今回目指すのは、ギリシャの最高峰・オリンポス山です。ギリシャ神話でゼウスをはじめとする、神々が暮らしたとされる山。まさか自分たちの足で、「神々の住処」と呼ばれる神聖な領域へ踏み込む日が来るなんて…。
空想の世界ではなく、確かに“現実の山”として実在したオリンポス山。神々の山に挑んだ、私たちの登山記をお届けします。
オリンポス山ってどんな山?

ギリシャ北部にそびえるMount Olympus(オリンポス山)は、標高2,918mを誇るギリシャ最高峰です。古代から特別な存在として語り継がれており、ギリシャ神話では雷を操る全能の神ゼウスをはじめ、海の神ポセイドンや、知恵と戦略の女神アテネなど、オリンポス12神が暮らす「神々の住処」とされてきました。
山の頂に神々が集い、人間界を見下ろしていると信じられてきました。雲を突き抜ける険しい岩峰、しばしば発生する濃霧、激しく変わる山の気候。その圧倒的な自然の力は、全てが神々の仕業だと語られ、“人間が簡単には近づけない神聖な領域”とされてきました。
3つの主要ピーク

オリンポス山はひとつの項ではなく、いくつもの峰が連なる山塊です。なかでも代表的なのが、最高地点のミティカス峰(2,918m)、スカラ峰(約2,866m)とスコーリオ峰(約2,911m)の3つです。
ミティカスはオリンポスの最高地点でもあり、多くの登山者の憧れ。切れ落ちた岩稜の先にある、アルパイン色の強いピークで、険しい岩場の通過があるため、ヘルメットやハーネスなどの着用が推奨されています。一方、スカラとスコーリオは難易度がやや抑えられており、比較的アクセスしやすく、多くの登山者がこちらの2つのピークを目指します。
オリンポスの周辺にはいくつものルートがあり、日帰りや一泊などさまざまなルートから山頂を目指すことができます。私たちは最もポピュラーな、プリオニアから登ることにしました。一般的には途中の山小屋に1泊し、2日で山頂を目指すのが主流ですが、私たちは日帰りで挑戦することに。
往復距離約19km、標高差1,800m、行程時間約11時間。一気に高度を上げ、想像以上に体力を削っていくロングコースとなりました。
神々の山、オリンポスを目指して登山スタート

オリンポス山への挑戦は、プリオニアの登山口から始まります。ここには駐車場やレストラン、トイレと設備も整っていて、登山の拠点としてはとても便利です。
私たちは前日のうちに登山口近くにキャンピングカーを停め、そこで一泊しました。頂上までは長い道のりになると分かっていたので、朝6時に登山を開始。登ったのは10月中旬で、日が短くなりはじめていたため、外はまだ暗く、朝の空気はぐっと冷え込んでいました。

ヘッドライトの灯りを頼りに、静かな森へと足を踏み入れます。ただ、2人きりの寂しい出発ではありませんでした…。プリオニアのレストラン周辺には数匹の犬が住み着いていて、そのうちの一匹が何故か私たちにすっかり懐いてくれたのです。前夜はキャンピングカーの隣で丸くなって眠り、朝になると当然のように一緒に歩き出しました。
暗闇の中、私たちの先頭を歩き、ときどき立ち止まり、振り返ってこちらを確認。まるで「ほら、早く!こっちだよ」と道案内をしてくれているかのようでした。

序盤は深い森の中を進みます。オリンポスは世界的にも知られた山だけあって、トレイルはよく整備され、標識も明確でヘッドライトの光の中でも迷う不安はありません。それでも、暗闇の中を歩くのは少し緊張するもの。だからこそ、頼もしい“案内犬”の存在がとても心強かったです。
歩き始めて1時間ほどで、空がゆっくりと明るくなり、木々の間から暖かい朝日が差し込み始めました。夜が明ける瞬間の山は、いつだって特別です。澄んだ空気の中、木々の間から見え隠れする朝日で染まった遠くの山並みに目を奪われ、暗闇とは違う、穏やかな森の目覚めを感じました。


さらに高度を上げ、歩き続けること3時間。標高2,100mに位置する、Spilios Agapitos小屋に到着しました。ここには、宿泊施設やレストラン、テント場もあり、ここで1泊して山頂を目指す登山者がほとんどです。テラスにはすでに世界中から集まった多くのハイカーたちが思い思いに休憩しており、国際交流の場のような、賑やかな雰囲気に包まれていました。

私たちもここで少し休憩し、残りの道のりに備えることにしました。
天空の稜線を目指してスカラへ

山小屋でひと息ついたあと、いよいよ山頂へ向けて再び歩き出します。登山口からここまで一緒に登ってきたあの犬は、小屋のスタッフとも顔なじみのようで、到着するやいなや嬉しそうに駆け寄っていきました。その後は、日向ぼっこをしながら気持ちよさそうに寝転んでいたので、ここでお別れし、私たちは頂上を目指します。

山小屋を過ぎると景色は一変。背の高い木々は次第に姿を消し、やがて森林限界へ。視界が一気に開けて、周囲には荒々しい岩肌の山々が連なります。

そしてその先に現れたのが、オリンポスの山頂部、最高地点ミティカスの鋭く切れ落ちた岩峰でした。まだ距離はあるはずなのに、その迫力に思わず息をのみます。

さらに高度を上げていくと、振り返った先に広がるのは、山並みの向こうにかすかにきらめくエーゲ海です。山と海が同時に見える風景は、これまで登ってきた山とはまた違ったスケール感で、ギリシャであることを強く実感させてくれます。


目的地のスカラの頂上は、もう目の前に見えています。けれど最後に待っていたのは、想像以上にきつい急登。足場の不安定なガレ場を、一歩一歩、呼吸を整えながら進みます。

ギリシャのてっぺん!あと一歩、届かぬ頂を目の前に…

そして登り始めてから5時間半。ついにオリンポスを構成するピークのひとつ、スカラに到着です。胸の奥からじわりと達成感が込み上げてきて言葉になりませんでした。
スカラの頂上に立ち、まず目に飛び込んできたのが、壮大にそびえる最高地点のミティカスでした。まさにオリンポスの象徴で、鋭く切れ落ちた岩壁は、登る者を試すかのような佇まいです。夏でもスリリングだと言われる、手も使って岩をよじ登るスクランブリングルートは、遠目からでもその険しさが伝わってきました。

一方で、反対側に広がるスコーリオは、どっしりと構えた広いピーク。スカラから続く稜線の延長上にあり、比較的簡単に歩いて辿り着くことができます。
私たちは当初、ここからミティカスを目指す予定でした。そのためにロープやハーネス、アイゼン、ピッケルなど万全の装備を準備してきました。しかし、数日前に季節外れの大寒波が押し寄せ、山頂へと続く岩場のルートは完全に雪に覆われていました。

スカラやスコーリオには多くの登山者の姿があるのに、ミティカスへ向かう者はひとりもおらず、その難易度の高さを物語っていました。途中ですれ違ったガイド付きのグループからも「今は雪で滑りやすく、危険だからやめた方がいい」と忠告を受けました。登りたい気持ちはありましたが、ここは安全を第一に考え、登頂を諦める決断をしました。

スカラからの景色は、それでも十分に壮大で、とても登り甲斐がありました。眼下には雲海が広がり、まるで空の上。壮大な山々に、遠くにきらめくエーゲ海、頭上にはどこまでも高い空。「ギリシャのてっぺんに立った」そんな実感が胸いっぱいに広がり、心に刻まれる体験となりました。
神々の山が教えてくれたこと
オリンポスの最高地点ミティカスまでは届きませんでしたが、それでもスカラの頂まで辿り着き、ギリシャのてっぺんに立つという目標は達成できました。今回改めて感じたのは、山はいつでも学びと挑戦の場であるということです。
人間の力ではどうにもならない自然の大きさと厳しさ、そしてその美しさに触れることができ、なぜここが「神々の住処」と呼ばれてきたのか、肌で感じることができました。
これからも私たちはキャンピングカーでヨーロッパを旅しながら、各国の最高峰に挑み続けます。次はどんな冒険が待っているのか、どうぞお楽しみに。








