しかし、世の中には少々変わった趣向を持つ人がいます。サンタモニカもベニスもたしかにきれいだけど、いささか人が多すぎるのではないか。あまりにもツーリスティックに過ぎるのではないか。そんな感想を抱く人がなかにはいるかもしれません。全員がそうだとは言いませんが、ある種のアウトドア愛好家には自分以外の他人が少ない場所を好むという面倒な傾向があるからです。
そんなややへそ曲がりな人に、ロサンゼルス観光の穴場と言えなくもないビーチを紹介します。あまり人には知られていませんが、遠い僻地にあるわけではありません。それどころか、ロサンゼルス国際空港(LAX)から車で10分ほど走るだけで到着する、「Dockweiler State Beach(ドックワイラー・ステート・ビーチ)」です。
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頭上を飛行機が飛んでいくビーチ

空港から車で約10分と書きましたが、それはあくまでターミナル前で車に乗り込んでからビーチ前の駐車場に車を停めるまでの所要時間です。地図で見ると、このビーチは空港のすぐ隣です。ほとんど敷地の続きに見えなくもありません。
滑走路も近いので、離陸した旅客機が次々と頭上を通過していきます。ビーチの上空を低く横切り、しばらくすると、また次の機体が現れます。
当然、大きなジェット音が絶え間なく続きます。海では静かに波の音だけを聞いていたい、という人には向かないビーチです。それでも、「海」と「飛行機」が同じ視界の中に収まるという、やや変わった風景が見られます。
カリフォルニア州立公園局の公式サイトでも、「ロサンゼルス国際空港からの離陸経路の下にあるビーチ」と紹介されています(*1)。
サンタモニカやベニスほど観光地としての知名度はありませんが、「ロサンゼルスで、少し変わった海の風景を見てみたい」という人には面白い場所だと思います。ドジャー・スタジアムやディズニーランドに時間を取られて、せっかくのロサンゼルスなのにビーチに行けなかったよ、という人にとっても絶好のラストチャンスです。
海岸線は約3マイル(約4.8km)にわたり、広い砂浜の道路側には長いサイクリングロードが整備されています。海水浴やサーフィン、散歩、ビーチでのピクニックなどを楽しむ人が行き交います。電動アシスト自転車やスクーターのレンタル・ステーションもありますので、手ぶらで来ても気軽にサイクリングを楽しむこともできます。
ビーチは適度に人が散らばっているように見えます。閑散としているというわけでもなく、混雑しているというわけでもありません。私の印象では地元民が8割、観光客が2割くらいでしょうか。

ビーチの背後に残る砂丘地帯「LAX Dunes」
ドックワイラー・ステート・ビーチの北側に砂の起伏が続いている場所があります。「LAX Dunes」と呼ばれる海岸砂丘です。LAXとはロサンゼルス国際空港の空港コード。つまり「空港の砂丘」という名前になります。
空港の西側、海と滑走路の間に広がるこの地帯には、現在も約300エーカー、約120ヘクタールの砂丘が残されています。ただし、この砂丘には入っていくことはできません。周辺をフェンスで囲まれた、立ち入り禁止地帯です。LAX Dunesの大部分は自然保護区域として管理されているためです。
周辺から砂丘を眺めることはできますが、保護区域の中には入れません。全米有数の巨大空港近くにこのような場所が残されていることには驚くしかありません。
LAX Dunesは現在、ロサンゼルス・ワールド・エアポーツ(LAWA)が管理する自然保護区域となっています。1980年代から砂丘の復元・保全が進められ、現在では900種を超える在来の動植物が生息しているとされています。
その中でも象徴的な存在が「El Segundo Blue Butterfly(エルセグンド・ブルー・バタフライ)」という小さな蝶です。エルセグンドとは空港に隣接した地域の地名です。

羽を広げても1インチ前後しかない小さな青い蝶で、1976年にアメリカの絶滅危惧種に指定されました(*2)。生息地はロサンゼルス郡周辺の海岸砂丘に限られ、開発や外来種などによって、その環境が大きく失われたことが減少の大きな要因となりました。
LAX Dunes は砂丘という名はついていますが、まったくの砂地ではなく、ところどころに草や灌木も生えています。その微妙な自然環境がこの蝶にとって大切です。この蝶の幼虫が食べ、成虫も蜜を吸うのが、海岸に生える「シークリフ・バックウィート(seacliff buckwheat)」という植物なのです。
かつては、もっと広かった砂丘
ここだけではなく、南カリフォルニアの海岸には、かつて広い砂丘地帯が続いていました。ところが、都市化が進むにつれて住宅地や道路などが造られ、砂丘の多くが姿を消していきました。たとえば、現在は有名な観光地になっているベニスビーチやマンハッタンビーチにもフェンスで囲まれた「砂丘の跡」があります。

LAX Dunesは、そうした開発の中で残された貴重な場所です。現在では、南カリフォルニアに残る最大規模の海岸砂丘生態系のひとつとされています。
とはいえ、LAX Dunesもずっと以前から大切に守られてきたというわけではありません。空港の拡張や周辺の開発など、さまざまな人間活動の影響を受けてきました。この一帯にゴルフ場を作る計画もあったそうです。
その一方で、現在は外来植物の除去や在来植物の植栽など、砂丘本来の環境を取り戻す取り組みも1980年代頃から続けられています。
その背景にはアメリカ社会全体で環境問題への関心が高まってきたことがあります。1970年には環境保護庁(EPA)が設立され、同年には「アースデイ」も始まりました。さらに、絶滅危惧種法(1973年)や国家環境政策法(NEPA、1970年)など、自然や野生生物を守るための法律が相次いで整備されます。
こうした流れのなかで、開発を優先するだけでなく、貴重な生態系を保全し、将来に残していこうという考え方が社会に定着していきました。LAX Dunesもその例に挙げることができるでしょう。
「自然と都市」は共存できるか

ドックワイラー・ステート・ビーチで海を眺めていると、目の前には太平洋が広がり、背後からは飛行機のジェット音が聞こえてきます。そして、その飛行機が飛び立つ巨大な空港のすぐ近くには、広大な砂丘が残されています。
そこは蝶や他の生き物にとっては、かけがえのない生息地でもあります。このように自然と都市が完全に分離されることなく、同じ場所に存在できるという事実には励まされます。
自然だけを考えれば、もっと静かな海岸はいくらでもあるでしょう。逆に、都市の利便性や経済効率だけを考えれば、砂丘をなくして道路や商業施設にすることもできたはずです。ロサンゼルスはいろいろとやっかいな問題を抱えた都市ですが、このビーチと砂丘を残していることは立派な見識だと私は思います。
*1. カリフォルニア州立公園局ウェブサイト内ドックワイラー・ステート・ビーチ案内ページ:
https://parks.ca.gov/?page_id=617&utm_source=chatgpt.com
*2. 米国魚類野生生物局(USFWS)ウェブサイト内エルセグンド・ブルー・バタフライ案内ページ:
https://www.fws.gov/species/el-segundo-blue-butterfly-euphilotes-battoides-allyni




