標高2,764mのコラブ山は、両国の最高峰であり、かつては年に一度しか登れなかったという特別な存在。
これまで登ってきた整備されたアルプスの山々とはまったく違う、観光地化されていないこの場所に広がっていたのは、静けさと荒々しさがそのまま残る、まさに“秘境”と呼びたくなるような世界でした。
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2つの国の最高峰「コラブ山」とは?

Mount Korab(コラブ山)は、アルバニアと北マケドニアの国境上にそびえる標高2,764mの山で、両国の最高峰でもあります。山頂に立てば、“一度に2つの国のてっぺん”に立てるという、なんとも特別な一座です。バルカン半島を縦断するディナル・アルプス山系の一部で、険しい岩稜と広大な草原が織りなす、手つかずの自然が広がる風景です。
アルバニアは1990年頃まで鎖国体制が続き、外国人の入国は厳しく制限されていました。そのため、国外からの登山者はほとんどいませんでした。さらに、国境地帯に位置することもあり、登山規制が厳しく、かつては年に一度の解禁日だけしか登ることができませんでした。そのため、登頂できるのはほんの一握りの「レアな山」として知られていました。
現在では規制もなくなり、アルバニア側・北マケドニア側のどちらからも自由に登山が可能となっています。それでも観光地化はほとんどされておらず、山本来の静けさを残す、まさに“秘境”と呼ぶにふさわしい存在感を放っています。
登山口はアルバニア奥地の小さな秘境村

コラブ山へのスタート地点は、アルバニア北東部の山あいにひっそりと佇む小さな村、Radomirë(ラドミレ)です。これまで訪れてきたヨーロッパの山々との大きな違いは、圧倒的な情報の少なさでした。登山ルートや登山口までのアクセス情報はインターネットにもほとんど見当たらず、未知の世界に飛び込むような、ワクワクと緊張が入り混じる感覚でした。
キャンピングカーで本当にたどり着けるのか?、駐車できる場所はあるのか?、これまで以上に情報収集に時間と手間がかかり、訪れる人もごくわずか、という雰囲気が漂っていました。

村へ向かう道中の山道は、曲がりくねった道が続き、奥に進むたび「この先に本当に最高峰へと続く村があるのだろうか…」というドキドキでいっぱいでした。
ラドミレの村に到着すると、そこは小さな集落のようで、地元の人たちがひっそりと暮らし、日常生活の気配だけがそっと残る場所でした。専用の駐車場などないため、事前にホテル・ラドミレに連絡を取り、ホテルの駐車場での車中泊の許可をいただきました。オーナーの方はとても親切で、この地域のことを教えてくれたり、トイレを自由に使っていいと声をかけてくれたりと、温かく迎えてくれました。

コラブ山の頂上を目指して登山スタート


翌朝、私たちはコラブ山の頂上を目指して歩き出しました。スタート地点のラドミレからのルートは、往復約16km、標高差約1,400m、所要時間はおよそ7時間とされています。危険な箇所はほとんどなく、比較的登りやすいルートで、登山初心者でもチャレンジしやすい山です。

序盤は緩やかな登りが続く登山道で、人工物が一切ない、手付かずの自然の中を進んでいきます。
私たちが訪れたのは10月下旬。灰色の岩肌と、秋色に染まり始めた草原のコントラストが印象的で、整備されたアルプスの山々とはまた違う、どこか野性味のある風景が広がっていました。

これまでヨーロッパ各地の山を登ってきましたが、国や地域が変わると、出会う動植物や広がる風景も驚くほど違います。そんな自然の違いを観察するのも、各国の最高峰を巡る旅の楽しみのひとつです。

登山道では、黒い体に黄色い斑点が特徴のファイアサラマンダーを何度も見かけました。この地域特有のイモリの仲間で、皮膚から弱い毒を出すので触れないように要注意!
道中に人の姿はほとんどなく、静寂の中ほぼ貸切状態で歩くことができました。周りには岩稜や草原の風景がどこまでも続き、後ろを振り返ると遠くに見える山並みが息をのむほど美しく、歩きながら何度も立ち止まって景色を眺めてしまいました。


登山の中盤に差しかかると、晴天だったのに天気が徐々に変わり始め、周囲は深い霧に覆われてしまいました。視界はあたり一面、真っ白な世界に変わってしまい、神秘的で少し緊張感のある雰囲気です。地図アプリで現在地をしっかり確認していきながら、迷わないように一歩一歩慎重に進んでいきました。

アルバニア&北マケドニア、2つの国のてっぺんへ
終盤に差しかかると、やがてアルバニアと北マケドニアの国境にあたる稜線へと出ました。右手には北マケドニア、そして左手はアルバニア。2つの国の間を歩いていると思うと、なんとも不思議な気分です。

ここからは、頂上に向かってなだらかな尾根道を進んでいきます。ところが、稜線に出た途端、風は一気に強まり、みぞれまで振り始めました。体に叩きつける冷たい風とみぞれに、思わず身をすくめてしまうほどの寒さです。それでも頂上はもうすぐそこ。

風に飛ばされそうになりながらも足を早め、最後のひと登りを越えると、ついにコラブ山の頂上に到着です。

頂上に立った瞬間、さっきまでの吹雪が嘘かのようにぴたりと風が止み、周囲は驚くほど穏やかな空気に包まれました。残念ながら、あたり一面は濃い霧に覆われていて、頂上からの景色を見ることはできませんでした。それでも、派手な絶景はなくても、この山に登り切ったという深い達成感が胸に広がります。

ここはアルバニアと北マケドニア、2つの国の最高地点。2カ国の“てっぺん”に同時に立っていると思うと、なんとも不思議な感覚です。静かな頂上でしばらくその余韻を味わいながら、私たちは2つの国のてっぺんに立った喜びをかみしめていました。

ヨーロッパ最後の秘境で感じた、大自然のスケール
コラブ山は、2つの国の最高峰ではありますが、ヨーロッパの山としてはまだ知名度が高いとは言えず、登山者も多くありません。だからこそ、観光地化されていない静けさと、手つかずの自然がそのまま残されており、「ああ、まだこんなヨーロッパが残っていたんだ」と感じられました。
ダイナミックな山々に野性的でスケールの大きな自然。その空気を全身で感じながら歩く時間は、とても貴重な体験となりました。
キャンピングカーでヨーロッパを巡りながら、各国の最高峰に登る私たちの旅はまだまだ続きます。次はどの国の“てっぺん”に立てるのか。次回の旅もお楽しみに。









