収穫の喜びというものは、それなりに知っております。
しかし、ドケチなので、自分が手塩にかけたんじゃなくて、勝手に生えてきたものをゲットできた時は、棚ぼたの喜びというんでしょうか、小躍りするほど嬉しいです。
ウリウリばあちゃんの楽しい田舎暮らし前置きはそれくらいにして、今年は、雨の日が本当に多くて、しかも私はとても忙しかった。
五倍子(ふし)がそろそろかなあ、栗は落ちているか、キノコはどこかになっているんだろうなあ。
なんて頭の中では、焦っていたのですが、とにかく目の前の仕事を片付けねばと、森を眺めながら思っていました。
日本晴れとはいかないけど、本日は日中雨が降っていません。久しぶりに少し家のまわりを歩きました。
森の恵みをいただきます

数年前から、勝手に生えた蔓というのか木なんだろうか? どんどん長く大きくなってきていました。いつの日か、サルナシだとわかるようになりました。
この実はキウイフルーツを小さくしたような感じで、甘くて美味しいと噂には聞いていました。
そんな美味しいものがなったら、きっと獣が先に食べてしまうだろう。私の口には入らないと、他所ごとのように思っていました。
そこに今年初めて、小さな実がなっていました。その実のことは気にしていたんですが、期待はしていませんでした。ところが、なんといつの間にか柔らかくなっていました。ひとつとって食べてみたら、甘くて美味しかった。
これはいい!
よく見ると、上にもぼちぼちなっています。ツルウメモドキのツルも一緒に絡んで、たくさん実をつけています。それがカムフラージュになっているのかも。まだ獣たちも、この実のことに気づいていないようです。
来年も実にありつけるかどうかは分かりません。
これが私の口に入る最初で最後の実になるかもしれないので、味わって食べましょう。

足元を見たら、栗のイガが落ちています。
まわりには、中身をきれいに獣が食べた栗の殻がありました。
もう少し早く採らねばと反省しますが、毎年先を越されます。それでも彼らの残りものを少し見つけました。
栗のイガイガを足でぐりぐりして中身の栗を取り出します。すると素手では痛いイガに触れずに、栗の実だけゲットできます。
獣は、どうやってイガを避けているんでしょうか。栗やらなんやら実なりしているということは、私の大好きな姫クルミやカヤの実もできているはずです。
知人の里山のような庭へ、籠を背負っていきました。ここには、胡桃(クルミ)やカヤの木が自生しています。
他にも山菜やキノコもありますが、今回は胡桃とカヤの実を中心にいただいていきました。
山のなりものは、動かないので高い場所でなければ採るのは楽です。
その代わりライバルも多い。とっても硬い胡桃の皮を猪は歯でかじるらしい。
栗の皮くらいなら、私も対抗できますが、胡桃は石の上で金槌で割ります。たくさんの実を持って帰って、収穫物の処理をしました。採るよりはるかに時間がかかります。
カヤの実は、灰汁(あく)に1、2週間つけておいて、煎ってからいただきます。

この使用後の灰汁にただ布をつけておくだけで、綺麗な灰色っぽい茶色が染まります。堅牢度もあるし、簡単なので便利です。
ここの姫胡桃は、ハートの形をしていてとても可愛いです。石で割れば、半分にパカっと割れて、中身を取り出すのも簡単です。
小ぶりで形も可愛いので、柿渋で染めた布バッグの飾りにとても似合います。名付けてくるみボタンです。

家に戻ると、連日の雨で、白膠木(ぬるで)の枝が、いくつか私の手が届く位置まで、お辞儀をするみたいに垂れ下がっていました。
ここに毎年なる五倍子が、黄緑色から黒っぽくなりかけていました。
新鮮な黄緑色のもので染めると、紫ねず色になります。
五倍子染めとインク作り、おじいさんとの約束

さあ、大変! 実りは食べるものも染めるものも、時期が来たら私の都合なんか待ってくれません。
数年前からこの木はかなり大きくなってきて、たくさん五倍子がなるようになりました。
五倍子は、見た目は黄緑色のゴツゴツした実みたいに見えます。実は弾力のあるこのふしと呼ばれる皮を手でちぎって開けると、凄く小さな点にしか見えないような虫たちが、沢山入っています。
この皮には、タンニンが豊富に含まれています。
煮出した液につけただけでは色はつきませんが、タンニンはしっかり布に移っているので、染まりの悪い草木染めの下地にも使われます。
鉄媒染(てつばいせん)することで色がつきます。
昔は、これを粉にした物と鉄成分を混ぜて、お歯黒の材料にしていたようです。普通は黄緑ですけど、まわりの紅葉に合わせて、赤く染まっていました。
あまりに綺麗だったので、染めるのは後にして、しばらく飾っておくことにしました。数日たって、この中から、沢山の小さな虫がいっせいにとび立ってしまいました。
五倍子は虫の塊と言われていますが、身をもって体験しました。
せっかくなので、鉄媒染で少しだけ布を染めました。五倍子を煮出した液で布を煮て、それからサビ釘などで作った鉄媒染用の液につけて染め上がりました。
まだ新鮮だったのでしょう。綺麗な紫ねず色に染まりました。


以前住んでいた古い家の隣のおじいさんと、山に五倍子を採りに行く約束をしていました。
おじいさんはその前に亡くなってしまって、約束はそのままになりました。おじいさんが、五倍子はインクの材料にすると言っていました。
お歯黒の材料になるのは知っていましたが、インクは知りませんでした。
何年も五倍子をインクの材料にすることについて調べていましたが、わかりませんでした。
ところが最近、検索やAIが充実したおかげで、その疑問の答えが見えてきました。しかも、インクは手作りできることも分かってきました。
そうだ、おじいさんが言っていたインクを作ってみよう!
「昔は昔、今は今のやり方でやらなくてはダメだ」
昔ながらの生活をしていたおじいさんの口癖でした。おじいさんの言葉を肝に銘じつつ、それでも、私は前に進んでいきます。
インクの作り方は、五倍子のタンニンに鉄を反応させて色を作り、その液に滲み止めや粘りと物につきやすくするために固着剤を混ぜるようです。
私は染めのプロなので、これに近い材料を様々持っています。でも今回は昔から使われてきた硫酸第一鉄とアラビアガムを使ってみました。
五倍子を乾燥させて擦り潰したものを入れて煮込み、漉した液に硫酸第一鉄を液の色を見ながら加えていきました。その液にアラビアガムを入れました。
40年以上前、おじいさんが教えてくれたインクの材料にするというのをやっと実践できました。
本物の羊皮紙(ようひし)を作っている工房も見つけました。せっかくなので羊皮紙も取り寄せました。
ずっと前に拾った大きな鳥の羽を取ってありました。いつかこの羽で、字を書いてみたいと思っていました。
昔の人たちのように、この羽をペンにして出来上がった五倍子のインクで、おじいさんに手紙を書きました。


羽ペンは優しく羊皮紙の上を滑っていきます。
古い家のおじいさんへ
私は今、山の中に住んでいます。
あの時、一緒に五倍子を採りに行くことはできなかったけれど、今では私の家のまわりに、五倍子がたくさん自生しています。
おじいさんが教えてくれた、五倍子のインクを作ってみました。
私は昔のやり方もやっています。
そして、今のやり方もやっています。
おじいさん、これでいいよね。
※文、写真/ウリウリばあちゃん




