映画『バグダッド・カフェ』の舞台を訪ねる【100周年を迎えるルート66の点と線・その3】 | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

海外の旅

2026.01.08

映画『バグダッド・カフェ』の舞台を訪ねる【100周年を迎えるルート66の点と線・その3】

映画『バグダッド・カフェ』の舞台を訪ねる【100周年を迎えるルート66の点と線・その3】
ルート66は数多くの映画やテレビドラマに登場してきました。そのなかでも、1987年公開の『バグダッド・カフェ』はもっとも有名な作品のひとつと言えるでしょう。舞台となったのは同名のカフェ兼モーテル。背景はモハーベ砂漠のなかを走るルート66です。地平線まで続く荒野とただ一直線に延びる道路が印象的でした。

実は私、この映画を公開当時は見逃していたために、ずっと長い間誤解していました。西ドイツ(当時)制作だということもあって、タイトル名のバグダッドはイラクの首都だと思い込んでいたのです。むろんそうではなく、このバグダッドはルート66沿いにある町の名前です。

もっとも、映画が撮影されたカフェ兼モーテルは、そのバグダッドの町から約80km離れたニューベリー・スプリングスという町にあります。どちらの町もネバダ州とアリゾナ州との州境に近い、カリフォルニア州内です。

バグダッド・カフェは現在も映画公開当時の外観をほぼそのままに留めて営業を続けています。宿泊はできませんが、カフェでは簡単な飲食もできますし、ギフトショップもあります。世界中から映画ファン、そしてルート66ファンが立ち寄る観光スポットです。
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砂漠のなかにぽつんと建つカフェ&モーテル

バグダッド・カフェとその前を通るルート66。

映画『バグダッド・カフェ』は、ドイツ人の中年女性ジャスミンが、夫と口論の末に砂漠の真ん中で車から降ろされ、やっとの思いで辿り着いたカフェ兼モーテルを舞台に展開する物語です。そこには、愛想のない女主人、行き場を失った人々、どこか風変わりな常連客たちが集っています。

最初は完全な「よそ者」だったジャスミンが、少しずつ店に関わり、人々の関係を変えていく。大事件が起こるわけではありません。最初から最後まで舞台も動きません。ただ、ゆっくりとした時間の流れの中で、人と人の距離が静かに縮まっていく様子が描かれています。こんな言い方が適切かどうか分かりませんが、ガキが見る映画ではありません。

■映画『バグダッド・カフェ』予告編  

映画が公開された1980年代後半にはすでにルート66は「旧道」になっていました。近くを通る州間高速道路40号線に交通の大動脈としての役割を奪われ、ルート66沿いにあった多くの町がゴーストタウンかそれに近い状況へと変わってしまっていた時代の話です。

かつて一帯に立ち並んでいたカフェやモーテルが次々と姿を消すなか、バグダッド・カフェはかろうじて砂漠に取り残されたように存在していました。映画はその寂れた場所を異なるバックグランドを持つ人々が再び出会い直す舞台として描きました。そのことが今も世界中から旅人を引き寄せる理由なのかもしれません。

タイムカプセルとしてのバグダッド・カフェ

バグダッド・カフェ店内。

現在のバグダッド・カフェの店内に足を踏み入れると、まず映画のスチール写真やポスターが目に入ります。壁中に貼られたシーンの数々を眺めていると、映画の記憶がありありと蘇ってきます。セットとして使われたものと同じ(少なくとも私にはそう見えます)カウンターやテーブル席が並び、店の奥にはジャスミンたちが手品ショーをしたステージのようなスペースもそのまま残っています。

カフェは現在も営業中です。とは言っても、ここはアメリカ。日本のドライブインのようなわけにはいきません。飲み物はソフトドリンクにするか、コーヒーを飲むか。ランチはハンバーガーにするか、それともホットドッグを食べようか。選択肢としてはそれくらいです。特筆するべき「バグダッド・カフェ」名物グルメのようなものはありません。

むろん社会一般的な物価の上昇に伴って、値段はそれなりに高くなっているのでしょう。でも、メニュー自体は1980年代と、あるいはそれよりずっと以前から、ほとんど変わってはいないのではと思います。

建物の周囲も見て回ると楽しいでしょう。何しろ広いところなので、どこまでがバグダッド・カフェの敷地なのかは判別しがたいのですが、裏庭か駐車場のようなスペースにはバンやトレーラーハウスがいくつか停めてあります。

これらもまた映画のシーンを彷彿させるような古いモノですが、さすがに現役で使用されているというわけではないようです。開きっぱなしになっているドアから内部を覗きこむこともできます。

店の裏に停められたバン。

砂漠の一本道を走るということ

それにしても、こうして周囲を見渡してみると、夫婦喧嘩が原因でジャスミンがこの辺りで車から降りるという映画の設定にはいささか無理があったかなと思わざるを得ません。タクシーを拾うとか、地下鉄に乗り換えるなんてことはできないのです。街中ならともかく、妻を砂漠に放置して走り去ってしまう夫にも問題が(かなり)あります。

モハーベ砂漠の風景を描写するとしたら、「広大」はまだ良い表現で、むしろ「荒涼」とか「殺伐」とかの言葉を使いたくなる人の方が多いかもしれません。見渡す限りの荒野、ほとんど交通量のない道路、遠くで揺らぐ陽炎。水蒸気と緑に包まれた日本の自然とは大きくかけ離れています。

そんな砂漠の中をドライブすることを寂しいと思うか、だからこそ楽しいと思うかは人それぞれですが、私は後者のタイプです。バグダッド・カフェへ向かう道のりそのものが、私にとってはすでに旅のハイライトでした。遮るもののない砂漠の一本道でひたすら車を走らせながら、浜田省吾のライブ盤CDを大音量で流し、なぜか自分も声を嗄らすのは、昔も今も私がもっとも好む旅のスタイルなのです。

バグダッド・カフェの前を通るルート66でセルフィ―撮影に興ずる筆者。

そんな単調さにはとても耐えきれないという人でも、車に乗っている限りは心配不要です。バグダッド・カフェから西へ40㎞ほど行けば、バーストウという、まずまずの規模を持つ町に着くからです。そこにはホテルもレストランも数多くありますし、ルート66博物館などや史跡スポットを見て回ることもできます。

これくらいじゃまだまだ、もっともっと、砂漠のドライブをとことんまでやってみたいというダイハードな人には、過去記事で紹介したモハーベ国立自然保護区へ足を延ばすことをお勧めします。

カリフォルニア州にあるモハーベ砂漠をハイキング。見えるものは白い砂と青い空のみ

バグダッド・カフェからは1時間ほどのドライブです。文字通り、砂漠と道路以外には何もありません。その道路もしばしば未舗装のダートになりますので、ポルシェやフェラーリで行くことはお勧めしません。

なかでも保護区内にあるケルソー砂丘は一見の価値があります。巨大な砂丘が風によって音を立てるこの場所は、同じ砂漠でも、また別の表情を見せてくれるでしょう。アウトドア派のあなたなら、砂丘をハイキングして、長時間ドライブで凝り固まった筋肉をほぐすこともできます。飲料水の準備だけは忘れずに。

バグダッド・カフェ公式ウェブサイト:
https://bagdad-cafe-usa.com/ 

角谷剛さん

米国在住ライター(海外書き人クラブ)

日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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