日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)の金子浩久が長距離走行で気づいた点を報告します。
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EX30とEX30 CrossCountryの違いは?
ベースモデルのEX30を僕は高く評価しています。EVらしい滑らかで静かな走りだけでなく、ミニマルなインテリアと優れたドライバーインターフェイスが魅力です。
EX30 CrossCountryは、その名の通りにEX30にオフロード走行のためのスペックを施したクルマに仕上げられています。ボルボには、これまでにも同じように「~Cross Country」と名付けられたクルマがありました。V90 Cross Countryなど良いクルマでした。
ボディサイズは全長4235x全幅1850x全高1565(ミリ)と大きくはないので、自分のクルマとして使うことを具体的にあれこれと想像することができます。
EX30はリアに1基のモーターを搭載していましたが、EX30 CrossCountryはフロントにもう1基が追加されています。4輪を駆動して、オフロードでの走破性を高めるためです。
オフロード走行のために最低地上高が20ミリ上げられ、サスペンションのセッティングが変更されています。今回はオフロードを走ることはできませんでしたが、都内から千葉の館山を往復しました。
シンプルで確実に操作できるADAS(運転支援)機能

まず、首都高速に乗って、アクアラインに入りました。
最初に試したのは、ADAS(運転支援)機能です。一昨年にEX30で京都から東京まで走った時に、ADASの使いやすさを体感できたからです。それがCrossCountryとなっても変わっていないのか?
結論から言うと、まったく変わっていませんでした。ステアリングの根本から生えているシフトレバーで“D”ポジションに移して走る操作は他のクルマと変わりません。
他のクルマでADAS機能を作動させるのには、ステアリングホイール上のいくつかのボタンやレバーなどを決められた順番通りに複数回押す必要があります。
しかし、EX30ではシフトレバーを“D”ポジションから1回だけ下に押し下げるだけなのです。実に簡単。一度やってみれば忘れることもありません。そうではないクルマが他にまだまだあるのです。
簡単で確実に作動する操作方法は、安全にも寄与します。これならば、他車の操作で、“ADASは使いにくい”と感じて利用しようとしなかったユーザーにも積極的に使ってもらえるようになるでしょう。
EX30に初めて試乗してから1年数か月が経ち、その間に他の最新のクルマにも何台も乗っていますが、ここまでシンプルかつ確実な操作方法のADASスイッチはありませんでした。
ドライバーを支援してくれるアシスト機能
最高速度と車間距離を設定すれば、ACC(アダプティブクルーズコントロール)機能によって前方を走っているクルマに追従していきます。同時に、LKAS(レーンキープアシスト)機能も働いて、走行中の車線からハミ出さないようにステアリングも修正してアシストしてくれます。
さらには、レーンチェンジアシスト機能も備わっています。ウインカーを出して周囲の状況を確認しながら、安全だと判断してステアリングを切っていくドライバーの操作をアシストしてくれるのです。
この機能は最新のBMWやレクサスなどにも装備されていますが、EX30もEX30 CrossCountryもアシストは穏やかなものです。
EX30で京都から東京まで走った時にも感じましたが、これらの機能は長距離走行でこそ効能を大きく得られました。ドライバーを支援してくれることによって負担が減り、その分の安全が確保されていくからです。
静かなEVだからこそ気になるカーオーディオのクオリティ

EVやPHEVなどの電動車に乗る時に、必ず確かめるようにしているのはカーオーディオのクオリティです。電動車はエンジン排気音が出なくて静かなので、車内はリスニングルームと化します。音楽を楽しまない理由はありません。
EX30 CrossCountryにはEX30と同じカーオーディオが装備されています。他のクルマのように左右のドア内部にスピーカーを設置するのではなく、横長のHarman&Kardon製ユニットをフロントガラス下縁に設けてあります。ホームオーディオやテレビと組み合わせて使われる“サウンドバー”と似た感じです。
Spotifyのアプリをスマートフォン内にインストールしてありますから、EX30 CrossCountryのCarPlayからアクセスしてさっそく聴き始めました。
最近、自宅でも車内でもよく聴いているポルトガルの民族音楽ファドのコンピレーションのプレイリストをチョイス。アマリア・ロドリゲスが1曲目。
彼女の声が自然に聴こえてきました。ロードリゲスのボーカルとギター、ポルトガルギターのシンプルな構成から、物哀しい曲調に合わせた情感たっぷりの歌が歌われていきます。半世紀近く昔の録音なので、ほぼ生演奏で聴かせる演奏と歌唱がそのまま収められているから耳に心地良いのでしょう。
比較する意味で、現代の音楽に切り替えてみました。日本のロックユニットの羊文学です。アマリア・ロドリゲスと違って、現代のスタジオ録音だから電子音を含むさまざまな楽器からの低音から高音までによって構成され、ボーカルは対照的に淡々と聴こえてきます
複雑で込み入っていて、ファドとは正反対で人工的、機械的に聴こえます。
このままだと平板な印象を受けますが、カーオーディオ側で周波数特性などの設定を変更することで、この曲がもっとビビッドに聞こえるかもしれません。
艶消し樹脂パーツがアウトドアテイストを上手く表現

アクアラインから東関東自動車道に入り、富津金谷インターで一般道で降りました。駐車場で、あちこちチェック。
EX30 CrossCountryは、EX30にはないボディ前後やフェンダーに艶消し黒の樹脂製の装飾パーツを付けています。アウトドアテイストを上手く表現しています。車高の高さもあって、EX30とはずいぶんと違って見えます。その辺りの演出は、上手い。
それに対して、インテリアはEX30との違いはありません。ミニマルな造形で、リサイクル素材や再生可能材などをたくさん用いた、これも現代流のボルボらしい取り組みが伺えます。
後席に腰掛けても窮屈さは感じません。ただ、ここに大人が3人座るとなるとキツくなるでしょうね。
ワインディングロードの走行感は?

再び走り出して向かったのが、鋸山です。麓で1000円の通行料を払って、曲がりくねった山道を登っていきます。ここの傾斜が、かなりキツいのです。
1960年代だか70年代の昔には、ここでヒルクライム競技が行われていました。競技を行うほど傾斜がキツくてカーブが多いわけです。ここを走ってみたくなったのは、EX30 CrossCountryのツインモーター化されたパワーがどれほど強力なのか、その一端を感じてみたかったからです。なにせ、カタログデータでは、0-100km/h加速が3.7秒という猛烈な速さなのです。ポルシェ911だって4.1秒かかってしまうのですから、その速さが理解できます。シングルモーターのEX30は5.7秒です。
EX30 CrossCountryのフロントには156馬力の、リアには272馬力を発生するモーターが搭載されています。フロントモーターから前輪へのパワーはクラッチで接続されるようになっており、走行モードで「パフォーマンス」を選んだ時に接続されて4輪が駆動されます。常時接続されているわけではありません。
東京からここまで走ってきた間はリアモーターだけでしたが、まったく不満は感じませんでした。スムーズで力強い、EVならではのモーターによる加速を十分以上に感じていました。京都から走った時と違って、2名乗車でしたが、その重量増による加速の鈍化などもまったくありません。
では、パフォーマンスモードを選んで急坂を登ってみたいと思います。
停止しているところから走り出しの加速での違いは顕著には感じませんでした。一つ目のコーナー直前で右足を少し戻し、ステアリングを右に切りコーナーをクリア。次のコーナーに向けて加速を始め、スピードが乗ったところから鋭い加速を体感できました。
ここまで速いと、高められた車高とオフロード走破のために最適化されたサスペンションなどのセッティングの違いによる姿勢変化の大きさが気になってきますが、それらは認められるものの危なげな感じはありませんでした。柔らかめでも安定感があります。
ガチガチに硬められ過ぎた高性能EVにありがちな足回りよりも自然な反応です。加速時にはノーズが持ち上げ、左右へロールする動きもありますが、それらは身体に馴染んでいきます。
小さなコーナーが連続し、直線路も長くないので、それほど速度を上げることなく駐車場に着いてしまいました。ここにクルマを停めて大仏像まで行くこともできるのですが、今回は時間が足りないのでお参りは諦めました。
モーターを2基働かせた速さの一端は感じ取れましたが、性能のすべてを引き出せたわけではないでしょう。そこは承知しました。
最新センサーがドライバーを見守り警告を表示

EX30 CrossCountryやEX30は、人によっては物理ボタンやスイッチなどが極端に少ないことから身構えてしまうかもしれませんが、タッチや音声操作などで運転できます。
EX30 CrossCountryだけでなく、最新のボルボ各車にはGoogleアシスタントがインストールされています。音声操作は自分のクルマとして使えば使うほどに学習されていきますから、どんどん使っていくべきものになりました。
音声操作は、このクルマだけでなく他のクルマでもこれから普及して便利に使われていくようになるのでしょう。EX30 CrossCountryは身構えずに済む親しみやすさを持ちながら、ADASやGoogle搭載などの先進機能を備えています。
先進機能は意識して使い始めないと、その効能に与れません。設定を行ない、手順に従って操作しなければ作動しないからです。何もしなくても効果を実感できるアナログ時代の先進機能とは決定的に違います。
だから、僕はドライバーインターフェイスを重視するのです。使いやすくない機能は、ドライバーに使う気を起こさせなくなってしまうからです。宝の持ち腐れはナンセンスですもんね。
アクアラインに向かう高速道路を快調に走っていると、センターディスプレイパネルに警告文が現われました。
<運転に集中してください。注意を逸らさないでください>
ポカポカした陽気のせいなのか、眠くなってきそうですが大丈夫です。海ほたるに入りました。
前述の通り、これはダッシュボードに備えられたカメラがドライバーの瞳を“監視”し続けていて、その視線の向きの乱れなどから注意散漫の状態にあると判断して発せられる警告文です。しっかりと前を向いて運転し続けていれば出ません。他社のシステムでは、警告文だけでなく音声も発せられるものもあります。
アクアラインに入る前には、今度は違う文面が現われました。
<疲れていませんか? 休憩しますか?>
おや? さっきの文面とは違って、こちらの体調を気遣ってくれる優しさがあります。まさか僕らの会話を聞いて、EX30 CrossCountryに内蔵されたAIが内容を分析したわけではないでしょうが、ドライバーのコンディションが把握されていることは間違いありません。
後日、この文面についてボルボカーズジャパンに問い合わせてみたところ、以下のようなものだとわかりました。
「<疲れていませんか? 休憩しますか?>は疲労のアラートで、こちらは赤外線カメラセンサーのみならず、フォワードルッキングカメラによる車線検知とステアリングのアングルセンサー、トルクセンサーなども使用し、運転行動が疲労により影響を受けていると判断された場合に、安全運転のための休憩を促す警告をすることとなります」
やっぱり、僕らは“監視”されていたのです。でも、それは“思いやりのこもった監視”ですね。
EX30 CrossCountryは、最新EV版として歴代CrossCountryモデルの延長線上にあります。EX30との違いも良くわかりました。
ただ、気になるのは649万円という価格です。いくつかのオプションを装備している試乗車では、738万3046円にもなるのです。EX30は479万円なので、その差が大きい。
また、高められた1565ミリという全高サイズも購入の際には確認が必要となります。多くのタワー駐車場の高さ制限1550ミリを15ミリ超えてしまっていることです。EX30ならばギリギリ駐められたところでも、このクルマは収まりません。
EX30も最新の先進機能を備えた高機能なEVですが、モーターを2基に増やし、オフロード走行のためにサスペンションや各種セッティングを変更を施したEX30 CrossCountryは、さらに高級なコンパクトEVとして魅力を放っていました。








