沖縄県石垣島で小さな果樹園を借りて南国フルーツやハーブを育てている宇土さんにとって、ゴーヤー、ハンダマ、うりずん(四角豆)などの南国由来の野菜は、夏から秋にかけてのスタンダードな食材。好きが高じて、北国ならではの栽培方法を編み出し、アリス・ファームの菜園で育てている。石垣島での後見人、正子おばあとの家族のような付き合いや、太陽の光を詰め込んだ南国野菜にまつわる物語をお届けします。
石垣島にもアリス・ファームがある⁉

私が勝手に南国野菜と命名した一群の野菜がある。親分はもちろんゴーヤー、常連はハンダマやうりずんや雲南百薬、時にはツルムラサキや空心菜、パクチーなども仲間に加えることもある。
どう見ても北海道の菜園には不似合いな野菜ばかりだが、10年近く、石垣島に住む友人たちの力を借りて、現地で果樹を育てている私には、けっこう馴染みのある野菜ばかり。地主兼後見人の正子おばあは、いろんなトロピカルフルーツが二株三株と植わった私の果樹園を「箱庭果樹園」と命名した。

太陽のゴーヤー

正子おばあの長女、花谷友子さん一家は石垣でも有数のゴーヤー農家。箱庭果樹園に迎えに来てくれた友子さんの軽トラの荷台にのっていたゴーヤーを見た瞬間、とっさに「ティーダ」という言葉が頭に浮かんだ。
沖縄の言葉でティーダは太陽。大きさや色はもちろんのこと表面のイボイボまで見事に揃ったゴーヤーたち。何よりそのゴーヤーが放つ強烈な輝きに目が釘付けになった。
名人が栽培したゴーヤーのこの輝きはただものではない。ティーダが育んだピカピカのゴーヤー。その感動を友子さんに伝えようとしたけど彼女には当たり前すぎたのか、うまく伝わらなかった。
苦みを武器に愛されるゴーヤー
ゴーヤーは近年、全国区の夏野菜として不動の地位を獲得した。これはすごいことだと思う。うま味や甘みと違って苦みという嫌われものを武器にゴーヤーは夏の味覚として愛され、全国で栽培されるようになったのである。沖縄ブームや綠のカーテンブームが後押ししたのは確かだが、ブームに終わらせずにこの繁栄を維持しているのはやはりゴーヤーの実力だろう。
私はゴーヤーとは相性がよくないらしくて、噂に聞くようにできすぎて苦労した経験などない。5株くらい植えておくと1週間に2~3回のゴーヤーチャンプルーとゴーヤーのナムルと2リットル瓶2~3本のゴーヤーピクルスを作るくらいの量が採れるのでちょうどいい。石垣島のティーダゴーヤには及ばないものの、毎年、栽培する品種、「あばしゴーヤー」は苦みが強くて美味しい。
知子さん直伝、ゴーヤーチャンプルーを作る

ゴーヤーチャンプルの作り方
1.ゴーヤー1本は半割にしてワタをとり5ミリの厚さにスライス、島豆腐半丁は2㎝角、缶詰のスパム
(ランチョンミート)1/3缶も同じ大きさに切る。

2. 鍋に油をひいてゴーヤーとスパムを炒める。
3. ゴーヤーに火が通ったら、豆腐を加えて塩胡椒、出汁の素も加えて出来上がり。
花がつおをトッピングしてもいい。
作り方はまことに素っ気ないのだが、何しろ友子さんちのそれはティーダのゴーヤーと豆の味がしっかり残った硬い島豆腐という最強コンビ。北国の光を貪って成長した菜園の軟弱なゴーヤーとスーパーの木綿豆腐では到底太刀打ちできない。と諦めて勝負を放棄してもいられないから問題の豆腐については木綿豆腐の厚みを半分にしてペーパータオルで包んで重しをのせて水気を切って使用する。塩胡椒と出汁の素の代わりに塩麹を加えて、うま味を引き出す。入手しにくいスパムの代わりには卵を使って彩りだけでも華やかなひと皿にしようと奮闘してきた。
ゴーヤーの苦みと豆のうま味が詰まったメリハリの効いた友子さんのゴーヤーチャンプルーにはかなわないけど、北海道の偽ゴーヤーチャンプルーもそれなりに美味しい。コツはただひとつ、豆腐の水切り具合にある。水分が多いと豆腐が主役になってしまうし、水切りしすぎると豆腐は存在感をなくしてゴーヤーのひとり舞台になってしまう。
他にはゴーヤーと玉葱とシーチキンを三杯酢で和えた和え物や、ハンバーグの種を半割にしたゴーヤーに詰めてフライにしたゴーヤーフライ、ゴーヤーのチップスも教わった。私は湯通ししたゴーヤーをナムル風に味付けして常備菜にすることが多い。菜園のトマトと合わせてパスタに加えることもある。
ハンダマ、雲南百薬を北海道で栽培してみた

ゴーヤー栽培は苦手だけどハンダマや雲南百薬はいつも予想を超えた収穫がある、ハンダマという野菜は金沢では金時草、熊本では水前寺菜、台湾では紅鳳菜と大げさな名前で呼ばれる葉物野菜。艶やかな綠色の葉っぱの裏側はきれいな紫色をしている。暖かい地方では放っておけば冬越しするそうだが、北海道では冬前に枝を切り詰めて株を掘りあげて鉢に移し、保温材を被せて温室で管理する。ひと株でも冬越しできればもうこっちのもの、挿し木でいくらでも殖やすことができる。
友子さんは生のハンダマをレタスや玉葱と一緒にサラダにするか、さっと湯がいて白和えにすると美味しいという。私は薄切りの大蒜(にんにく)をごま油で炒めて摘んだハンダマを投入し、料理酒とお馴染みの塩麹を加えてひとまぜして火をとめ、蓋をして蒸らす。塩麹の代わりにオイスターソースやナンプラーで味付けしたり黒酢を加えることもある。空心菜もツルムラサキもだいたいこの調理法で消費している。
野菜炒めというと色々な野菜を取り混ぜて肉や魚介類と一緒に炒めるというのが一般的だが、南国野菜に限ってはひと種類の葉物をさっと炒めたシンプルな炒めものが私は好きだ。

雲南百薬というたいそうな名前のつる性の野菜はツルムラサキの仲間。一般的にはオカワカメと呼ばれ、綠のカーテンとしての需要が高いと聞く。初めて食べた雲南百薬のお浸しが美味しかったので北海道でも栽培してみようと正子おばあに聞くと、「あんなもん雑草だから」といって取り合ってくれなかった。
仕方なくオークションで手にいれた雲南百薬を栽培してみてそのワケがわかった。雲南百薬は葉っぱの付け根にムカゴと呼ばれる子イモのようなものがたくさんできるのでこれを集めて埋めておけばまた生えてくるのである。当然のように地面に落ちたムカゴからも自然に生えてくる。なるほどこれは雑草だ。株を掘りあげると根が芋状に膨らんでいるのでこれもムカゴと一緒に冷蔵庫で保管して、雪解け後に地面に埋めておけばいくらでも生えてくる。
雲南百薬は葉っぱと一緒に大量のムカゴと芋?を生産してくれる多産な野菜だったのである。ツルムラサキより葉っぱが薄くてクセが少なく、扱いやすいので、毎年、支柱を立てて数株栽培している。
毎年、北国でこれら数種類の南国野菜を栽培している。猛スピードで日が短くなっていく北海道の秋、南国野菜たちは束の間、食卓にティーダの輝きを運んでくれるのである。
*撮影/藤門 弘




