琵琶湖に注ぐ「愛知川」の上流。人の手が加わることで守られる原種イワナたちの姿を見た | 海・川・カヌー 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

海・川・カヌー

2026.05.30

琵琶湖に注ぐ「愛知川」の上流。人の手が加わることで守られる原種イワナたちの姿を見た

琵琶湖に注ぐ「愛知川」の上流。人の手が加わることで守られる原種イワナたちの姿を見た
琵琶湖に注ぐ愛知川の上流域の池田養魚場では、川から巧みに水を引き込んで流水環境を作っていた。イワナは夏の高温に弱く、しっかりした水温の季節変化、日照時間の変化を察知できないと卵を産まない。池田養魚場は創業60年。毎年イワナが産卵を続けている。湯本さんと料理人の川西豪志さんは、渓流魚と上流域の水の関係を考えた!

写真/池田養魚場

琵琶湖に流入する河川のイワナはヤマトイワナ

イワナ(岩魚 Salvelinus leucomaenis)は、日本では北海道と本州に生息するサケ科魚類である。体色や斑紋などの変異と地理的分布からアメマス(S. leucomaenis leucomaenis)、ヤマトイワナ(S. leucomaenis japonicus)、ニッコウイワナ(S. leucomaenis pluvius)、ゴギ(S. leucomaenis imbrius)の4亜種に分けられている。ただし『日本の淡水魚』(1989、山と溪谷社)およびその後の研究では、ミトコンドリアDNA多型と亜種が必ずしも一致しないことなどから、これらの違いは亜種レベルではなく、タイプの違いだとしている。

このうち北海道や東北地方に分布するアメマスは降海型と河川残留型がみられるが、本州に分布する他の4亜種はほとんどが河川型である。ゴギは中国地方の山間部、ニッコウイワナは太平洋側では富士川以北、日本海側では鳥取県の日野川以北に分布している。琵琶湖流入河川に分布しているのは、神奈川県の相模川以西の太平洋側で紀伊半島まで分布しているヤマトイワナとされている。

愛知川の源流部に流水環境でイワナを育てる養魚場を訪ねた

愛知川の上流、神崎川の支流である須谷川は、湖東流紋岩(読み:ことうりゅうもんがん)と呼ばれる白亜紀後期の非常に堅い溶結凝灰岩を削って流れている。「花崗岩の灯篭は千年もつが湖東流紋岩は優に二千年」といわれるほど、堅牢な岩だという。そのような堅い岩盤の上を流れてくるので土を混えず、雨が降っても水が濁らない。

池田養魚場を経営されている池田則之さん(中央)とふたりの息子さん。右が長男の恒祥さん、左が3男の達則さん。次男の方は留守だった。

池田養魚場は、材木屋で釣り案内人もされていた池田則之さんのお父様が60年前、夏でも水温が18度以上にならない北向きの谷で、川がカーブしている場所にあった棚田を養魚場として開いたことに始まる。夏に水温が上がり過ぎず、増水しても水が濁らないという条件が、イワナの養魚場に最適だと判断されたそうだ。もっとも現在では周辺に伐期を過ぎたスギ植林があって、ときおり倒木で土が流れる込むことがあるという。則之さんご自身は、19歳のときに父の手伝いから養魚場の仕事を始めた。則之さんには3名の息子さんがおられて、みんな揃って養魚場のお仕事に従事されている。

滋賀県で鮭鱒類の養殖で名高いのは、米原市の醒井養鱒場である。明治11(1878)年に設置された日本最古の歴史を持つマス類の養殖施設である。ここでは霊仙山(1,094m)山麓の鍾乳洞から湧き出る清水を使って、イワナやアマゴ、ニジマス、ビワマスなどを増殖させてきた。池田養魚場も醒井養鱒場も、成熟魚から採卵して稚魚を孵化させ、それを成魚まで育てて産卵させる完全養殖に成功している。

養魚場の仕事をされている3男の達則さん。
養魚場の2年物のアマゴを揚げる達則さん。
池田養魚場の孵化場。ここではイワナの完全養殖が実現している。

醒井養鱒場が湧水池を養殖に使っているのに対して、池田養魚場は須谷川の水を直接、施設に引き込んだ流水環境で魚を育てている。餌はともに配合飼料であるが、同じ養殖といっても池田養魚場では流水で育てるので運動量がまったく違うし、水温には顕著な季節変化があるので、魚は日照時間だけに頼らず、一斉に性成熟して産卵する。イワナは夏の高温に弱いので、養魚池は寒冷紗をかけて日陰にしてある。池田養魚場では、放流する稚魚を含めると年間30万尾、養魚場で育てるだけでも10万尾のイワナを生産している。

愛知川の源流部は特殊斑紋のイワナの生息地する禁猟区

ナガレモンイワナは滋賀県立琵琶湖博物館で保存、展示もされている。写真/滋賀県立琵琶湖博物館

琵琶湖東岸流入河川のうち、姉川や愛知川などの上流域にはナガレモンイワナといわれるヤマトイワナが知られている。非常に珍しい特殊斑紋のイワナで、ヤマトイワナの変異型と考えられている。ナガレモンイワナは通常のイワナにあるパーマーク(斑紋)がなく、虫喰い模様が体側に流れるように見えるので「流れ紋岩魚」、ここでは「原種イワナ」とも呼ばれている。さらに体側に斑紋がまったくないムハンイワナも愛知川最上流に生息している。これらの希少な遺伝資源を守るため、最上流部の生息地は2013年より禁漁区とされるとともに、養殖イワナの放流も禁止されている。

イワナとアマゴやヤマメでは、生息域だけではなく育ち方も違う?

2年物の養殖イワナ。
3年物の養殖イワナ。

ヤマトイワナは野生下では1年で10〜15cm、2年で13〜20cm、3年で15〜30cmに成長し、満3歳直前の2歳魚で成熟する。秋には多くの個体が産卵に参加するが、産卵後も多くの個体が生き残り、翌年再び産卵に参加する。イワナは、アマゴやヤマメよりも成長が遅く、同じサイズに達するには1年多くかかる。

1年物の養殖アマゴ。斑紋のないスモルト個体も見える。
左上:2年物の養殖アマゴ、右上2個体:1年物のアマゴで下はスモルト個体、左下:3年物の養殖イワナ、左下:2年物の養殖イワナ。

一方、アマゴは餌環境に乏しい小さな渓流では春に体長2.5cmで浮上し、秋には10cm、2年目の秋には13cm、3年で20cmほどに成長する。しかし、大きな河川の本流では1年で18〜20cm、2年で25〜30cmに達するものも少なくない。満1歳にならないうちに雄の一部が成熟するが、通常は雄雌ともに満1歳で成熟する。渓流で一生を送るアマゴには、1回の産卵で死亡するもの、産卵後も生き残って翌年に再び産卵に加わるものがいる。アマゴやヤマメではスモルトといって、パーマークなどの体色が薄くなって銀色になる個体がいる。銀毛(読み:ぎんげ)とも呼ばれ、野生下では降海の準備ができたことを示す特徴とされる。

池田さん親子(後列)、料理人の川西豪志さん(前列右)と筆者。写真/編集部

川西豪志さんの店「ひさご寿し」/滋賀県近江八幡市桜宮町213-3 https://www.hisagozushi.com/

とくに表記のない写真は、すべて湯本貴和さんの撮影です。

著者画像

湯本貴和さん

1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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