
スイスの中央に位置するユングフラウ・エリア。映画『女王陛下の007』(1969年公開)の舞台としても知られるシルトホルンエリアのケーブルウェイが、約3年の工事期間を終え、2026年4月2日にグランドオープンしました。
リニューアル前は、標高922mに位置しながら、まるで谷底のようなシュテッヒェルベルク駅から、標高2,970mのシルトホルン駅までは4区間で3回の乗り換えが必要でした。リニューアル後は1区間減り、3区間で乗り換え1回となり、所要時間も32分から22分へと短縮され、よりスムーズに移動できるようになりました。
総工費は約1億3,500万スイスフラン。日本円にすると現在のレートで約271億5,000万円。これまでの輸送能力は、1時間あたり400人でしたが、新しいケーブルウェイは800人と2倍に。レストランやホテルに運ぶ貨物などの輸送も完全に自動化されました。
世界最大の急勾配を行く
今回のリニューアルにより、第1区間のシュテッヒェルベルク駅から途中駅のミューレン駅までは、世界一急なケーブルウェイとなりました。最大勾配は159.4%(約58度)、標高差775mの急登斜面を約4分で一気に上ります。岩すれすれを通る景観には迫力があります。
標高1,638mに位置するミューレン村は、人口約450人に対して、約2,000人分の宿泊施設がある人気の山岳観光地。エンジン車の乗り入れを禁止し、電気自動車の利用により環境を保護する村としても知られています。
グリンデルワルトやインターラーケンなどのユングフラウ・エリアは、昨今、世界中から観光客が押し寄せオーバーツーリズムの問題も出てきています。しかしミューレン村は、大きなグループを受け入れず、個人旅行や小さなグループだけを受け入れる契約を村民と交わし、必要以上に過密にならないよう配慮。過ごしやすい村の環境を維持しているそうです。

鉱物由来の電力を使わない環境配慮型のケーブルウェイ
ミューレン駅で乗り換えてビルク駅へ。シルトホルン駅までは風にも強く安定性がある2本のワイヤーが架けられた「フニフォー方式」で動いています。ゴンドラは2基ずつあり、これまで春、秋に実施されていたメンテナンスのための休業が廃止されました。今は、365日いつでもアクセス可能です。
主な電力は3つ。1つはゴンドラが減速するときのエネルギーを電気として回収して蓄電する仕組みです。2つ目はビルク駅にある太陽光発電パネル。3つ目はラウターブルンネン渓谷の水力発電所です。SDGsの観点から、鉱物に依存しない発電技術を備えているそうです。これには驚かされました。

シルトホルンに行くにはビルク駅で乗り換えます。展望台とレストランからは、アイガー、メンヒ、ユングフラウの絶景を望めます。ここには空中に浮かんでいるような展望台デッキ「スカイライン・ウォーク」や、切り立った崖に作られた遊歩道「スリルウォーク」があるので、ぜひ出かけてみてください。

絶景のシルトホルンへ
アルプスの中を走りシルトホルンへ向かうケーブルウェイ。そこから見る壮大な景色に、心が洗われるような気持ちになりました。そんな風景を写真に残すのも楽しみのひとつです。

シルトホルンの展望台と回転レストランの「ピッツ・グロリア」は、1969年に公開されたジェームス・ボンド・シリーズ6作目『女王陛下の007』の撮影用セットとして建設されました。

回転レストランでは、アイガー、メンヒ、ユングフラウなどアルプスの雄大な景観を見ながら食事やお茶を楽しむことができます。



ピッツ・グロリアには、007の世界観を体験できるボンド・ワールドの展示場があります。撮影シーンを記録した写真や絵コンテ、動画が展示された体験型の施設になっています。1969年公開の古い映画になりますが、現在の景色とロケ地を比較してみると楽しいと思います。

冬の楽しみ方
シルトホルンエリアにはスキー場が広がっており、スキーやソリ、ウィンターハイキングもできます。アイガー、メンヒ、ユングフラウの絶景を見ながらのアクティビティは最高の体験となります。

ミューレンではパラグライダーもできます。インストラクターが撮影してくれた写真や動画もサービス料に含まれています。私が出かけた日はあいにくのお天気でしたが、それでも谷や崖の上を飛び、迫力ある体験をすることができました。ラウターブルンネン谷は氷河が後退しながら形成されたU字谷として知られています。ここは、映画『ロード・オブ・ザ・リング』のほか、小説『アルプスの少女ハイジ』の制作時のイメージ元とされています。晴れていればアルプスが見え大きな感動を得られることでしょう。夏は混雑するので予約が必須。比較的、空いている秋や冬がおすすめです。冬に行く場合は、安全な靴やヘルメットのレンタルがあります。

夏の楽しみ方
夏の楽しみといえばハイキング。6月後半から7月上旬のミューレン周辺のお花畑は最高に美しく、私のイチオシです。牧草地にタンポポやキンポウゲが咲き乱れ、氷河に覆われたアルプス、青空、牧草地の緑やお花の黄色や白のコントラストに感動します。例年7月上旬には牧草が刈られてしまうので、その前がおすすめ。上空にはケーブルウェイが走っています。

アイガー、メンヒ、ユングフラウの北壁を眺めながらハイキングができる「ノースフェイス・トレイル」。コースは、ミューレンを拠点に、ショートカットを含めてたくさんあるので、体力と相談しながら歩けます。牛が放牧されているミューレンエリアの牧歌的な雰囲気を楽しめます。

ケーブルウェイ横のおすすめホテル
ユングフラウ地方の雄大な山々が目の前に広がり、崖の上にたたずむミューレン村。EV以外の自動車は乗り入れ禁止なので、空気が澄んでいます。大きな山岳観光地域をあえて外し、静かでのんびりとしたミューレンでの滞在もおすすめです。ホテル・アルペンルーは、シルトホルンへ上るケーブルウェイ駅のすぐ隣という便利なロケーションにあります。

夕食にはスイスの伝統料理レシュティをいただきました。レストランによって味付けは異なりますが、ジャガイモとチーズ、スグリのジャムのコンビネーションがとても美味しかったです。

ホテル・アルペンルーは、山岳ロッジ風の作りで、木の温もりがあふれる内装もいい感じです。なにより立地がいいので、村への散策やシルトホルンへのアクセスも快適でした。

お得な交通パスを使ってスイスの旅を快適に
スイス旅行のハイライトのひとつは鉄道やバス、船を使い風景を楽しみながら移動すること。「スイストラベルパス」を利用すれば、スイス全土の主な公共交通機関が乗り放題になります。このチケットには、様々な種類があり、旅のスタイルに合わせて便利なものを選ぶことで、さらにお得になります。旅行中にその都度、切符を買う手間が省け、効率よく快適に移動を楽しむことができます。チケットの種類によってはケーブルウェイや登山鉄道などの山岳交通が半額になったり、美術館や博物館が無料になることも。スイス旅行には欠かせないおすすめのチケットです。
春夏秋冬アルプスの絶景を楽しむことができるスイス。この夏にスイスを訪れる計画がある方は、ぜひ新しくなったシルトホルン・エリアへ足を運んでみてくださいね。
取材協力
- シルトホルン・ケーブルウェイ https://schilthorn.ch/en/Welcome
- ホテル・アルペンルー https://alpenruh-muerren.ch/en/Offer/Willkommen
- エアタイム https://airtime-paragliding.com/
- スイス・トラベルシステム https://www.myswiss.jp/swiss-travel-pass/





