西ケープ州の海沿いの町・ハマナスは、世界有数のホエールウォッチングスポットとして知られ、陸上からでもクジラを観察できる珍しい場所です。特に8〜11月は、出産や子育てのために沿岸へ近づくクジラの姿を間近で見られるベストシーズン。潮吹きや豪快なジャンプなど、迫力満点の瞬間に出会える可能性もあります。
実は南アフリカには、サファリで有名な「BIG5(ライオン、ゾウ、ヒョウ、サイ、バッファロー)」だけでなく、海にも“マリンBIG 5”と呼ばれる存在があります。それはアフリカペンギン、ケープオットセイ、ブロンズジンベイザメ、イルカ、そしてクジラです。陸だけでなく、海にも多様な野生動物が暮らしているのが南アフリカの魅力のひとつです。
今回訪れたハマナスは、その中でもクジラに出会える特別な場所。海のサファリともいえるホエールウォッチング体験をご紹介します。
三度目の正直。ハマナスへ向かう朝
ハマナスのホエールウォッチングに参加したのは8月中旬。ケープタウンから車で約2時間の道のりです。
実はこれまでに二度、ツアーを予約していたものの、どちらも天候不良で前日にキャンセルになっていました。
「クジラって、こんなに見られないものなの?」
そんな思いを抱えながらの、三度目の挑戦でした。
当日は天気も良く、風も穏やか。絶好のコンディションでした。車内では友人たちと「今日はさすがに見れるよね?」と期待を込めて話していました。
その時、スマートフォンに一通のメールが届きました。ツアー会社からのキャンセル通知。
「え、うそでしょ…」 思わず全員が言葉を失いました。
理由は機材トラブル。まさかの当日キャンセルに、車内にはしばらく重たい空気が流れます。それでも「せっかくここまで来たしね」と気持ちを切り替え、とりあえずハマナスへ向かうことにしました。
到着後、急いで別のツアー会社を探しました。ハマナスには複数のホエールウォッチング会社があり、幸運にも当日の空きがあるツアーを発見。無事に予約することができました。
出航まで少し時間ができたので、街を散策することに。壁に描かれたクジラの絵や、あちこちに置かれたオブジェが目に入ります。ハマナスはまさに“クジラの町”。


そんな中、ふと立ち寄った海の見える丘で——
「あれクジラじゃない?」

友人が指さす方向を見ると、そこには雄大に泳ぐクジラの姿が!
ゆっくりと海面から胸びれが現れます。その動きはどこか優雅で、まるでこちらに向かって挨拶をしているかのようでした。
「すごい!」「本当にいるんだ!」
さっきまでの落ち込みが嘘のように、思わず声がこぼれます。しばらく海を眺めていると——
次の瞬間、海面に大きな水しぶきが上がりました。クジラのジャンプです!

しかも一度だけではありません。何度も、何度も。さらには2頭同時に跳ねる瞬間まで。

一頭はやや小さく、親子のように見えました。まるで親が子どもにジャンプを教えているようでした。
「すごい!感動するね!」
クジラのジャンプを目の当たりにし、気づけばテンションは最高潮に達していました。
海の上で待つ、静かな高揚感
興奮冷めやらぬまま、いよいよツアーがスタート。ガイドから注意事項とクジラについての説明を受けます。
ハマナスで見られるのは「ミナミセミクジラ」。この海域で子育てをするため、毎年この時期にやってくるのだといいます。
「運が良ければ、かなり近くで見られるよ」 ガイドの言葉に、さらに期待が高まります。
なぜかライフジャケットは子どものみ。
「大人は大丈夫なのかな…?」と少し不安になりつつも(笑)、船に乗り込みます。
船は2階建て。2階席に腰を下ろし、いざ出発。エンジン音とともに船が動き出し、頬に潮風が当たります。どこまでも広がる青い海、波の音。
「ついにクジラに会える!」という高揚感に包まれます。


海が動いた、その瞬間
しばらく進んだそのとき。「いた!」という声が上がりました。次の瞬間、海面に黒い影が浮かび上がります。
ゆっくりと現れたのは、想像をはるかに超える大きさのクジラの背中。あまりに大きく、全体像が見えません。
「これ…本当にクジラ?」 思わずそう呟いてしまうほどの迫力でした。
プシューッ——という大きな呼吸の音とともに、潮が空へと吹き上がります。


クジラは船と並ぶように、ゆったりと泳いでいきます。その距離は、想像以上に近い。
船は大きく揺れ、足元が不安定になる中、必死にスマートフォンで動画を撮影。もしこの距離でジャンプしたら…そんな一瞬の恐怖すらよぎるほどの圧倒的な存在感。
言葉にならない余韻
その後もしばらくクジラを探して進みましたが、なかなか姿を見せません。しかし、帰り際、遠くで再びクジラがジャンプする姿が見えました。
遠くからでも分かる、その雄大な動きに思わず「わー!」と声が出ます。近くでのジャンプは見られなかったものの、それでも十分すぎるほどの体験でした。
「さっきの距離、すごかったよね」 船の上で、何度も同じ会話を繰り返します。写真では伝わらない迫力。その場にいたからこそ感じられる感動でした。
ハマナスのホエールウォッチング基本情報

南アフリカの海では、ミナミセミクジラやザトウクジラなど、さまざまな種類のクジラを見ることができます。特にミナミセミクジラは冬になると沿岸に近づき、陸からでも観察できるのが特徴です。
南アフリカは冷たい海流と暖かい海流が交わるため、海の生き物が非常に豊かで、クジラやイルカなど多くの種類が見られる貴重なエリアでもあります。
ハマナスは、陸からクジラを観察できる世界でも珍しいスポットとして知られています。遊歩道や展望スポットが整備されており、気軽にホエールウォッチングを楽しめるのも魅力です。
ベストシーズンは6〜11月、特に9〜10月は遭遇率が高いとされています。見られる主な種類はミナミセミクジラで、潮吹きや尾びれ、運が良ければジャンプ(ブリーチング)も観察できます。
クジラを見つけるには、潮吹きや水面に現れる背中を探すのがポイント。風が弱く、見晴らしの良い高台から観察すると見つけやすくなります。
水面から大きく跳ねる「ブリーチング」は、ホエールウォッチングの中でも特に迫力のある見どころのひとつです。さらに、船に乗るツアーに参加すれば、より間近で迫力ある姿を見ることができます。
陸からゆっくり楽しむか、海上で臨場感を味わうか——スタイルに合わせて選べるのもハマナスの魅力です。
実際に行って感じたポイント
まず、防寒対策は必須です。海上は風が強く、体感温度がかなり下がりました。ウィンドブレーカーなどがあると安心です。
また、双眼鏡があると遠くのクジラも見逃さずに楽しむことができるのでぜひ持って行ってください。
さらに、船酔い対策も忘れずに。実際に一緒に行った友人は途中からぐったりしてしまい、「クジラどころじゃない…」と苦笑いしていました。酔い止めは必ず持っていくのをおすすめします!
ホエールウォッチングは天候不良で中止になることが多いので、予備日も含めて二日ほどおさえておくと安心です。ツアー会社によっては前日までならキャンセル無料なところもあります。
そして、意外と大事なのが“待つ時間を楽しむこと”。クジラは自然の生き物なので、必ずしもすぐに現れるわけではありません。その時間も含めて体験だと考えると、より楽しめると思います。
まとめ
南アフリカを訪れるなら、サファリだけでなく、ぜひ海にも目を向けてほしいです。そこには、もうひとつの野生との出会いが待っています。





