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2025.09.24

琵琶湖・淀川水系にしか生息しなくなったハスを最後の専門料理店で食した!

琵琶湖・淀川水系にしか生息しなくなったハスを最後の専門料理店で食した!
湖の寿命は長くても数万年とされるのに、琵琶湖の始まりは約400年前。世界的にも珍しい古代湖のひとつである。

そこには多くの固有種が棲み、ハスは福井県では姿を消したらしく、日本国内では琵琶湖・淀川水系にしか生息しなくなったようだ。滋賀県外に出回ることはないが、琵琶湖湖岸の人々は古くから食してきたという。

しかし、湖岸の食文化も変わり、ハスを出す料理店も店じまいが続く。筆者の湯本さんは最後の専門料理店が閉店する前に食した!

琵琶湖は世界に20ほどしかない古代湖で最深部は100m超

北湖の朝
琵琶湖・北湖の朝。滋賀県大津市・和邇漁港にて。

琵琶湖は、古代湖と呼ばれることがある。一般的に、湖は流入する河川からの堆積物で埋め立てられるため、長くても数千〜数万年の寿命しかない。しかし、世界には100万年を超える寿命をもつ湖が20ほどある。逆にいえば、100万年を超えて持続している古代湖は世界広しといえども20ほどしかない。琵琶湖は、その数少ない古代湖のひとつなのだ。

琵琶湖の原型、すなわち古琵琶湖はおよそ400万年前に現在の三重県伊賀市あたりに誕生した。現在の3分の1ほどの面積で、水深はよくわからないが3m以上はあったようだ。長い年月の間、古琵琶湖は少しずつ場所やかたちを変えながらも存続し、およそ90万年前にまず南湖が形成されて、その後、43万年前に現在の北湖中央付近にまで湖は広がって、そのあとは安定した湖が続いてきたことがわかっている。

琵琶湖南湖の水深は10m未満で平均水深が約4mであるのに対して、北湖の最深部は安曇川河口沖でおよそ104m。北湖の深い部分は西側に偏っているのが特徴的である。湖の西側に琵琶湖西岸断層帯という活断層群がほぼ南北に伸びていて、その全長は約59kmに及んでいる。

この断層は琵琶湖の地盤を下げる働きがあり、このため断層に近い北湖の西側が東側よりも深くなっているのだ。この数十万年の断層の活動によって、北湖がだんだん深くなったことが想像できる。また、この活断層によって常に地盤が引き下げられていることが、琵琶湖が100万年を超える古代湖となった主な要因である。

ハスは福井県で姿を消して琵琶湖・淀川水系にだけ生き延びた

ハス
ハス(Opsariichthys uncirostris)はコイ科。成魚は30cmほどになり、中には40cmに達する個体もいる。写真/滋賀県立琵琶湖博物館

琵琶湖・淀川水系には、ビワコオオナマズやホンモロコなど魚類だけで16種、貝類や甲殻類、植物もあわせると約60種もの固有種がいる。世界中で琵琶湖・淀川水系にしかいない生物たちである。

これら固有種は琵琶湖が誕生してから琵琶湖で進化した「新固有種」と、それ以前から存在していたが琵琶湖付近以外では絶滅してしまった「遺存固有種」がいるが、新固有種の存在は、他にはない水深100mを超す巨大な淡水湖に適応して進化するのに十分な年月があったことになる。ホンモロコやゲンゴロブナのように上中層域で遊泳しながらプランクトンを摂取する新固有種の生態は、深い琵琶湖の環境に適応したものである。

ハスも、琵琶湖・淀川水系と福井県三方湖にだけ分布していた。三方湖のハスは絶滅したらしい。コイの仲間では珍しく、ほぼ完全な魚食性である。

成魚は琵琶湖の表層や中層を遊泳しながら、餌であるアユを追って琵琶湖内を回遊している。日本以外では、アムール川水系、朝鮮半島、長江水系からインドシナ半島北部、台湾に分布する。日本では一年を通じて魚影の濃い琵琶湖・淀川水系に生き残ったのかもしれない。

古くから湖岸で食されてきた「琵琶湖八珍」のひとつ

餌の捕食には、水深の浅い砂底で、水草などが繁茂していない砂底の開けた環境が必要だとされる。ハスの大きな特徴である「へ」の字型の口は、咥えた魚を逃さないために役立っているらしい。

ハスは小骨が多いこともあって滋賀県外にはほとんど流通しないが、古くから湖岸では食べられてきて、いまでも「琵琶湖八珍」(※)のひとつに数え上げられるほどだ。

湖魚定食
滋賀県米原市にあった名店「やまに」の湖魚定食。

とくに湖東の天野川河口域は昔からハスの宝庫とされている。以前はハス料理屋が軒を連ねていたと聞くが、最後に残った一軒が「やまに」料理店だった。江戸時代には二条城に魚を納めており、二条城から「に」の字を賜ったと伝わっている。大きく育ったハスの旬は5〜7月である。小型のハスは冬から春もシーズンとされている。2010年7月に「やまに」でハス料理をいただいた。

ハスの塩焼き
ハスの塩焼き。滋賀県米原市「やまに」にて。
ハスの田楽
「やまに」名物・ハスの田楽。滋賀県米原市にて。

さすがにハスだけではコース料理は難しいらしく、ハスは塩焼きと田楽で、それにコイの洗いと筒煮、ホンモロコの塩焼き、セタシジミの味噌汁などの献立であった。小骨の多いハスはハモと同様に、丹念な骨切りが必要である。

ハスの塩焼きは、焼き具合も絶妙、ほとんど骨を気にせずに旨味の濃い身を味わうことができて、専門店の技が発揮された料理である。名物の田楽はハスに味噌を塗って焼き上げたもので、黄金色に焼き上がった白味噌がハスの白身にとても合っている。

専門料理店は閉店してしまったがファーマーズ・マーケットで細々と流通

この「やまに」料理店、残念ながら閉店してしまった。琵琶湖の湖魚を味わえる店がまたひとつなくなった。いまでも湖東のファーマーズ・マーケットでは、日本唯一の淡水湖にある有人島・沖島の漁師直営「魚元淡水」が作った「はすずし」や「酢はす」が並んでいることがある。小ぶりのハスが使われることが多いが、ハスという他では味わえない魚を試す手軽な方法だ。

ハスの熟鮓
ハスの熟鮓である「はすずし」。滋賀県野洲市にて。
ハスの酢漬け
ハスの酢漬け「酢はす」。滋賀県野洲市にて。

※「琵琶湖八珍」とは、琵琶湖の特徴的な魚介類として2013年、滋賀県立安土城考古博物館が来場者へのアンケートを基礎に文化的背景も考慮して選定。ハスのほか、ビワマス、コアユ、ホンモロコ、ニゴロブナ、スジエビ、ゴリ、イサザが選ばれた。

取材協力/滋賀県立琵琶湖博物館 https://www.biwahaku.jp

湯本貴和さん

1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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