ビワマスを狙う若き漁師に同行し、不漁続きの琵琶湖の状態を湖上から体験した! | 日本の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル
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    2025.09.28

    ビワマスを狙う若き漁師に同行し、不漁続きの琵琶湖の状態を湖上から体験した!

    ビワマスを狙う若き漁師に同行し、不漁続きの琵琶湖の状態を湖上から体験した!
    琵琶湖の漁師の後継者不足がいわれて久しい。それでも、果敢に入門する若手が少数いる! 

    そのひとり、駒井健也さんの船に乗せていただき、ビワマス漁に出た。ここ最近の夏の高気温で湖水は30℃を超える。コンディションとは最悪で、近年は空前絶後のアユの不漁が続いている。

    大きくなると、そのアユを食べるビワマスはどうか?筆者は琵琶湖漁業の実態を身をもって体験しつつ、漁師と料理人の刺身を食べ比べ、さらに炊き込みご飯をいただいた!

    琵琶湖で刺し網漁は「小糸網漁」と呼ばれてきた

    ビワマスは秋には川を遡って産卵する。その姿はサケに似ているところから「海を忘れたサケ」などとも言われることがある。写真/愛知川漁業協同組合

    今年6月に新種Oncorhynchus biwaensisと命名された琵琶湖固有種のビワマスであるが、水揚げ量が少ないので滋賀県に住んでいても滅多に口に入ることはない。今回、志賀町漁業共同組合の駒井健也さんのご協力で、ビワマス漁の体験をさせていただくことになった。

    和邇港
    大津市志賀町の和邇漁港。多くの漁師は魞漁の専業。沖に魞がみえる。

    駒井さんは滋賀県生まれ。滋賀県の大学・大学院を卒業し、琵琶湖の漁師に弟子入りし、2020年10月に漁師として独立した新進の琵琶湖漁師である。琵琶湖の伝統漁法である魞(えり)漁を軸としながら、和邇(わに)漁港をベースにさまざまな漁法を試み、そのうえで琵琶湖の湖魚がもっと身近になるように漁体験、ワークショップなどの普及活動を意欲的におこなっている。

    今回のビワマス漁は刺網漁である。魚の遊泳を遮断するようにカーテン状に長方形の網を張り、網を通過しようとする魚が網目に頭を突っ込んだり、鰭が絡まったりすることで漁獲する。

    刺網漁は琵琶湖では「小糸網漁」と呼ばれていて、春から夏にビワマスを漁獲するための6mほどの丈の長い網は、とくに「長小糸網」と呼ばれる。1把で長さ5mの長小糸網を2把1組にして、両端につけた浮きと錘で湖の中層に吊る。

    駒井健也の漁
    駒井健也さんの船で小糸網漁を体験させていただく。大津市志賀町にて。

    この方式を「中吊り(ちゅうづり)」といって、網を湖底につける「地生え(ぢばえ)」や湖面の表層近くに浮かせて吊る「浮き吊り」と区別される。駒井さんは2把1組を10組、水深40mほどの湖岸近くの深場に設置していた。一度設置したら数日間はそのままにして、朝に見回ってかかった魚を取り上げる。

    冷水を好むビワマスは、琵琶湖でも水温の低いところにしか生息していない。夏場は水深15〜20m付近で急激に水温が変化する水温躍層から下が主なすみかだ。水温躍層付近にはアユが集まるため、それを食べに回遊するビワマスを狙って、この深さに長小糸網を中吊りにする。視力のよいビワマスには網目が見えるので、月明りのない暗い夜によくかかるという。

    テナガエビ
    小糸網にかかったテナガエビ。テナガエビは茨城県霞ヶ浦からの移植だと思われていたが、在来もいたことが判明している。大津市志賀町にて。

    鮒寿司で知られるニゴロブナの刺身は「ジョキ」という郷土料理

    ウナギ漁
    竹筒を沈めてウナギが入るのを待つ筒漁。今回はウナギもゼロだった。大津市志賀町にて。
    筒漁のエビ
    筒漁で捕れたエビ類。スジエビやテナガエビがみえる。大津市志賀町にて。

    長小糸網は、大正初期に滋賀県水産試験場でビワマスの沖取漁具として開発された。駒井さんは、日本唯一の淡水湖にある有人島・沖島の漁師からやり方を教わったそうだ。今回の漁体験では、残念ながら長小糸網には1尾のビワマスもかかっていなかった。

    ニゴロブナ
    ニゴロブナのジョキ。大津市志賀町にて。

    15cmほどのニゴロブナが2尾かかっていて、あとで駒井さんにジョキにしてもらう。ジョキとは沖島の漁師料理で、獲れたてのフナを3枚におろし、皮ごと細かく切ったものだ。身のプリプリした噛みごたえと、皮の甘みに驚く。

    漁師は捕れたて、料理人は3日熟成して刺身に。果たして味の違いは?

    駒井健也
    ビワマスをさばく駒井健也さん。大津市志賀町にて。

    漁獲できなかったビワマスだが、駒井さんの知り合いである安曇川町の若い漁師さんにお願いしてオスとメスを1尾ずつ調達してもらう。ビワマスに限らずサケ類は白身魚にもかかわらず、きれいな赤色の身である。それは餌の甲殻類に含まれるアスタキサンチンという赤い色素を体内に取り入れるからである。

    新鮮なビワマスの刺身。大津市志賀町にて。

    アスタキサンチンは、生きた状態ではクラスタシアニンというタンパク質と結合しているために、生のエビやカニは青みがかった灰色や茶色にみえる。それが加熱されるとタンパク質との結合が切れるため、本来の赤色が現れる。ビワマスの幼魚は春から夏にかけては、沖合の深い場所に住む甲殻類・アナンデールヨコエビをおもに食べて生活し、冬に全長13cmを超えるようになると魚を食べる。

    大きく育ったビワマスは、夏はおもにアユを食べている。琵琶湖は今年、アユの記録的な不漁のため、魞にもほとんど入っていない。昨年の夏から秋にかけて、琵琶湖の水温が異常に高かったせいではないかと漁師たちは噂しているという。近江八幡「ひさご寿し」の店主・川西豪志さんも、この夏は餌のアユが不足しているせいで、旬の時期にしてはビワマスの脂のノリが悪いとおっしゃっていた。

    「アメノウオご飯」は湖岸の百姓が伝える秋の伝統料理

    川西豪志
    アメノウオご飯を豪快に混ぜる川西豪志さん。滋賀県近江八幡市「ひさご寿し」にて。

    新鮮なビワマスの刺身はフレッシュな味わいでおいしいが、3日ほど寝かして熟成させたビワマスはねっとりとしてこの上ない美味である。10月ごろから成熟したビワマスは、琵琶湖に流入する河川を遡って産卵する。

    ふだんは人の手が届かない北湖の深い場所に住んでいるビワマスを捕る絶好のチャンスである。琵琶湖には、この時期のビワマスを漁獲する漁法がたくさん伝わっている。

    川を遮断するように杭を打ち込み、そこに棚状に網を張る「上り梁漁」、浅場を遡上するビワマスを視認しつつ網を打つ「投網漁」、箱メガネで水中を覗きながら竿先のフックでビワマスを引っ掛ける「引っ掛け漁」などである。

    秋の大雨による川の増水に乗じて川を遡上することからアメノウオとも呼ばれている。もともとは産卵期に川を遡上するビワマスを百姓(百の姓(かばね)、つまりさまざまな職能をもつ人々)が捕獲してつくったのがアメノウオご飯で、卵以外の内臓を抜いたビワマスを丸ごと下味のついた米と炊く。

    アメノウオご飯
    炊き上がったアメノウオご飯。滋賀県近江八幡市「ひさご寿し」にて。

    沖で魚を捕る漁師の料理ではなく、産卵を控えて脂が落ちたビワマスをお米と一緒においしく食べる百姓の料理だと「ひさご寿し」の川西さん。このアメノウオご飯は、ビワマスの脂が米と一体になるまで混ぜて混ぜて食べるのがうまいとのことだが、確かにすでに満腹なはずなのに箸が止まらなくなった。

    取材協力/ひさご寿司 https://www.hisagozushi.com

    湯本貴和さん

    1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長。京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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