極北の森を走り抜け!ユーコン川トレイルマラソンに参戦 | 海外の旅 【BE-PAL】キャンプ、アウトドア、自然派生活の情報源ビーパル

海外の旅

2026.08.20

極北の森を走り抜け!ユーコン川トレイルマラソンに参戦

極北の森を走り抜け!ユーコン川トレイルマラソンに参戦
ある方とのふとした出会いからトレイルランニングを始めたアウトドア初心者兼ランニング初心者。勢いでエントリーしてしまった人生初の大会に向けて、少しずつ走ることを始めました。レース当日、ユーコンの森は私をすんなり走らせてくれたのでしょうか?

ユーコンでソト遊び暮らしを実現! 7年の軌跡 第13回

走るのは最高!

昨年の大会ボランティアの様子。左から3番目の女性の言葉が、私の人生を大きく変えた。

2025年8月、私はユーコン川トレイルマラソンのボランティアとして、マイルズキャニオンと呼ばれる渓谷のチェックポイントにいました。それまで特にランニングやマラソンに興味もなく、このとき参加したのも友人に誘われたから、ただそれだけの理由でした。そこに短髪の白髪がかっこいい、上品なおばさまがおられました。

「あなたも走るの? ユウタ」

ボランティアといえどもみんなランニングシューズを履いている中、一人いつものマウンテンライトで参加していた私は「いえ、特に意識して走ったことはありません」と正直に答えました。

「走るのは最高よ。私はもう引退しちゃったけどね」

そのとき聞いたおばさまの言葉が、いつまでも頭から離れませんでした。そして一年後、私はランナーとしてその場所に帰ってくることになります。

真冬のユーコンで屋内ランデビュー

名だたるライバルたちとの死闘を毎夜勝手に繰り広げた屋内トラック。

まだ雪深く、気温もマイナス30度という極寒の3月初旬、私のランナーとしての新しい生活が始まりました。直前には、ユーコン川トレイルマラソンに4人リレーの一員としてエントリー。フルマラソンのコースを4人で割るので一人10kmほどですが、それでも私にとっては走ったことのない距離で、鍛錬が必要です。5か月後の初挑戦に向けて、まずは屋内トラックを走ることから始めました。

最初は3km、フォームが固まってきたら4km、5kmと徐々に距離を伸ばし、自己流のトレーニングながら毎日通うことが楽しくて仕方ありませんでした。ベテランランナーっぽいおじさんの柔軟体操の仕方を真似したり、いつ見ても走り続けている若いインド人を勝手にライバルとして張り合ってみたり、遅れてきた青春がそこにありました。気温の上昇とともに外でのランもスタート、雪が完全に解けきったあとはいよいよ森でも走り始め、8月の大会に向けて少しずつ経験を積んでいきました。

第一走者としてトレラン大会出場

私のゴールとなるマイルズキャニオン。無事にたどり着けるのか

迎えた大会当日の朝、第一走者の私は仲間に見守られる中スタート地点に立ちました。緊張感と高揚感と「早く走らせてくれ!」という昂る気持ち。気温はまだ12度ほどですが、真夏のユーコンの太陽がギラギラと照りつけています。

5、4、3、2、1、スタート!

私にとっての初レースが始まりました。しばらくは川沿いの舗装路を走ります。まだベビーカーに乗っていた頃の子どもたちと散歩した道に、ランナーとしての自分が思い出を重ねていきます。野鳥を観察するために何度も渡った橋、スクールバスの運転で毎日通る道路、見慣れたはずの景色が少し違って見えました。途中からいよいよ舗装路を離れ、森の中のトレイルに入っていきます。すると、体感で60度はありそうな斜面が目の前に現れました。

(ここを走る? 走るって何?)あまりの急な坂道に、訳がわからなくなりました。それでも足を動かし続けていると、息も絶え絶えになっていきました。

(もうあかん、歩きたい、いや止まりたい。倒れ込みたい。なんでこんなしんどいことに挑戦したんや。ごめん、チームのみんな)

練習したとはいえ初心者には無謀な挑戦だった。そう思い始めたとき、森を抜け、湖を見下ろす稜線に出ました。一気に視界が開け、ユーコンらしい壮大な景色が広がりました。涼しく柔らかい風が、体中の汗を拭っていきます。

(ああ、この景色を見るために走り始めたんかな)ゆっくり眺める余裕なんかありませんが、目に映る景色からそんなことを思いました。

下り坂に入り、そこからは練習通りの自分のペースで、ユーコンの自然を感じながら走ることができました。コースの周りに立つ木々も、足元に茂る草も自分と同じユーコナー。たぶん応援してくれているはずです。

次第に、景色は見覚えのあるものに変わっていきました。昨年ボランティアをしていたあの渓谷の景色、激しいユーコン川の流れ。先行するランナーを迎える歓声も少しずつ耳に届いてきました。

(やった、もうすぐゴールやん! でも、終わるん寂しいなぁ)

渓谷に掛かる吊り橋を渡り、一年前の自分に迎えられるような気持ちでゴール。第二走者の仲間に、無事にバトンをつなぐことができました。

シューズはHOKAのスピードゴート6を使用。

月間400km! 世界を知るランナーが賞賛したコース

ゴール後のくつろぎのひと時。中央が日本から参戦のチヒロさん。

第二走者を見送って仲間とハイタッチを交わした後、すぐさま例のおばさまを探しました。毎年ここにいるとのことだったので会えるのを期待していましたが、残念ながら今回は会えずじまいでした。

リレーチーム全員が無事にゴールし、楽しかった私の人生初レースが幕を閉じました。ゴール地点では、日本から参加されたチヒロさんという方に出会いました。なんでも日本国内外問わず、マラソンやトレランのいろんな大会に出られているとのことでした。今大会でもフル部門女性2位という成績を修められ、表彰されていました。

「月に何kmぐらい走るんですか?」仲間がたずねました。

「だいたい300kmから400kmぐらいですかね。クルマも乗るけど走行距離見ると私の方が走ってるんですよ笑」とチヒロさん。

ユーコンのコースについて聞いてみると、「走らせてくれる(走りやすい)いいコースでした!」とのことでした。世界を股にかけるランナーが見ても見劣りしない、誇れるトレイルがここにあることを知りました。

トレランは森との「じゃれ合い」?

また一生捨てられないものが増えてしまった。
 

今回私が走ったのは8kmだけ。でもハーフやフル、より長い距離や時間を走り抜ける中で見えてくる景色があるのだろうと思います。私は森の中で散歩したり、植物を収穫したりするのも好きですが、そこを走るという行為はまったく異なる刺激を与えてくれます。それはあるときは足を取ろうとする木の根や砂利であったり、泥や水たまり、トゲを光らせるローズであったりします。そんな森とのじゃれ合いがトレランだというのが、初めてのレースを終えた私の感想です。いや、わかりません。もっとわかりたいので、とにかく走り続けてみます。

「走るのは最高です!」

あのおばさまに報告と感謝が伝えられるその日まで、私はユーコンの森とじゃれ合い続けてみます。

著者画像

すけのゆうたさん

ライター

カナダ・ユーコン準州ホワイトホース在住。大阪府豊中市出身。アウトドア初心者ながら、大自然と日常が地続きのユーコンで暮らす。ポッドキャスト「すけのゆうたのYou来ん!?ユーコン」も配信中。

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