2025年秋、斉藤さんはアメリカ東北部のウィスコンシン州にある「アイスエイジ・トレイル」に挑みました。その1,200マイル(1,900km)のアイスエイジ・トレイルに挑戦した様子を、斉藤さん自身によるレポートで紹介します。
- Text
【プロハイカー・斉藤正史の「アイスエイジ・トレイル」レポート」vol.2】
■前回はこちら■
前回、2025年にアイスエイジ・トレイルに挑むことにした理由を述べました。トレイルの距離、つまり踏破するためにかかる滞在日数が大きな決め手のひとつです。
決定した時点では、目的のトレイルの詳細までは把握していません。たいていは「歩くぞ」と決めてから、「どんなトレイルなんだろう」と調べ始めます。ところでアイスエイジ・トレイルって、どんなところなんだろう…。
アイスエイジ・トレイルが誕生した背景
アイスエイジ・トレイルのあるアメリカ・ウィスコンシン州一帯は、12,000年以上前に巨大な氷河の流れによって特殊な地形が形成されました。こうしたウィスコンシン州の地形は、氷河がどのように地球上の地形を形成してきたかを示す例として、世界的にも希少なものとされています。
アイスエイジ・トレイルの始まりは、1950年代にさかのぼります。ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のレイ・ジルマーという人物の構想からスタートしました。彼は、先述した氷河によって生み出された地形の南端に沿ってウィスコンシン州を縦断する直線的なトレイルを構想していたそうです。
ただし、残念ながらレイ・ジルマーの死去によって、氷河による地形の保護を兼ねたトレイルの整備計画はいったん頓挫します。それでも彼の支持者をはじめ、ウィスコンシン州や国立公園の担当者などが計画の検討を重ねます。1964年には、レイ・ジルマーの構想をベースにした氷河期国立科学保護区に関する法案がアメリカ連邦議会を通過しました。
その後、レイ・ジルマーによるトレイル構想を実現するため、協会が設立されます。そして、1980年にアイスエイジ・トレイルはアメリカ連邦政府によって正式にナショナル・シーニック・トレイルに指定されました。
※ナショナル・シーニック・トレイルについては、前回の記事を参照してください。

上記のような背景から誕生したアイスエイジ・トレイルは、ウィスコンシン州内の最後の氷河期の堆石跡をたどるようなルートが取られています。その全長は、約1,200マイル(約1,900km)。
「scenic」(景色)トレイルという名の通り、ウィスコンシン州の美しい景観が広がる森林などの自然の中を歩くルートですが、一部区間は市街地も通ります。これは意図的なもので、トレイルを歩くハイカーと地域社会とが交流を図れるようにあえて街の中心地も通っているそうです。
そんなアイスエイジ・トレイルの西の起点は、ミネソタ州ミネアポリスからほど近い州境の町、セント・クロア・フォールズ。一方、東の起点は、アメリカ五大湖の一つであるミシガン湖に面したスタージョン・ベイです。念のためにいうと、ロングトレイルではどちらの起点から歩き始めてもOKです。アイスエイジ・トレイルはウィスコンシン州内で完結し、全70群のうち30群を通るそうです。

出典:ICE AGE TRAIL ALLIANCE(https://www.iceagetrail.org/)
そもそもウィスコンシン州って?
ここまでアイスエイジ・トレイルの説明で、何度もウィスコンシン州と記してきました。今では「ウィ」と打つと、予測変換候補のトップに「ウィスコンシン州」が出てきます。ただ、そもそもウィスコンシン州がどういったところなのか、不勉強にして知りません。
早速、検索してみると「千葉ウィスコンシン協会」というサイトが見つかりました。どういうことかと思ったら、1990年に千葉県とウィスコンシン州が姉妹県州を提携したそうです。何でかと思ったら、千葉県野田市に本社を構えるキッコーマンが海外の生産拠点として1973年にウィスコンシン州に工場を開設したことから関係ができたとか。いきなり、日本とウィスコンシン州との意外なつながりを知り、驚きました。
では、そんなウィスコンシン州はどんなところかというと、千葉ウィスコンシン協会のサイトに簡潔にまとめられていました。ウィスコンシン州があるのは、アメリカ東北部の五大湖のそば。緯度が高いので夏は過ごしやすいですが、冬の寒さは厳しく、1月の夜間は−20度以下になることも珍しくないとか。

出典:千葉ウィスコンシン協会(https://chiba-wisconsin.net/wisconsin-guide/)
ところで、アメリカの25セント硬貨の裏面には、各州の特徴を表すような図柄が描かれています。ウィスコンシン州の25セント硬貨はというと、図柄になっているのは乳牛とチーズとトウモロコシ。農業、特に酪農が盛んな地域のようです。ちなみに、ハーレーダビッドソンの本社もウィスコンシン州ミルウォーキーにあります。

何か他にも日本人にも関係のあるものがないのかと調べていたら、アニメ「あらいぐまラスカル」の舞台がウィスコンシン州だとか。急にウィスコンシン州に対して親近感がわいてきました。
で、いつ歩き始めるのか?
ここまでアイスエイジ・トレイルとウィスコンシン州について調べてきて、ひとつの悩ましい問題が浮上してきました。それは、トレイルのスタートを、夏にするか、秋にするか、という選択です。
ウィスコンシン州は五大湖など水辺の多い地域なので、暑い時期は大量の蚊の発生が予想されます。海外で一度ならず大群に襲われたことがある身としては、蚊との遭遇は避けたいところです。

だからといって秋に歩き始めるとすると、今度は寒暖差の問題に対処しなければなりません。先述したようなウィスコンシン州の厳しい寒さを前提にウェアや寝袋などを用意するとなると、当然ながら荷物がかさばります。
蚊とのふれあいは避けたいけど、荷物は増やしたくない…。悩んだ結果、9月中旬から11月中旬にかけて歩くことにしました。暑さが少し落ち着いてから歩き始め、寒さが厳しくなる前に歩き終える、という計画です。この時期ならきれいな紅葉を目にできるのでは、という目論見もありました。
何事もそうですが、計画段階では楽しい未来を好き勝手に思い描けます。でも、特に自然が舞台のアウトドアでは、計画通りにいくことなんて、あまりありません。はたして、僕のアイスエイジ・トレイルはどうなったのでしょうか…?
なお、今回アイスエイジ・トレイルに挑むにあたり、ウェアにについてはコロンビアに協力していただきました。着回しなどを参照したい方は、こちらの記事をご覧ください(アイスエイジ・トレイルをどう歩いたかといったことも語っているので、ネタバレを気にされる方はご遠慮ください)。

※アイスエイジ・トレイルに持っていったウェアやギアは動画でもご覧いただけます。





