2025年秋、斉藤さんはアメリカ東北部のウィスコンシン州にある「アイスエイジ・トレイル」に挑みました。その1,200マイル(1,900km)のアイスエイジ・トレイルに挑戦した様子を、斉藤さん自身によるレポートで紹介します。
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【プロハイカー・斉藤正史の「アイスエイジ・トレイル」レポート」vol.4】
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恒例(?)の出発前のドタバタ
前回は、ロングトレイルに出発する前の事前準備や計画について述べました。今回は、いよいよ日本を離れます。が、日本を発つ2、3日前の時点でも、いくつかの問題が未解決でした。大きかったのは、宿泊場所についてです。
僕はウィスコンシン州にあるアイスエイジ・トレイルを9月から11月にかけて歩く予定ですが、10月になるとルート上の多くのキャンプ場が閉鎖することが発覚したのです。ちょうど紅葉が見ごろを迎える時期ですが、ウィスコンシン州はアメリカの東北部に位置し、北海道とほぼ同じ緯度です。10月になると気温もぐっと下がります。アウトドア的にはシーズンオフになり、キャンプ場も閉まってしまうのかもしれません。
それならばと周辺で安宿を探したのですが、なかなか見つかりません。こうなると、キャンプ場以外の場所でテント泊するステルスキャンプか…。
でも、アメリカのロングトレイル周辺では、ステルスキャンプがOKのところも逆に法律にふれてしまうところもあります(日本も同じですが)。経験上、現地でもステルスキャンプの可否の見極めが難しいことは身をもって知っています。
朝から長距離を歩き、ようやくたどり着いた目的地周辺でテントを張れる場所を求めてウロウロするなんて、何としても避けたい事態です。だからこそ、出発前に宿泊場所の目星だけでもつけたかったのですが…。

結局、パソコンのモニターに目をこらして宿泊場所を探しているうちに9月10日を迎えてしまいました。自宅のある山形から、夜行バスで羽田空港を目指して東京に向かいます。
まずは上野に到着し、ネットカフェで数時間の仮眠をとりました。目覚めて、これまで何度も見返したエアチケットを再確認します。ん? 出発地にNRTと記されています。慌てて予約メールを確認すると、確かに出発地は成田空港となっていて、帰りの到着地が羽田空港でした。慌てて電車に乗り、成田に向かいます。自分で自分に向かって激しく舌打ちしながら。
いつもは事前に荷物を空港に送るのですが、今回は全て機内に持ち込む予定だったので持参していました。出発時刻にも間に合ったし、いろいろ結果オーライです。この時点では知る由もありませんが、この日の羽田は荒天でいくつかの便が欠航したそうです。NRT出発で良かった…。自分で自分を信用できない事態を招いてしまいましたが、この日の僕はツイていたのかもしれません。

この連載のvol.1でも記しましたが、僕は少ない予算をやりくりしながらロングトレイルへの挑戦を続けています。エチケットも、少しでも安いものを血眼になって探します。今回のアメリカ渡航で利用したのは、エバー航空という台湾の航空会社でした。成田からアメリカへの直行便ではなく、台北の桃園空港でのトランジットがあります。
ふつうに考えたら、直行便に越したことはないのかもしれません。でも、僕にとって、桃園空港への立ち寄りは喜ばしいことでした。僕は2022年12月から翌年1月にかけて、ロングトレイル関連のイベントに招かれて台湾を訪れました。なので、旅客機の小さな窓から眺めるだけとはいえ、桃園空港への再訪をうれしく思っていたのです。しかも、台北からカリフォルニアまでは、機内はそこそこ混んでいるにも関わらず、なぜか僕は3列シートにひとりだけという広々空間での空の旅でした。

カリフォルニアに着くと、すぐにアメリカの国内便に乗り換えます。アメリカの空港では、入国審査も搭乗手続きもとにかく時間がかかります。しかも、約2カ月のロングトレイルのためにまあまあ大きな荷物を抱えていますし、これまでの経験から怪しまれて足止めを食うのは覚悟の上です。
でも、今回はなぜか拍子抜けするほどスムーズにことが運び、20分足らずで入国審査が終了。気づけば、あっさりアイスエイジ・トレイルの西の玄関口といえるミネアポリス行の便に乗り込んでいました。
羽田と成田を間違えるという出国前のバタバタがウソのようです。もう、ここから先は目がくらむほど輝かしい未来が待っているのではと思ってしまいました。
隅々まで残念が詰まっているようなモーテルの部屋
でも、好事魔多しというか、僕の明るく前向きな気分は長続きしませんでした。ミネアポリス国際空港に到着したのは深夜。空港のベンチで仮眠し、夜明けを待って近くのモーテルまで歩きました。

モーテルのチェックインまで数時間ありますが、荷物を抱えたまま散策するのは面倒です。先に荷物だけ預かってもらえないかと尋ねましたが、カウンターにいたスタッフは無愛想に「昼過ぎでないと預かれないと思います」と他人事のような回答。仕方なくモーテルの近くで適当に時間をつぶし、昼近くに再び荷物を預かってほしいとお願いしました。すると、朝とは別のスタッフがあっさりOKしてくれました。
ミネアポリスの市街地に出向き、アメリカではおなじみのアウトドアショップ「REI」をのぞいたり、食料品を買い出ししたりして、あらためてモーテルに戻ります。まだチェックインの時間には早かったのですが、尋ねたらあっさり部屋に案内されました。じゃあ、何で朝から待たされていたんだろう…。
部屋に入ると、掃除をしていない排水溝のようなニオイが漂っています。気分転換にコーヒーを飲もうと思ったのですが、前の宿泊客が使ったままなのか、コーヒーメーカーがミルクでべったり汚れていました。他にも、ティッシュペーパーのケースだけで中身がなかったり、ハンガー掛けが壊れていたり、「モーテルの部屋がこんな感じだったら嫌だ」ベスト10を現実化したしたような感じです…。

後々、アメリカでは格安モーテルが転売されることも多く、しかも新規オーナーはリノベーションなどをしないまま営業を続けるケースも珍しくないと聞きました。利用客も、とにかく宿泊料が安いんだからと、多少のことには目をつむって泊まるのかもしれません。
でも、たとえ1泊でも不快な部屋に寝泊まりすると、肉体的にも精神的にも影響を及ぼします。いくら予算に余裕がないとはいえ、宿泊料だけを基準にした宿選びはやめた方がいいのかもしれません。とはいえ、いくらネットで細かくチェックしても、現地に行ってみるまでモーテルがアタリかどうか分からなかったりするのですが…。
ともかく、気持ちを切り替えて前向きにアイスエイジ・トレイルを歩こう。そう自分にいい聞かせ、翌日のトレイルのスタートに備えてハズレの部屋に泊まったのでした。

※この日の移動の様子などは動画でもご覧いただけます。





