ユーコンでソト遊び暮らしを実現! 7年の軌跡 第11回
コンドンクリーク、ここが私のアナザー・スカイ

私のお気に入りのキャンプ場をひとつ紹介させてください。クルアニ国立公園内にある、コンドンクリーク・キャンプ場です。切り立った山々とクルアニ・レイクに挟まれたそのキャンプ場は、果てしなく広がる景色が本当に美しく、初めて訪れたときには(自分はここに来るために生まれてきたんかなぁ)とまで思ったものでした。赤い山肌と初夏の新緑の鮮やかな対比、その二つの色にオレンジを足していく朝日。数千年数万年も続いてきたであろう、そんな朝の景色の一部に自分も溶け込んでいると思うと、心から感動します。それほどまでに人の琴線に触れる場所です。さて、じっくり堪能できたし、柵の中に戻りましょう……柵?
電気柵の中で寝るキャンプ場!?

そう、このキャンプ場はクマの出没多発地帯の中にあり、テント泊のキャンパーは電気柵に囲まれたエリア内でしか寝ることはできません。サイトは100以上もありユーコンでも有数の大きなキャンプ場ですが、柵に囲まれたテントサイトはベースボールフィールドほどの広さの中に19のみ。日本ならキャンプ場の外周にぐるっと柵を張り巡らしてしまいそうですが、そこには文化の違いを感じます。
私も数回この柵の中で寝たことがあります。夜中、トイレに行きたくなってテントを出ました。トイレは柵の外です。あたりはすっかり暗く、ヘッドライトを付けて歩きます。金属製のゲートを恐る恐る開け、数メートル離れたトイレを目指すのですが、心持ちはもう「ジュラシック・パーク」でした。無事に済ませ、小走りで柵の中に戻ります。柵に守られた環境というのは、何と心強いのでしょう。
子育て中の母グマに共感した日

ユーコンでの生活は、クマ抜きでは語れません。ハイウェイで隣町やキャンプ場に向かっていると、道路脇で一生懸命花や実を探しているクマを目撃します。そーっとクルマを停めて、安全な距離から様子を観察させてもらいます。クマはこちらを見向きもせず、黙々と自分の食事を続けます。あるとき、道路脇にいる子グマ2頭連れの母グマを見つけました。母親は道路を横断して反対側にいるのですが、子グマたちは取っ組み合いに夢中でなかなか渡ろうとしません。「早く来なさい!」と言わんばかりに子グマたちをにらみつける母グマ。当時、私たち家族も子育てに苦労していた時期だったので(ヒトもクマもやってることは同じやなぁ)と、何だかじーんときたような、勇気づけられた出来事でした。
クマと一緒にサーモンを獲ろう

夏から秋にかけてのサーモンの時期になると、おもしろい光景を見ることができます。場所はお隣アラスカ州の小さな街、ヘインズ。サーモン・フィッシングで有名なこの街には、冬場のタンパク源確保のために多くの釣り人が集まります。川は溢れんばかりのサーモンに埋め尽くされていて、釣り人のおじさんたちも一心不乱に竿を振っています。そんな中に、数頭のクマが森からのっそのっそとやってきました。おじさんたちの反応はどうでしょう?
「クマだ! 逃げろ!」いえいえ違います。どちらかというとこんなニュアンスです。
「ちぇっ、クマ公が来やがったか。ちょいとよけてやるか」
大袈裟な緊迫感はなく、一応ゆーっくりと釣り場を移動していくおじさん達、バシャバシャとサーモン漁を始めるクマ達。同じ川で獲った、同じものを食べる。ヒトもクマも、来るべく冬に向けて食糧を蓄えていくという点で平等なんですよね。
クマとの独特の距離感とは

クマは街中にも迷い込んでくることがあります。以前、私のアパートからすぐ近くのガソリンスタンドに巨大なグリズリーが迷い込んできたことがあり、しばらくの間むしゃむしゃと植木を食べていました。Facebookの地域のページには「スタンドのところにクマがいるから気をつけてね!」「本当だ、かわいい!」といった言葉が踊っていました。また、私の息子が近所の子と家の前で遊んでいたとき、「おーい君たち、近くにクマがいたから一旦家に帰りなさーい」と、親切なおばさんに言われたこともありました。危険だから気をつけるけど、それ以上は干渉しない。そんなヒトとクマとの独特の距離感がそこにはあります。
「Bear in area」「You’re in bear country」

ユーコナーとクマとの距離感が何となくおわかりいただけたかと思いますが、もちろん相手は野生動物であり、ヒトにとって危険な存在であることに間違いありません。街から離れたアウトドアに留まらず、家の近くの森であってもベアスプレーを携行していくことが推奨されています。また、森に入るときにはなるべく複数人で行くようにしたり犬を連れて行ったり、たとえ一人であっても手を叩いたり声を出したりしながら歩くようにするなど、常にクマを意識した行動が必要となります。
キャンプ場には「Bear in area」(クマがいます)や「You’re in bear country」(あなたはクマの土地にいるんだよ)とサインが掲げられています。ここは元々クマを始めとした野生動物達の場所で、自分たちはその一部を使わせてもらっている。そういう自然に対するリスペクトが感じられます。
とはいえ、私はまだ比較的安全な場所からしかクマを見たことがありません。森や川で生身の体で彼らと出合うというのはどういうことなのか。動物同士としてクマと対峙したときにどんな感情を抱くのか。お互いにとって適切な対応ができるのか。日本を離れ、ユーコンで暮らすと決めた者としての真価が、その時問われるのだろうと思います。




