ヨーロッパの大河ライン川の「源流」へ、バイク&ハイクで行ってみた | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

海外の旅

2026.07.06

ヨーロッパの大河ライン川の「源流」へ、バイク&ハイクで行ってみた

ヨーロッパの大河ライン川の「源流」へ、バイク&ハイクで行ってみた
ライン川。この川の名前を聞くとドイツ歌曲「ローレライ」の曲やフランス・アルザス地方のワイン畑などが連想され、かつての私は「遊覧船に乗ってゆったりとライン下りをしてみたい」と思いを巡らせていました。

つまりドイツやフランスを流れる大きな川のイメージです。どこから来て、どこへ行くのかなどということは考えたこともない、教科書に載っている川でした。いわゆる地図帳というものを紐解けば長さ1230kmとなっています。

でも長さには始点と終点があるはずです。終点は海として、始点は?

水源はなんとスイスの山の中!

スイスに住むようになって、北の都市バーゼルでライン川を見た時、あまりピンときませんでした。先入観というのはなかなか頑固なもので「スイス」と「ライン川」が結びつかなかったのです。

ところが、そうなんです。ローレライの岩とスイスは繋がっていたんです。しかもスイスのノイウハウゼンというところには大きな滝もあります。

高さこそありませんが幅と水量は迫力十分。その名も「ライン滝」。大都市チューリッヒからでも1時間ほどで行けます。街の観光に飽きたらちょっと脚を伸ばしてみてはいかがでしょう。

さてこの川、ヨーロッパとしてもスイスとしても、物流や観光に重要な役割を果たす川なのですが、一体どこから始まるのか? 調べてみるとスイスの山中に「ラインの源流」という場所があることがわかりました。スイス中部のオーベルアルプ峠の近くにあるトゥマ湖(Lai da Tuma)です。

バイク乗りの私はある天気の良い日、思い立ってそこを目指しました。

まずひと山。フルカ峠を超えます。山の懐へ入る道は気持ちはいいのですが、カーブの連続で緊張は解けません。

ヘアピンの連続。でも路面はなめらかで走りやすい。

こういう峠道の途中にもところどころハイキングコースへの入り口があります。そしてこんなところでもコースは非常によく整備されています。

目を凝らして見ていただくと、車道と別に緑の中に細く見えているのがハイカーのための道です。ちなみにこの写真、ドローンは使っていません。

今回は目的地が決まっていたので素通りでしたが、ちょっと休んでこんなこともしました。

贅沢極まりない!最高のランチ。

一つ峠を越え、町を抜け、次がいよいよ目的地に近いオーベルアルプ峠です。この峠へは「氷河急行」と名のつく列車でも行けます。ちなみにオーベルアルプ峠駅がこの鉄道の最高地点だそうで、そこへ至る線路にはラックレイル(歯車のついたレイル)が敷かれています。

絶景の中をゆっくり走る氷河急行。
中央のラックレイルに歯車を噛ませて急勾配を克服する鉄道。

海抜2046mの峠に灯台?

晴天だったこともあってたどり着いた峠の駐車場には車やバイクが集まっていました。そこになぜか灯台。何も知らずに通り過ぎたら、それが灯台であることにすら気づかずに終わってしまいそうですが、これには謂れがあります。

ライン川の河口、海への出口にある灯台と同じデザインのものをここに立てたのだそうです。

海抜2046mの峠にある灯台。

赤い灯台にはこう書かれています。「MEER ALS GENUG 」。MEERは海。MEER ALS GENUGは、MEHR ALS GENUGを音的にもじったものでMore than enoughという意味になるそうな。峠に築かれた灯台に書かれている言葉として考えると…ウ〜ン…俳句並みのセンスだ。

ここからトゥマ湖までは2時間弱。私はここでバイカーからハイカーに変身するのですが、バイクツーリングとハイキングにはひとつ相容れないところがあります。厚着で風になるバイク、薄着で風を感じるハイキング。できるだけ脱皮して歩き始めました。

自然が山の斜面を色付けています。

海抜2000m以上のこの辺りは森林限界を超えているので大木はありません。緑の中に見えるピンク色はアルペンローゼという花。「アルプスのバラ」という意味のドイツ語ですが、ツツジ科の樹木です。誰かが誰かに見せるために植えたわけではない自然の姿、自然の配色。足元にも小さな花が咲いています。

これはスイスでハイキングをすれば必ず見かける花でフランス語圏ではジャンシアンヌと呼ばれる花です。遠くを眺めれば雄大な景色、足元に目を向ければ押しつけがましくない自然の美があります。

茎のないリンドウ。ジャンシアンヌ。

緑の中にせせらぎが見え始めました。そろそろ目的地は近いのかなと思ったあたりで、美しい景色に見惚れていたせいか私はコースを間違え、岩場を登る羽目になりました。が、前方にも人が見えていたのでまんざらコースから外れたわけではなかったようです。

”のんびりハイキング”ではなくなりましたが、これも山歩きのひとつの形です。

このせせらぎもいつか海へ。

ライン川の卵を発見

岩場をクリアした先のなだらかな丘になった斜面をさらに登ったら、周りを岩山に囲まれ、隠れるようにして小さな湖が青い水を湛えていました。トゥマ湖です。山肌には雪が残っていました。その雪解け水を集め、まさにひっそりと派手さのかけらもない、けれど美しい湖がそこにありました。

トゥマ湖。

そしてこの湖面を見下ろせるところに「ラインの源泉」の石碑が置かれていました。

ラインの源泉の碑。

湖を背に山を眺めるようにしてベンチがあり、湖畔に降りる前にしばし休憩。澄んだ空気を美味しくいただいているとそれだけで体の中の血液が浄化されていくような気分になります。

誰が置いてくれたのか、こんな気持ちのいいところにベンチが。
粋なメッセージの入ったベンチ。

ベンチには、こう彫り込まれていました。「4つの川の源泉を巡る道。これを企画し、作ってくれたパウル・ドゥバッハー氏に心より感謝します」。私としてもここにベンチを置いてくれた人に感謝せずにはいられませんでした。

1230kmの旅の出発点

さて、湖畔に降ります。トレッキングルートがはっきりわかるので急斜面ではありますが危険なことなく歩くことができます。降りていくと標識が立っていました。

ハイキングコースの標識。

湖面の海抜は2343mとのこと。黄色い表示の先が赤白になっているのはちょっと歩きにくいところもある中・上級者向けという意味です。黄色一色ならばコースはほとんど整地されていて歩き易くなっています。

湖畔にたどり着つきました。水の流れる音だけが聞こえます。離れたところに先客が何人かいましたが、皆、この静寂の中に溶け込んでいました。さっきベンチで休んだばかりですが、ここでも大きめの石に腰を下ろし湖面を眺めることしばし。優しい風が湖面に描く絵は、これまた得もいわれぬ自然の芸術。

時が止まっているとはこのことか。

そういえば、これがライン川の源なんだと我にかえり、水音のする方へ。湖から川になるところは思いのほか細い流れでしたが、ここが海へ向けて出ていくライン川の始まりです。

湖から川への出口。

そこにあったのがこれ。「ライン最上流の橋」と私が名付けた石の橋。長いライン川が一体幾つの橋をくぐるのか知りませんが、これが正真正銘、最上流の橋。

ライン最上流の橋。

ここをくぐって山を下り、ライン滝で豪快な水しぶきをあげ、バーゼルの街を通り抜け、ローレライの岩をかすめ、ワイン畑をいくつも眺め、それを味わう人たちの乗る遊覧船を運び…。

勢いをつけて駆け降りていく生まれたてのライン

そして、貿易船が行き来するオランダの港町ロッテルダムへ至り、ヨーロッパの北の海、北海へと注ぎ込む。そのスタート地点がこの最上流の橋です。「いってらっしゃい」と声をかけるのにはとてもわかりやすい源流でした。

と、行った本人はそこそこテンションの上がるストーリーなのですが、実はこの話にはオチがありまして、私が見てきた石碑の他に湖畔の岩にはめ込まれた古いプレートもあるそうです。思いつきで出かけたので見落としました。

さらに…。

ライン川の源流はもう一つあるそうです。今回私が行ったのはフォルター・ライン(Vorderrhein)と呼ばれ主流の方ですが、もう一本ヒンター・ライン(Hinterrhein)と呼ばれる川の源流がスイスの別の山の氷河に近いところにあります。 知ってしまった以上、もう一度歩きに行かなければとBE-PAL魂をくすぐられる今日この頃であります。

著者画像

伊藤康弘さん

スイス在住ライター

スイスの山の中腹にある全寮制の学校で寮監、教員として長年勤務。現在は退職したものの、澄んだ空気と景観に魅了され、スイスに居座る至って普通の日本人。遅ればせながら自分の目でこの国や周りの国を見ておこうと地味に活動中。100カ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

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