そんなモアブは夏になると40℃を超える日も多く、乾燥した大地では山火事が発生することもあります。安全面や煙による大気の悪化を考慮し、この夏はオフロード旅を見送ることにしました。
その一方で、4月には爽やかな風が吹くユタ州・モアブ。今回は、アウトドア好きの仲間たちと駆け抜けた春先のオフロード旅を振り返ります。
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約2億年前の砂丘を走る「フィンズ・アンド・シングス」
前回モアブを訪れたときは、80代の義父夫婦との家族旅行。景色を楽しみながら、のんびり走る旅でした。
でも今回は、オフロード好きの仲間たちと、モアブを代表するトレイルを巡ります。
旅の最初に向かったのは、Fins and Things(フィンズ・アンド・シングス)。モアブに数多くある4WDトレイルのなかでも、経験のあるドライバー向けとされるコースです。

夫が愛用しているオフロード走行用のGPS地図アプリ「onX Offroad(オンエックス・オフロード)」では、難易度は10段階中の4。もちろん油断はできません。
でも、難所をひたすら攻めるというより、モアブらしい地形そのものを遊びながら味わえるのが、このトレイルのおもしろさです。
「Fins(フィンズ)」は、この一帯に広がるナバホ砂岩のスリックロック地形。「Things(シングス)」は、そのフィンズが侵食されて残った岩々を指します。
そして、この岩の物語をさらにさかのぼると、約2億年前へ。
このあたりに広がっていた砂丘の砂が、長い年月をかけて砂岩となり、さらに侵食されて現在の地形がつくられました。
かつての砂丘が、今はオフロード車で駆け上がる巨大な岩になっている。そう考えると、いつもの景色もちょっと違って見えてきます。
モアブでは、ただ速く走るのではなく、岩の形や地面の起伏を読みながら進むのも楽しみのひとつ。約2億年前の砂丘の上を走るオフロード旅のスタートです。
砂地からスリックロックへ、モアブらしい道を行く
フィンズ・アンド・シングスは、Sand Flats Road(サンド・フラッツ・ロード)を挟んで南側と北側の2つの区間に分かれています。全長は約9.4マイル(約15キロ)。基本的に一方通行のトレイルです。
まずは、キャンプ場の近くから前半ルートへ。
一方通行とはいえ、途中には緊急車両が前方から来る可能性を知らせる看板もあります。ここでは対向車や後続車に気を配りながら、決められたルートを走ることも大切です。
立ち入りが制限されている場所には入らない。ゴミは持ち帰る。決められたルートを外れない。
どれも難しいことではありません。次に来る人も同じ景色を楽しめるようにするための、旅人としての小さな約束です。

そして、いよいよ砂地とスリックロックが入り混じる、このトレイルらしい地形へ。
おもしろいのは、何といってもスリックロックです。砂岩の上を、そのまま車で走っていきます。
普通の道なら「ここを車で走るの?」と思うような、大きくなめらかな岩の斜面。でも、実際に走ってみると、タイヤは驚くほどしっかり岩肌をつかみます。
楽しみは運転だけではありません。少し車を停めて周りを見渡せば、重なった地層や丸く削られた岩、その向こうには、赤茶けた岩山やメサ(頂上が平らな台地)が連なる、モアブならではの景色が広がります。
そんな景色を眺めていると、わが家の子どもたちがまだ小学校低学年くらいだった頃、家族4人でここを訪れた日のことを思い出しました。
当時は車を停めて自由に歩ける場所も多く、侵食でできた岩のくぼみに入り、ひと休みしたこともあります。
でも今回訪れてみると、以前歩いた場所の一部には金網が張られ、立ち入れないようになっていました。

この日は、ワタリガラスの姿もよく見かけました。頭上を飛んだかと思えば、少し先の岩の上にちょこん。


岩を上って、下って。フィンズの奥へ
前半ルートを走り終えると、いったんダートロードへ。しばらく走ったところで、再びトレイルに入ります。
ここからは、フィンズ・アンド・シングスの長い後半ルート。砂地や岩場を抜けながら進み、スリックロックを走る区間も増えていきます。
と、その前に……。ここで必ずトイレ休憩です。

女性にとって、荒野のオフロード旅でトイレを見つけたときの安心感といったら!たとえ簡易的なもので、囲いだけだったとしても、「ここにある」というだけでありがたい存在です。

この日も、多くのライダーたちがここでひと休み。
近くにはキャンプを楽しむ人たちのテントも見えました。「夜になったら、星が降ってきそうな景色なんだろうなあ」と想像しつつ、真っ暗な荒野に自分たちだけ……と考えると、それはそれでちょっと怖い(笑)。
さて、記事の中でたびたび登場する「スリックロック」。
スリックロックとは、砂岩がむき出しになった岩の地形のこと。モアブでは、この岩の上がそのままオフロードの道になります。
「slick=滑る」という名前から、ツルツル滑る岩を想像するかもしれません。でも実際に走ってみると、タイヤは驚くほどしっかり岩肌をつかみます。

上り坂では、前を走る車が岩の向こうへすっと消えていくたびに、ちょっとドキドキ。
でも頂上まで上がれば、赤茶色の大地と青い空が目の前に一気に広がります。
でも毎回、歓声なのか悲鳴なのか分からない声を出しているのは……はい、わたしです(笑)。
そんな荒野の真ん中には、もうひとつ、わたしにとって忘れられない場所があります。
携帯電話の電波がほとんど届かないエリアなのに、なぜか一か所だけ、電波が入る場所があるのです。
残念ながら今回は写真を撮っていませんが、以前そこから沖縄の実家へフェイスタイムをしたことがあります。画面の向こうにいる両親に、ユタの赤い大地と大きな空をそのまま見せることができました。
遠く離れた沖縄とユタが、荒野の真ん中でふっとつながった瞬間。今でも忘れられない、うれしい思い出です。
モアブには、もっと険しく、さらに高い運転技術を求められるトレイルもあります。
今回の旅の最初にフィンズ・アンド・シングスを選んでよかったと思うのは、景色と爽快感、そしてちょっぴり緊張するスリル。赤い岩山を上って、下って、砂地を駆け抜ける。その全部を一度に味わえたからです。
走る人も、歩く人も。変わりゆくモアブで思うこと
夏のモアブは、暑さや山火事、空気の状態を慎重に見極めたい季節。訪れるなら、春や秋の穏やかな時期がおすすめです。
今回、旅の最初に走ったフィンズ・アンド・シングスは、これから始まるモアブのオフロード遊びにワクワクさせてくれるトレイルでした。

そんなモアブを何度も訪れていると、町が少しずつ変わっていることにも気づきます。
四駆で岩山を走る人、マウンテンバイクを楽しむ人、静かな砂漠を歩きたい人。世界中からアウトドア好きが集まり、楽しみ方もずいぶん多様になりました。
一方、町ではオフロード車の騒音が、住民の暮らしに関わる問題として取り上げられるようにもなっています。


わたし自身、オフロードが大好きだからこそ、少し寂しく感じることもあります。でも、モアブの大自然は、ひとつの遊び方だけのものではありません。
走る人も、歩く人も、自転車に乗る人も、ここで暮らす人も。
みんながこの特別な場所を気持ちよく楽しんでいくために、モアブは今、新しいバランスを探している途中なのかもしれません。






