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特別な鳴き方をする屋久島のツクツクボウシ

僕が屋久島に通い始めてから、もう60年以上が経ちます。中学校に行くのがイヤで(今でいう不登校児です)、部屋に引きこもってラジオでアメリカン・ポップスを終日聴いているかと思えば、突然、北アルプスに行って山小屋でバイトをしたり、テントを張って山々を徘徊したり…。
そんなとき、アウトドア雑誌に「日本の秘境・屋久島」が紹介されていたのを見ました。それがきっかけで、そうだ、屋久島に行こう! と旅立って、それから今日に至るまで、通い続けることになったのです。
ホ~シ、ツクツク+終楽章が基本パターン

秋遅くまで鳴き続けるツクツクボウシは、セミの中でも最も音楽的といってもよい2部構成の鳴き声から成ります。前半は、おなじみの「ホ~シ、ツクツク」(「ツクツク、ホーシ」と聴きなす人もいるでしょう)。それを20回あまり繰り返し、突然メロディーが一変します。後半の「ウイー、ホーシー」(あるいは「フィ、ヨーシー」など人によって表記の仕方は様々)は、通常3~5回繰り返します(少ないときは2回、多いときには6回以上と幅があります)。後半の鳴き方そのものが完全になくなってしまうことは(邪魔が入ったりして中断してしまう場合を除き)、100%ありません。 本州の北部から九州の南端までの、数十か所、何千頭ものツクツクボウシの鳴き声を録音・分析しましたが、基本的なパターンはどこでも同じでした。
黒島~屋久島エリアのツクツクホウシは「言語」が異なる

ところが、屋久島および、西隣の口永良部島と、西北の三島列島(黒島、竹島、硫黄島)産は全く異なります。後半が完全に欠如し、全ての個体が例外なく前半だけの1部構成で鳴き終えるのです。ここでは詳細は略しますが、後半のメロディーが欠如するだけでなく、全体の構成や音数のバランスも、顕著に異なります。


読者の方は、「人間の言葉に置き換えれば「方言」ですね!」と思うかも知れません。しかし、そうではありません。これは、学習や環境への適応によって変化する「方言」とは、まったく性質が違います。一度身につくと元に戻ることがないという意味では、「言語」に近いものと考えられます。そしてさらに考えてみると、こうした特徴は、おそらく遺伝によって受け継がれ、世代を超えて安定して保たれているのではないでしょうか。
となりの種子島や南のトカラ列島では本土と同じ鳴き方

さらに興味深いことがあります。ツクツクボウシは屋久島の東隣の種子島や、南に連なるトカラ列島まで分布しているのですが、それらの島々では、屋久島産とは異なる、後半部を備えた本土タイプの2部構成の鳴き声なのです。
屋久島の周辺には、屋久島、種子島、口永良部島、三島列島、トカラ列島など、いくつもの島があります。そして面白いことに、生き物の種類ごとに、どの島にどんな種類が分布しているのか、その組み合わせが違います。大まかに見ると、「屋久島と種子島」に共通するグループと、「三島列島、口永良部島、トカラ列島」などトカラ火山列島に共通するグループに分けられることが多いようです。ところが、ツクツクボウシの鳴き声に関しては、屋久島と三島列島、口永良部島が共通するのです。
ツクツクボウシに関しては、以下のような組み合わせ、「屋久島+三島列島+口永良部島」と「九州本土+種子島+トカラ列島」となります。

三島列島の西端の黒島は、屋久島からの最短距離62㎞。島内には牛が放牧されていて、50年以上前、僕の最初の渡島時には、牛と一緒にクレーンに吊り上げられて(!)渡し船に移され上陸した覚えがあります。
黒島は「ミニ屋久島」と称されることからも知れるように、その生物相は実に魅力的で、一例を挙げると、お寿司や弁当の中仕切りに利用される緑の葉っぱ(バラン)の由来、「ハラン」が生育する、世界でたった3か所しかない自生地(黒島、宇治群島向島、トカラ列島・諏訪之瀬島)のひとつ。また、野生ササ(スズタケ)の分布南限地、オキナワテイショウソウほか幾つかの動植物の分布北限地、トカラカンアオイなどトカラ火山列島に跨る地域固有植物、等々。
一方、屋久島の西南、最短距離56㎞に位置するトカラ列島北端(無人島としてはさらに北に灯台のある平瀬)の口之島のツクツクボウシは、ひとつ南の中之島産と同じく日本本土と共通の鳴き声。黒島と口之島は、屋久島からの距離も、面積(15㎢/13㎢)も標高(622m/627m)もほぼ等しく、僕は常にセットで探索を心がけています。僕のライフワークの一つであるトカラアジサイをはじめ、2つの島の類似点と相違点を探ることは、とても興味深いのです。
無人島調査でわかった、教科書とは違う複雑な組み合わせ
三島列島の三島村も、トカラ列島の十島村も、全島探索に際しては、いちいち鹿児島港に戻ったり、一度下船すると、次の船便との調節が難しかったり、なかなかに困難を伴います。ちなみに、両村とも、役場は鹿児島市内の港の近くに隣り合ってあります(口永良部島は屋久島町)。
トカラ列島では南端の無人島・横当島(よこあてじま)にもツクツクボウシは記録されているのですが、横当島にほんとうにいるのでしょうか。さらに南にある奄美大島(屋久島‐口之島間とほぼ同様の最短距離57㎞)以南には分布しないことから意外に思い、確かめてみることにしました。
釣り人たちがチャーターした漁船に便乗させてもらい、ひとり横当島に上陸してテントで夜を過ごし、翌朝、2つある山の片方の頂上を探索し、背の低い樹木が密集した林の中で鳴く数匹の声を録音しました。吹き付ける強風の影響なのか、前半部が短くスピードが遅いものの、やはり、日本本土産と同じ2部構成の鳴き声だったのです。
教科書的には、トカラ列島の悪石島と小宝島の間で、生物の分布区系が入れ替わるとされています。それに従えば横当島にはひとつ北の宝島とともに、奄美大島以南の東洋区の生物がすんでいることになりますが、ツクツクボウシに関しては日本本土と同じ旧北区に属することになります。教科書の記述やさまざまな定義などというのは、常に例外を伴っていて「答え」は一つではない、ということが分かります。








