巨岩迷宮「オールドラグ」へ!アメリカ東海岸屈指の名所かつ難所でロックハイクを堪能 | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

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2026.05.28

巨岩迷宮「オールドラグ」へ!アメリカ東海岸屈指の名所かつ難所でロックハイクを堪能

巨岩迷宮「オールドラグ」へ!アメリカ東海岸屈指の名所かつ難所でロックハイクを堪能
巨岩に両手をかけ、全身を使って岩の隙間によじ登る。振り返ると、ブルーリッジ山脈の稜線が雲の向こうまで続いていました。

アメリカ東海岸屈指の難関ロックハイクとして知られる、バージニア州のオールドラグマウンテン(Old Rag Mountain)。首都ワシントンD.C.から車でおよそ1時間半。シェナンドー国立公園内でも特に人気の高い山です。東海岸ハイカーにとっては“登竜門”的存在としても知られ、キリマンジャロなど本格登山のトレーニングとして訪れる人も少なくありません。

オールドラグ最大の魅力は、何といっても巨大な岩場を突破していくロックスクランブル。森のトレイルを進んだ先に突然現れる巨岩帯を、両手両足を使ってよじ登っていきます。しかも、山頂かと思った場所の先に、さらに岩場が続く「フェイクサミット(偽の山頂)」も名物。体力だけでなく精神力まで試される山です。

巨岩と偽の山頂が連続する“岩の迷宮”

圏外の森へ。オールドラグ登山開始

オールドラグマウンテンの入口。ここから圏外の森と巨岩の世界が始まる。

5月の金曜日、午前7時過ぎ。オールドラグ入山口近くの駐車場に到着すると、すでに駐車場は半分以上埋まっていました。

実はハイキングの2週間ほど前、連邦政府が管理する国立公園の公式サイトから「5月から9月まで工事のため駐車場を1つ閉鎖する」と連絡が来ていたのです。入山は事前予約制で、1日に入れるのは800人まで。それに対して駐車スペースは工事期間中200台以下に減るという情報もありました。

「とにかく早めに来てください」

そんな注意書きどおり、早朝到着で正解でした。

さらに、この山周辺は携帯電話がほぼ圏外。入山許可証も紙に印刷して持参しました。ところが、書類確認をするはずのブースには鍵がかかり、誰もいません。他のハイカーたちも戸惑い顔です。

「これで本当に大丈夫なのか?」

そんな空気の中、結局みな、書類を持ったまま入山していきました。いかにもアメリカのアウトドアらしい大らかさです。

森の中へ足を踏み入れると、最初は緩やかな登りが続きます。ですが、30分も歩かないうちに足元は岩だらけになりました。

聞こえるのは、小鳥の鳴き声だけ。圏外の森の静けさが、歩くことだけに意識を集中させます。

朝は肌寒かったものの、登り始めると汗が噴き出します。ですが木陰に入ると急に寒い。脱いでは着て、着ては脱ぐ。その繰り返しです。

一緒にハイクしている妻が道端に咲くカルミアの花を見つけました。

森のトレイルに現れたカルミアの花。思わず足を止める瞬間だった。

立ち止まって眺めていると、すでに下山している男性とすれ違います。

「この先はだんだん楽になるよ」

笑顔でそう声をかけてくれました。ですが、それが“励まし”だったと気づくのは、もう少し後のことです。

しばらくすると、後ろからトレッキングポールを使った男性が軽快に追い抜いていきました。

「日本人? 2か月前、日本の首相がホワイトハウスに来てたね」

そう話しかけながらも、まったく歩く速度を落としません。気づけば、あっという間に姿が見えなくなっていました。首都ワシントンD.C.近郊らしい会話です。

自分たちのペースで登り続けるうち、道はさらに険しくなっていきます。足元の小岩は、やがて巨大な岩へ。ハイキング開始からおよそ2時間後、巨岩の上から下界を見渡せる絶景ポイントにたどり着きました。

岩に腰を下ろし、しばし休憩。

巨岩に腰を下ろし、初めて開けた景色を見渡す。まだ序盤とは思えないスケール感だった。

ここでは日系アメリカ人の男性に声をかけられたり、親子連れや女性ソロハイカーたちと挨拶を交わしたりしました。アメリカの山では、見知らぬハイカー同士でも自然と会話が生まれます。

巨岩地帯突入!四つん這いのロックスクランブル

そして、ここから山の表情が一変しました。

それまで続いていたのは、高い木々と木漏れ日に包まれた穏やかな森。しかし目の前に広がっていたのは、巨大な岩石地帯でした。

ついに、オールドラグ最大の名物、ロックスクランブルです。

ここからは四つん這い。両手両足を使って、巨岩をよじ登っていきます。

巨岩の上を、四つん這いで進んでいくハイカーたち。

全身を大きく広げて岩を乗り越えたかと思えば、今度は岩と岩の狭い隙間を体を縮めて通り抜ける。どこに足を置くべきか、どこをつかむべきか。筋力だけでなく、柔軟性や集中力、ルートを見極める頭脳まで試されます。

まるで巨大な天然アスレチックです。

巨岩の上を、四つん這いで進んでいく筆者。
巨岩の狭い隙間を、体を縮めて通り抜ける。
どこに手足を置くべきか。ルートを見極めながら進む。
巨岩が連なるルートを、集中して登っていく。

「やっと山頂?」名物フェイクサミット

幾つもの巨岩を越えた先で、急に視界が開けました。

「やっと山頂か……」

そう思って、平らな巨岩に腰を下ろします。周囲では、ハイカーたちがサンドイッチを食べながら休憩していました。

我々も巨岩に座り、妻が作ったおにぎりを頬張ります。岩と風に囲まれたアメリカ東海岸の山頂で食べる日本の米。不思議なほど体に染みわたります。

草木の奥にはシカの姿も見えました。ところが、周囲をよく見ると、草木の陰にさらに奥へ続くトレイルがあります。ここは、オールドラグ名物「フェイクサミット(偽の山頂)」の1つでした。

目の前に絶景が広がれば、山頂だと思ってしまうのも無理はありません。

思わず「山頂だ」と勘違いしてしまうフェイクサミット。

気を取り直し、さらに先へ進みます。ここからが本番でした。

巨岩を越えた先に広がるブルーリッジの絶景

ロックスクランブルはさらに難易度を増し、山頂までどれくらい残っているのかもわかりません。巨岩をよじ登り、岩の隙間を抜け、何度も休憩を挟みながら前へ進みます。

どこまでも続く巨大な岩場。 
巨岩の間を抜けるルート。
巨岩迷宮は終わらない。 

頭上にはトンビ。雲は、ほとんど同じ高さです。

周囲は静まり返り、自分の呼吸音だけが聞こえます。持参した大量の水、お茶、チョコレート、そしておにぎり。どれも、ロックスクランブルで削られた体力を回復させる大切な燃料でした。

そしてついに、その瞬間が訪れます。

出発からおよそ5時間後、「オールドラグマウンテン山頂」の標識が現れました。

巨岩帯を越え、ついにオールドラグ山頂へ。

標高3291フィート(約1003メートル)。山頂もまた、巨大な岩だらけです。

平らな巨岩に座り、眼下に広がるブルーリッジ山脈の大パノラマを眺めます。どこまでも続く稜線。吹き抜ける強風。登り切った爽快感と達成感が、一気に押し寄せてきました。

登り切った瞬間の、爽快感と達成感。
巨岩の先に広がる、ブルーリッジ山脈の絶景。
巨岩の山頂に到着するハイカーたち。

山頂で食べるおにぎりが、また格別でした。

「ガンバリマショウ!」山頂で響いた日本語

30分ほど絶景を楽しみ、いよいよ下山開始です。立ち上がった瞬間、後ろから声が聞こえました。

「ガンバリマショウ!」

振り返ると、近くにいたアメリカ人男性でした。どうやら私たちの会話で日本人だとわかったらしく、「昔、日本に住んでいたんだ」と笑顔で話してくれます。

アメリカ東海岸屈指の難関ハイク。その巨岩だらけの山頂で、日本語で励まされるとは思いませんでした。

下山は、登ってきた道を戻らず、そのまま山を一周するループコースを進みます。

みるみるうちに巨岩は小さくなり、森の中を歩く穏やかなトレイルへ。登りでは岩を攻略することに必死でしたが、下山では自然を楽しむ余裕も出てきます。

トキワナズナ、ヤマツツジ、アメリカフウロ。色とりどりの花が目に入ります。

下山途中に出会った、トキワナズナの小さな花。

山頂から1時間半ほど下ると休憩所に到着しました。ところが、トイレは故障中。そんな不便さも、どこかアメリカの国立公園らしく感じます。

さらに歩くと、小川沿いの穏やかな森の道へ。キツツキの音が響き、シカの姿も見えます。東トラフアゲハやクロモジアゲハなど、多くの蝶も飛んでいました。

静かな森の中で出会ったシカ。
ヤマツツジで羽を休める東トラフアゲハ。

“また登りたい”と思わせる東海岸屈指の名ハイク

景色の変化が少ない森の道が延々と続くと、今度は足の痛みを意識し始めます。

絶景を見ている間は、疲れを忘れている。けれど、景色の変化が消えた瞬間、足の痛みだけが戻ってくる。

風景が変わると、疲れは消える。変わらなくなると、痛みだけが戻ってくる。そんなことを考えながら、小川沿いの森を黙々と歩き続けました。

そして、出発からおよそ8時間後。ようやく出発地点の入山口へ戻ってきました。

8時間のハイキングを終え、入山口へ帰還。

歩行距離は9.8マイル(約15キロ)。獲得標高は2369フィート(約722メートル)。

オールドラグは、東海岸ハイカーたちから「一生に一度は登るべき」と言われる名コースです。

巨岩をよじ登り、何度も偽の山頂にだまされ、それでも前へ進み続ける。決して楽な山ではありません。ですが、不思議と「また登りたい」と思わせる魅力があります。

あの岩場のスリルと、山頂から見たブルーリッジ山脈の稜線が、今も頭から離れません。

著者画像

阿部貴晃さん

アメリカ在住ジャーナリスト

日系メディアのワシントン支局で20年以上、国際関係の報道に携わる。2025年4月より、ワシントンD.C.を拠点とするフリージャーナリストに。米政治・社会・文化、日米関係に加え、現地の都市や暮らしについても幅広く執筆。ハイキング歴は、グランドキャニオン国立公園、アイスランド、コスタリカ、ラトビアなど。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員

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