日本とも共通する照葉樹林文化。中国雲南省で照葉樹林に培われた文化を確かめた | キノコ・山菜 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

キノコ・山菜

2026.07.09

日本とも共通する照葉樹林文化。中国雲南省で照葉樹林に培われた文化を確かめた

日本とも共通する照葉樹林文化。中国雲南省で照葉樹林に培われた文化を確かめた
照葉樹林とは暖温帯性の常緑広葉樹の森。これが日本列島の西南部から中国西南部を経てシッキム、ブータン、ネパールまで続き、そこには共通する文化がある。根菜類の水さらし利用、陸稲栽培、餅食、麹酒や納豆などの発酵食品、鵜飼、漆器、絹、茶などの生業や食文化に加えて、歌垣や刺青などの風俗……。湯本貴和さんが先輩からバトンを受け継ぐかのように中国雲南省を訪れたのは2010年8月。そこは、たくさんの少数民族たちが暮らす地だった!

日本の基層文化と密接な関係にあると言われてきたが…

漢民族の中心地である黄河流域「中原」から、遥か西南方に離れた中国雲南省。ミャンマー、ラオス、ベトナムと国境を接する雲南には、中国の55を数える少数民族のうち、25民族が暮らし、人口の三分の一を占める。そのうち15の少数民族は、雲南省にしかいないとされる。レアメタルを含む鉱物資源にも恵まれ、隣接する他国との交易も盛んとなって、近年の経済発展が著しい地域でもある。

観光ガイドをするイ族の女性。雲南・石林イ族自治県にて。

雲南・少数民族の文化は、日本の基層文化と密接な関係にあると言われてきた。1960年代の終わりに上山春平・中尾佐助・佐々木高明らによって照葉樹林文化論が提唱されて一世を風靡したことを覚えておられる方は、そこそこの年代であろう。照葉樹林文化論とは、日本の基層文化をなす要素の多くが雲南省からブータン・シッキム・ネパールに至る東亜半月弧に起源を求めることができ、その基盤には照葉樹林と呼ばれる暖温帯性の常緑広葉樹林が存在するとしたものだ。

照葉樹林文化を特徴づけるのは、根菜類(たとえばコンニャクイモ)の水さらし利用、陸稲栽培、餅食、麹酒や納豆などの発酵食品、鵜飼、漆器、絹、茶などの生業や食文化に加えて、歌垣や刺青などの風俗があげられる。しかし、中華人民共和国では、1966年から1977年まで文化大革命の嵐が吹き荒れ、中国の少数民族に関する調査や研究がおこなわれる状況ではなかった。中国での民族学的あるいは人類学的なフィールド研究は、1980年以降を待つしかなかった。

日本とも共通する照葉樹林文化を体現するのは少数民族たち!

鮮やかな民族衣装のイ族の女性たち。雲南・楚雄イ族自治州にて。

雲南省の少数民族のなかで、いちばん人口が多いのがイ(彝)族である。イ族は、中国西部の古羌の子孫である。古羌は、チベット(西蔵)族、チャン(羌)族、ナシ(納西)族と共通する先祖とされ、シナ・チベット語族の言語を使用していたと考えられる。雲南省を旅すると、大きな都市でも色彩豊かな民族衣装に身を包んだ少数民族の人たちに出会うことがある。日本列島とも共通する照葉樹林文化を現在も中国で体現しているのが、イ族をはじめとする少数民族なのだ。

ホテルのフロントで案内をするナシ族の女性。雲南・麗江市にて。
ナシ族の女性。北斗七星を表す7つの刺繍が施された羊皮の背当て(七星羊皮)を背負うのが大きな特徴。雲南・麗江市白沙村にて。

ハニ族が循環的な生業複合を営む棚田群は世界文化遺産!

元陽の棚田。世界最大の棚田群である。雲南・紅河ハニ族イ族自治州にて。

雲南でもっとも有名な景観のひとつは、紅河南岸のハニ(哈尼)族の棚田である。元陽県を中心とした総面積約540km2で、最大勾配75度の斜面に開かれた世界最大の棚田群で、この地に移住してきたハニ族の人々が8世紀からつくり広げてきたものだ。棚田のある山々の稜線部には神聖な森林が残されており、斜面には森林から流れ出す水をすべての棚田に行き渡らせる灌漑の用水システムが整備されている。

棚田での農作業を終えて帰途につくハニ族の女性。雲南・紅河ハニ族イ族自治州にて。

おもには赤米が栽培されているが、スイギュウやアヒル、タウナギやタニシなどを棚田で養い、さらに民家ではニワトリやブタを飼育することで有機肥料を利用する循環的な生業複合が営まれている。この持続的な農業システムは、国際食糧農業機関(FAO)の世界農業遺産に認定されるとともに、2013年にはユネスコの世界文化遺産に登録された。少数民族が保持する顕著な文化の一端である。

2010年8月、第1回国際イ族文化サミットフォーラムに参加!

第1回国際イ族文化サミットフォーラムで発表する著者。横は通訳を務めてくださったイ族出身の魯元學さん(中国科學院昆明植物研究所)。

わたしは仲間とともに、照葉樹林の生態系とそこに培われた文化を発展的に継承すべく、2011年に第1回国際照葉樹林サミットを宮崎県綾町で開催する実行委員会に参画した。それに先立つ2010年8月に、照葉樹林のふるさとである雲南省楚雄で開催された第1回国際イ族文化サミットフォーラムに、楚雄自治州人民政府の招聘で参加する機会を得た。このフォーラムで、同じ照葉樹林帯に属する民族としてわたしたちがイ族文化研究に寄与できる可能性と中国・少数民族文化の将来に対する希望について、講演できたことはたいへん光栄なことだった。

※ご本人の登壇の写真以外は、すべて湯本貴和さんの撮影です。

著者画像

湯本貴和さん

京都大学名誉教授

1959年徳島県生まれ。日本モンキーセンター所長、きょうと生物多様性センター長、京都大学名誉教授。理学博士。植物生態学を基礎に植物と動物の関係性を綿密に調査。アフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林を中心に探検調査は数知れず。総合地球環境学研究所教授、京都大学霊長類研究所教授・所長を務める。京大退官後も旅を続け、調査を続け、食への飽くなき追求を続けている。著書に『熱帯雨林』(岩波新書)、編著に『食卓から地球環境がみえる〜食と農の持続可能性』(昭和堂)などがある。日本初の“食と環境”を考える教育機関「日本フードスタディーズカレッジ 」の学長も務める。

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