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    2025.09.26

    琵琶湖の固有種のビワマス。学術上の手違いから長い間なかった学名が今年ついた!

    琵琶湖の固有種のビワマス。学術上の手違いから長い間なかった学名が今年ついた!
    琵琶湖には、この湖を海と思い違いしているかのように暮らす魚がいる。本来は川から海へ降りる生活史を持つのだが、琵琶湖を海の代わりかのようにしているのだ。

    アユ、そして固有種のビワマスである。食材としては、いずれも夏が旬。甲乙つけがたいが、希少性ではビワマス。この魚、琵琶湖固有種とされてきたが長い間学名がなかった。それが今年、ようやくついた。この不可思議な物語を解説する!

    希少性と濃厚で上品な味から「琵琶湖の宝石」と称えられる

    写真/滋賀県立琵琶湖博物館 同館では水族展示室で生きたビワマスを展示している。

    琵琶湖・夏の味覚といえば、ビワマスである。琵琶湖の初夏といえばアユ、という異論もあるはずで、年間を通してアユは琵琶湖全体の漁獲量の4〜5割を占める。しかし、日本各地の清流にアユの名産地はいくつも数えることができ、いずれも甲乙つけ難い。その点、ビワマスはなんといっても琵琶湖固有種である。

    成長すると体長50〜60cm、鮮やかな朱色の身で、上品な脂と濃厚な旨味をもち、その希少性もあって「琵琶湖の宝石」と呼ばれる。今年6月にビワマスに関して、注目すべきニュースが流れた。ビワマスに「新種」として新しい学名がつけられたというのだ。琵琶湖博物館6月27日付のプレスリリースを参考にして、ビワマスとは何者かを少し詳しく説明してみたい。

    ひさご寿司 ビワマスの身
    ビワマスの身は、サーモンピンクというより鮮やかな朱色。滋賀県近江八幡市「ひさご寿し」にて。

    オホーツク海沿岸から朝鮮半島と日本にかけて、サクラマスというサケ科の魚がいる。富山で有名な鱒寿司の材料となっているマスといえば、ピンとくるだろうか。学名はOncorhynchus masouである。

    学名とは、世界共通の命名規約にしたがってラテン語で生物種につけられる唯一の正式名である。学名は属名と種小名で構成され、必要に応じてそのあとに亜種名がつく(正確にはそのあとに、さらに著者名が続く)。サクラマスでいうと、Oncorhynchusが属名でタイヘイヨウサケ属、masouが種小名でサクラマスを示す。

    後述のように他にも亜種がいるので、サクラマスと呼ばれる亜種であることを強調するときには、Oncorhynchus masou masouと書く。このサクラマスは、川で生まれた稚魚が海に降って回遊し、大きいものでは体長70cmほどにまで成長し、産卵期に川に遡上する降海型と呼ばれる生活史をもつ。

    「渓流の女王」とも呼ばれるヤマメは、このサクラマスが海に降りずに川に留まる河川残留型あるいは陸封型という生活史をもつタイプである。ヤマメはサクラマスの亜種ではなく、まったくの同種であることに注意されたい。

    ビワマス3枚おろし
    熟練の技で三枚に下ろされるビワマス。滋賀県近江八幡市「ひさご寿し」にて。

    ビワマスの近縁はサクラマス、サツキマスという降海型のマス

    サクラマスの仲間で、西日本に分布する日本固有亜種がサツキマスOncorhynchus masou ishikawaeであり、属名と種小名まではサクラマスと同じだがishikawaeという亜種を示す名前がついている。

    サクラマスよりは小型で、体長は35~50cm程度まで成長する。長良川河口堰問題で、反対運動のシンボルになったのがサツキマスである。河口堰がサツキマスの降海と遡上の大きな障害になることが、建設反対の大きなポイントになった。

    このサツキマスの陸封型がアマゴである。陸封型のヤマメもアマゴも、降海型のサクラマスやサツキマスほどには大きく成長せず、比較的小型のまま一生を川で終える。

    ヤマメとアマゴは姿かたちが似ているが、アマゴは神奈川県酒匂川静岡県側支流以西の本州太平洋側、四国全域、大分県大野川以北の九州瀬戸内海側の各河川に分布し、脇腹に小さな赤い朱点があることでヤマメと区別できる。

    ビワマスとサツキマス
    鮮やかな色のビワマスの刺身。左側の琵琶湖・海津大崎沖で獲れたサツキマスと食べ比べ。このビワマスの刺身は、3日ほど寝かして熟成させたもの。サツキマスの身は、なるほどサーモンピンクだ。滋賀県近江八幡市「ひさご寿し」にて。
    ビワマスのオス
    ビワマス成魚のオス。やや鼻先が曲がり、体には虹色の婚姻色が現れつつある。滋賀県大津市にて。
    ビワマスのメス
    ビワマス成魚のメス。顔は丸みを帯びて、体はきれいな銀色。滋賀県大津市にて。

    タイプ標本の間違いから学名がない状態になってしまった

    さてビワマスであるが、ビワマスはサクラマスやサツキマスのように降海する代わりに琵琶湖に降りて成長し、川を遡上して産卵する生活史をもっている。1925年に米国のジョルダンとマクレガーによってOncorhynchus rhodurusと新種として命名されたものがビワマスだと信じられてきた。

    そのいっぽうで、1930〜1960年代にはサツキマスと同種であると考えられて、ビワマスにはアマゴと同じ学名が適用されていた。

    しかし、1970年代後半からアマゴとビワマスの比較が進んで、形態や生態、生理などに大きな違いがあることがわかってきた。さらに1990〜2010年代にかけて、遺伝分析によってビワマスが他のサクラマスの地域個体群と異なることが示された。

    そんななかで1990年に木村晴朗博士の分類学的な研究で、O. rhodurusを記載するのに使った標本(タイプ標本という)がビワマスではなかったという指摘があって、ビワマスには学名がない状態になってしまっていた。

    琵琶湖博物館の藤岡康弘・特別研究員らの研究では、近縁種のサクラマス(ヤマメ)、サツキマス(アマゴ)、ビワマスの新しい標本から核ゲノム分析をおこなって、交雑関係がない、つまりそれぞれの標本が正真正銘のサクラマス(ヤマメ)、サツキマス(アマゴ)、ビワマスであることを確認のうえ、詳細に形態を比較分析した。

    その結果、ビワマスが他のサクラマスの地域個体群とは明確に区別されることから、琵琶湖固有の新種としてOncorhynchus biwaensisと命名・記載されたというわけである。

    取材協力/滋賀県立琵琶湖博物館  ひさご寿司 

    湯本貴和さん

    1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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