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山本高樹の台湾鉄道環島旅・第11回:台東と花蓮
台湾という島は、標高3000メートルを超える高山がいくつも連なる山脈が、南北に走っています。山脈の西側の地形は比較的開けていて、平野部が多くあるのですが、山脈の東側は、海岸線のすぐそばまで山々が迫る、険しい地形のところが大半です。
屏東(ピンドン)の街で1泊した後、僕は再び列車に乗って、台湾の南東の端にある街、台東に移動しました。台東は屏東のほぼ真東にあり、直線距離は70キロ程度とそこまで遠くないのですが、線路は険しい山々を避けて南から迂回する形を取っているため、特急列車でも2時間ほどかかりました。
台東が県庁所在地となる台東県は、先住民族である台湾原住民の人口が全体の3分の1を占めるそうで、アミ(阿美)族やプユマ(卑南)族、パイワン(排湾)族、ブヌン(布農)族、ルカイ(魯凱)族などの人々が暮らしています。台東の街自体の人口は10万人程度で、街を歩いていても、至極のんびりとした雰囲気が漂っています。

台東では2泊したのですが、到着した日は雨、翌日も曇り時々雨と、あいにくの天気が続きました。2日目の朝、雨が止んだのを見計らって、宿から海岸線まで歩いて行ってみました。晴れていれば、紺碧の太平洋から打ち寄せる白波が見られたはずですが、この日は鉛色の海。それでも、海沿いには地元の人々や旅行者の姿もちらほらあって、それぞれ重い思いに海を眺めていました。そういえば、海岸沿いにあった海の家のような佇まいの食堂では、朝からすごい大音量でカラオケを歌ってる人たちもいました(笑)。

街を歩いている時に、ちょっと変わったオブジェのようなものを見つけました。コンクリートの塀の角に、色とりどりのパイプがくねくねと這わせてあるのですが、よく見ると、伝声管のようになっています。塀に描かれている男の子の絵で、そうとわかりました。これは面白いアイデアですね。

海沿いの公園のすぐ近くにあった、黄記葱油餅(ホアンジーツォンヨウビン)という店に行列ができていたので、きっとおいしいのだろうな、と思い、僕も買ってみることに。葱油餅(ツォンヨウビン)は、小麦粉を練った生地に油を塗ってたっぷりのネギを散らして巻き込み、鉄板で焼いたスナック。この店では、卵はなし、1個、2個のいずれかで選べるので、卵 2個でオーダーしてみました。
もちっとした食感の生地が、ネギやバジルの風味とよく合いますね〜。ダブルにした卵で満足度がさらにアップ。たっぷりかかっている甘辛いたれもおいしいんですが、気をつけないとぽたぽた垂れてくるので、お店で渡される時に入れてくれるビニール袋からは出さないで食べるのが正解のようです。

この地域では米の栽培が盛んだそうで、地元でもよく食べられているようです。台東の名物として知られているのは、米篩目(ビータイバッ)という米麺を使った料理。水挽きした米を片栗粉と合わせて固め、穴の空いた金属板から押し出して作る、太めの米麺だそうです。写真のように汁麺にしたり、汁なし麺にしたり、あるいはかき氷に合わせてスイーツにする食べ方もあるとか。柔らかめのうどんを思わせる素朴で優しい味わいで、おいしかったです。
花蓮の七星潭で、紺碧の太平洋に出会う

台東からは、普悠瑪(プユマ)号という特急列車に乗って、台湾の東岸を一気に160キロほど北上することにしました。この列車、サル顔とか赤いアヒルとか呼ばれているそうで、面白いデザインですね。

列車の席で食べようと買った駅弁、台鉄弁当。今回は鶏もも肉がどーんと入った弁当にしてみました。すごくおいしいんですが、何しろ、もも肉がでかすぎるので、ほかのおかずを先に食べてしまわないと、どうにも食べづらいという……(苦笑)。おまけに、普悠瑪号はかなりのスピードで走る上に結構揺れるので、こぼさないように食べ切るのに、だいぶ苦労しました。

到着したのは、花蓮の街。ここも、アミ族やブヌン族などの台湾原住民の人々が暮らしてきた土地で、彼らは今も、花蓮県の人口の4分の1を占めています。港や街が形作られたのは、日本統治時代になってからのことだそうです。
台東もそうでしたが、花蓮の街も、どこかのびのびとした雰囲気があるように感じます。一人でぷらぷら歩いていても、道ゆくおばちゃんや子供たちに普通に話しかけられたり。たまたまだったのかもしれませんが、台湾でもひときわ人なつこい人たちが暮らしているのかな、という印象でした。

花蓮の街をぶらついていて通りがかったのが、花蓮文化創意産業園区。日本統治時代に作られた酒工場の建物をリノベーションして、ホールやイベントスペース、ショップ、カフェなどに再利用しているスポットです。
台湾では近年、文創(ウェンチュアン、文化創意産業)という、台湾的な歴史や伝統文化を大切にしつつ、それらをアートやデザインなどの新たな創造に活かそうというコンセプトが社会に浸透してきているそうで、こうした歴史的建築物の保存と再利用は、台湾各地で盛んに行われています。

花蓮滞在中の晴れた日の朝、近郊の名所、七星潭(チーシンタン)に路線バスで行ってみることにしました。七星潭は、花蓮の街から北に15キロほど離れた場所にある浜辺の名称で、バスから降り立ってみると、ぽつぽつと立つヤシの木の向こうに、青く澄んだ太平洋が見えました。

ゆるやかな弧を描く浜辺に、水平線の彼方から、規則正しく波が打ち寄せ、白く砕けます。晴れた日の太平洋の美しさを見届けることができてよかった……と、少しほっとしました。
七星潭のすぐ近くには、空港があって、この日の朝の時間帯は、軍の戦闘機がひっきりなしに離発着の訓練をくりかえし、ジェットエンジンの轟音を轟かせていました。頭上を旋回する鋭利な戦闘機の姿は、台湾という国が置かれている複雑で脆弱な立場を思い起こさせるものでもありました。

花蓮で名物とされている料理は、ワンタン。台湾では、扁食(ビェンシー)と呼ばれているそうです。市街の中心部から、泊まっていた安宿まで歩いて戻る途中に、たまたま通りがかって見つけた、花蓮香扁食(ホワリエンシアンビェンシー)という食堂で食べたエビのワンタンが、ボリュームたっぷりのぷりっぷりで、めちゃめちゃおいしくて……。以降、毎日、晩ごはんは同じ食堂でエビワンタンを食べるようになりました。店の人たちもすごく親切で、毎回、言葉が通じないながらもあれこれ気を配ってくれて、うれしかったです。





