと考えられていました。しかし最近の研究により、実は噴火の噴出物が積もってできたのだということがわかったそうです。

宝永山火口周辺に多くみられた赤茶色の岩石。

マグマは地上に噴出すると冷えて固まり岩石になりますが、その時に「地磁気」という地球の磁場の方向が記録されます。地磁気は時代によって変化するため、宝永山の岩石の地磁気を調べたところ、宝永大噴火の際に噴出されたものだということがわかったのです。

宝永大噴火では、富士山の側面で噴火が起きて複数の火口ができました。まずはこの第一火口より下にある第二火口、第三火口が開き、そこからの噴出物によってたった数日から十数日ほどで宝永山ができたと考えられています。

今はどっしりと構えている富士山も、長い地球の歴史の中では、またいつか大きく動く時がやってくるのかもしれません。そんな地球の力を感じながら、3つめの柱、「本物の火口を見る」もクリア。ここからは宝永山遊歩道で五合目に戻ることも可能ですが、来た道で六合目に戻ることにしました。

標高の高さを実感する

おやつタイム

五合目まで戻り、水ヶ塚駐車場で購入した安倍川もちでおやつタイムに。

登山中のおやつにちょうどよい個包装の安倍川もち。

そして持参したもうひとつのおやつ。スナック菓子の袋がこちら!

ぱんっぱんに膨らんでいます。

そう、これが見たかった!ぱんぱんに膨らんだ袋に、標高によって空気の圧力が変わることを実感。本当はここで食べるつもりでしたが、下山したらどうなるか見たいということで、開けずに持ち帰ることに。帰りの車の中ではこんな感じになりました。

ぺちゃんこになった同じ袋。

富士登山の現実も目の当たりに

五合目に下山をしていくと、翌日のご来光目的の登山客が登ってきていました。頂上から下山している人たちも多くいますが、疲れ切っていたり体調が悪そうな人たちも。

道端で嘔吐してしまった若い男性を友人が介抱している場面にも遭遇しました。やはり日本一の高さを誇る富士山、頂上を目指すというのはどれくらい大変なのかというのも目の当たりに。

下りもゆっくりのんびり歩いていきます。

五合目登山道入り口には、これから登る人たちの集団が更にたくさん。でも登山の装備には見えない軽装のグループや、スタッフに呼び止められてリストバンドの説明を受けている人もいました。

最近は事前準備が乏しかったり、富士登山の実情を知らずに山頂を目指してしまう人も少なくないと聞きます。でも頂上を目指さなくても、こんなふうに富士山の魅力や火山の力を体感する楽しみ方というのもありではないでしょうか?

少なくとも、普段全く山に慣れていない私たちですが、誰も無理せず富士山を満喫することができました。そして、いつかきっと頂上に行ってみたいという次への目標ができた良い一日でした。このお手軽ルートは、お子さん連れや海外からの観光客など、体力や登山経験に自信がなくても、日本一の富士山を体験したいという方にぜひおすすめしたいです!

参考文献:
馬場昌. “富士火山,宝永山の形成史”.
日本火山学会学会誌「火山」2022 年 67 巻 3 号 p. 351-377
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kazan/67/3/67_351/_article/-char/ja/ 

福成 海央さん

オランダ在住ライター

ライター&科学コミュニケーター。福井県立大学海洋生物資源学研究科修了。スノーケリング教室のインストラクターバイトをきっかけに環境教育の道へ。その後「自然環境を伝えるのには科学が重要!」と気づき、科学コミュニケーターとして科学館に勤務。現在はオランダの教育、自然、ミュージアム関連の執筆を行うほか、現地にて日本語で学べるサイエンスワークショップ・プログラミング教室を開催しています。毎日おいしいチーズが食べられて幸せ。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。

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