ところが、この小さな国、実はかなりの「ジャングル大国」なのです。なんと国土の約80%が森林に覆われているため、街中でも至るところに熱帯雨林が広がっています。きちんと整備されたハイキングコースもあれば、ほとんど人が入らないようなジャングルも数多く存在します。
そんなブルネイで、私は思いがけず「ジャングル・デビュー」をすることになりました。
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ついにジャングル・デビュー
ブルネイに滞在し始めて間もない頃、ある女性グループと知り合いました。フランス人、ポルトガル人、ガボン人、ロシア人、マレーシア人、ブルネイ人など国籍はみんなバラバラ。でも、週に1回ほど、いろいろなジャングルを歩いているという、とても活動的な女性たちでした。ある日、その中の一人から、
「来週はタセックラマという、街中のジャングルに行くから、あなたも来ない?」
と誘われました。アウトドアが好きな私は、もちろん参加することに。いよいよ私もブルネイでジャングル・デビューです。事前に場所を地図で確認してみると、街の中心にあるラディソンホテルのすぐ横。そんな場所に「ジャングル」があるとは思えません。「街中の公園なら、そんなに本格的なハイキングではないだろう」私は勝手にそう思っていました。当日は、公園入口の駐車場で待ち合わせ。

そしてみんなと一緒に、公園の中へ入っていきました。入口付近は、ごく普通の公園です。道はアスファルトで整備され、川が流れ、滝もあります。緑に囲まれていて、とても気持ちのいい場所でした。

ところが突然、右手に山道が現れて、みんな何の迷いもなく、その急な斜面を登り始めたのです。
公園から突然ジャングルへ
「え? さっきまで公園だったのに、急にすごい山道になったね」私がそう言うと、色白でとても美人なロシア人の女性が、平然とした顔で、
「うん。ここからはずっとジャングルの中を歩くんだよ」
と答えました。冗談だろうとは思ったものの、まあ、すぐ終わるんだろうと、楽観的に考えていました。ところが、ジャングルの中は想像以上に広かったのです。とにかく歩いても、歩いても、アップダウンの激しい道が続いて、まったく先が見えません。

おまけにこの日はとにかく暑い日で水も当然持ってきましたが、これで足りるのかだんだん不安になってきました。もちろん、途中に売店などありません。あるとすれば、川の水くらい。そんなアップダウンの連続コースを私より明らかに年上の女性たちが、スタスタと私を追い越していきます。こんなに元気な女性たちを目の前にして、私はだんだん焦ってきました。
「街中の公園」の想像を完全に超えていた
しばらく歩いたところで、少し周囲を見渡せる場所に出ました。遠くを見ると、街中の川に架かっている橋が見えます。

そこで初めて、自分が思っていた以上に奥まで来ていることに気が付きました。とはいえ、景色を楽しむ余裕などありません。とにかく、みんなについていくのに必死です。途中には、公園内の地図も設置されていました。地図を見て、私はさらに驚きました。
「この公園、こんなに大きいの?」
今朝入ってきた入口はメインゲートでしたが、ほかにもたくさんの入口があります。
そして、よく見ると公園から車で15分程の我が家の裏山まで、このジャングルがつながっていることが分かりました。ただの「街中の公園」ではなかったのです。

途中には小川があり、そこをジャンプして渡ったり、ロープを使って急斜面を登ったり。私の記念すべきジャングル・デビューは、想像していた「公園散歩」とはまったく違う、かなり本格的なアドベンチャーになっていました。

「もうすぐ終わるよ!」が全然終わらない
私を励まそうとしてくれているのか、
「もうすぐ終わるよー!」
と、みんなが口々に声をかけてくれます。
でも、さっきから何度も「もうすぐ」と言われているのに、全然終わる気配がありません。もうこの言葉は信用できないと密かに思いました。そして最後に待っていたのが、とんでもない急勾配で、ロープを頼りに必死で下っていきます。ようやくアスファルトの道に出たときには、もう足がガクガクで、終わった時の安堵感は、今でも忘れられません。結局、この日のジャングル歩きは、アップダウンの激しいコースを3時間強。ジャングル・デビューとしては、かなりハードなものでした。
「絶対に一人で来ちゃダメだよ」
その後、仲間からこんなアドバイスをもらいました。
「ここのジャングルに来るときは、絶対に一人で来ちゃダメだよ。道を知っている人と一緒じゃないと、迷うからね。携帯電話を持っていても、ジャングルの中は通信できない場所が多いから使えないし。まあ、入口付近の公園だけなら大丈夫だけどね」
やはり私はこのジャングルを完全に甘く見ていたようで、ちょっと反省しました。もちろん、入口付近の公園だけを楽しむのであれば、軽装でも大丈夫です。小川はきれいだし、滝の周辺ではマイナスイオンを感じられるような気持ちよさがあります。この辺りを一周するだけなら、30分もかかりません。

そして、駐車場にはココナッツジュースの屋台があります。生のココナッツをその場で切ってくれるのです。この日はTシャツも汗でびっしょり。そんな身体に、ココナッツジュースが染み渡ります。「最高!」と思ったのですが、ここで要注意です。
ココナッツジュースを狙う野生の猿
この駐車場をはじめ、公園内にはたくさんの野生の猿がいます。そして、この猿たちがなかなかの曲者。ココナッツジュースや食べ物を狙って、かなり大胆に近づいてきます。本当に襲ってくるので、飲み終わったらさっさと退散。特に女性を狙う賢い猿もいるので、油断は禁物です。そんな猿たちを警戒しながら、なんとかココナッツジュースを飲み終えました。
この日の疲労は想像以上で午後からはもう動くことができず、エネルギーをすべて使い果たしたような状態でした。そして翌日。全身がひどい筋肉痛。ベッドから起き上がることさえ苦痛なほどでした。
このコースがキナバル山のトレーニングに
そんなタセックラマをこのジャングル・デビュー以来、私は何度も歩くことになります。何度も通ううちに、少しずついろいろな道も覚えていきました。
そして2023年。私は親友とマレーシア・サバ州にあるキナバル山、標高4,095メートルに挑戦することになりました。そのとき、トレーニング場所として大活躍したのが、このタセックラマでした。週に2回、親友と一緒に、このアップダウンの激しいコースが、今度はキナバル山登頂のためのレーニングコースになったのです。そして、無事にキナバル山の頂上に立つことができました。

「ブルネイ・ジャングル探検隊」が始まった
タセックラマは、道が整備された比較的歩きやすいジャングルです。それでも、初めて歩いた私には十分すぎるほどの冒険でした。ところが、この日をきっかけに、私はその後、人がほとんど入らないような、さらに奥深いブルネイのジャングルにも何度も足を踏み入れることになります。まさか、このとき一緒に歩いた女性たちと、後に「ブルネイ・ジャングル探検隊」として、さまざまなジャングルを探検することになるとは、この日の私は、まだ知る由もありませんでした。私のブルネイ・ジャングル生活は、ここから始まったのです。




