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2026.01.07

伝説のモーテル&カフェ「Roy’s」を再建した日系人【100周年を迎えるルート66の点と線・その2】

伝説のモーテル&カフェ「Roy’s」を再建した日系人【100周年を迎えるルート66の点と線・その2】
名曲『ルート66』は「西にクルマで向かうなら」という出だしで始まります。名著『怒りの葡萄』のジョード一家はオクラホマから「マザー・ロード」を西に向かいカリフォルニアを目指します。

ルート66は東から西へ向かって走るのが常道なのかもしれません。むろん一方通行ではありませんので、逆に西から東へ向かうのもアリなはずです。日本から訪れる場合はロサンゼルスから旅を始める方がはるかに便利でもあります。直行便が多く、飛行時間も短くて済みますので。

ルート66最終地点の標識があるサンタモニカ・ピアはロサンゼルス国際空港のすぐ近くです。そこから太平洋に背を向けて東に向かうと、都会から山脈を越え、やがて砂漠へと風景が変わっていきます。

カリフォルニア州、ユタ州、ネバダ州、アリゾナ州の4州にまたがる広大なモハーベ砂漠。その西端にAmboy(アンボイ)という小さな町があります。正確には町とは言えないかもしれません。なぜなら、現在のアンボイは人口ゼロ。どの地方自治体にも属せず、誰も住んでいないからです。

しかし、このアンボイにはルート66に関してもっとも有名かもしれない建造物があります。Roy’s Motel & Café(ロイズ・モーテル&カフェ、以下ロイズ)のネオンサインです。砂漠に突然現れるこの巨大な看板は、ルート66のみならずアメリカ西部地方を象徴するアイコン的存在でもあります。
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ゴーストタウンを丸ごと買い取った日系人

アンボイの旧コテージ。

ロイズが開業したのは1938年。その最盛期は1950〜60年代でした。その頃のアンボイはロイズ以外にも数軒のモーテル、レストラン、ガソリンスタンドなどが営業していて、ルート66を旅する人々で賑わっていたそうです。

1970年代に入ると、すぐ近くに州間高速道路I-40が開通したことで、交通の流れが大きく変わりました。ルー66上のアンボイは素通りされることになったのです。次々と店は閉じ、人影もまばらなゴーストタウンになっていきました。ロイズが閉鎖されたのは1978年のことです。

それから数十年を経て、このルート66を象徴する建物とアンボイという町全体の再建に挑んだのが、日系3世アメリカ人のAlbert Okura氏 でした。このOkura氏、元々の姓が「小倉」さんか、それとも「大倉さん」なのかも私には分からないのですが、ここでは仮に「オクラ氏」と呼びます。

オクラ氏はカリフォルニアに生まれ育ち、1984年にメキシコ風チキン料理のレストランチェーン「Juan Pollo(フアン・ポロ)」を創業した起業家です。それだけではなく、ルート66とアメリカの歴史を保全する活動に熱心に取り組む一面もありました。

オクラ氏は1998年にマクドナルド第1号店の跡地を購入し、自社の本拠地を移しただけではなく、マクドナルドとルート66の歴史資料館を設立しました。この世界的ファストフードチェーンの発展はルート66を通るトラック運転手や旅人に「美味い、安い、速い」食事を提供するところから始まったのです。

資料館があるサンバーナルディノはロサンゼルスとアンボイのちょうど中間くらいの位置にあります。正面を除いた外壁はすべてルート66の壁画で埋め尽くされています。

マクドナルド第1号店資料館前に掲げられたオクラ氏の写真。

続いてオクラ氏は、2005年にロイズ周辺の土地を含むアンボイを丸ごと購入しました。砂漠の中に、ほぼゴーストタウンと化した土地を買う――多くの人が首を傾げる決断でした。しかし、オクラ氏には「アメリカがかつて持っていた文化、ルート66を旅した開拓者精神の記憶を後世に伝えたい」という強い思いがありました。

ちなみに当時の購入価格は42万5000ドルだったと伝えられています。現在の為替レート(1ドル155円)で換算しても、約6500万円。ひょっとしたら東京都内で中古マンションの1部屋を購入してリフォームする方が高くつくかもしれませんが、それはまた別の話です。

オクラ氏は、まずロイズ の老朽化した建物やガソリンスタンドの再生に自費で取り組みました。特に象徴的だったのは、巨大なネオンサインの修復です。1950年代の未来的デザインをそのまま保ったこの看板は、ルート66を象徴する存在でもあります。

アンボイへの行き方

かつてモハーベ砂漠を横断していたルート66は、現在この周辺ではNational Trails Highwayという公式名がつけられています。

オクラ氏が修復したロイズのガソリンスタンドとショップは現在もその道路脇で営業を続けています。砂漠のドライブには欠かせないガソリン補給ができますし、水や食料品を買い足すこともできます。ルート66関連グッズの買い物もできます。そうした実用的な目的以上に、ルート66を懐かしむ記念写真撮影スポットとして、多くの人が立ち寄るようになりました。

ガソリンスタンド店内のギフトショップ。

アンボイはロサンゼルスから約400㎞離れています。州間高速道路を使って最短距離を行けば3時間半ほどで到着します。しかし、ルート66を辿って、律儀にサンバーナルディノ、ヴィクターヴィル、バーストウといった町を通り過ぎて行くとなると、その倍の時間は覚悟しなくてはならないでしょう。

それでも、ロサンゼルスから向かう限りは日帰りも可能です。そこから長い旅を続ける人にとっては最初の休憩所かもしれません。変な言い方ですが、身近な砂漠のスポットです。

しかし、逆方向、すなわちアリゾナ州から州境を越えて西へと向かってくる場合は、アンボイはまったく違う意味を持つはずです。長い砂漠を走り終え、いよいよ太平洋岸の大都市圏へ辿り着く。そんな旅の終わりの予感と期待を抱かせるに足る、最後のオアシスです。

有名なロイズのネオンサインが点灯するところを見るためには、夕方から夜にかけてアンボイに到着するのが望ましいでしょう。しかし、それには真っ暗な砂漠の中を長時間ドライブする覚悟が必要になります。

アンボイのモーテルは未だに廃墟のままですし、少なくとも半径100㎞四方くらいにはホテルがありそうな町はありません。そんなわけで、早寝早起きの私にはいささかハードルが高いので、今のところ昼間にしか訪れたことがありません。

アンボイ付近のルート66(現National Trails Highway)。

オクラ氏は惜しくも2023年に亡くなりましたが、後を継いだ子息のKyle Okura(カイル・オクラ)氏を中心に家族がアンボイ運営を引き継ぎ、保存活動が続けられています。2026年のルート66制定100周年を大きな節目として、モーテル棟(コテージ)やカフェの営業再開を目指しているとの報道もあります。

かつてルート66を通り過ぎた旅人たちのように、砂漠の暗闇に浮かび上がるネオンサインを眺めながら、食事や宿泊ができるようになる。そんな日がやってくるかもしれません。

バーストウのルート66博物館に飾られたロイズの絵画。

アンボイ観光案内ウェブサイト:
https://visitamboy.com/

角谷剛さん

米国在住ライター(海外書き人クラブ)

日本生まれ米国在住。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員

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